TOP日本産リストカタログ文献情報写真館古文書館LINKS制作者の小部屋

2010年5月23日更新

 古い書物の中に載せられたトビケラに関する記述や図画を,直接訪問したり,Webを通して入手しました.蝶やトンボほどではありませんが,日本の多くの古文書の中にトビケラもひっそり眠っていました.このような貴重な文化を後世に伝える古文書を保管し,利用させてくださった博物館や図書館に感謝いたします.
 なお,トビケラの発掘にはある程度自信がありますが,古文書に関しては素人ですので,著者や制作年代などについて誤解があるかもしれません.間違いにお気づきの方はご指摘いただければ幸いです.

転載した画像について(注意)

 このページに使用した画像は,それぞれの画像に付記した下記図書館・資料館・博物館の使用許諾を得て公開しています.ほかの目的で利用するにはあらためて使用許諾申請が必要ですので,当館の画像からの二次利用を決してしないでください.

「岩国石人形資料館」「国立国会図書館」「中村学園図書館」「長野電波技術研究所附属図書館」「西尾市岩瀬文庫」

トビケラに関する記述や図のある古文書

(旧字体による文字化けをできるだけ避けるため,解説中の一部の文字を新字体(例えば虫)または画像で示しました.)

本草綱目 李時珍 (1596)
 中国で発行された本草学(薬学)の書で1,892種が掲載されているといい,すぐれた博物学書でもある.日本には17世紀初めに渡来し和刻本も数多く印刷されたそうだが,ここで転載したものは「長野電波技術研究所附属図書館」所蔵の「貝原益軒本」(1673)と呼ばれるものである.
古文書トビケラ : 39-40巻 (虫)部 卵生類



もう少し大きな画像はこちら





(長野電波技術研究所附属図書館蔵)

大和本草 貝原益軒 (1709)

 付録、図譜を加え20巻に及び,本草綱目の分類法に益軒独自の分類を加えた1,362種が掲載されているという(中村学園図書館HP).
セムシ: 14巻 水(虫) (虫)之上 


 ”セムシ”と呼ばれ,瀬に生息する青黒い虫で,釣り餌に使うことなどからヒゲナガカワトビケラ属が思い浮かぶ.もちろん瀬に棲むトビケラ幼虫の総称として理解するのが正しいであろうが.




(中村学園図書館蔵)

和漢三才図会 寺島良安 (1712)

 中国の百科事典「三才図会」にならい発行したもので全105巻にも及ぶ大作である.諸版あるようで,転載したものの刊行年は不明.eBookで、平凡社版(訳注付き)が読める.
古文書トビケラ : 52巻 卵生類 雪蚕・雪蛆の項


 中程にある”石”の記述によれば,「山河に多く、水中の石上に糸繭を作る」とあり,瀬に棲む多くのトビケラ類が該当する.





(長野電波技術研究所附属図書館蔵)
古文書いさごむし  いさごむし: 54巻 (湿)生類 


 ”いさごむし”は,現在でも通用するトビケラ幼虫の古名であるが,ここに描かれているのは,「扁平で甲羅を持ちその下の翅で飛ぶことができる,狐か鬼のような顔を持った”虫”」で,トビケラとはほど遠い.この””は、「水中で砂を含んで人影に吹き付けると人は死病になる」という恐ろしい虫で,「本草綱目」にも虫部湿生類の渓鬼虫の中に現れる.
 同じ書物で”石蚕 セムシ”としてトビケラ幼虫が正しく認識されていることから,この虫をトビケラ幼虫の仲間と考えたわけではないと思える.
 当時はこの虫のことを”いさごむし”と呼んだが,その後トビケラ幼虫のことを呼ぶようになったのか?それとも当時からトビケラ幼虫には”せむし”のほかに”いさごむし”の呼び名もあったのに,この虫にも同じ呼び名を付けてしまったのだろうか?
 いずれにせよ,この漢字[]が示す虫は、トビケラ幼虫ではない.
図の部分の拡大はこちら

(長野電波技術研究所附属図書館蔵)

