雑記帳 ― オーディオ

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08/09/27
真空管は原音を「再現」する能力を秘めている

08/09/11
さらにビックリ仰天 3つ

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最近の驚いたこと2つ

2008/9/27 - 真空管は原音を「再現」する能力を秘めている

雑記帳の前回の記事(2008/9/11〜16)で「ビックリ仰天」な体験を紹介しました。その後、なかなか内容を更新できず、申し訳ありませんでした。今回の記事では、先回ご紹介した3つの実体験に基づいて考察した「私のオーディオ観」について、その骨格をご説明します。

オーディオは純然たる趣味の世界ですから、オーディオ装置やその再生音に何を望むかについては、まさに十人十色でしょう。ある人が素晴らしいと感じる音でも、別の人は全然ダメということさえあります。真空管パーツショップ「オーディオウィンズ」さんで毎年開催される「真空管アンプ試聴会」では、自作愛好家の皆さんが設計・製作した管球アンプが披露されます。たいへん興味深いのは、試聴した参加者に対するアンケートで、どのアンプについても「非常に良い」と評価する人と「非常に悪い」と評価する人が必ずいて、意見が割れるのだそうです。

とはいえ、オーディオ愛好家の大勢を占めるのは「なるべく生演奏に近い音で音楽を堪能できるオーディオ装置を手に入れたい」という方々ではないでしょうか。そこで、「できる限り生演奏に近い音や雰囲気感を再現する」という目的に絞って、オーディオ装置に関する一般的な考え方と、そこに潜む意外な盲点について概観してみたいと思います。

いわゆる「原音再生」を実現できれば、できる限り生演奏に近い音や雰囲気感を堪能できるはず、というのが今でも一般的な考え方かもしれません。しかし、この考え方には「レコードやCDには、演奏会場にいる聴衆の耳に聴こえ、身体に感じるすべての情報(=原音)が収録されている」という条件が大前提として含まれています。はたしてその大前提は正しいのでしょうか? それが最初に書いた「意外な盲点」の1つです。

原音再生を目指してさまざまな研究開発が行なわれた結果として、レコードやCDなどに収録されている情報をほとんど完璧に再生し、スピーカーから音波として放出することは、どうやら可能になったようです。しかし、その完璧に再生された原音を聴いても、「何かが欠けている」 「心に響くものがない」と感じる人が多いという解説を読んだことがあります。まして、完璧に原音再生を実現できるオーディオシステムは、とてつもなく大掛かりで、高価で、一般人がそれを購入することなど不可能です。

そして、もう1つの「意外な盲点」は、「人間の脳は音をどのようにして知覚し、それを音楽として認識し、感動するのか」という最も根源的なところが、ほとんど未解明であることです。もちろん、耳の構造や、音という振動が耳にある種々の器官で神経パルスに変換されて頭脳に伝達される仕組みなど、基礎的なところはかなり解明されているようです。また、どんな種類の音を人が心地よいと感じるかについても、いくつかの事実が発見されています。しかし、これらの事実だけに基づいて考察しても、人が音楽に感動する仕組みを完全に説明することは到底無理でしょう。

オーディオ装置に関する一般的な考え方
演奏会場で聴衆が知覚している音や雰囲気感は、録音マイクによって漏れなく収録され、レコードやCDなどの音楽媒体に記録される。

それが「原音」である。
現代の最新鋭のオーディオ装置を利用すれば、音楽媒体に記録された「原音」は完全に元通りに再生され、リスニングルームは演奏会場と同じ音や雰囲気感で満たされる。

それが「原音再生」である。
「原音再生」が実現されたリスニングルームでは、耳から入った情報が脳に伝達され、演奏会場にいるときと同じような感動を味わえる。

…というのが従来の一般的な考え方ですが、実際には物足りない! 心に響かない!

「原音再生」の考え方に潜む意外な盲点とは・・・
演奏会場の音や雰囲気感を録音マイクで収録するとき、どうしても記録しきれない情報があるに違いない。

これは、どんなに精巧なカメラで風景を撮影しても、大きく拡大すれば微細な部分は不鮮明なことに似ている。
情報の一部が欠落している「原音」をいくら完全に元通りに再生しても、演奏会場と同じ音や雰囲気感は再現できない。

では、どうすれば欠落した情報を補って「感動できる音楽」を再生できるのか?
この分野はオーディオ装置内の電子回路が大半を占めるため、音響学や電子工学の理論に基づいて高性能化し、その成果を容易に測定できます。そのため、この分野の研究・開発だけが不自然に突出し、オーディオ理論やオーディオ装置が一人歩きしているように私は感じています。
人間の脳が音を知覚し、それを音楽であると認識すること、ましてその音楽を聴いて感動すること、その仕組みは分かっていない。

となると、確立されたオーディオ理論だけに基づいて考察すると「机上の空論」になる恐れがある。

筋道だてて考えることは大切だが、理論や常識にとらわれず、幅広い観点から物事の本質を考察し、自分の耳で確認しながらオーディオ装置を設計したり、購入する機器を選択したりする必要がある。

上図に書いた「どうすれば欠落した情報を補って“感動できる音楽”を再生できるのか?」という課題に対する1つの答えが、ここ数か月の我が家での実体験をとおして見つかりました。どんな体験をしたのかと言いますと:

ファインメット®搭載211無帰還シングルアンプ「NS-211FM / S」、その従来型トランス版「NS-211T」、そしてファインメット®搭載EL34(三結)無帰還シングルアンプ「NS-5FM」の音は、CDプレーヤーとプリアンプを「無色透明でクセがなく、情報量の多いもの」に交換しスピーカーを「アンプの出力をできる限り正確に音波として放出してくれるもの」に交換したところ、格段に品質がアップし、今まで以上に生演奏に近づいた。

ということは、
(1)これらのパワーアンプに音楽媒体に記録された情報を正確かつ情報量を損なわずに入力し、(2)パワーアンプの出力を正確に音波に変換して空中に放出すれば
生演奏に非常に近い音や雰囲気感が再現されると言ってよいのではないでしょうか?

つまり、211やEL34といった真空管を上手に活用すると、「生演奏を録音マイクで収録する際に欠落してしまった情報」がかなりの程度まで補完され、生演奏に近い音や雰囲気感を再現できるのです。これを私は、真空管は原音を「再現」する能力を秘めていることの証拠と理解しました。

スピーカーをオンキョーのD-508Eという、100KHzまで非常に正確に再生できるスピーカーに交換したとき、リアルな音を再現するのが難しい管楽器の音色のリアリティが向上したり、実に不思議なこととして低域の響きが今までより格段に豊かでナチュラルなものに変化したり、といった実体験を考えると、「真空管が原音を再現する能力」には、真空管を利用した増幅回路が生成する高域成分が深く関わっていると理解するのが道理にかなっています。つまり、真空管の「ひずみ」が、音楽媒体に記録されずに欠落してしまった情報を補ってくれるのです。そして、これらNS工房の管球パワーアンプの特徴は、歪率が高いことです。

欠落した情報を ひずみ成分が「どのように」補うのかについて私が考察した内容は、後日、ご紹介したいと思っています。これは、「音はなぜ聴こえるのか」という基礎的な知見と、楽器や人の声などの音楽信号が非常に複雑な波形をした音波であることを考え合わせて、私が頭の中でイメージしている内容です。

一般に、半導体製のアンプよりも、真空管アンプのほうが音楽の再現性が高い、リアルで温かい音がすると言われています。それはやはり、ひずみが大きく関係しているからでしょう。それにしても、一般的な真空管オーディオシステムよりも、我が家で今使っている真空管オーディオシステムのほうが、音楽の再現性の点で優れているのはなぜなのでしょうか? その点について私が考察して得た結論を、簡単な模式図でご説明しましょう。

下図で最初にある水色の長方形は、演奏会場で聴衆が知覚する音や雰囲気感という情報の「質」と「量」を表わしています。その情報がオーディオシステムを通過するうちにどのように変化するかを模式的に表わしてみました。

一般的な真空管オーディオシステムの場合
演奏会場で知覚できる音や雰囲気感   録音マイクで収録し、レコードやCDに記録される音楽情報   再生装置から出力される音楽情報
 
 
 
 
 
 
 
 
 
    録音マイクからマスターテープに収録する時点と、マスターテープから音楽媒体に記録する時点で、どうしても情報の一部が欠落する。

しかし、業務用の機材が使用されることを考えると、音楽情報の質はあまり変化しないものと期待される。
  再生装置(プレーヤー/フォノアンプ/DAコンバーターなど)の出力が「滑らかで音楽性豊かな音」になるように工夫してある製品ほど、音楽媒体に記録された情報がさらに欠落し、情報の質が変化する(色付けされる)傾向がある。

