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ナチュラル・サウンドの原理をひも解く

クロストークを解消すると
なぜナチュラルなステレオ感や雰囲気感が
復元されるのか?

「ナチュラル・サウンド復元法」は、現在お使いになっているステレオ・システムの音質や表現力といった個性を失わせることなく、音楽ソースに含まれる本来の響き、雰囲気感、ステレオ感をナチュラルに復元する「音場補正」のための手法です。

ナチュラル・サウンドの理屈については、このサイト内の「ナチュラル・サウンド復元法」のページで説明しています。しかし、それにしても、左右のスピーカーから出た音が私たちの両耳に届くまでに発生する大きなクロストークを解消すると、なぜこれほどまでナチュラルなステレオ感や雰囲気感が再生されるのでしょうか?

サウンドステージ回復の「副スピーカー法」を1975年に独自に考案して実践してこられたYT様(アラバマ大学物理学教授の高橋先生)から、先日そのあたりの原理についてメールで詳しく教えていただきましたので、このページでご紹介します。

高橋教授は全く独立して自己流の副スピーカ法(スピーカーを前面に配置)に気付いて実行し始めたそうですが、DYNACO社の社長David Hafler氏が1970年代初めにQUADAPTORという名前を付けて副スピーカー法(スピーカーを背後に配置)を発表しておられることを、後になって知ったそうです。したがって、副スピーカーで「-kR」「-kL」を利用してリアルな音場を再現する方法の最初の発表者はDavid Hafler氏です。

ただ、高橋教授はちょっとした考察と測定をして左右チャンネルのクロストーク量で高域が減衰していることに気付いた(各スピーカーから反対側の耳へ入る音は鼻や頬などの頭部構造を通るため高域が遮られ、自然に減衰している)そうで、高橋教授流の副スピーカー法にその原理を自覚的に初めから組み込んでいた点が異なっています。ちなみに、NS装置の回路にも、クロストーク打ち消し信号に周波数に応じた減衰を施す方式を組み込んであります。

というわけで、「-kR」「-kL」を利用する方式の先駆者はDYNACO社のDavid Hafler氏であることを、正確を期すために申し添えておきます。

このページの内容:

クロストークの程度を実体験する方法

左右のスピーカーから出た音が私たちの両耳に届くまでに発生するクロストークが如何に大きいかは、簡単に確かめることができますので、皆さんもぜひお試しください。

副スピーカー法でナチュラル・サウンドを実践しておられる方々は、最もナチュラルな音場を再生できている状態で音楽を鳴らし、左右の副スピーカーに耳を近づけてみれば、意外なほど大きな音、メインスピーカーから鳴っている音の半分程の音が出ていることが分かると思います。

NS-1やNS-2を使用してナチュラル・サウンドを楽しんでおられる方々も、クロストークの大きさを簡単に実体験できます。もしプリアンプとパワーアンプの間にNS装置を接続しているのでしたら、プリアンプの「バランス」つまみを右いっぱいに回して右チャンネルの音だけが出るようにしてみてください。もし「バランス」つまみがない場合や、CDプレーヤー等とアンプの間にNS装置を接続しておられる場合は、NS装置の入力側(出力側ではない)に接続しているコードのうち左チャンネルのコードだけ外してみてください。

この状態で音楽を鳴らしてみると、本来なら左スピーカーからは音が出ないはずなのに、NS-1やNS-2を通すとかなりの音量が左スピーカーから出ていることが分かります。この音は、右図の「kR」というクロストークを打ち消すための逆位相信号「-kR」です。言い換えると、従来のステレオでは、右耳だけに聴こえているべき音のうちこんなに大きな割合の音が左耳にも聴こえてしまっているわけです。

これこそが、そもそも音楽ソースに含まれている自然な楽器音源の位置再現を完全に損ねている真犯人なのです(右上図の「kL」「kR」)。

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ステレオ録音の原理

クロストークを解消することがなぜ音楽のナチュナルな再生に結び付くのかを理解するには、ステレオ録音の原理を知っておくと助けになります。ここでは、自分が演奏会場で聴衆として音楽を聴いている場面と比較して、ステレオ録音の基礎知識をご説明しましょう。

演奏会場で音楽を聴いているとき、私たちはステージ上の様々な位置で演奏される楽器の音やボーカルを自分の両耳で聴き取っています。また、そのような直接音だけでなく、会場の壁や天井で反射して聴こえてくる間接音もごく自然に聴き取っています(これがいわゆる“空気感”や“雰囲気感”と言われるものを生み出します)。

