現在、仕事部屋で翻訳をしながら小音量でクラシックを聴いている300Bシングルアンプの紹介です。最近行なった改造や真空管の交換についても説明しています。
私が本格的なオーディオ用の真空管アンプキットを製作したのは、16年ほど前のことです。それからしばらくは何かと忙しくて、キット製作から離れていたのですが、確か6年前の1998年の夏、「何か真空管アンプを作ってみたい」という思いが急に湧き上がってきました。そこで、最初の真空管アンプキットを購入したのと同じ店、秋葉原の三栄無線に出かけました。ところが残念! その日は定休日でした。仕方なく、同じラジオ会館4Fを少し歩いてみたところ、目を疑うようなキットを見つけました。300Bシングルのモノラルパワーアンプが、2台組で10万円だというのです。それが、エレキット「TU-898」との出会いでした。10年ぶりの真空管アンプ製作ということになります。
しばらくの間オーディオ系の雑誌を読んでいなかったので、300Bといえば、何年も前の三栄無線の雑誌広告に「真空管別売」で(確か)十数万円というのが私の頭の中にありました。それに、300BはWE製しかなく、しかも製造中止になったと聞いていました。ですから、300Bのアンプなど高嶺の花で、私にはとても手の出せない品物だと思い込んでいたのです。
お店の人に聞いてみると、最近は中国製なども作られて、300Bが安く手に入るようになっているとのことでした。その店では、半導体製のアンプと、エレキットの300Bアンプと、同じくエレキットの6BM8アンプを切り替えて試聴できるようになったので、さっそく、持参していたCDを試聴させてもらいました。やはり真空管の音はいいなと再認識すると共に、300Bの音にも惹きつけられました。その日は、三栄無線で2A3プッシュプルを試聴してみて、気に入ったら購入しようと思って出かけてきたので、少々迷いましたが、やはり300Bという球への憧れには勝てず、その店でエレキットのキットを購入することにしました。(最初に製作したのは6B4Gシングルアンプなのですが、当時は、雑誌の広告や記事などから、大編成のオーケストラを聴くには分解能が高いプッシュプルが向いているんだろうという思いがあったので、2台目はプッシュプルを、と考えていたんです)
このキットは、プリント基板方式でした。子供の頃から電気工作を趣味にしていましたから、プリント基板そのものは全く見慣れていましたが、真空管アンプもプリント基板で作れるとは知りませんでした。こんな高電圧でもプリント基板で大丈夫なのかな? という素人考えに過ぎないのですが...。それと、真空管アンプ作りの楽しさは、やはり手配線にある、と思っていたので、少々残念な気もしました。
そこで、単に作るだけでなく、ひと工夫加えることはできないだろうか、と考えてみました。説明書を読んでいくと、NFBを掛けるか掛けないかを、音質の好みで変更してよいと書かれていました。要は、出力トランスからのNFBの配線をプリント基板の所定の端子に接続するか、それともその配線を省略するかの選択です。あぁ、これなら、スイッチで切り替えるようにしたら面白いだろうと思い、渋谷に行く用事があったついでに東急ハンズの電子パーツ売り場で小型の3Pトグルスイッチを購入しました。上の写真で、黒いトランスカバーについている小さなスイッチがそれです。
同じものを2台作るというのはやや単調な作業ではありましたが、自作の楽しさを満喫しました。音を聴いてみると、確かにいい音でした。今までの6B4Gシングルも真空管らしい温かく、やわらかく、弦に艶のある音でしたが、今回作った300Bは低域の厚みがずっと上だと思いました。迫力があると同時に、リアルな表現力もあります。
参考までに、回路構成は、6SL7GTによるSRPP方式の電圧増幅回路、ヒーターは6SL7と300Bどちらもブリッジダイオード整流による直流点灯です。定格出力は6W、定格入力は2.2V、SN比は85dB、周波数特性は15〜50,000Hz(-3dB)となっています。キットに付属の真空管は、6SL7がSovtek製、300Bが中国製で「Elekit SELECTED 300B」でした。