  プリ/パワーアンプで増幅されて出力される音楽情報   スピーカーから音波(空気の振動)として放出される音楽情報
最終的に聴こえてくる音質や雰囲気感はオーディオシステムの個性で色付けされている。

これを「自分の好みに合う 音楽性豊かな再生音」 と感じる人もいれば、「生演奏の雰囲気感とは差があって違和感を覚える」 という人もいるだろう。
 
 
 
 
 
 
 
  一般的な管球プリアンプや管球パワーアンプは製品ごとに個性を持っていることが多い。また、メーカー製品では歪率をなるべく低くする傾向がある。そのため、「真空管による欠落情報の補完」は少ししか行なわれず、アンプの個性によって情報の質も変化する。   真空管オーディオの愛好家が好んで利用するヴィンテージスピーカーは、やはり独特の個性を持っており、情報の質や量がさらに変化する。

我が家にある現状の真空管オーディオシステムの場合
演奏会場で知覚できる音や雰囲気感   録音マイクで収録し、レコードやCDに記録される音楽情報   再生装置から出力される音楽情報
 
 
 
 
 
 
 
 
 
    録音マイクからマスターテープに収録する時点と、マスターテープから音楽媒体に記録する時点で、どうしても情報の一部が欠落する。

しかし、業務用の機材が使用されることを考えると、音楽情報の質はあまり変化しないものと期待される。
  パイオニアのマルチプレーヤー「DV-600AV」は、家庭用の普及価格帯のプレーヤーだが、SACDも再生可能なので、DACチップにはSACDに対応した一定水準以上のLSIが使用されているはず。出力バッファはごく標準的なオーディオ用オペアンプICで、ほとんど無色透明。そのため、情報の質と量の変化は僅かと考えられる。

  プリ/パワーアンプで増幅されて出力される音楽情報   スピーカーから音波(空気の振動)として放出される音楽情報
最終的に聴こえてくる音にオーディオシステムの個性による色付けは僅少。「欠落した音楽情報を補完する」という真空管の潜在能力により、音楽媒体に記録されていない情報が適切に補われ、演奏会場で知覚される音や雰囲気感に非常に近い音場が再現される。

もう少し中低域が誇張された音を好む人も多いだろうが、音楽そのもの/演奏そのものを楽しみたい人には最適の再生音。
 
 
 
 
 
 
 
  プリアンプとして使用している「NS-1 Ver.3」の増幅回路には低歪率のオーディオ用オペアンプを使用しており、無色透明かつ情報量を損なわない。

パワーアンプ「NS-211FM」は、真空管の生成するひずみを最大限に活用するように設計してあるため、「欠落した音楽情報」が適切に補われる。しかし、使用している真空管12AX7、EL34(三結)、211(無帰還動作)は、プレート特性の直線性が高く、音の色付けが非常に少ない。そのため、音楽情報の質が変化する程度も少ない。
  ONKYOのトールボーイ型スピーカー「D-508E」は、入力された音楽信号を正確に空気振動に変換する最新テクノロジーを活用したSPユニットを搭載している。特にリング型ツイーターは20KHzまで分割振動のないピストンモーションで再生できるという。そのため、「音楽媒体に欠落している情報」をNS-211FMがひずみとして適切に補った出力を正確に音波として放出してくれる。真空管が補う音楽情報は主として高域/超高域の成分と思われるので、生演奏の再現には、なるべく高い音域まで正確に再生できるスピーカーが必須。

以上が、ここ数か月に我が家で体験した「アンプ回路の改良と、パワーアンプに接続するオーディオ機器の交換によるリアリティーの格段の向上」という事実を、幅広い観点で私なりに考察した結果の概要です。さらに詳しい点は、私設サイト「真空管アンプ自作の醍醐味」のトピックとして、少しずつ公開していきたいと考えていますので、どうぞご期待ください。

あっ、それから、先回の「言いたい放題」の根拠を示さないといけませんね。

「私の言いたい放題 3つ」の根拠 ―

本物の管球パワーアンプ は、レコードやCDなどの音楽媒体に記録しきれなかった「欠落した情報」を適切に補う能力を備えているべき。
しかも、プレーヤーやDAC、スピーカーなどから手助けを受けずに、パワーアンプ単独で 臨場感豊かな生演奏を再現できる能力があれば、組み合わせるオーディオ装置は「その装置に求められる機能を忠実に果たす能力があれば充分」で、音を良くする工夫を付加した高価な製品である必要がない。また、製品同士の個性が衝突する恐れが減る。
⇒ これこそ理想的な「本物の管球パワーアンプ」ではなかろうか。

したがって、CD/SACD/DVDに記録された音楽情報の量を損なわず、音も無色透明な「パイオニア DV-600/600AV」のアナログ出力を(必要なら適切なプリアンプ経由で)入力したとき、滑らかで、リアリティに溢れ、生演奏に限りなく近い音が鳴らせる管球パワーアンプであれば、「本物」と呼ぶにふさわしい。

また、ONKYOのスピーカー「D-508E」は、パワーアンプの出力をそのまま忠実に空気振動に変換する。言い換えれば、それ以上の手助けは何もしてくれないスピーカーである。そのようなスピーカーを鳴らしたとき、滑らかで、リアリティに溢れ、生演奏に限りなく近い音が鳴らせる管球パワーアンプであれば、「本物」と呼ぶにふさわしい。

レコードとはいえ、演奏会場の音や雰囲気感といった音楽情報のすべてを記録してはいないという点で、CDと同じ。そこで、「欠落した音楽情報を補う」という真空管の潜在能力をフルに発揮させ、レコードであれ、CDであれ、SACDであれ、他のオーディオ装置の手助けを受けずに(パワーアンプ単独で)、滑らかで、リアリティに溢れ、生演奏に限りなく近い音が鳴らせる管球パワーアンプであれば、「本物」と呼ぶにふさわしい。

音響やオーディオの理論に精通している方々ほど、「ここに書かれている内容は突拍子もないもので、まったく納得できない」とお考えになると思います。確かに、私が到達したオーディオ観には「理論的裏づけ」のない事柄が多く含まれているでしょう。

しかし、最初の図でご紹介したとおり、人間の頭脳が「音楽をどのように認識し、どんなとき音楽に感動するのか」については大部分が未解明であることを思い出してください。目の前で起きている事象をまず事実として受け入れ、その事象がどのような仕組み/理屈/理論に基づいて起きているのかについては、その後の研究で解明していく。そうした「帰納的な」手法によって研究を進めるのは、特に人間や生き物の感覚器官や内臓器官や生体反応が関係した学問分野では、ごく標準的な手順です。

それに対して、音響学やオーディオ分野では既に確立された理論が多いため、「演えき的な」ものの考え方が主流のようです。分かりやすく言えば「まず理屈で考えるという理論先行型の思考パターン」です。でも、音響学やオーディオの分野にも、まだ解明されていない現象や、理屈では説明できない現象があるのではないでしょうか? 真空管アンプの音を心地よいと感じるのはなぜか、という点は、まさにそのような領分だと私は考えております。

[ * 「ファインメット®」は日立金属(株)の登録商標です]

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2008/9/11〜16 - さらにビックリ仰天 3つ

この1か月も あっという間に過ぎていきましたが、たいへん密度の濃い時期だったように思います。ファインメット®搭載211無帰還シングル・アンプを改良していた今年の4月下旬以降からの数か月の間に自分の頭の中でおぼろげながら思い描くようになっていた私のオーディオ観を裏付けるかのような、ビックリ仰天の体験が3つもあったんです。 [雑記帳が長くなったので、分割しました]

まずは、近況を簡潔にご紹介します。NS-211Tをご購入いただいたお客様が試聴感を寄稿してくださいました(力作です!)。「お客様の試聴感」のページをぜひお読みください。お買い上げの時期がアンプ回路を改良していた期間とちょうど重なっていたため、お手元に届いたあともパーツの交換作業を一部行なっていただくなど、いろいろとご面倒をお掛けしてしまいました。それでも、アンプ改良の各段階でこのお客様から感想をお聞きできたことは、私にとって良い勉強の機会となりました。音質モード切換えスイッチを装備することにしたのも、その成果の1つです。

既にご存知の皆様も多いかと思いますが、『Audio Accessory』誌2008年夏号(130号)にファインメット®搭載ステレオアンプ「NS-211S」と、従来型トランスの211/845互換ステレオアンプ「NS-211T」の試聴記事を掲載していただくことができました(p.175)。試聴してくださったのは、129号でモノラル機「NS-211FM」(アンプ回路を改良する前の機種)の記事を書いてくださったのと同じ井上千岳先生です。

