今回の「意外な逸品!」は“品物”ではなく、真空管アンプ愛好家なら誰しも追及しているナチュラル・サウンド(コンサートホールやライブハウスで生演奏を聴いているかのようなリアルで自然な響き)を非常に簡単に復元・再生できる“方法”のご紹介です。
最近のAV(オーディオ・ビジュアル)の世界は5.1や7.1といったサラウンド再生の話題でもちきりです(「10.2」などというのも出ているそうですね)。私も十数年前、デジタル・サラウンド・プロセッサーが世に出回り始めてしばらくした頃、自分でも購入して試してみましたが、どことなく不自然な感じがして結局無駄な投資に終わってしまいました。
数日前、サンバレー「ザ・キット屋」の211/845コンパチブル・アンプ SV-2(Ver.2003)を211用に再チューニングしたとき以来お世話になっているY.T.様からメールが届き、1986年にアメリカのオーディオ雑誌に載った「Passive Image Enhancer」という方法を教えていただきました(Y.T.様はこの記事が出る前からその方法を実践なさっていたそうです)。これがまさしく「コロンブスの卵」。実に簡単な方法なんです(でも、そのことに気づき、さらには簡単に実現する方法を編み出すというのは誰にでもできることではないので、「コロンブスの卵」の語義どおり!)。
ここではその方法を「ナチュラル・サウンド復元法」と(勝手に)命名させていただき、ご紹介したいと思います。
このページの内容:
理屈は後回しにして、どんな方法なのかを先にご説明しましょう。
用意するもの:
Y.T.様の言葉を借りると「安物の小さいスピーカー」「ぼろスピーカー」で十分とのことです。実はこれにはワケがあり、高音域が減衰しているほうがこの方法には好都合なのだそうです。
雑誌の記事には2Wと記載されていますが、私はとりあえず手持ちの1.5W 100Ωのハムバランサ用VRを使って試しています。Y.T.様は秋葉原で\500ほどで購入できる10Wか30Wの碍子ボリューム(ホーロー・ボリューム)を推奨しておられます。かなりの大音量を出しても、これならビクともしないでしょう。
参考サイト:
Garrettaudio(ギャレットオーディオ) ― 5Wの巻線VRを安価に購入できる通販サイト。「ポット&つまみ」というカテゴリー内の「Garrettaudio 特注ポット」。
USA製のギターアンプ部品を販売しているサイトなどでなぜ可変抵抗器のことを「ポット」と呼ぶのかなぁ、と思っていたのですが、やっと気づきました。ポテンショメータ(potentiometer)の略なんですね。でもこの専門用語、厳密には可変抵抗器(Variable Register)の使用方法の1つ「分圧器としての使用」(いわゆるボリュームは、この方法でVRを使用)を示す言葉のようです。
タック電子 ― ホーロー・ボリュームを安く購入できる通販ショップ。
接続方法:
右図のとおりです。
サブスピーカーの+端子に接続するコードは、アンプから引っ張ってこないでも、メインスピーカーの+端子から拝借すれば十分だと思います。
配置方法:
サブスピーカー2台は、それぞれ左右のメインスピーカーのすぐ横に置くとか、上に重ねるとか、とにかくそのあたりに置けばOKです。
調整方法:
まずは音を出してみて、サブスピーカーから音が出ていることを確認します。そして、その音量がメインスピーカーからの音量の半分くらいになるようにVRを回します。
あとは、実際に聴きながら、ナチュラル感やリアル感が最高になるポイントを徐々に微調整していけばよいと思います。
配置や調整は厳密である必要はなく、ごく大雑把で大丈夫です。
また、サブスピーカーとして高音までよく出るものを使う場合は、外側に向けて壁に反射させ、高音域を減衰させるとよいとのことです。
最初は自宅に余っているスピーカーがなかったため、仕事部屋で使っているサンスイのSP-300というスタンド付き小型2ウェイ・スピーカーをリビングのメインシステムのところに運んで試しました。
その素晴らしい「至福の響き」に感激した私は、常用できる「安物」スピーカーを近所の家電量販店で調達してきました。パソコン用のスピーカーで手頃なモノがないかと思って出かけたのですが、最大出力3W程度のものが多く、さすがにそれでは心もとないのでさらに探したところ、右の写真のスピーカーが見つかり、さっそく購入しました。外見は立派なオーディオ用小型2ウェイ・スピーカーですが、何と税込み\4,980、しかも15W+15Wのアンプ内蔵というバリバリの安物です。この「ナチュラル・サウンド復元法」に利用するときは、もちろん内蔵アンプには接続せず、スピーカーに直接つなぎます。中を覗いてみたら4Ω/20Wのスピーカーが入っていました。これなら十分ですね(Y.T.様の説明では高音域は減衰した方がよいとのことですから、そのうちツイーターの接続は内部で切ってみようと思います)。
