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SV-2(2003)Ver.2 の製作・試聴記を公開してしばらくしたある日、私の試聴記をご覧になった YT さまがご親切にもメールを送ってくださいました。30年にわたって各種真空管のアンプを製作して聴いてこられた経験から、211という球の個性を熟知しておられ、211の音をこよなく愛好しておられる方です。メールの内容は『211の出す弦の音はもっと美しいはずなので、NFBをもう少し掛けてみてはどうか』というご提案でした(雑記帳でご紹介したとおりです)。
YTさまのメールには、「211の弦や人声表現は、実はもともともっとも美しい種類のもの」。『211、845、300B、KT88ppを常用してきたが、30年経った今でも211シングルが最初のまま群を抜いて主アンプになっている』。「もし弦が荒れるというのでしたら、歪みの打ち消しがうまく作動していないことがまず疑われます」といった内容も書かれており、私が試聴してレポートをホームページに公開した211の音は、球の本来の個性や実力を十分に発揮していないのだなと思いました。
このままでは、211愛好者の方々にも、211という真空管自体にも失礼ですから、なんとか音質改善にチャレンジしてみたいと考え、さっそくサンバレー「ザ・キット屋」の大橋さまにもご相談しながら、全体のNFBを10dB程度に増やしてみることにしました。
本格的な改造の前に、まずはミニ実験です。
大橋さまからのアドバイスによれば、「位相回転のリスクを加味しながら、オールオーバーのRnf=27Kを変更するとしても余り大幅に変更するのは危険です。オシロで波形の応答を確認しながらカット&トライで変更するのが宜しいかと存じます」「NFB抵抗の最適化に当たっては暫定で可変抵抗をお使いいただくのは問題ありません。但し摺動範囲に極めて敏感でないといけません。容易にアンプを発振させる懸念もあり十分ご注意頂ければと存じます」とことです。そこで、押入れに眠っていたオシロスコープを十数年ぶりに引っ張り出しました。調整範囲を狭くするために、ちょうど20KΩのVRが手持ちパーツにありましたので、それに10KΩの固定抵抗を直列につなぎ、10KΩ〜30KΩの範囲で調整できるようにします。とりあえず片方のチャンネルだけこの「可変NFB抵抗」をつなぎ、まずはNFB抵抗を最低にしてもオシロの波形に異常がなく、発振もしないことを確認しました。その後、弦楽四重奏を試聴してみました。すると、NFBを増やす(NFB抵抗の値を小さくする)と、気になっていたバイオリンの響きや艶が見違えるように改善されることがわかりました。NFBを増やすのは大正解! だったわけです。
その後、SV-2 (2003) の回路では二段目のKT88のところでも620KΩによる局部帰還が掛けられていることを知ったYTさまから、「それならこれは試しですが、オーバーオールの外ループのNFBをいったん切り、内ループはそのままで裸の211をご試聴されてはいかがでしょうか?」とさらなるアドバイスをいただきました。メールにはさらに、「内ループNFBがうまく働いていれば211はジューシーで力もあり、美しい音を出すと思います。甘美で豊かな感じになるでしょう(スピーカーとの相性にもよりますが、歯切れは落ちるるかも知れません、ダンピングファクターが減りますので)」「歪みは増えるにちがいないのですが、それは211の2次歪み中心でして、これは非常に美しいということで定評があります。弦の美しさが現れる可能性があります」と書かれていましたので、これはぜひとも試してみたいと思いました。アンプは実験状態のままになっていますので、オーバーオールNFBを切ってみるのはごく簡単です。
さっそく同じ弦楽四重奏を聴いてみますと、これがまた素晴らしい音でした。甘くとろけるようなバイオリンの音にしばし聞き惚れてしまいました。ただ、相対的にチェロの低音が少し弱くなったように感じたのですが、後日いただいたYTさまのメールによれば、「お気づきのように前段回路とトランスとのかみ合いで、211の無帰還時には低域が落ちます。トランスのインピーダンス周波数特性が裸で出てくるのです(帰還でこれはフラットになります)。845無帰還時でも落ちます。トランスにもよりますが、845での落ち方は211の半分くらいだと思います」との分かりやすいご説明でした。