雑記帳の前回の記事でご紹介したように、『管球王国誌』2008年夏号(Vol.49)でも同じ2機種を篠田寛一先生が試聴してくださいましたので、これで専門家お2人の試聴感が揃ったことになります。篠田先生が管球アンプ愛好家に人気の高い845を物差しにして論評しておられたのに対し、井上先生は「その陰に隠れていまひとつ認知度の低い211」の魅力に焦点を合わせておられるのが興味深いと思います。いずれにしても、両先生からこのステレオ機2機種について、コストパフォーマンスが高いこと、出力W数は小さくてもスピーカーを十分に鳴らしきる駆動力・制動力を備えていること、音質や表現力も魅力的であることを評価していただきましたので、設計・製作者の私としてはたいへん光栄に感じております。

特に井上先生がファインメット®機NS-211Sについて「どの帯域にも厚手な柔らかさが備わり、どの音も生き生きとした弾力で息づいている。質感は洗い上げたように鮮度が高く、リアリティに溢れて快い。本物の音を聴く楽しさを深く感じさせてくれるのである」とまで書いておられることには、本当に恐縮しました。

井上千岳氏といえば、『MJ 無線と実験』誌や『analog』誌などにも試聴記事を書いておられ、管球アンプだけでなく半導体製アンプを含め超高級機の音も試聴しておられます。レコードもお聴きになります。かと思えば、ちょうど『Audio Accessory』誌の同じ130号の新製品紹介では、超高精度のマスタークロックジェネレータの試聴も行い、音質や表現力の変化を的確に論評しておられます。古今のさまざまなジャンルのオーディオ装置をお聴きになったその井上先生の耳でファインメット®搭載211無帰還シングルアンプの音を聴いたとき、『本物の音を聴けて楽しい』と感じていただいたのですから、少々オーバーな表現ですが:

過分のお誉めに与り、恐悦至極に存じ上げ奉ります

と同時に、このアンプの音を毎日聴いている私や妻が「本物の楽器の音を聴いているようだ」、「演奏者がそこにいるみたいだ」と感じるのが、けっして身勝手な思い込みではなかったのだと安心できました。

ちなみに、9月13日発売の『analog』誌でも、井上先生がNS-211Sをもう一度徹底試聴して2ページの記事を書いてくださいます。どんな記事になるでしょうか? まな板の上の鯉とはまさにこのことを言うのでしょうね。緊張しています・・・

真空管は古風なもの、というイメージは依然としてある。しかし、オーディオのデバイスとしての優れた特性、ほかでは代えることのできない再現性は、真空管アンプ人気を支える大きな理由である ― 『analog』誌 2008年秋(Vol.21) p.87

このような言葉で始まる「タイプ別 管球アンプ研究 新世代モデル編(2)」で井上千岳先生が紹介するアンプとして、なんとNS-211Sを選んでいただくことができました。そのお話をいただいたのが、Audio Accessory誌でNS-211S/Tを試聴していただいた少しあと、analog誌の最新号の編集が最終盤に入っている時期でしたから、決まっていた他のモデルの代わりに急きょNS-211Sを推薦なさったのかもしれません。そこまでこのアンプの音に感激してくださったとは、まさしく恐悦至極(時代錯誤な言葉で、スミマセン)。

この記事をお読みになると、ファインメット®搭載211無帰還シングルの音がいったいどのような音なのか、目に浮かぶように(“空耳が聴こえるように”?) お分かりいただけると思います。このアンプの音がなぜ「再現性に優れ、生の音に限りなく近いように感じるのか」、その理由を筋道立てて具体的に説明しておられます。そして、なにか井上先生の興奮が伝わってくるような文章です。

さすがにここに全文を転載するわけにはいきませんので(小学生にまでネットからの「コピペ」が広まっているそうですが、人の書いた文章には(それが印刷物であれ別の形式であれ)すべて著作権がありますので、著作権は尊重しないといけません)、結びの部分だけ引用させていただきます(蛇足ながら「引用」と「コピペ」は別物です)

実体の伴わないホログラフィのような音像ではなく、確かにそこにあるという肉質感が目覚しい。あらゆる意味で、生の感触がそのまま生きた再現性である
  ― 井上千岳氏。『analog』誌 Vol.21 p.95(→詳細・購入(Amazon)))。

ビックリ仰天(その1)
 ― ファインメット®搭載 真空管パワーアンプにベストマッチのスピーカー

さて、本題に入ります。お客様と意見交換をしているうちに、ONKYO製のD-508Eというトールボーイ・タイプのスピーカーを購入して音を聴いてみることになりました(詳しい経緯は、長くなるので省略しますね)。希望小売価格\42,000/台(税込)ですが、現在のところ実売価格はペアで6万円前後です。ホームシアター用途がメインですが、ピュアオーディオでも真価を発揮するとメーカーサイトに書かれていたため、特に100KHzまで再生可能なところに着目して(そして安価なので)購入を決めました。

音を聴いたらビックリ仰天! 今まで我が家のメインスピーカーだった「サンスイの小型2ウェイ SP-1000 + パイオニアのスーパーツイーター PT-R4」の完敗なんです。特に高域の解像度や響きの美しさが見事でした。

また、レコードを聴いてみたところ「これは録音の限界かなぁ」と感じていた箇所が、実はスピーカーの問題だったことが判り、愕然としました。今までのシステムで「ドヴォルザーク 交響曲第9番新世界より/ノイマン指揮チェコフィル/1972年録音」(→詳細・購入(Amazon))のレコードを鳴らすと、木管楽器の音色が今ひとつ明瞭でないことが気になっていました。いま聴こえているのがフルートなのか、クラリネットなのか、オーボエなのか、よ〜く耳を澄まさないと判別しづらいんです。ところが、オンキョーのD-508Eで聴くと、音色が明瞭なので、何の苦もなく木管の種類が判ります。録音が悪いのでも、レコードが悪いのでも、NS-211FMが悪いのでもなく、オーディオ・システムの最終的な出口であるスピーカーが、オーディオ・システムの最終出力を正確に鳴らしていなかったとは・・・。

サンスイのSP-1000と、パイオニアのスーパーツイーターは、既にヤフオクで売却しました。置き場所がありませんし、他のシステムではまだまだ力を発揮するでしょうから、宝の持ち腐れを避けるために・・・

それにしても、木管楽器の音って、意外に手ごわいんですね。高域の「解像度」や「歪みのなさ」を試す格好の試聴材料になると思います。

さらにいろいろな音楽を聴いていたところ、ベートーベンの交響曲第5番「運命」で度肝を抜かれました。コントラバス(チェロではありません)の胴鳴りが聴こえてきたんです。「ヴ」と。皆さん、お聴きになったことありますか? 私はこれまで聴いた記憶がありません。第1楽章でコントラバスが単独で強奏する箇所や、第3楽章でコントラバスから始まってバイオリンまで低音弦から高音弦まで同じフレーズを順番に弾いていく箇所などで気付きました。聴いたCDは次の3枚です:
 ◇ 小澤征爾/サイトウキネン・オーケストラ(→詳細・購入(Amazon)
 ◇ チェリビダッケ/ミュンヘン・フィル(→詳細・購入(Amazon)) 他のショップなら購入できるかも
 ◇ ショルティ/ウィーン・フィル(→詳細・購入(Amazon)
   ※この演奏と録音(1958年)は素晴らしいです。感動しました。「英雄」も絶品。

「胴鳴り」と言えば、チェロの胴鳴りをオーディオシステムや管球アンプ類の完成度を判断する材料にする皆さんもおられるかと思います。これは、スピーカーを取り替える前から感じていたことなんですが、NS-211FM / S / T でバッハの無伴奏チェロ組曲を聴くと、あたかも「チェロが呼吸している」かのような雰囲気感に包まれます。特に鈴木秀美氏のCD/SACD(→詳細・購入(Amazon))でそれを感じます。CDのほうを聴いても同じなので、このパワーアンプで聴く限り、20KHz超の音域が音楽ソースに含まれているかどうかは無関係のようです。それより、録音の品質が優れているのでしょう。従来型トランス搭載のNS-211T(出力管211)でも聴こえましたので、211をうまく鳴らせば、ファインメット®系トランス類が絶対に必要ということもなさそうです。845の場合はまだ確認していません。

実は「チェロの呼吸」は、NS-5FM(10月に発売予定のファインメット®搭載EL34無帰還シングル)でも聴こえます。我が家ではこの音(というか雰囲気感に近いかもしれません)は、チェロの胴体にある穴から空気が出入するときの音じゃないかなぁ、などと話し合っております。ここまで再生できるからこそ、演奏者がそこにいるかのように感じ、音楽に感動できるのだと思います。