写真に小さく写っているのが調整用のボリュームです。ずいぶん細いケーブルを使っているのは「とりあえず実験」のつもりだったからですが、これでも十分に効果を発揮しています。
いかがでしょうか。実に簡単ですよね! ぜひお試しいただきたいと思います。
「ぜひお試しを!」と言われても、理屈が分からないと試してみる気にならないことと思います。実は私がこの方法にさっそく飛びついたのも、理屈の説明に深く納得したからなんです。
ステレオ再生装置にとって、左右チャンネル間のクロス・トークを減少させ、チャンネル・セパレーションを高めることが重要であるというのは、皆さまご承知のとおりです。現在ではアナログ・レコードからCDに移行してチャンネル・セパレーションが飛躍的に向上しました。ちなみに、これまで仕事部屋で使っていたパナソニックのCDプレーヤー(15年ほど前に3万円位で購入した普及価格帯のプレーヤー)でさえチャンネル・セパレーションが「110dB以上」と説明書に記載されています。高級オーディオ・アンプのカタログなどでも「左右独立電源」「ツイン・モノラル・コンストラクション」でチャンネル・セパレーションを向上させていることを謳っていたりします。
そんなとき、オーディオの専門家たちが長年追求してきたクロストーク対策で どうゆうわけだか見過ごされている(あるいは見ないようにしている?)点が1つあることに気づかされたのが、今回のY.T.様からのメールでした。ステレオ再生の最大の敵「クロストーク」の最悪の元凶は他にあったのです! それはスピーカーから出てくる大きな音そのものです。
ステレオ録音された音楽ソースを忠実に復元して再生するには、スピーカーの配置(セッティング)が重要で、左右のスピーカーから音が均一に聴取者(リスナー)の耳に届くようにしなければならないというのはオーディオの基本として誰しもが認めています。
でも、右の図をご覧ください。左右のスピーカーから出ている音を聞く私たちの耳にはどんな音が届いているでしょうか? 「右耳には右スピーカーからの音だけ」「左耳には左スピーカーからの音だけ」が聞こえていると考えるのが暗黙の大前提ですが、現実にはその仮定には無理があります。スピーカーからはあんなに大きな音が出ているのですから、右スピーカーから出ている音の多くは左耳にも聞こえてしまい、その逆も同じです(図で点線で示した「kL」「kR」)。
この係数「k」は最大で50%ほどになることもあるそうですから、これは大変な量のクロストークです。デシベルに換算すると「チャンネル・セパレーション = 6dB」となりますから(これはひどい!)、プレーヤーやアンプのチャンネル・セパレーションを必死に改善しても、スピーカーから出た音がリスナーの耳に届いた時点でそれらの努力がすべて水泡に帰してしまいます。
大方の専門家が見過ごしているこの事実に気づいたこと、そしてこのクロストークを簡単に解消する方法を考案したこと、それがこの「ナチュラル・サウンド復元法」のコロンブスの卵たるゆえんです。
最初に説明したサブスピーカーの接続法では、右のサブスピーカーから「k(R−L)」、左のサブスピーカーから「k(L−R)」という信号が出ています(右図をご覧ください)。この「k」の値を調整するのがサブスピーカー間に接続したVRの役目です。重要なのは「−kR」「−kL」という信号です(本来の音楽信号と逆位相の信号)。この信号が、リスナーの両耳に届いてステレオ感の復元を邪魔している信号「kR」と「kL」を見事に消し去ってくれます。
蛇足ながら、ごく簡単な概念図を右に載せておきます(サイン波を簡単に描画できるソフトを持っていないので、三角波でご容赦を)。
それと、なぜこの接続方法で「k(R−L)」「k(L−R)」を生成できるかについてですが、各サブスピーカーの「−端子」に逆チャンネルの「+出力」がつながっていることに注目すると、その仕組みを理解できると思います。
いかがですか? このように説明されれば、納得できるのではないでしょうか。皆さま、ぜひお試しください。押入れや物置にしまいこんである古いスピーカーがあればそれで十分ですし、小音量で実験するだけでしたらワット数の小さいVRで大丈夫だと思います。
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この方法を最初に試してみたとき、まるで左右のスピーカが存在しないかのごとく、自分の前方からリアリティ溢れる響きが身体全体を包み込んでくれるような素晴らしい体験でした。本当にコンサートホールにいるような錯覚を覚えるほどです。たいした音量でないのに部屋全体に音楽が充満しました。
フルオーケストラでは、楽器群の定位が非常に明瞭になり、しかも響きがいっそうナチュラルです。私がアンプの試聴でよく使うホルスト作曲「惑星」では、今までティンパニはステージの中央の奥にあるものと思っていました。でもこの方法で聴くと、ステージに向かって少し右よりの奥にあることに気づいたほどです。