千虫譜 栗本瑞見(丹州) (1811)

多くの写本があるが,ここに示すのは「栗氏千虫譜」と呼ばれる写本.刊行年は不明。見事な図が多く,後の出版物にも大きな影響を与えたことだろう.
古文書トビケラ


 文頭に豆州(伊豆)とあるが,八代郡右左口とあるので,現在の山梨県東八代郡中道町右左口(うばぐち)の渓流で採集されたトビケラ幼虫を描いたのかもしれない.ただし,ほかの写本では,石蚕下の2行しかないものもあり,原本に細かい記述があったかどうか不明.国会図書館にはほかの写本があるほか,東京国立博物館や西尾市岩瀬文庫にも別の写本があるので,比較するのも面白そうだ.
 採集場所はともかく,四角い筒の巣を持って歩く姿はまさにカクツツトビケラ属の幼虫である.しかし,文中には石屑で巣を作っているように書いてある.雲母などを用いていたのかもしれないが,そんなカクツツトビケラの巣はみたことがない.図の色合いからは落ち葉で作ったものだろう.

もう少し大きな画像はこちら





(国立国会図書館蔵)
古文書トビケラ セムシ


 中程上にある砂粒で作った円筒形の巣は、身近にいたとするとホタルトビケラ幼虫のものかもしれない.
明和4年丁亥3月の採集という.



のもう少し大きな画像はこちら





(国立国会図書館蔵)
古文書ヘビトンボ


 これは、文章を読むまでもなくヘビトンボの幼虫(孫太郎虫)であるが,石蚕の1種と考えていた可能性があるので掲載した.別のページにはタイトルを孫太郎虫としてヘビトンボを描いた図が掲載されている.


もう少し大きな画像はこちら





(国立国会図書館蔵)

虫豸(ち)写真 水谷豊文
刊年不明だが著者は1789年に生まれ1833年に没している.図に説明はないが、いろいろな昆虫が精細に描かれている.ちなみに、”豸”は足のない虫(虫偏のつく動物)とのこと.掲載したのは国会図書館蔵の写本。
古文書トビケラ  ツマグロトビケラのようだ.







(国立国会図書館蔵)
古文書トビケラ  これはエグリトビケラに間違いない.

著者は,有名な本草家で、尾張藩の広大な薬園の監守を務めるほか自宅にも植物園を持っていたということなので,そこの池にはこれら止水性のトビケラが生息していたのだろう。うらやましいかぎりだ.




(国立国会図書館蔵)

虫譜 水谷豊文

同じく刊年不明だが,表紙には豊文翁肉筆原本より明治37年に写したと記されている.
左上の図はエグリトビケラに違いない.
下の3枚も同じ種かもしれないが,翅の斑紋や頭部の色が異なり,虫豸写真同様ツマグロトビケラかもしれない.






(西尾市岩瀬文庫蔵)
これは,カクツツトビケラ属かカクスイトビケラ属の幼虫だが,身近で観察できたとすると前者か?

もう少し大きい図はこちら















(西尾市岩瀬文庫蔵)
これは,ヒゲナガカワトビケラまたはチャバネヒゲナガカワトビケラの幼虫.上の砂粒の固まりは,蛹室だろうか.

拡大図はこちら













(西尾市岩瀬文庫蔵)
前掲のエグリトビケラ幼虫.昔の人も池の中で動く落ち葉に興味を持ったことだろう.

拡大図はこちら











(西尾市岩瀬文庫蔵)

水谷虫譜 雀巣庵(吉田平九郎)
刊年不明だが,この写本の後書きには,雀巣庵が(水谷豊文の図を)真写して作ったものを,神谷克槇が嘉永2年(1849)に写本を作り,それを山本錫夫が文久2年(1862)に写したと記されている.当時,博物学(本草学)を志しても,図鑑一冊を自分のものにするのはいかに大変だったか!
左下(83番)に尺八虫として,携巣型のトビケラ幼虫が描かれている.少し方形とあるが,図では円筒形に見える.
拡大図はこちら


ヒコタロウムシ(84)として描かれた左の大型幼虫は,山嵜川にいると書かれているが,ムラサキトビケラの幼虫の可能性が高い.腹部に描かれた糸状のものは鰓に違いない.この幼虫は筒巣を持っているはずだが,捕らえられたりすると巣からするりと抜け出してしまうことが多いので,巣を持っていたことに気がつかなかったのかもしれない.