大太鼓を強打した瞬間の音と、その残響や余韻も、こんな小さなスピーカーとは思えません。今までの「サンスイSP-1000+パイオニアPT-R4」で、大太鼓のこんな余韻は体験したことがありませんでした。聴いたのは、2007年ジルベスター・コンサート(→詳細・購入(Amazon))の「展覧会の絵」「ボロディン 交響曲第2番」「だったん人の踊り」です。「ドンッ!」と痛烈に鳴った後、「ウ〜ン ウ〜ン」と鳴り響いてスゥーッと消えます。「鶏の足の上に建つ小屋」「キエフの大門」あたりを聴くとたくさん登場しますね。

そしてONKYO D-508EとサンスイSP-1000の低音の鳴り方で最も大きな違いは、D-508Eでは床から足元に振動が伝わってこないことです。どうやら、D-508Eでは、空気だけを効率的に、かつダイナミックに振動させているようです。ちなみに、このスピーカーは20時間ほど音を鳴らしてエージングすると、音域のバランスがよくなり、低音もよく響くようになります。また、聴く私たちの耳も“エージング”が必要かもしれません。つまり、従来の低域とは聴こえ方が違うような印象を受けますので、耳を慣らすという意味です。

では、なぜこのスピーカーと211無帰還シングルアンプの相性が良いのでしょうか? おそらく、ONKYOが開発したツイーターの放出する高域/超高域の音波の「音圧」や「正確さ」が優れているのだろうと思います。D-508Eは、ONKYOトールボーイSPシリーズの最上位機種「D-908E」の弟分に当たります。D-908Eは、2006年の「MJテクノロジー・オブ・ザ・イヤー」で「スピーカー部門賞」を受賞するなど、その年に3つの賞を受けています。特に、オンキョー社が開発した「原信号に対してより忠実な振幅が可能」な「A-OMFモノコック搭載ウーファー」と、「原信号に忠実な振幅だけでほぼ20kHzに達する高い再生能力を実現」する「リングツィーター」の性能が、このスピーカーの最大の利点だと私は思います。D-508Eの説明書では、このツイーターユニットの特長について「中央部が振動しないリング型振動板を採用。徹底した形状解析により、分割振動を大幅に低減し、ピストンモーション領域の拡大に成功」と紹介しています。

真空管アンプを愛好する皆さんは、スピーカーも真空管の全盛期と同じ時代のもの、いわゆる「ヴィンテージ・スピーカー」を好む方々が多いようですね。ヴィンテージ・スピーカーは、真空管アンプの性能を大きく左右するトランス類、特に出力トランスの特性が現在より遥かに劣る時代に、アンプの性能を補うべくさまざまな工夫を凝らして作られたもの、と私は理解しております。そのため、必然的にいろいろな個性を持っていますよね? いわば管球アンプシステムの限界を補助し、補強してくれるための大型スピーカーというわけです。

でも、ONKYOのD-508E(その上位機種のD-908E、末弟のD-308E)はアンプをいっさい助けてくれません(音圧はなんと80〜83dB/m)。その代わり、アンプの出力をそのまま忠実に空気の振動に変換し、音波として放出してくれます。そこがNS-211シリーズとの相性の良さにつながっているのではないかと思います。

NS-211FM/S/T、そして10月に発売予定のNS-5FMという管球パワーアンプはすべて、真空管がいわば“自然に生成してくれる絶妙な歪み[ひずみ]”を最大限に活かす設計になっています。出力1W時の歪率が1%以上あるパワーアンプなど、現代の大手メーカーは絶対に販売しませんよね? むしろ、歪みをその10分の1かそれ以下に抑えるように工夫して もっと“見栄えのする数値データ”にしないと、売らせてもらえないと思います。でも私は思うんです。なんともったいないことをしているのか! それでは真空管の持ち味が台無しになってしまう!

そして、真空管アンプの音を魅力的なものにしてくれる「歪み」の大半は2次歪み(いわゆる倍音成分)ですから、たとえば20KHzまでの信号が収録されたCDを再生した場合であれば、少なくともその2倍の40KHzまで信号が真空管アンプから出力されます。そしてその高域成分こそが絶妙の味わいを生むのですから、当然スピーカーは20KHzまでを正確に空気振動に変換する必要がありますが、20KHz超の高域/超高域の出力信号についても可能な限り正確に空気を振動させてくれて初めて、管球パワーアンプの持ち味が余すところなくリスナーの耳に届くわけです。スピーカーに個性やクセがあると、せっかくの「おいしい歪み」がゆがんでしまい、管球アンプの絶妙の味わいが損なわれてしまいます。

もっとも、音楽信号は非常に複雑な「振動」ですので、正弦波(皆さまご存知のとおりアンプやスピーカーの測定にも正弦波を使います)としての30KHzや40KHzといった「振動(音波)」がスピーカーから実際に放出されると単純に考えることはできないと思います。そのあたりの考え方については、私なりに考察した内容を後日ご紹介します。

素朴な疑問: 管球アンプマニアの好むヴィンテージスピーカーの大半は高域が20KHzまでの「ナローレンジ」なのに、その同じマニアが真空管アンプを選ぶときになぜ「ワイドレンジ」を基準にするんでしょうね? (そうでない方々も多いと思いますが)

低域の再生に高域や超高域が深く関係していそうなことは、少し前から気付いていました。小型2ウェイ(サンスイ SP-1000)にスーパーツイーターを追加すると低域の響きが豊かになるんです。このことは、フォノアンプを試作するきっかけとなったお客様が試聴に来られたときに実演しました。ケーナの総帥と言われるアントニオ・パントーハの演奏を収録したベスト盤「永遠なるケーナの巨匠 」(→詳細・購入(Amazon))を聴くと、いかにも直径が大きそうな太鼓の音が「ドゥ〜ン、ドゥ〜ン」と伴奏で入ります。それを聴いた後、スーパーツイーターの接続を外すと「ス〜ン、ス〜ン」という拍子抜けするような音に豹変してしまいます。不思議ですね。なぜそうなのか理由を私は説明できません。でも、スピーカーをオンキョーのD-508Eに替えた後、コントラバスの胴鳴りが聴こえたり、大太鼓を強打したあとの残響がリアルに響いたりするようになったのも、このスピーカーが211アンプの出力する高域/超高域を正確に空気振動に変えてくれているからだろうと考えています。

ちなみに、このCDは、オーディオシステムの音がどれほどリアルかを判断するのに好適と思います。まず、ケーナの音そのものがいかに本物らしく聴こえるかが重要です。演奏者がこの木管楽器に空気を勢いよく吹き込んで、それが「音程を持った音」と「漏れ出てくる空気音」として聴こえる様は、再現するのが難しいサウンドです。そして、大きな太鼓のたっぷりした低音の鳴りっぷり。非常に高音で済んだ音色の鐘か鈴のような楽器。いろいろなサイズの南米風ギターの弦を弾くときの音。チャーミングな女性ヴォーカルや、時おり奇声(??)を発しながら楽しそうに歌う男性ヴォーカルの声の実体感。ぜひ試してみてください。

念のために申し添えますが・・・

ここでご紹介したスピーカー「ONKYO D-508E」がベストマッチなのは、NS工房の管球アンプシリーズをご利用になる場合です。他の真空管アンプシステムにこのスピーカーを接続しても、これまでご紹介したような驚きの音質や表現力が実現されるとは限りませんので、どうぞご注意ください。

そこで・・・

私の言いたい放題 ―

このスピーカー
 低域から高域まで迫力満点でリアリティ溢れる音を鳴らせなければ、
 コントラバスの胴鳴りが聴こえるようでなければ、

 本物の管球パワーアンプ とは言えない!