このとき、人間の脳は実に素晴らしい働きをして私たちを楽しませてくれます。左右2つの耳に入ってくる音の強度と位相差を瞬時に判断し、それらの音の聴こえてくる角度や距離を三次元的に測量して、私たちが知覚できるようにしているのです。ステージに向かって左前方の楽器から出ている音音、右後方の楽器から出ている音、会場内で反射して後方から来る間接音など、多彩な場所から来る様々な音源の位置を脳はミスなく聴き分けて立体的に知覚させてくれます。これは音楽に全身を包み込まれるような体験となるはずです。

ごく基礎的なステレオ録音では、右マイクと左マイクという2本のマイクを利用して音楽を録音します(現在ではもっと多数のマイクを使った多重録音が一般的でしょうが、それも突き詰めていけば結果として左右2本のマイクで録音したのと同じことです)。この右マイクは聴衆席に座っている人の右耳、左マイクは左耳に相当します。レコードやCDなどの左右チャンネルには、その2つのマイクに(つまり聴衆席にいる人の2つの耳に)入ってくる音が正確に収録されています。

大雑把なところ、これが2チャンネルのステレオ録音の仕組みです。

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従来のステレオ装置で再生した場合 ― 間接的なステレオ音像

では、このようにしてステレオ録音した音楽を、元通りに再現するにはどうしたらよいのでしょうか? 言うまでもなく、左右一組のスピーカーを備えたステレオ装置で再生すれば再現できるはずです。右側のスピーカーからは聴衆席にいる人の右耳に入ってくる音が出ており、左側のスピーカーからは左耳に入ってくる音が出ています。ステレオ装置の音を聴く人の右耳と左耳に、それらの音が漏れなくすべて正確に届いていれば、演奏会場にいる人とまったく同じ体験をできると考えて間違いありません。

ところが、現実はそれほど甘くありません。最初のセクションでご説明したとおり、左右のスピーカーから出た音が私たちの両耳に届くまでに実に大きなクロストークが発生しているからです。右耳には左スピーカーからの音が半分ほど聴こえてしまい、左耳には右スピーカーからの音がやはり半分ほど聴こえてしまいます。このため、従来のステレオ装置で再生した音楽を聴いても、演奏会場の聴衆席にいるときと同じ体験は決してできないのです。

右耳に聴こえる音は右マイクで録音した音に左マイクで録音した音が半分ほど混ざっていますし、左耳に聴こえ音るも同様です。すると、演奏会場では素晴らしい働きをしてくれる私たちの脳も、さすがに混乱してしまいます。右耳にも左耳にも様々な強度や位相差で音が入ってくるのですが、それは演奏会場にいるときに聴こえてくる音とはずいぶん勝手が違い、実音源である楽器やボーカルや間接音の位置を明瞭に判別することができないのです。

しかし脳はそう簡単には諦めません。「んっ、よく聴いてみると左右から聴こえてくる音に強度の差があるぞ。これを利用すればいくつかの音の位置や角度を測量できそうだ」。そうやって知覚しているのが、従来のステレオ装置で音楽を再生したときに私たちが感じ取るステレオ感です。

ここでポイントとなるのは、これまで何回か登場した「実音源」というキーワードです。


間接的なステレオ音像

実音源とは、読んで字のごとく「実際に音が出ている源」のことで、音楽の演奏会場であれば、ステージ上の楽器や歌手すべてが実音源ですし、天井や壁からの反射音も実音源です。

ところが、従来のステレオ装置で音楽を再生した場合は、左右2つのスピーカーが圧倒的に優勢な実音源になってしまいます。そのため、従来のステレオ再生を聴いている人の脳はどうしても左右2つのスピーカーの位置をまず測量してしまいます(演奏会場で聴いているときとは違って、多種多様な楽器、歌手、反射音という“本物の”実音源の位置を脳は測量してくれないのです)。その後、2つのスピーカーから出ている音の強度差を測量して、2つのスピーカーの間の狭い缶詰的な空間に振り分けて「それとなくステレオ」として知覚させます(右図参照)。これは擬似的なステレオ感、間接的(2次的)なステレオ感に過ぎませんから、首を少し左右に振るだけで、その疑似音像の位置は左右に大きくずれてしまいます。これは間接的、二次的なステレオ音像に過ぎないのです。

クロストークを解消した場合 ― 直接的なステレオ音像

では、左右のスピーカーから出た音が私たちの両耳に届くまでに発生するクロストーク、つまり右耳だけに聴こえるはずの音が左耳にも聴こえてしまう音の混じり、左耳だけに聴こえるはずの音が右耳にも聴こえてしまう音の混じりを解消するとどうなるでしょうか?


