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2008年11月11日更新

 古い書物に出てくるトビケラのことについて聞かれ、調べ始めました。たいへんなことを引き受けたと思いながらWebの検索をしていくと、古書の画像データを提供している図書館や、所蔵図書に該当項目があるかどうか調べて電子ファイルを作成してくださる図書館などが見つかり感激しました。公共の財産ともいえる古文書をこのような形で提供してくださる各図書館に感謝するとともに、今後ますますこのようなサービスが広がれば良いなと思います。
 とはいえ、調査はまだまだ不十分です。Web上で検索するだけでも、各地の図書館や博物館にトビケラが隠れていそうな古文書が所蔵されていることが分かりました。古文書めぐりができる日が来るかどうか分かりませんが、楽しみの一つに取っておこうと思います。

転載した画像について

このページに使用した画像は、それぞれの画像に付記した下記図書館・資料館の使用許諾を得ています。ほかの目的で利用するにはあらためて使用許諾申請が必要ですので、当館の画像からの二次利用を決してしないでください。

「国立国会図書館」「長野電波技術研究所附属図書館」「中村学園図書館」「岩国石人形資料館」

「東京国立博物館」の画像について

「東京国立博物館」は、たくさんの博物図譜を所蔵しており、「博物図譜WEBデータベース」として公開しています。転載は許可していませんので、本ページの「国立博物館収蔵図譜の解説」からリンクを張ります。

トビケラに関する記述や図のある古文書

(旧字体による文字化けをできるだけ避けるため、解説中の一部の文字を(新字体)または画像で示しました。)

本草綱目 李時珍 (1596)
 中国で発行された本草学(薬学)の書で1,892種が掲載されているといい、すぐれた博物学書でもある。日本には17世紀初めに渡来し和刻本も数多く印刷されたそうだが、ここで転載したものは「長野電波技術研究所附属図書館」所蔵の「貝原益軒本」(1673)と呼ばれるものである。
古文書トビケラ : 39-40巻 (虫)部 卵生類



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(長野電波技術研究所附属図書館蔵)

大和本草 貝原益軒 (1709)

 付録、図譜を加え20巻に及び、本草綱目の分類法に益軒独自の分類を加えた1,362種が掲載されているという(中村学園図書館HP)。
セムシ: 14巻 水(虫) (虫)之上 


 ”セムシ”と呼ばれ、瀬に生息する青黒い虫で、釣り餌に使うことなどからヒゲナガカワトビケラ属が思い浮かぶ。もちろん瀬に棲むトビケラ幼虫の総称として理解するのが正しいであろうが。




(中村学園図書館蔵)

和漢三才図会 寺島良安 (1712)

 中国の百科事典「三才図会」にならい発行したもので全105巻にも及ぶ大作である。諸版あるようで、転載したものの刊行年は不明。eBookで、平凡社版(訳注付き)が読める。
古文書トビケラ : 52巻 卵生類 雪蚕・雪蛆の項


 中程にある”石”の記述によれば、「山河に多く、水中の石上に糸繭を作る」とあり、瀬に棲む多くのトビケラ類が該当する。





(長野電波技術研究所附属図書館蔵)
古文書いさごむし  いさごむし: 54巻 (湿)生類 


 ”いさごむし”は、現在でも通用するトビケラ幼虫の古名であるが、ここに描かれているのは、「扁平で甲羅を持ちその下の翅で飛ぶことができる、狐か鬼のような顔を持った”虫”」で、トビケラとはほど遠い。この””は、「水中で砂を含んで人影に吹き付けると人は死病になる」という恐ろしい虫で、「本草綱目」にも虫部湿生類の渓鬼虫の中に現れる。
 同じ書物で”石蚕 セムシ”としてトビケラ幼虫が正しく認識されていることから、この虫をトビケラ幼虫の仲間と考えたわけではないと思える。
 当時はこの虫のことを”いさごむし”と呼んだが、その後トビケラ幼虫のことを呼ぶようになったのか?それとも当時からトビケラ幼虫には”せむし”のほかに”いさごむし”の呼び名もあったのに、この虫にも同じ呼び名を付けてしまったのだろうか?
 いずれにせよ、この漢字[]が示す虫は、トビケラ幼虫ではない。
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(長野電波技術研究所附属図書館蔵)

千虫譜 栗本瑞見(丹州) (1811)

多くの写本があるが、ここに示すのは「栗氏千虫譜」と呼ばれる写本。刊行年は不明。国会図書館には、別の写本もあり文章の有無や図の配置などが若干異なっている。
古文書トビケラ