   のではないかと・・・

この発言に“根拠”があることは、雑記帳「2008/9/27」の記事で説明しています。

ビックリ仰天(その2)
 ― ファインメット®搭載 真空管パワーアンプにベストマッチのCD/SACD/DVDプレーヤー

ONKYOのトールボーイスピーカー「D-508E」で意外にも格段のグレードアップを遂げた我が家のオーディオシステムなら、「あのCD」をもっと美しく鳴らしてくれるかもしれない! と思い出した私は、さっそく愛用の「CEC製ベルトドライブCDトランスポートTL51X + 真空管バッファ付きD/Aコンバータ Model 2」に「ペーター・マーク指揮/ロンドン交響楽団 メンデルスゾーン交響曲第3番スコットランド=v(→詳細・購入(Amazon))をセットして鳴らしてみました。

1960年に録音されたこの演奏が「スコットランド」交響曲の珠玉の名演であることをご存知の皆さんも多いかと思いますが、私は長らく知りませんでした。ある日のNHK FMを聴いていたらこの曲が「生気みなぎり溢れる演奏です」と紹介されたのには耳を疑いました。この曲に対する私のイメージからは想像もつかない描写です。しかし、実際に聴いてみるとまさしくその言葉通り、こんなに美しく、活気に満ち、しかも情感たっぷりの演奏は初めて聴きました。録音も見事。そこで、このCDの中古品をAmazonマーケットプレイスで購入しました。届いたらすぐに聴き始めます。第1楽章の最初のメロディーが最高潮に盛り上がったところで金管楽器が高らかに鳴り…、そこで愕然。チャルメラの音みたいだったんです…。金管楽器の音は、古い時代のマイクで綺麗に収録するのは難しいようですね。

でも、スピーカーを交換した今ならと思い出したので、大いに期待しつつ聴いてみると、残念ながらまだチャルメラ…(少しは金管楽器らしくなっていましたが)。

ここで、別のことに思い当たりました。今まではサンスイのスピーカーが個性を持っているために211アンプの音を正確に鳴らしていなかった。ということは、CDに収録されている音楽信号がModel 2の真空管バッファで「色付けされている」「音が滑らかになるように少し加工されている」ことが悪さをしているのかもしれない。

そこで、主として音楽DVDの鑑賞用に購入したパイオニアのDVD/CD/SACDプレーヤー「DV-600AV」(現時点での実売価格は最安値で1万円程度)のアナログ出力をメインシステムに接続し、そのプレーヤーで同じCDを鳴らしてみると、今度は正解! 遥かに金管楽器らしい音が聴こえてきました。これなら拍子抜けせずに音楽に浸れます。でも、おそらくトランペットだと思うのですが、ホルンのようにも聞こえ、知識の浅い私には楽器の種類が分かりません。もう1枚CDを持っている「アバド/ロンドン響」の演奏を聴いてみましたが、この部分で管楽器は弱奏しているだけなので、やはりよく分かりませんでした。あそこで金管(もしかして木管?)を高らかに鳴らすのがペーター・マークという指揮者の流儀で、生気みなぎり溢れる演奏に寄与しているようですね。

この名演奏は、11月にSACD版が発売されるんですね(→詳細・購入(Amazon))。もしかしたら、SACDのほうがマスターテープの情報をもっと多く収容できていて、さらに美しい音楽を堪能できるかもしれません。さっそく予約注文しました。[訂正: SACDではなく「SHM-CD」でした。アマゾンに掲載された情報が、当初、間違ってました。でも、SHM-CDで聴くと、この金管の音がもっと明瞭で、やはりトランペットだと思います。低域の量感が増すというSHM-CDの特長も聴き取れます。]

いずれにせよ、これは素晴らしい! ということで、いろいろな「古い録音」を聴きなおしてみました。すると、どのCDも楽器音のリアリティが数段グレードアップして、録音の古さを感じさせなくなっているので驚きです。実は、ファインメット®211アンプを今の状態まで改良したところ、録音の良し悪しがあまりにも分かりすぎて、今までは楽しんでいたはずのCDに幻滅するなど、思わぬ弊害が出ていたんです。でも、その原因がパワーアンプではなく、まさか、あれほどまで気に入っていた再生装置にあったとは、驚きました。そして、NS-211FM/S/TやNS-5FMといった管球パワーアンプを使うシステムでは、スピーカーや再生装置に個性がないのがベストということがよく分かりました。再生装置の部分で「音を滑らかにする工夫」は無用で、むしろ音楽ソースに含まれている情報を少しも劣化させず、情報量を減らすこともなく、そのままパワーアンプに送り込んでやるのが正解なんですね。

・・・ということは、管球プリアンプ「NS-3FM」の管球アンプ部分もきっと「悪さ」をしているに違いない。思い立ったらすぐに試してみるのが私のポリシーですから、さっそく12AX7 2本を引っこ抜き、とりあえずミノムシクリップ付きのテストリード線でプリアンプ回路基板の入力端子と出力端子を接続して音を鳴らしてみました。やはり、そうでした。このほうが音の解像度・情報量がアップしてたいへん好ましい結果でした。貧弱なテストリード線のほうが、12AX7のオーソドックスな増幅回路より情報量を減らさず、劣化させないとは、ビックリ仰天ですね!

テストリードの代わりにしっかりしたリード線で入力側と出力側を半田付け接続し、これでとりあえずグレードアップ完了です。ただ、現状のNS装置は「元々のオーディオシステムの音質や表現力といった個性を変えない」ために、敢えて出力バッファなしの設計になっています。そのため、NS装置を通すと信号レベルが6dBほど落ちてしまうのが難点です。NS装置を設計・開発したときには、オーディオ用のオペアンプICでさえも「入れないほうが良い」と判断してしましたが、今はもう少し経験を積み、オーディオ用の低歪オペアンプICで製作したフォノアンプがたいへん優秀で無色透明であることを体験したばかりでした。

究極のプリアンプ「NS-1 Ver.3」試作機

そこで「NS-1 Ver.3」を企画しました。構成としては、NS-1 Ver.2の入力を4系統に増設してリレースイッチによるセレクタを装備します(NS-3FMの改良をしていたとき、「シールド線+一般的なロータリースイッチ」よりも、入力端子の直近で小信号用のリレースイッチを使って切り替えたほうが音質の劣化が少ないことに気付きました)。出力にはゲイン6dB(増幅率2倍)のオペアンプICによるバッファアンプをつけます。そして、オペアンプICによるフォノアンプ(MM/MC対応)も内蔵します。今は、試作が完了し、タカチ社に穴あけ加工を依頼したケースが届くのを待っているところです。10月の発売予定です(価格 \72,800)。フォノアンプが不要なら「1万円引き」、右の写真のように携帯音楽プレーヤー入力を増設する場合は「プラス3千円」といたします。

それにしても、本当にこのプレーヤーを「ベストマッチ」としてお客様に推奨して大丈夫なのだろうか? 一抹の不安がよぎります。必要な条件としては「CDやSACDの情報を正確にピックアップし、情報量を損なわずにD/A変換し、色付けのないバッファアンプのみで出力してくれる」プレーヤーですから、他社の普及価格帯のプレーヤーも試してみることにしました。探してみると、SONYの「SCD-XE600」が見つかりました。コストパフォーマンスの高いSACD/CDプレーヤーで、れっきとしたビュアオーディオ用の製品です(希望小売価格 \37,800[税込])。私は2.4万円で購入できました。さっそく鳴らしてみたのですが、なんと、なんと、SONYの負けなんです。驚きました。ほんの少し色付けがなされているんでしょうね、その分だけ音楽ソースの情報量や品質が変化してしまい、特に高域の解像度や響きの美しさ、そしてリアリティの面でパイオニアの「DV-600AV」のほうに軍配が上がった次第です。

とはいえ、その差は小さいと思います。SONYのプレーヤーは今、仕事部屋で美しい音を鳴らしています。BGM的に音楽を聴く目的には もったいないくらい素晴らしい音質です。SACDも楽しめるようになりましたから、たいへんお得な買物ができました。

もちろん、もっと高級なプレーヤーにも相性の良いものがあるでしょうが、何しろ1万円台です。現行製品は「DV-610AV」にマイナーバージョンアップしています。これで十二分に素晴らしい音楽が鳴り、音楽に感動できるのであれば、高価なプレーヤーに投資しないで、むしろCDやSACDなどを購入するほうにお金を使ったほうがよいと思われませんか? NS-211FM/S/T や NS-5FM という新世代の真空管パワーアンプがあれば、オーディオシステムの他の装置への投資を節約できるのです。

念のために申し添えますが・・・

ここでご紹介したマルチプレーヤー「パイオニア DV-600AV/610AV」がベストマッチなのは、NS工房の管球アンプシリーズをご利用になる場合です。他の真空管アンプシステムにこのプレーヤーを導入しても、これまでご紹介したような驚きの音質や表現力が実現されるとは限りませんので、どうぞご注意ください。

そこで、また・・・

私の言いたい放題 ―

このCD/SACD/DVDプレーヤー のアナログ出力を
 滑らかで臨場感満点の美しい音楽として鳴らせなければ、

 本物の管球パワーアンプ とは言えない!


   のではないかと・・・

この発言にも“根拠”があることを、雑記帳「2008/9/27」の記事で説明しています。

ビックリ仰天(その3)
 ― レコードの音とCDの音で滑らかさに差がない!