このミニ実験を通して、「オーバーオールNFBオフ」も「NFB 10dB」も211の音質改善に効果があり、それぞれ211の個性を活かした音楽を楽しめることがわかりましたので、改造の方針が決まりました。「NFB標準(キット本来の回路)」「NFB大(10dB)」「オーバーオールNFBオフ」の3つを切り替えるスイッチを増設することにします。
「NFB標準」「NFB大」「NFBオフ」の3段切り替えは、「中点オフの6Pスイッチ」を使えば実現できます(右側の写真)。2回路2接点のスイッチですが、写真のように中点の位置でも止まるようになっていて、このときは2接点のどちらもオフになります。
NFB抵抗は15kΩ(1/2W)を用意しました。回路図によるとオーバーオールNFBは 4.5dB(NFB抵抗は27kΩ)、KT88のところでの局部帰還は 2dB(大橋さまの説明)とのことですので、トータルのNFBを10dBにするためにはオーバーオールNFBを 8dB にすることになります。正式な計算方法を私は知らないのですが、比率で計算すると「4.5 ÷ 8 × 27 ≒ 15」と出ます。
さて次に、スイッチを取り付ける位置ですが、シャーシ内部を眺めてみますと、初段管の中間あたりのスペースがあります。ちょうどこの付近にキット本来のNFB抵抗が設置され、トランスのNFB巻線からの配線が来ていますから、スイッチへの配線を最短距離にするためにも好都合だと思います。
(相変わらず下手な写真で申し訳ありません)
せっかくの綺麗な天板に穴を開けるのはキットをデザインなさった方に申し訳ないですけれど、音質向上のためですのでご容赦いただけるでしょう。まず3mmドリルで穴を開け、スイッチの口径に合わせて6mmドリルで仕上げました。配線を終えた様子が次の写真です。
この写真で、211/845の切り替えスイッチは「211側」になっています。NFB切換スイッチをこれと同じ方向に倒したときに「211に適したNFB 10dB」に切り替わるようにしました。つまり、写真では、黄色のリード線が15KΩ、オレンジ色が27KΩにつながっています。スイッチの中点端子にはトランスからの紫色のNFB配線をつなぎます。NFB抵抗とスイッチへのリード線の接続部が「空中配線」になってしまいますので、本当は絶縁チューブを被せるべきでしょうが、ちょうど手持ちを切らしているので、今は省略しています。
私は15KΩを選びましたが、皆さまがお好みの音質になるように18KΩ、20KΩ、22KΩあたりを試してみるのも面白いかと思います。
改造完了後の写真を下に掲載します。この位置なら、デザイン上もさほど違和感がないと思いますが、いかがでしょうか? スイッチも小さいですし。
NFBスイッチを増設したので、3つのモードをパチパチと切り替えながら簡単に音質を比較できて、実に快適です。もっとも、NFB量が変化しますのでそれに応じて出力音量も変化します。適宜ボリュームを調整しながらの試聴になります。
試聴した曲は、クラシック代表としてモーツァルトの弦楽四重奏曲第2番とメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲とチャイコフスキーの交響曲第6番、ジャズ代表としてソニー・ロリンズのサキソフォン・コロッサスです。各曲のいろいろな部分を少しずつ聴いて比較しました。
以前にも書きましたが、音の評価は人それぞれですし、好きな音の傾向も人によって様々です。また、スピーカーとの相性などもあると思います。あくまでも素人の一個人の試聴レポートですので「参考までに」ということでお読みいただければ幸いです。
最初の試聴記にも書いたとおり、キット本来の状態に211を挿して鳴らすと、非常に歯切れのよいジャズを楽しむことができます。低音域の量感が豊かで、ドラムスやベースの響きがリアルです。
ところがクラシックになると、弦楽四重奏ではバイオリンの音がきしむというか、荒れているというか、やや耳障りです。バイオリン協奏曲でもその傾向は同じです。ただ、211のエージングが進んできたためでしょうか、最初ほどひどくはありません。また、協奏曲や交響曲を鳴らしたとき、最初の頃よりはコンサートホールの雰囲気や響きが出るようになったと感じました。