もっと大きな図はこちら






(西尾市岩瀬文庫蔵)
タイコクムシ(202番)として,ニンギョウトビケラ幼虫が描かれている.名前は石人形の七福神大黒様からだろう.

拡大図はこちら


前掲のシャクハチムシも再登場.大きさはこの程度で,砂粒を用いた巣を持ち流水にいるので,平地流ならホタルトビケラ,山地流ならフタスジキソトビケラの可能性が高い.

拡大図はこちら







(西尾市岩瀬文庫蔵)

北越雪譜 鈴木牧之 (1837)

江戸時代の雪国(越後)の生活を描いた書物で,雪虫なども登場するので水生昆虫研究者にも有名な書物.岩波文庫で入手可.
古文書トビケラ 渋海川さかべったう: 初編下之巻

 この虫の正体については,カゲロウ説とトビケラ説がある.
 説明には,この川のさかべっとうは石蚕の親であることが書かれているので,トビケラと考えるべきだろうが,大量に発生して遡上飛行するカゲロウを混同していた可能性も大いにある.分類の問題はさておき,たくさんの虫が川面を遡上する行動を観察し楽しむ文化を持っていたということがうれしい.

(長野電波技術研究所附属図書館蔵)
さかべっとう 渋海川奇蝶之図

 前掲のさかべっとうが川面を集団でさかのぼる光景を花見のように見物している図.
 伝聞を想像して描いたのであろうが,こんなことがあれば楽しいだろう.


(長野電波技術研究所附属図書館蔵)

詩経名物図解 細井徇(東陽)

刊年不明だが,1850年より前の可能性が高い.
古文書トビケラ? 蜉蝣(アサツユムシ)

 タイトルや本文(省略)から見れば、カゲロウを描こうとしたことは明らかである。しかし、触角が長く、後翅が前翅なみに大きいこと、翅脈の形態、腹部の太さなどはどうみてもトビケラだ。ただ、右下の個体に描かれた長い尾毛はトビケラにはないもので、カゲロウのものだろう。
 野外で観察したカゲロウの群飛を描く際に、同じ場所で捕ったトビケラを見ながら翅などの詳細を描いたのだろうか?

虫の拡大図はこちら

(国立国会図書館蔵)

滑稽宮嶋土産 十方舎一丸 (1851)
当時の旅行ガイドブックのようなものだそうです。
石人形トビケラ 岩国の名産が書かれたページの中央に人形石が描かれている(右は表紙)。これより古い記録に「岩国土産落噺」(1928)があるそうだが、当時からこのような自然の造形を楽しむ心があったこと、そしてその文化がいまも続いていることがうれしい。

ニンギョウトビケラの和名はこの石人形に因む。


現代の石人形作家馬鹿石さんがこの石人形(七福神)を模して作った作品はこちら


(岩国石人形資料館所蔵)

本草図説 高木春山 
195冊からなる史上最大級の彩色博物図譜とのことで,作者が1852年に亡くなったためこれでも未完成であるという(西尾市岩瀬文庫:日本人のナチュラルヒストリー).ここでは,卵生類,化生類及び補遺の中から見つけたトビケラを紹介する(それぞれの刊年は不明).
(卵生類三)

石蚕の解説に(10頁),流水中で小石を背負い石に付き,釣り餌とすること,紀州木ノ本にて「未だ羽あらざる者をミヅケラ,羽を生じて飛ぶものをトビケラ」などと書かれ,調べた古文書中もっとも古い「トビケラ」の文字がある.この後数頁空白が続くが,17頁に「石蚕 イサゴムシ」の付箋が付いているので後で書き込むつもりだったのかもしれない.