スピーカーをオンキョーのトールボーイ「D-508E」に替えると、レコードの音にも変化がありました。

今までの「サンスイ SP-1000 + スーパーツイーター」でレコードを聴くと、たいへん美しく、解像度の高い音楽を堪能できましたが、全体的な雰囲気としては「ほどよく色あせした懐かしいカラー写真」のような印象を受けました。同じ音楽ソース(マスターテープ)をCD化したものと聴き比べると、音の聴こえ方が古風な感じなんです。そのときは、これがレコード独特の雰囲気感なのだろうと思っていました。

ところが、スピーカーをD-508Eに替えてからは、同じ録音の「レコード」と「CD」で音質にほとんど差がなくなったので驚きました。レコードを再生しても「古風な印象」はまったくなくなり、非常に鮮度の高い音楽が聴こえてくるのです。CDのほうを再生すると、レコードよりさらに情報量が多くなり、解像度が上がります。オーディオシステムによっては、この情報量の多さが「滑らかさに欠ける」「デジタルくさい」音に聴こえてしまうのかもしれません。もっとも、レコードの音とCDの音の差は僅かで、パッと聴いただけでは今再生しているのがレコードなのかCDなのか分からないほどです。レコードコードのスクラッチノイズが聴こえて初めて、「えっ、これ、レコードだったの?!」と気付きます。

ちなみに、同じ音源のレコードとCDを聞き比べたのは、次の2種類です:

ブラームス 交響曲第4番、ザンデルリンク指揮/ドレスデン・シュターツカペレ(1972年の録音)
  CDの詳細はこちら(Amazon)
  レコードの詳細はこちら(Amazon)

バッハ ブランデンブルク協奏曲、バウムガルトナー指揮/ルツェルン音楽祭弦楽合奏団(1959, 60, 68年の録音)
  CDの詳細はこちら(第1〜3番)こちら(第4〜6番)(Amazon)
  レコードの詳細はこちら(Amazon)

さらに言うと、FM放送の音楽を聴いていても、まるでCDのように解像度や透明感の高い音に感じますので、「えっ、これ、FMだったの?!」という経験を何度もしました。6年ほど前、トライオード社の300Bパラシングル・パワーアンプ「VPX300PS」が我が家のメインアンプだった頃、過去に録画したNHK教育テレビのビデオテープと、NHK BS2を録画したビデオテープでは、音楽の透明感に大きな差があると感じていたことを思い出します。アナログテレビの音声信号にはFM放送と同じく高域が(確か)15KHzまでしか入っていないのに対して、BS放送のBモード・ステレオでは高域が(確か)22KHzまで入っていることが音の透明感にかなり影響しているんだろうと、そのときは考えていました。でも、現状のシステムでは、パワーアンプに入力される音楽信号に15KHzまでしか含まれていないにもかかわらず、CDと聴き分けできないほど透明感も解像度も高い音楽が聴こえてきますので、これまた驚きです。

EL34シングルパワーアンプ「NS-5FM」最終試作機

スピーカーをONKYO D-508Eに取り替えた効果は、さらに別のところにも表われました。ファインメット®搭載EL34(三結)無帰還シングル・ステレオパワーアンプ「NS-5FM」の音質や表現力が、本来の実力を発揮するようになったんです。

まもなく定年なので大切に保管してあったレコード約1000枚を堪能できるオーディオシステム一式を再購入したいというお客様が試聴にお見えになったとき、「このアンプもなかなかいい音なんですよ」と言ってNS-5FMの試作機を鳴らしたのですが、聴いてみてビックリ。

私: あっ、すみません。レコードの情報量を再現するには無理があるみたいですね。

お客様: はい、なにか色気がなくなってしまいました。

私: そうですね。音の表情がすっかり乏しくなったように聴こえます。

・・・という具合だったのですが、スピーカーを替えたところ、我が家にある4枚のレコードを「NS-5FM」でも見事な音質と表現力で再生できるようになりました。CDと聴き比べて差がないのも、211アンプと同じです。このアンプについても、サンスイの2ウェイにスーパーツイーターを追加した状態では、アンプの出力が正しく音波として放出されていなかったようですね。

実は、NS-5FMについても『analog』誌 2008年秋(Vol.21)に試聴記事を載せていただくことができました。新製品紹介の一角 p.198 です。「構成からは想像できない エネルギッシュでレンジの広い音調」というタイトルのもと、1/2頁で手際よく論評してくださいました。音質に関する評価をよく読んでみると、基本的にファインメット®搭載211ステレオ機NS-211Sと同じ特長が挙げられていることに気づきます。

NS-211Sをもう一度試聴させてほしいとのお話を音元出版からいただいたとき、ちょうど試作機が完成して聴きこんでいるところでしたので、「もしお時間があればということで結構ですので、総合的には確かにNS-211Sのほうが優れていると思いますが、音質や表現力の傾向はほとんど同一で、性能差は小さいように感じております。このあたり、井上先生にもご確認いただければ幸いです」と厚かましくも試聴をお願いしてしまいました。すると、もともと企画していただいた記事のほうではNS-211Sについて存分に筆を振るっていただいたほかに、別枠としてNS-5FMの記事まで書いてくださいましたので、たいへん恐縮しております。それでも、専門家の耳にもこの管球パワーアンプはコストパフォーマンスの高い異色の存在と感じていただけたようで、喜んでいます。

オーディオ愛好家の皆さんの一般的な意見としてよく耳にするのは、「レコードのほうがCDより情報量が多く、音も滑らか」、「CDの音はデジタル信号なのでギザギザしていて滑らかでない」といった言葉です。では、「同じ音源(マスターテープなど)」をレコード化したものとCD化したものを実際に聴き比べた経験をお持ちの皆さんはどれほどいらっしゃるでしょうか?

現状の我が家のオーディオ環境(真空管パワーアンプは NS-211FM/S/T や NS-5FM)でそのような聴き比べをしてみると、レコードの音とCDの音で滑らかさに差がないんですね。驚いたことに…。どちらも同じように精細で、透明感があり、滑らかで柔らかい音楽として聴こえます。また、CDのほうが少し情報量が多く、解像度が高いようにさえ感じます。

このことから、「レコードはアナログ信号なので滑らかだが、CDはデジタル化で信号がギザキザになったので音が滑らかでない」とか、「CDは20KHz超の信号が入っておらず、レコードには20KHzを超える信号が入っているので、音の滑らかさはレコードのほうが上だ」といった言い方は《当たっていないのではないか》という気がしてきました。

そこで、またまた・・・

私の言いたい放題 ―

CDの音も レコードと同じように滑らかな音として鳴らせなければ、

同じ音源を収録したレコードとCDを鳴らしたときに聴こえる
  音楽の音質や表現力がほとんど同じでなければ、

 本物の管球パワーアンプ とは言えない!


   のではないかと・・・

この発言にさえも“根拠”があることを、雑記帳「2008/9/27」の記事で説明しています。

このようにしてスピーカーとCDプレーヤーを「ベストマッチ」かつ「ハイ・コストパフォーマンス」のメーカー品に取り替えた結果、NS工房の管球パワーアンプ製品4機種の音質差が、今までよりさらに縮まったように感じています。あくまでも感覚的、直感的な比較に過ぎませんが、下記のグラフのような“セコイアの背比べ”です。

NS工房 真空管パワーアンプの音質グレード
200
190
180
170
NS-211FM
ファインメット®搭載
211無帰還シングル
モノラル機

\470,000
NS-211S
ファインメット®搭載
211無帰還シングル
ステレオ機

\348,000
NS-211T
従来型トランス搭載
211/845互換ステレオ機

\258,000
NS-5FM
ファインメット®搭載
EL34(三結)無帰還シングル

\168,000
\138,000(キット)
※出力管にGE製VT4C軍用NOS管を使うと、音質グレードがそれぞれ 10〜20 ポイント程度アップするように感じます。

[ * 「ファインメット®」は日立金属(株)の登録商標です]

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2008/7/28 - 最近の驚いたこと2つ

何かと忙しく過ごしているうちに、前回の雑記帳の更新から2か月も経ってしまいました。NS工房で販売している管球アンプの改良や、データ測定、徹底分析などをしていたのですが、いろいろと収穫の多い時期でした。

ファインメット211®アンプのステレオ機「NS-211S」、従来型トランスを搭載した211/845コンパチブル・アンプ「NS-211T」も、廉価版とはいえ、たいへんコストパフォーマンスの高い製品にグレードアップできました。実は、NS-211Tは、あるお客様の「求めている音」をお聞きしている中で誕生した企画なんです。20万円台と30万円台は「気に入れば購入するお客様」と「気に入っても購入を断念せざるを得ないお客様」が分かれる境目になると気付かされました。10万円台と20万円台も(いろいろな意味で)境目になりますよね? 今日の記事では「10万円台」の企画もご紹介します。