サキソフォン・コロッサスでは、サックスの音が伸びやかになったと感じました。その反面、ベースの力強さがやや落ちたような気がしましたし、ドラムスを叩く音の立ち上がりがやや鈍ったようにも思いました。
クラシックは、このモードがいいですね。弦楽四重奏ではバイオリンの響きや艶が美しく、4つの弦楽器が溶け合って美しいハーモニーを聴かせてくれます。バイオリン協奏曲を聴くと、バイオリンの美しさとともに、ホールの雰囲気や響きが心地よいと思いました。「NFB標準」に比べるとやや低域が落ちたように感じますが、物足りないほどではありません。交響曲を聴きますと、力強さと豊かな響きの両方を楽しめました。
弦楽四重奏では、「NFB大」とはまた個性の違う、バイオリンの甘美な響きを楽しめます。バイオリン協奏曲を聴きますと、独奏バイオリンがぐっと前に迫り出してくる感じです。ただ、交響曲などの大編成のオーケストラでは、全体的な音域のバランスがどことなく崩れているという印象で、やや物足りなくなります。
バイオリン・ソナタや弦楽四重奏など、バイオリンの音を美しく聴きたいときに最適だな、と思いました。YTさまによると「弦の美しさ、女性ヴォーカルが力を持って美しいのが211の本来の裸の姿」とのことですので、ヴォーカル・ファンの方も試してみる価値があると思います。
845でジャズを聴くとおとなしくなってしまうことは以前の試聴記に書いたとおりです。今回改めて聴いてみましたが、やはり同じ印象でした。決して「ジャズには不向き」ということではないのですが、SV-2 (2003) キット本来の回路で211を挿して聴くジャズと比べると、後者の方に軍配が上がるということです。
845のクラシックが私の好みの音を出してくれることも、以前の試聴記に書きました。弦楽四重奏ではバイオリンからチェロまで申し分なく美しい響きと艶を楽しめますし、ハーモニーも見事だと思います。大編成のオーケストラを聴いたときも、低音域から高音域まで実にバランスよく鳴ってくれて、実際にコンサートホールにいるかような雰囲気感と豊かな響きに感動できます。
率直に言って、これはダメだと思いました。低域がこもったようになり、高域も荒れてきてしまいます。
「裸の211」はバイオリンを美しく聴かせてくれますが、「裸の845」は今ひとつですね。高音がやや荒れているようです。大編成のオーケストラを聴くと、迫力があってきれいな響きも出るのですが、やはり高音がやや荒れるように感じました。
今回の改造と試聴であらためて感服したのは、サンバレー「ザ・キット屋」さんの SV-2 (2003) Ver.2 が 845/211 のコンパチブルアンプとして見事に設計されており、NFB値の設定も絶妙であるということです。
市販されるアンプキットは、音の好みも聴く音楽のジャンルも多種多様な大勢の人が使いますので、ある意味「オールマイティー」であることが求められるのだと思います。その点で、SV-2 は絶妙のバランスで回路設計とチューニングが施されているのだなと感じました。
ただ、大橋さまもメールに書いておられましたが、845を「主」、211を「従」ということで設計したこともあり、どうしても妥協せざるを得ない部分があったとのことです。その部分が、211でバイオリンなどの高音楽器を鳴らしたときに表れてしまうのかもしれませんね。その弱点をNFBの調整で克服できたというのは非常に興味深い経験でしたし、ラッキーでした。もしもっと複雑なチューニングが必要だったとしたら、845/211 の切換が不可能になったかもしれないからです。
ひと通り完成され、チューニングを施された真空管アンプの回路定数をやみくもに変更するのはやめた方がよいというが常識でしょうが、ことNFB値に関しては、多分に聴く人の好みも関係してきますので、アンプ本来の性能や安定性を損なわない範囲で「少しだけ」調整してみるのも、また自作の醍醐味かもしれませんね。今回の経験を通して、私はそんな感想を持ちました。
最後になりますが、お忙しい中ご親切にアドバイスのメールをお送りくださり、何度もメールをやり取りしながら的確にご指導くださった YTさま、大橋さまに心からの感謝をお伝えいたします。
(公開: 2004/10/21)