Written on June 26, 1996

94年1月末、シリコンバレーのサンホセでエネルギー関係の国際会議に出席した後、ボストンに帰るまでに2日間の余裕があったため、念願の冬のヨセミテ国立公園に行ってみることにしました。ここ数カ月、頭が修士論文のことで一杯になっていましたので、たまには気分転換。ヨセミテ国立公園は私の大好きな場所で、今回が3回目になります。今までに訪れたのは紅葉のきれいな10月と、豪快に滝が流れ落ちる8月。Ansel Adamsの白黒の写真にでてくるような、雪につつまれたヨセミテを見たい!という願望を遂に実現することができるのです。宿泊はヨセミテ・バレー内のヨセミテ・ロッジ。夏場は半年前から予約がうまってしまいますが、冬は2日前に簡単に電話予約できてしまいました。わくわくしながら、早朝パロ・アルトのモーテルを出発したのでした。
サンフランシスコ方面からヨセミテ・バレーへのアプローチは、北西にあるマンテカから山を越えていくルートと西のマーセドからマーセド・リバー沿いに上っていくルートとがあります。夏は北西からのアプローチが近くて早いのですが、冬は雪で閉ざされることも多く、事前に電話をしてルート情報を確認するのが賢明です。今回は両方のルートとも開いているようでしたが、北西ルートはチェーン着用が必要、またバレーにもチェーンは携行することというでした。楽に近づくことのできそうな西のマーセドのルートを取ることにします。また、サンフランシスコ近辺のレンタカー屋にはチェーンを用意していないので、ヨセミテに入る手前の街でレンタル・チェーンを探すことにしました。
パロ・アルトから約4時間半で西の入口に近いマリポサに到着。ガソリン・スタンドでレンタル・チェーンを訪ねてみたところ、町外れのタイヤ・ショップでチェーンを貸してるという情報を仕入れ、難なくチェーンを手に入れることができました。(翌日の夕方5時までに返してねと言われ、その時間にはさすがに帰路についているはずなので、もちろん!と軽く答えたのですが、翌日は思わぬ事態が発生し、青くなることになります。)チェーンをトランクに積み込み、いよいよヨセミテに入っていきます。
マーセド・リバー沿いに車を進めていくと、まわりが少しづつ雪景色になってきました。川の両岸は白く、川は黒く流れ、周りの杉の木はてっぺんが白く下は黒く、そしてうっすら白い霧が川面をゆらゆらとのぼる、という夏とは全く異なるコントラストの強い風景が車窓に広がります。車を止めて、川辺に寄ってみると、空気の冷たさと静けさの中で頭がさえていくような気になります。そう簡単に頭が良くなってくれれば文句無いんですけれどね。そうこうするうちに雪でなく雨が降り始めました。次第に周りの風景の黒い部分より白い部分が多くなっていき、高い岩山が目立つようになり、ついにヨセミテ・バレーに到着です。
さっそくバレー全体が見渡せるトンネル・ビュー・ポイントへ行ってみます。いやー、これですよこれ。目の前にまさしくAnsel Adamsの世界が広がります。左に夏はロック・クライマーに人気のあるエル・キャピタン。右に毅然と流れ落ちるブライダル・ベールの滝。まんなかを霧がゆっくり流れていく。実に無駄のない光景です。中央、谷の切れ間に見えるはずのヨセミテのシンボル、ハーフ・ドームは残念なことにかすんで見えません。シーンとした静けさの中に、時折どこかで雪がなだれ落ちるサーッという音が聞こえます。しばらく見ているうちに、景色の中に体が吸い込まれてしまうような錯覚を覚えました。感動を誰かと分かち合いたいという衝動に駆られるのですが、夏は観光客でにぎわうトンネル・ビューにも今は我々2人以外に誰もいません。だんだん雨足が強くなってきたので帰ることにします。
夜のうちに雨が雪に変わっていました。起きてびっくりの一層の雪景色です。さっそくカメラを持ってバレー内を歩き回ることにします。明るい夏の景色とはことなる、静かなモノトーンの世界です。時に霧が厚くなり雪山が見えなくなることもありますが、しばらくすると霧が切れ、その切れ間から特徴のある岩山、ハーフドームなどが顔を出します。この瞬間は、足が雪でべちょべちょになっているのも忘れ、見入ってしまいます。では私たちが選んだ冬のヨセミテ、ベスト・ポイントを紹介します。
他にも、杉林の間から見える白い岩山や、雪をかぶったコテージなど印象的なシーンにたくさん出会うことができました。
3時頃までヨセミテ・バレーを歩き回り、そろそろ帰路につこうかとしたとき、いやな情報を得てしまいました。標高が低く冬の間ベストルートである西からのルートが、なんと雨で土砂崩れが起きて通行止めということです。我々はタイヤチェーン(全く使っていない)を西のゲートのマリポサで借りてきて夕方5時までに返さなければならないと言うのに。焦っても使えるゲートは山越えをする北西のルートだけ。地図を見ると北西のゲートを抜けてしばらく行ったところから西のゲートの方面にのびる細い道があることを発見しました。これしかない!ということでとにかく北西のルートに車を進めます。このルートはチェーン規制が発令されていましたので早いうちにチェーンを巻いて車をとばします。結局山頂でチョビット雪が積もっていただけで、豪雪ドライブに慣れているボストニアンにとっては一笑にふしてしまうようなチェーン規制だったのですが。
アメリカの地図にでている細い道をなめてはいけません。抜け道と思われた細い道は結局山岳コースで延々1時間以上車がほとんどすれ違えないような山道をチェーン屋の終業時刻を気にしながら車をとばしまくるはめになってしまいました。身も心も疲れはてました。ぎりぎり店が閉まる前にチェーンを返すことができましたが、ここからシリコンバレーのパロ・アルトまでの5時間は、ほとんど余力をしぼって惰性で帰ったようなものです。
教訓:冬のヨセミテはたっぷりと時間の余裕をとっておきましょう。