 文頭に豆州(伊豆)とあるが、八代郡右左口とあるので、現在の山梨県東八代郡中道町右左口(うばぐち)の渓流で採集されたトビケラ幼虫を描いたようだ。四角い筒の巣を持って歩く姿はまさにカクツツトビケラ属の幼虫である。文中に石屑で巣を作っているように書いてあるが、雲母などを用いていたのだろうか。

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(国立国会図書館蔵)
古文書トビケラ セムシ


 中程上にある砂粒で作った円筒形の巣は、ホタルトビケラ幼虫のものと思いたいが、私の思い入れが強すぎるだろうか。
明和4年丁亥3月の採集という。



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(国立国会図書館蔵)
古文書ヘビトンボ


 これは、文章を読むまでもなくヘビトンボの幼虫(孫太郎虫)であるが、石蚕の1種と考えていたことが分かるので掲載した。別のページにもタイトルも孫太郎虫とした図が掲載されている。


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(国立国会図書館蔵)

虫豸(ち)写真 水谷豊文
刊年不明だが著者は1789年に生まれ1833年に没している。図に説明はないが、いろいろな昆虫が精細に描かれている。ちなみに、”豸”は足のない虫(虫偏のつく動物)とのこと。掲載したのは国会図書館蔵の写本。
古文書トビケラ  ツマグロトビケラのようだ。







(国立国会図書館蔵)
古文書トビケラ  これはエグリトビケラに間違いない。

著者は、有名な本草家で、尾張藩の広大な薬園の監守を務めるほか自宅にも植物園を持っていたということなので、そこの池にはこれら止水性のトビケラが生息していたのだろう。うらやましいかぎりだ。




(国立国会図書館蔵)

詩経名物図解 細井徇(東陽)

古文書トビケラ? 蜉蝣(アサツユムシ)

 タイトルや本文(省略)から見れば、カゲロウを描こうとしたことは明らかである。しかし、触角が長く、後翅が前翅なみに大きいこと、翅脈の形態、腹部の太さなどはどうみてもトビケラだ。ただ、右下の個体に描かれた長い尾毛はトビケラにはないもので、カゲロウのものだろう。
 野外で観察したカゲロウの群飛を描く際に、同じ場所で捕ったトビケラを見ながら翅などの詳細を描いたのだろうか?

虫の拡大図はこちら

(国立国会図書館蔵)


北越雪譜 鈴木牧之 (1837)

江戸時代の雪国(越後)の生活を描いた書物で、雪虫なども登場するので水生昆虫研究者にも有名な書物。岩波文庫で入手可。
古文書トビケラ 渋海川さかべったう: 初編下之巻

 この虫の正体については、カゲロウ説とトビケラ説がある。
 説明には、この川のさかべっとうは石蚕の親であることが書かれているので、トビケラと考えるべきだろうが、大量に発生して遡上飛行するカゲロウを混同していた可能性も大いにある。分類の問題はさておき、たくさんの虫が川面を遡上する行動を観察し楽しむ文化を持っていたということがうれしい。

(長野電波技術研究所附属図書館蔵)
さかべっとう 渋海川奇蝶之図

 前掲のさかべっとうが川面を集団でさかのぼる光景を花見のように見物している図。
 伝聞を想像して描いたのであろうが、こんなことがあれば楽しいだろう。


(長野電波技術研究所附属図書館蔵)


滑稽宮嶋土産 十方舎一丸 (1851)
当時の旅行ガイドブックのようなものだそうです。
石人形トビケラ 岩国の名産が書かれたページの中央に人形石が描かれている(右は表紙)。これより古い記録に「岩国土産落噺」(1928)があるそうだが、当時からこのような自然の造形を楽しむ心があったこと、そしてその文化がいまも続いていることがうれしい。

ニンギョウトビケラの和名はこの石人形に因む。


現代の石人形作家馬鹿石さんがこの石人形(七福神)を模して作った作品はこちら


(岩国石人形資料館所蔵)

東京国立博物館収蔵図譜の解説

「データベース分類別検索」から以下の画像を見ることができます。
(本ページに他の図書館等から転載した図譜類は省略しました。)

図譜類の書誌情報(調べればもっと分かるのかもしれませんが・・)

本草図説
日本で初めての植物図鑑ともいわれる本草図譜の作者岩崎潅園(1786-1842)の作のようだ。なお、本草図説の名前で調べると、高木春山作のものがあり、こちらのほうが有名である。
博物館虫譜
関根雲停作(?)(明治時代)
虫譜
作者不明(江戸時代)
虫豸図譜
不明

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