このステレオ機 2機種については、管球王国誌の最新号(2008年夏/Vol.49)に試聴記事が掲載されます。広告代理店から見本誌をいただき、一足先に目を通したところ、非常に中身の濃い記事ですね! わずか1ページの限られた文字数に2機種(実質上は“3機種”)の解説と試聴感を載せるわけですから、評論家の先生の文章力には脱帽です。特に試聴感の一つ一つの言葉には沢山の思いが込められていて、読者としては“行間を読む”ような姿勢が必要だなぁ、と感じました。開発者としても、たいへん参考になる試聴記事を書いていただいたことに深く感謝しております。

ファインメット®211アンプのモノラル機「NS-211FM」のほうも、測定データと聴感上の印象の両面で、これまでで最高と思える品質までグレードアップできました。このアンプにGE製VT4C軍用NOS管を挿して聴くと、見事な臨場感、繊細かつ生々しい表現力、圧倒されるような迫力に加えて、なんとも心地よい上品な音を堪能できます。「一生もののアンプ」として、ぜひ皆さまにご検討いただきたいと願っております。

管球王国誌の試聴記事を読むと分かりますが、管球アンプを愛好する皆さんの多くは、845の音に慣れておられて、一般的な845アンプが鳴らす楽器の音や演奏会場の空気感にリアリティをお感じになるようですね。その反面、出力管に211を採用した従来の市販パワーアンプ(大まかに'80〜'90年代以降に販売されたキット/完成品)は、せん越ながら、「211本来の音」を鳴らしていなかったのではなかろうかと私は感じています。管球王国誌をはじめとするオーディオ専門誌の試聴記事が『211らしからぬ音作り』といった趣旨の試聴感になるのには、そんな背景があるのかもしれません。あるいは、211という真空管に対する先入観や固定観念といったものも関係しているのでしょうか。

また、パワーアンプと組み合わせるスピーカーの高域が20〜40KHzあたりまでしか伸びていないと、211本来の音を鳴らしきれないのではないか、とも感じます。いわゆる「スーパーツイーター」を追加するなどして50KHz以上の音も空中に放出してやると、きっと211と845の印象が逆転すると思います。845アンプからは ほんのり“845の色”に染まった音が聴こえ、211の実力を最大限に活かして設計された211アンプからは ほとんど無色透明な音が聴こえます。薄味なので、どんなジャンルの音楽でも、ソロ演奏から小編成や大編成、フルオーケストラに至るまでリアルに再現できる「オールラウンド・アンプ」と言ってよいでしょう。オールラウンドのアンプなどない! とお考えのオーディオ愛好家の皆さまからは呆れられてしまいそうな発言ですが、薄味でクセのない(強い個性のない)音が持ち味の211無帰還シングルをどうぞお聴きになってみてください。目から鱗[うろこ]が落ちる体験をできること請け合いです。もっとも、その音が好みに合うかどうかは別問題ですが…。

前置きが長くなってしまいました。本題に進んで、この2か月間の成果と言いますか「驚いたこと2つ」をご紹介します

驚愕のサウンド! ― ファインメット®搭載EL34無帰還シングル

ファインメット®211アンプの「徹底分析」のページを書くに当たって、管球王国誌に掲載された過去の“上杉アンプ”の中からシングル・パワーアンプの製作記事をいくつか拾い読みしました。すると、「EL34の3極管接続化によるプレート特性/Ep-Ip特性は、すこぶる優秀です」という解説に目が留まりました。ちなみに「プレート特性が優秀」とは、別の言葉では「直線性が良い」ということで、入力信号レベルに対する出力信号レベルの比例の度合いが正確であることを意味します。この比例の度合いが全音域や特定の音域で微妙に異なっているような真空管は、それが1つの個性となって、その出力管独特の味わい深い音が鳴ると考えられます。

「徹底分析」では、211をドライブするために、プレート特性が優秀なEL34の三結を利用したのは理屈の上からも正解だったことを、測定データから確認できました。初段からの情報を可能な限り正確に増幅して出力段に送り込むのがドライバー段の「役割」なので、直線性の良いEL34(三結)は適任というわけです。

それなら、EL34を出力管にしてファインメット®でパワーアンプを組んだら、リアルな音が鳴るんじゃないかなぁ?

ファインメット(R)搭載EL34無帰還シングルの試作機

これが切っ掛けでした。「面白そうなことがあるとすぐに試したくなる」という、いつもの私のクセが出て、参考書を見ながら回路を設計し、突貫工事で組み立てたのが右の写真にあるアンプです。

トランスはすべてノグチトランスのオリジナル・トランスで、出力トランスはファインメット®の6Wコア品(FM-6WS)、チョークトランスもファインメット®(FMC-0519H)、電源トランスはごく標準的なPMC-170Mです。トランスの角穴だけ開けてあるシャーシも一緒に購入しました(これがあると、シャーシ加工の時間をずいぶん短縮できますね)。

管球アンプの自作愛好家の間では、ファインメット®のトランスは解像度が高いという評価が既に固まっているそうです。そして、NS-211FMの開発過程で、「解像度が高く、情報量が多い」ということを我が家でも実際に体験してきました。その特長を生かすには「情報量の多い増幅回路を採用するのが鉄則」と、私は考えるようになりました。

真空管アンプの世界に「情報量」という言葉は似つかわしくないかもしれませんが、このような設計ポリシーを念頭に置いてアンプ回路や使用真空管を選定すると、ファインメット®・コアのメリットを最大限に活用できます。

そこで、初段は6SN7をパラ接続で使うことにしました。増幅度は低いですが、相互コンダクタンス(gm)が高い球です。gm値が高いとは、グリッド電圧の変化に対するプレート電流の変化が大きいことを意味しますので、入力信号の少しの変化にも敏感に追従する「解像度が高く、情報量の多い」増幅をしてくれることを期待できます

もちろん、厳密にはもっと多くの要因が関係していると思います。だれか、真空管を「現代の視点」から分析・研究してくれないでしょうかね。オペアンプICであれば、入力信号の変化に対する出力信号の変化の速さを表すデータ値「スルーレート(V/μs」が高い」≒「情報処理能力が高い」と考えてよいと思いますので、真空管の「スルーレート」に当たるものを測定する基準や技法を確立すればよいのでしょうか・・・

そして、出力段はEL34を三極管結合で使用し、無帰還アンプとして製作しました。クリップ時の出力は期待通りの5.5Wに仕上がりましたが、その際の入力電圧が1.5Vも必要な「低感度パワーアンプ」になってしまったため(覚悟していたことです)、ちょっと裏ワザを使って対処しました。詳細は後日また。

さて本題の「驚いたこと」ですが、それはこのアンプの鳴らす音です。なんと、ファインメット®211アンプと同じ音が聴こえてきたんです!

繊細で、滑らかで、無色透明で、迫力満点で、どんなジャンルの音楽でもリアルに鳴らします。とても6Wの小型出力トランスを使っているとは思えません。最初に聴いたときのスピーカーはリビングのサンスイ製SP-1000で、能率は88dB/mしかありません。近所迷惑覚悟で、短時間だけ音量をドンと上げてみました。耳が痛くなるほどの音量になっても歪んだり割れたりすることなく、見事なフルオーケストラを奏でていました。

ファインメット(R)搭載EL34無帰還シングル
試作機の歪率特性

なぜ「同じ音」なのか? 歪率特性をグラフ化すると、見事な直線になりました。211無帰還シングルと同じですね。低域の歪率だけ高い位置を推移しています。出力トランスが小型であるのが原因か、初段も無帰還の「オール無帰還」が原因か、いくつか試行錯誤して改善を目指しましたが、うまくいきませんでした。聴感上は低域の力感は十分すぎるほどで、歪みっぽいことなどまったくありませんので、このままで「よし」としましょう。歪み成分をオシロスコープで観察すると、最大出力付近の4Wあたりまで、3つの周波数とも綺麗なサイン・カーブが見えます。それを超えると、波形が少しずつ乱れていきます。つまり、2次歪みが大半なので、1KHzの1W時の歪率が2%を超えていても、響きの豊かな211無帰還シングルと同じ傾向の音が出るのだと思います。周波数特性は 29Hz〜25KHz(-3dB)ですが、信じられないほどよく響くナチュラルな低域と、どこまでも澄みわたるような透明度の高い高域を楽しめます。