直接的なステレオ音像

その場合、ステレオ装置から再生された音を聴いている聴取者は、音楽の演奏会場にいる聴衆とまったく同じ体験をすることができます。それは、演奏会場の聴衆の右耳に相当する右マイクで録音した音、左耳に相当する左マイクで録音した音のそれぞれが、ステレオ装置の再生音を聴いている人の右耳と左耳に、漏れなくすべて正確に届くからなのです。

すると私たちの脳は、演奏会場の様々な場所にあった実音源、たくさんの楽器や歌手や間接音という実音源の位置をそれぞれ正確に測量して知覚できますので、実際に演奏会場で聴くのと全く同じように多様な楽器や反射音(雰囲気を醸し出す音)をそれぞれ多様に分離して聴き取ることができるのです。

これこそがナチュラル・サウンドであり、この復元法の原理であります。

副スピーカー法であれ、NS-1やNS-2を利用する方法であれ、クロストークを解消する方策を施したとき真っ先に私たちが感じ取る現象の1つは、スピーカーの存在が消えることです。というのは、演奏会場にはそもそもスピーカーなどというものは存在せず、多種多様な実音源がステージ上のそこかしこに存在し、それらが会場の壁や天井で反射した間接音という実音源も多数存在するだけだからです。ナチュラル・サウンド復元法を実践したとき、ステレオ装置が再現しているのは、まさに演奏会場そのものというわけです。

この場合、もはや2つのスピーカーの位置は私たちの脳内での音源測量にとって意味がありませんので、リスニング・ポジションで首を左右に動かしても、ちょっと立ち上がってみても、さらには部屋の中を前後左右に歩き回ってみても、私たちが知覚している楽器やボーカルの位置や間接音としての雰囲気感は全く損なわれず、しっかり安定しています。それぞれの実音源の位置を脳が「直接的に」聞き分け、位置を正しく測量しているからです。

ヘッドホンで聴くのとは違う

ヘッドホンで音楽を聴いた場合、確かにクロストークはかなり解消されており、ナチュラル・サウンドに近いと思われるかもしれません。しかし、実際には大きく異なります。

というのは、ヘッドホンの場合、耳からヘッドホンまでの距離が短かすぎるため、私たちの額の周りの20〜40cmほどの矮小な空間に音像が形成されてしまうからです。

しかし、スピーカーから音を出した場合であれば、たとえそれが6畳程度の部屋であったとしても、スピーカーから耳までの距離はヘッドホンとは桁違いに長いですから、本物の演奏会場に比べれば狭いとはいえ、幅も奥行きも十分に広い音場空間を自由闊達に動き回るメロディーやハーモニーが目の前に、さらに言えば自分の体の周囲全体に復元され、ごく自然な音楽を体全体で堪能できるのです。オーディオ装置の置いてある壁面のあたり全体に無数の実音源が出現したようなこの体験は、ヘッドホンで聴いたときとは比べ物になりません。経験した人だけが味わうことのできる至福の響きです。

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結びに

さて、“茨(いばら)の道”と“管理の行き届いた並木道”、皆さんはどちらをお選びになりますか?

従来のステレオ装置は、いくら巧みに調整しても缶詰的な間接ステレオ音像しか再現できない茨の道です。細心の注意を払って歩かないと、石ころにつまづいたり、とげのある植物で手足に怪我をしたりします。スピーカー理論に基づいて最適な位置にセッティングし、スピーカーやアンプに質の良いスパイクを履かせ、マルチスピーカーを導入してワイドレンジの音を響かせ…、こういったマニアックな道を突き進むのも趣味としては楽しいでしょうし、自分の求める音に到達できたときには深い達成感を味わえるのだと思います。でも、苦労する割には実際に得られるものが少なく、割に合わないような気もします。

それとは対照的に、ナチュラル・サウンドの道は実に快適です。最初に少しだけ試行錯誤してツマミを最適位置に調整してやるだけで、あとはいとも簡単にナチュラルな立体音、演奏会場の聴衆が聴くのに非常に近い3次元的な音を楽しむことができます。じっと身構えて耳をそばだてる必要はなく、部屋の中でリラックスしながら聴いても自然にステレオ感を知覚することができ、音楽に包まれるような心地よさがあります。ちょうど綺麗な並木道を、周囲の自然を見回しながらゆっくりと散歩しているようなものです。既に副スピーカー法やNS装置を愛用なさっている皆さんも、同じ感想ではないでしょうか。

ここ30年来、高橋教授が周囲のいろいろな人たちに推奨してきたサウンドステージ回復法(ナチュラルサウンド復元法)は、まさに後者の道です。私自身、その道を実際に散歩してみて深い共感を覚えましたので、高橋教授からご教示いただいた内容をこのページにまとめておくことにしました。

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(公開: 2005/7/3)

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