気持ちよく目覚めると,体の疲れもなくなっている.お風呂とベッドで生き返ったような二人は9時に出発.日曜日の早朝.小さな町を過ぎ去るまで人影は見えなかった.
今日は昨日行き着けなかったサウス・ダコタ州のバッドランズへと向かう.この旅での最後の国立公園だ.これはまあおまけのようなもので,帰り道にあるから寄ってみようよ,という程度の力のいれようだった.距離はさほど遠くないので,他の寄り道を考える.私はあの有名なマウント・ラシュモア見学を提案.4人の大統領のお顔をぜひ拝んでいこう.合い言葉は「二度とここへは来ないから」.そして旦那は地球の歩き方「魅力的な町」編を引っぱり出して,あの映画「ダンス・ウィズ・ウルブス」冬の野営地のロケ地探しを提案.うーん渋いね.これには私も異論無し.やはり合い言葉は「二度とここへは来ないだろうから」だ.地図をみてもほんのすぐそば.これは行ってみる価値ありだ.
早速サウス・ダコタ州に入る.風景は再び緑の山から見渡す限りの草原,という風に変化しつつある.今日は走り始めてからいやにバイクを見る.アメリカでバイクと言ったらハーレーしかないと言っても過言ではない.とはいえ,この旅の中でこんなに多くのハーレーを見たことはなかったのでどうしたのかなあ,と二人で疑問に思う.そんな時,ガソリンを給油するために立ち寄ったスタンドでハーレーに乗った日本人青年に遭遇.またこんな田舎町で日本人に出会うことも稀なのでどちらからともなく声を掛け合う.「日本の方ですか?」聞くところによると,この付近で1年に一回のハーレー仲間の大集会があったのだそうだ.なるほどだからこんなにハーレーの数が多い訳ね.納得,納得.彼も集会にでてこれから帰るということだが,なんとカナダからの参加だそうだ.同郷のよしみ,近況を伝えあってお互いの無事を祈る.グッド・ラック!気をつけてね!さわやかな男性との会話を終えて,二人の旅は続行.そんな話を聞いたせいか,ハーレーの観察をしてしまう.まあこんな田舎町でそんな大イベントが開かれていようとは露知らず.それにしてもすごい数だ.だいたいハーレーのイメージってあると思うが,まったく期待を裏切らない人たちばかりだった.黒の革ジャンにブーツ,レイバンのサングラスという判で押したようなスタイルが主流.ジーンズ系の人もいるし,マッチョなタイプの筋骨隆々のちょっと恐そうな人までいる.後ろに女性が乗っていることも多く,同じ様なスタイルでばっちりきめている.うーん,絵に描いたようなカップルだよね.なかなかセクシーですごいよね.しばらく女性らしい女性を見ていない旦那にはちょっと驚きに映ったようだ.しかしおかしいのは,ハーレーを車に積んで帰って行く人.私たちの感覚からすれば,ハーレーを運んでいるなんておかしい,と思う.が,よくよく考えてみると,全米各地から集まって来るわけだから,それはそれは長旅なわけだ.いくらハーレー好きでも疲れるよね.そりゃあ車のが楽だよね.てなわけで大事な愛車も無駄に消費しないし,自分たちの疲れない方法というのがこれなのだろう.それにしても,ピカピカのハーレーを積んだポンコツ車という眺めもなかなかミスマッチでおもしろかった.
さて思わぬハーレー族の大移動に遭遇し,一儲けした気分でいるうちに目指す「ダンス・ウィズ・ウルブス」の世界に突入した.サウス・ダコタ州に入ると程なくスペアフィッシュというところに来る.ここから90号を離れ,14号を南に下ると標識がでてくる.こんなところにタタンカマークのダンス・ウィズ・ウルブス」ロゴ印.いやあ,噂には聞いていたけど,ケビン・コスナーは商売上手なのか・・・・ともかくこの標識のおかげで簡単に道を辿ることができた.あたりは緑深い静かな山.スペアフィッシュ・キャニオンという所らしい.いくら有名になったとはいえそれほど観光客が来るところではないらしく,私たちの他には1台の車が停まっているだけだ.車を降りると,両脇を高い山に囲まれた狭い谷に入る.アスペン・ツリーの木々の緑が風にゆれている.小さな川も流れていて,黄色の花がとてもきれいに咲き乱れている.背丈ほどの草に囲まれた静かな静かな峡谷だ.雰囲気は最高だ.映画のスタッフって本当に良く探すね,と感心する二人.映画ではケビン・コスナー扮する「ダンス・ウィズ・ウルブス」と妻が仲間のスー族に別れを告げて去っていくシーンで登場する.「風になびく髪」が叫ぶ丘もあるそうだ.映画のシーンを思い出しながらあれこれと話し合う私たち.束の間,登場人物になりすまして気分を味わう.この寄り道は思った以上に感激で,ロケ地の側には休憩所もついていた.観光案内所でもあるので立ち寄ったが,映画のグッズも豊富で思わず本を買う.田舎,田舎とバカにしたもののサウス・ダコタにはさい先良い印象だ.