左に掲載したのは19頁に貼り付けられた,大黒虫の図(ニンギョウトビケラの筒巣).周防錦帯橋下の産とあるので,石人形を土産にでももらったのだろうか?この解説は20頁に書かれている(省略).





(西尾市岩瀬文庫蔵)
(化生類三)

カゲロウ二種として描かれているが,翅の翅脈や畳んだ姿などから少なくともカゲロウではない.この頁に続き見事なカゲロウが3種描かれているので(省略),同じような場所で観察されたのだとしたら,トビケラの可能性が強い.もちろん定かではないが.

拡大図は,こちら






(西尾市岩瀬文庫蔵)
(補遺四)

クダムシという名前で,木皮や枯葉をつづった巣を持つ「木ノハカツギ」の図が描かれているが,虫の顔立ちは隣に描かれたカキガラツヅリ(ゴカイ??)に似ている.落葉で巣を作るトビケラ幼虫の話を聞き,想像で描いた可能性がある.




(西尾市岩瀬文庫蔵)

虫譜図説 飯室晶栩 (楽圃,庄左衛門) (1856)
作者は旗本で,富山藩主前田利保らが中心になって作った本草学の勉強会(赭鞭会)に参加していた.体系的に分類された虫譜としては日本最初のものとのことである(西尾市岩瀬文庫:日本のナチュラルヒストリー).
(巻の二)

石蚕(トビケラ幼虫)にもいろいろいて,ダイコクムシ,ゴミカブリ,ミズケラなどに区別していたことが分かり,とても興味深い.しかし,図は美しいもののちょっといただけない.呼び名から想像して描いたのかもしれない.
ミズケラの図は,陸上のケラから想像したためか幼虫に翅の原基のようなものがあるが,残念ながらトビケラは完全変態なので幼虫には翅の原基はない.
大きな図はこちら







(西尾市岩瀬文庫蔵)

虫豸図譜
作者・刊年ともに不明.
巻の四石蚕(イサゴムシ)として描かれている.羽あらざるものをミズケラ,羽生して飛ぶものをトビケラということなど,本草図説の石蚕とほぼ同じ記述に続き,掲載した2枚の図がある.ただし,この一種は羽化してカネツケトンボ(現在のハグロトンボ)となるという記述や,描かれた陸上のケラそっくりの姿は,作者は本物の石蚕(トビケラ幼虫)を見たことがなかったのだろう.刊行年が分からないが,前掲の虫譜図説が早ければ,これを参考にしたのかもしれない.
(西尾市岩瀬文庫蔵)

虫品 山本章夫
京都にあった山本読書室から発行されており,主宰者山本亡羊の六男山本章夫(1827-1903)の作.作者は,動植物の写生画を数千点残したという(西尾市岩瀬文庫:日本人のナチュラルヒストリー).
石蚕の一種として,エグリトビケラ科の幼虫の見事な図が描かれている.
ゴミカツギにもいろいろいて,その中のツヅレムシというようだが,左の3個体はマルバネトビケラではないだろうか?そして下の一つは幼虫頭部や胸部の模様は,ウンモントビケラやツマグロトビケラなどにも似ている.しかし,巣の形態も合わせて考えるとエグリトビケラの可能性が高いと思う.(2011年3月21日文章修正)








(西尾市岩瀬文庫蔵)

以上のほかに,「東京国立博物館」にはたくさんの博物図譜があり,「博物図譜WEBデータベース」として公開しています.転載は許可していませんので,他の機関の収蔵物から転載できた図譜以外のものについてのみ以下に紹介します.

東京国立博物館収蔵図譜の解説

「データベース分類別検索」から以下の画像を見ることができます.

本草図説
 前掲の高木春山作のものとは別で,日本で初めての植物図鑑ともいわれる本草図譜の作者岩崎潅園(1786-1842)の作のようです.
博物館虫譜
 関根雲停作(?)(江戸~明治時代)
虫譜
 作者不明(江戸時代)

このページの先頭に戻る