これは凄いことですよね! 私はこのようなリアルで迫力満点で、しかも美しく繊細な音は、211無帰還シングルでなければ鳴らせないと思っていました。ところが、1ペア数千円から1万円程度で買える、あの細身のEL34(6CA7)と、古い電圧増幅管6SN7と、いちばん小型のファインメット®製コアで作られたトランス類を組み合わせたら、211無帰還に肉薄する音が鳴るとは! しかも、発熱量が大幅に減りますから、夏場でも部屋の温度を“無駄に上昇させずに”済みます。

結構いい音が出るんじゃないかなと期待してはいましたが、期待を大きく上回る音に、小躍りしたくなるような感動を覚えました。もちろん、厳密に聴き比べると差が出ますが、“セコイアの背比べ”にもう1台のアンプが名乗りを上げたことに間違いはありません。真空管のブランドをいくつか試したところ、EL34がSvetlana(Sロゴ)、6SN7がSovtekのとき、いちばん好ましい音と感じました。ユーザーの好みに応じて、いろいろなブランドに挿し換えるのもまったく自由ですから(初段も出力段も自己バイアスなので、挿し換えても調整不要)、いろいろと遊べるアンプです。

朗報です。これを製品化しない手はありませんよね。既に製品化に向けて準備を始めています。シャーシはオーディオウィンズのオリジナルシャーシでいちばん小型のW350を使います。幅35cm、奥行き23cmです。キットを主体にします(予価 \128,000)。入力VR部分と「裏ワザ」部分、それにヒーターの整流回路(電圧可変の三端子レギュレータを採用)のみ完成基板として添付し、それ以外の大部分は手配線で組み立てていただきます。完成品も販売します(予価 \168,000)。もちろん「推奨真空管つき」の価格です。

オール・ファインメット®≠フアンプは、自分で回路設計をする自作マニアの皆さんがいろいろと試行錯誤して製作しているのが現状だと思います。キットであれば、そしてこの価格であれば、試してみたいという自作派の皆さんがきっとおられると思います。秋には発売できそうです。ファインメット®の感動を、さらに多くの皆さまに提供できること、本当に楽しみです。ご期待ください。

レコードの情報量に驚嘆!

この「驚き」の体験をしたのち、NS-211FMに関心をお持ちのお客様から電話で問い合わせがありました。結婚を機にオーディオ機器はすべて手放したが、来年が定年なのでまたレコードを聴きたいとのお話でした。1000枚近いレコードは、保管箱に入れて大切にしまってあるそうです。アンプをいちばん重視すると言っておられました(私も同じです)。NS-3FMがフォノイコ内蔵でないことを残念がっておられました。

レコード再生は装置類が大掛かりになりますし、コストもかさみますので、その世界に足を踏み入れるのを私は躊躇していました。現状のシステムであれば、CDでも充分に滑らかで美しい音と響きを楽しめる、というのも理由の1つです。

旧バージョンNS-3を試聴後にご購入いただいて以来なにかと懇意にしてくださっているお客様にファインメット®211アンプ「NS-211FM」をお届けしたとき、「今度はフォノアンプを作ってくださいよ。シンプルなのがいちばんですから」と言われたのですが、私にはそのスキルがありませんので、と、やはり躊躇していました。真空管で作ることばかり考えていたせいもありますが。

そんな中、電話をいただいたお客様のために外付けのフォノアンプでコストパフォーマンスの高いものを探そうとインターネットから情報をピックアップしていたところ、オペアンプICを使うとシンプルなフォノアンプを自作できることを知りました。これなら私にも作れそうです。

オペアンプを利用したフォノアンプは、パーツを調達し、さっそく試作しました。そうそう、肝心のレコードプレーヤーも調達しないといけませんね。オーディオ誌の記事や広告を見ると、誰が買うんだろうと思うような(NS-211FMがとっても安価に見えるような)プレーヤーやカートリッジや昇圧トランスが並んでいます。よく利用する楽天市場で検索すると、ありました! お手頃価格の入門機が。DENON製で、MMカートリッジが付属し、MM専用のフォノアンプも内蔵しています。大特価2.7万円の通販で購入しました(定価は確か4.5万円ほど)。本格的にクラシックを聴くには、やはりMCカートリッジも必要だろうと考え、さらに検索すると、あるんですねぇ、お財布に優しい商品が。オーディオ・テクニカの1万円弱(定価はもう少し高価のはず)のカートリッジも購入しました。

考えてみたら、我が家にレコードは1枚もありません。オーディオウィンズさんで最近、コロムビアレコードから復刻販売されている「懐かしのレコード」を販売し始めたことを知っていましたので、EL34アンプ用のシャーシ加工と一緒にブラームスの交響曲第1番のレコードもお願いしました。それが届くのは少し先なので、アマゾンで「ドヴォルザーク 交響曲第9番新世界より/ノイマン指揮チェコフィル/1972年録音」も購入しました(→詳細・購入(Amazon))。これはすぐに届きますので。

内蔵MMフォノアンプ、標準添付のMMカートリッジ+自作フォノアンプ、ハイ・コストパフォーマンスMCカートリッジ+自作フォノアンプの順に聴いていきました。さすがに内蔵のフォノアンプからファインメット®211アンプにつないで鳴らすと、情報量が足りない感じでしたが、自作フォノアンプではMMでも結構いい音でした。翌日だったでしょうか、MCカートリッジが届いたのでさっそく聴いたら・・・

これが「驚いたこと」の2つめです。

レコードには実に沢山の情報が収録されているんですね! もちろん優秀録音として表彰された名盤ということもありますが、録音がいまひとつのCDより はるかに臨場感があります。ティンパニやコントラバスの低音が実に自然な響きで聴こえるのも驚きました。管楽器のバリバリいう音、木管の柔らかな響き、弦楽器群の滑らかな音や きしみをあげる強奏部の音。どれも非常に生々しく聴こえてきました。ダイナミックレンジが予想以上に広いことも意外な驚きでした。

そのようなわけで、このフォノアンプ、NS-3(在庫限り) / NS-3FM の購入時オプションとして製品化することに決めました。

管球プリアンプに半導体製のフォノイコを内蔵させるなど「もってのほか」・・・、でしょうかね? でも、低レベルの信号を正確に周波数補正して低ノイズ/低歪率で数百倍〜数千倍に増幅するというフォノイコの役割を考えると、オーディオ用のオペアンプで作るのも決して邪道ではないかな、と私は思うんです。まぁ適材適所と言えば聞こえがいいですが、レコードの全盛期には真空管を使うしか方法がなかったわけで、増幅度を上げるとノイズが大きくなりすぎるのでMCカートリッジには昇圧トランスを使う方法が主流になったんですよね?

しかし、今の時代は、いろいろなデバイスを使う選択肢があります。カートリッジ、昇圧トランス、単体フォノアンプのいろいろな個性を組み合わせながら、自分の求めている音を探し出すというのも、趣味として大いに楽しめると思います。ただ、資金と時間が限られた中で、何百枚ものレコードを次々に聴きなおして「懐かしいあの音楽、あの響きにもう一度浸りたい」という往年のオーディオ愛好家/音楽愛好家の皆さんが定年を迎える時代、コストパフォーマンスの高いフォノイコで手軽に、しかもクラシックやジャズをリアルに鳴らす高品位の音でレコードを楽しめるような製品を世に出すのは、筋が通ると思います。だからこそ、フォノイコ内蔵でリーズナブルな価格のレコードプレーヤーや、レコードの音をA/D変換してUSB経由でパソコンに送り込む機能の付いたレコードプレーヤーがオーディオ機器メーカーから販売されているわけでして・・・

個性の強いオーディオ装置を組み合わせる場合、どうしても相性の良し悪しという問題に悩まされます。それを避けるには、無色透明なフォノアンプ、昇圧トランスなしでMCカートリッジから最大限の情報量をピックアップして増幅できるフォノアンプが最適だと私は思います。そんな考えから、すっかり“ゼータク耳”になった私たち夫婦が聴いて「この音は素晴らしい」と感じることのできたフォノイコをNS-3に搭載することに決めた次第です。

そのお客様にフォノイコ内蔵予定のことをお伝えしたところ、近いうちに試聴に来たいとのことでした。自宅 兼 作業場なので試聴には不向きな場所ですが、無造作に置いただけの貧弱な聴取環境でも、NSのおかげで幅広い音場を楽しめることを体験していただこうと思います。ちなみに、ステレオ録音のレコードでは、NSレベルを適切に調整すると、非常に奥行きの深い音場を楽しめることにも気付きました。

[ * 「ファインメット®」は日立金属(株)の登録商標です]

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