さてすっかり良い気分のまま,今度は次なる目的地,マウント・ラシュモアへと進む.ここは大都市ラピッド・シティの側と言うこともあってか,すっかり田舎ボケしていた私たちには久しぶりの町らしい町でびっくり.やっぱりアメリカ人にとっても一度は見ておきたい観光地なのだろう.道路は広く,店は多く,一大観光地となっていて,ひなびた公園好きになってしまった二人には少々期待はずれだった.もちろん,お目当ての大統領はすごい迫力だったが,あまりにも大きくて遠くからしか見られないし,人が多くてそそくさと写真を撮っておしまいにしてしまった.やっぱり遠くからではなく,大統領の頭の上からのぞき込むとか,ロープーウェイで側まで接近できるとか,下からロッククライミングできるとか,そんな趣向がないとねえ.おとといイエロー・ストーンの滝を真上からのぞき込んだ私にはそんな風に思えた.とはいえ,社会科見学でいえばポイント高い物見遊山だ.
あっけなく終わった大統領見学で今日の予定はおしまい.最後の公園になるバッドランズへと向かう.この旅はやはり自然に親しむのが一番だね.といいつつ3時半頃到着.90号でラピッドシティを通り,ウオールという町でおり,240号を南に数マイル行けばすぐだ.今日は3つの場所が近くてとても効率的.疲れも少ない.240号からは標識に従って一本道だ.まわりの風景は今までと変わらず牧場風.すぐ先なので景色が変わってもよさそうなのに,と思っていると公園入り口.入り口を進むと下り坂になっている.と言う間に視界が開け,白っぽい砂色のギザギザの山々が見えた.ほんの付け足しと思っていた公園でほとんど下調べをしてなかったので,予備知識が無い分驚いた.今までの牧場からいきなり草一本無い荒涼とした景色が広がった.
「バッドランズ」という名の通りの荒涼とした風景を遥か彼方一面に見おろす.ブライス・キャニオンのような色の美しい尖塔群とはちょっと違い,尖塔の先がもっと鋭くとがり,つついたら痛そうな近寄り難い雰囲気を持っている.そして砂の色も明るい色では無く,どちらかというと暗い地味な色合いだ.ずっと眺めているとなんだか寂しい気持ちになってくる.旦那は気に入ったようだが,私にはなんとなく恐いような気がした.車でその砂山が立ち並ぶ谷底へと下りていく.ここは手すりなどほとんどない所で,場所によってはギザギザにとがった山に登ることもできる.実際立ち寄って見たのだが,さらさらの砂でさわればすぐにボロボロと崩れ落ちてくる.人がたくさん登った跡があり,皆同じ気持ちで探検してみたのだろう.
今日はこの園内のキャンプ場に泊まるつもりなので,水とトイレのある東端のシーダー・パスへと向かう.夕方なので果たして泊まれるのか不安だったが,難なく確保できた.背の高い木が無いので,また暑さに苦しむのかと不安がよみがえってくる.キャンプ場には風避けなのか砂避けなのか,はたまた日除けなのかテーブルの横に立派な覆いがついている.これが強烈な夕日をうまく遮ってくれたので感謝.本を読むと,やはりこの公園は夏は暑い.しかし夜には冷え込むとある.冬はブリザードが吹き荒れるそうだ.なかなか厳しい自然だ.まあそうでなければこんな奇妙な地形は生まれないだろうが.テントを張って,休憩.今日はキャンプ場のそばにあるロッジで夕食をとることにする.観光客もさほど多そうではないのでなんとなく落ち着いた雰囲気だ.のんびりできそうでうれしい.イエロー・ストーンのようなマンモス公園であわただしく生活していた後なので,人影まばらな食堂やキャンプ場が妙に寂しく思える.
早めの夕食を取って,キャンプ場のテーブルに腰掛けて夕日を眺めながらぼーとする.なかなか良い気分だ.幸い気温も暑くもなく寒くもなく快適だ.久しぶりにコーヒーでも飲みながら地図を広げ,明日の計画でも練る.過ごしやすい気温というのがこんなにありがたいものだとは思わなかった.蚊や虫もでないので,今までそそくさとテントにもぐり込んでいた私も今日ばかりは夜のキャンプを満喫.シャワーが無くても乾燥しているので気持ち良い.こんなに楽なキャンプは初めてだね,と二人で笑いあう.ご機嫌な夜も更ける.明日は長旅だ.早く寝なくちゃね.
[32日目:バッド・ランズ国立公園でプレイリードッグとご対面(8/15/94)]