さらに新鮮な驚きは、弦楽四重奏を鳴らしたときです。今までは左右のスピーカの間にこじんまりと音場が形成され、4つの弦の定位がいまひとつ不鮮明だったのですが、この「ナチュラル・サウンド復元法」で聴きますと、ステージ上に丸く並んだ演奏者たちが目に浮かぶようなしっかりした定位感で、それをステージの間近で聞いているような印象でした。
妻がよく聴いているボサノバやポップス系のヴォーカルも試聴してみました。数人の演奏者が様々な楽器を演奏しながら歌やコーラスをしているような曲では、今まではどの楽器奏者がどのパートを歌っているのか判別するのがかなり困難でした。でも、この方法で鳴らしてみると、どこにどんな楽器奏者がいてどのパートを歌っているのかハッキリ分かるので、2人とも驚いてしまいました。
逆に、ギターソロの伴奏でヴォーカル一人が歌っているような曲や、ギターやアルパのソロ演奏では、今までとさほど違いがありません。多人数の演奏より、再生にもともとステレオ感をあまり必要としないからだと思います。このことから分かるもうひとつの点は、この方法で使うサブスピーカーから出る音は「決して悪さをしていない」ということです。お気に入りのパワーアンプの出力がメインスピーカーから出ている、今までのお気に入りの音は損なわれていないのです。
さらにもう1つ、この方法には実に驚くべき特徴があります。それは、リスナーの聴取位置とスピーカーの位置関係がかなりデタラメでも、左右のスピーカーの中央に置かれた“特等席”と変わりのない、自然で明瞭なステレオ感を何の苦もなく感じ取ることができるんです。
試しに片側のスピーカーの真ん前で聞いてみましたが、中央付近と同じようにステレオ感があります。もっと極端に、スピーカーの外側まで移動しても、やはりステレオ感が失われません。もちろん、音が聞こえてくる方向はオーディオシステムの置いている場所なのですが、平板な音ではなく、立体感のある音が聞こえます。
何と言うのでしょうか、左右のスピーカーの間とその周辺全体が広大なステレオ音源と化しているような印象です。
考えてみると、実際のコンサートホールやライブハウスはこれと同じですよね。ホールの端っこの方の安価な席で聴いても、演奏が聞こえてくる方向はもちろん真ん前からではないにしても、ステージの方向からナチュラルで立体的な音が聞こえてきます。
とにかくこの方法の素晴らしさは、実際に体験してみないと分かりませんし、理解できないと思います。
今までオーディオ装置の設置方法や聴取位置について専門家たちが論じてきた理論が間違っていると言うつもりは毛頭ありません。ただ1つ、なぜだか見過ごされていた「右スピーカーの音は左耳にも聞こえ、左スピーカーの音は右耳にも聞こえている」という実に重大なクロストークを、この「ナチュラル・サウンド復元法」を使って解消すると、なんとも不思議なこの至福の音場(サウンド・ステージ)をいとも簡単に再生できてしまうんです。
このような耳寄り情報は「意外な逸品!」コーナーに載せる話題としてピッタリですので、ここに紹介させていただきました。
この理屈を応用してリアルなステレオ再生を実現させたオーディオ機器は、これまでにいくつかのメーカーが販売したことかせあるんだそうです。
たとえば、かなり昔にダイナコ社はプリアンプの入力部分に簡単な工夫を施して実現したそうです(具体的な方法をお聞きしたところ、確かに理屈は簡単なのですが、その回路をノイズを拾わないように実装するにはかなりの経験と技術が必要だろうと思いました)。1990年頃にはカーバー社やヤマハ社が回路の工夫でこの方法を実現し、ポークオーデオ社はスピーカーBOX内にサブスピーカーを内蔵させたものを発売したとのことです。
でも、どうゆうわけだかこの簡便な方法が広く普及することはなく、もっと華々しい印象を備えた各種のサラウンド方式が主流になっていますね…。
私はこの「ナチュラル・サウンド復元法」にたいへん興味を惹かれ、その素晴らしくナチュラルでリアリティ溢れる音楽再生に魅了されましたので、なんとか回路を工夫して、プリアンプの入力部分か、プリアンプとパワーアンプの間に挿入してみようと計画しているところです。そうすれば、サブスピーカーを置く必要なしに、メインスピーカー1組だけで自然な響きを再現できるようになります。
うまくいったら、皆さまにもご紹介したいと思います。
と、上のように書いたまま、このページをずっと更新せずにいましたが、実は2005/2/27の段階で「ナチュラル・サウンド復元を実現する電子回路の試作品」が完成しておりました。その後、2005年5月以降NS工房で販売している NS-1 / NS-2 / NS-3 には全てその回路を組み込んであります。
(公開: 2005/2/12)
(情報更新: 2007/5/15)