なお、上の写真に写っている現状の真空管は、6SL7がGE製、300BがSuvalley Prime Tubes 300B Ver.2です。
私のオーディオ趣味には波がありまして、数年おきに何かを作りたくなったり、アンプに手を加えてみたくなったりします。今年(2004年)になってから、真空管アンプの音はコンデンサによってずいぶん変化するということを知り、交換してみようという気が起きました(正確には、300Bppアンプのコンデンサ交換のほうを先に行い、その結果に満足したので、300Bシングルの方にも手を付けたという次第です)。
信号系のコンデンサは3つあり、初段のカソードに接続された0.0068μF、カップリングの0.47μF、300Bのカソードの100μF電解コンデンサ(耐圧160V)です。カップリングコンデンサには、東一電機のビタミンQオイル含浸ペーパーコンを選びました。100μF 160Vは、Blak Gateの「Hi-Fi BG」というのを入手しました。0.0068μFというのはかなり特殊な容量のようで、通販では手に入らず、たまたまYahoo!オークションに出品されていたスプラグ「ブラックビューティー」を手に入れました(耐圧1000Vはオーバースペックですが、まぁ仕方ありません)。
結果にはたいへん満足できました。中低域の厚みがさらに増し、全体的な表現力や臨場感が豊かになり、ホールの雰囲気がいっそうリアルに感じられるようになりました。
コンデンサの交換で音質が変化するというのは、本当なんですね。測定器で調べても差は出ないという話を読んだことがありますが、人間の耳はなかなか鋭いというか、贅沢というか、とにかく違いが感じられるのですから不思議です。
コンデンサを交換して間もない頃、このアンプの300Bのうち1本のヒーターが切れてしまいました。それで、「意外な逸品!」としてご紹介しているエレクトロン・チューブの300B-98を購入しました。音を聴いてみると、エレキット付属の中国製300Bよりもっと迫力が出ているではないですか。メーカーによる音の違いって結構あるものなんだな、と初めて実感した瞬間です。
出力管のヒーターが切れたということは、初段の6SL7もそろそろ予備を購入しておいた方がよさそうです。たまたま新聞の書籍広告で関心のある記事が目に留まって久しぶりに購入した「無線と実験」2004年4月号の広告で「ザ・キット屋」を見つけ、「定価より20% OFF」という価格にも引かれて、Golden Dragonの6SL7GTを2本注文しました(実はこれがザ・キット屋との出会いです)。
届いたとき、さっそく音を聴いてみてビックリしました。低域の力強さがぜんぜん違うのです。今までのソヴテックの6SL7は随分おとなしい音でした。初段管を変えるだけで、こんなに音質が変わるというのは、まさに驚きでした。私のホームページの最初に「真空管アンプ自作の醍醐味」の3つ目として挙げている「真空管ごとの音質の個性、メーカーによって微妙に違う表現力など、真空管を挿し替えて味わう面白さ」を体験したのは、この時だったんです。
こうなると、他のメーカーも聴いてみたくなります。通販サイトやYahoo!オークションでいろいろ調査した後、結局、GE製の6SL7GTを入手しました。これに換えてみたところ、Golden Dragonより迫力は減りますが、全体的な音楽性や表現力になんとも言えない魅力があります。それで、現状ではGE製を常用しているというわけです。(2005/1/22追記: このページの公開当初は「RCA製」と書きましたが、それは私の勘違いで、正しくは「GE」製でした。お詫びして訂正いたします)
メーカー製の半導体アンプでは、よっぽど腕に自信のある人でない限り、中を開けてパーツを交換することはしないと思います。でも、真空管の差し替えなら、実に簡単です。しかも、メーカーによって音質がこんなに違います。このことを体験したとき、私は真空管アンプのもう1つの醍醐味に気づかされたというわけです。
皆さんも試してみてはいかがでしょうか。
(公開: 2004/8/29)