ライヴを観る


2001年1月〜3月
1月5日(金)
牧原利弘(perc) @Deluxe
ゲストBrett Rarner(koto)、ユタ川崎(analogue synth)、吉田アミ(vo)、ユーコネクサス6(electronics)、杉本拓(g)

フィラデルフィア在住の牧原さんが、日本で初めて演奏することになった。牧原さんは、私が主催していたnifty ジャズフォーラムの即興会議室に参加して下さった方。会議室ではお話が弾んだので、お会いできるのが楽しみでした。彼は23年間アメリカに住んでいるので、日本でフリー・インプロのコンサートをやろうと思っても伝手がないとなかなか難しいのではと思っていました。Deluxe のような場所があって本当に良かったと思います。
ゲストは、音響派といわれる若手の人たち。静かな弱音のインプロになりましたが、牧原さんは、ブラシでシャカシャカと応えていました。彼のパーカッションは、スネア一つとシンバル二つのシンプルなもの。ブラシを使って、こういうニュアンスのある静かな演奏もできるドラマーを観るのは初めてなので感心しました。ぶっ叩くだけのいわゆるタイコ屋さんとは違うなあと思いました。
当日は牧原さんの学生時代のお友達らしき人たちやご両親もお見えになっているようでした。私は、お会いできて演奏が聴けて良かったと思いました。はるか彼方のアメリカの空の下で、こんなにもフリー・インプロに専心しているピュアな人がいるのかと思うとうれしくて誇らしい気持ちになります。

1月6日(土)
Meeting at Off Site
牧原利弘(perc)
中村としまる(g)
秋山徹二(g)
猿山修(b)

牧原さん帰国コンサートの最終日。 Off Site は満員の熱気に包まれました。他のメンバーが結構慎重な感じでシリアスに演奏しているのに比べて、牧原さんは、生き生きとしていて自発性があって聴いている人の笑いを誘うような所もあって、光っているように見えました。秋山さんが使う日本刀を恐がったり、猿山さんのチョコレート色のベースを珍しがったりしていました。
彼は明日はフィラデルフィアに帰ってしまうとのこと。この次ぎお会いできて演奏が聴けるのはいつの日になることでしょうか。

1月14日(日)
刀根康尚パフォーマンス&トーク@芦屋市立美術博物館
パフォーマンス
出演:刀根康尚、小杉武久、ヤマタカEYE
音響技術:藤本由紀夫
曲目:
1.Smooth Event (1963)
2.Geography Music (1979)
3.Lyrictron for Violin (1989)
4.Wounded Man'yo 2000 (2000)
トーク
出演:刀根康尚、小杉武久
聞き手:藤本由紀夫、山本敦夫

刀根さんは'72年に渡米。その後の日本で初の本格的な演奏会。芦屋市立美術博物館を訪れるのは初めてですが、円形のエントランス・ホールは、このようなパフォーマンスをやるにはうってつけの場所。とても開放感があって自由な感じがします。ここは吹き抜けになっていて、2階に上がる階段が2カ所にあります。ホールの床に座ってはもちろんのこと、階段に腰を下ろしてあるいは2階の手すりから見下ろしてもパフォーマンスを観ることができます。
ヤマタカEYEさんによるパフォーマンス、エレキギターの上でワイシャツにアイロンをかけるというものから始まって、中国の文学作品の朗読を左右のスピーカーに振り分けるもの、小杉さんのヴァイオリンなど傾向の違う演奏を4つほどやったのですが、最後の"Wounded Man'yo 2000"(2000)という作品には驚かされました。
これは、CDにセロテープを貼って加工を施して、それをCDが発売され始めたころの古いタイプのプレイヤーにかけて、読み取りエラーを起こしてランダムな音の変化を生じさせるというもので、実際にはCDを再生しながら、手動でさらにランダムに音を飛ばしていく操作が加わります。しかも音源になっているのは、刀根さんによるデジタル・ミュージックで、万葉集のすべての歌の漢字を個々の文字の起源に相当する写真イメージへと還元し、さらにそのデジタル・データを音に変換したものだそうで、ここらへんの技術的なことは言葉でしか理解できないのですが、出だしからびっくりしてしまうような音の噴出で、言葉は悪いですが、音がボコボコに殴られて出てくるような感じで、面白くて最初から最後まで全然飽きなかったです。
「通常の音楽演奏における再現性を否定して、未だ聞いたことのない音響がその場で現前することがもくろまれている」というのが作品のコンセプトだそうですが、トークを聴いたり資料を読むと、シュールレアリズムの思想が刀根さんの思想的基盤の大きな部分を占めているようです。
演奏後に、刀根さんと小杉さんのトークがありました。小杉さんのお話は、ラジオ少年でラジオから聴こえてくるノイズ混じりの第九が面白くて、実際の第九を聴いても面白くなかったこととか、ライヴ・エレクトロニクスは光や色などの様々な要素を含んでいる、などという小杉さんの音楽の理解を助けるような話だったのですが、刀根さんは、いきなりシュールレアリズムの「優雅な死体」の話が出てきたりして、話が脈絡なく断片的に飛び出してきて、これまた刀根さんの音楽のようでおかしかったです。話の終盤には、万葉集のすべての歌4516首を音響化したCD-ROMが披露されました。
21日には東京でもパフォーマンスがあるのでぜひ観たいと思いました。

1月21日(日)
「出会い」展関連イヴェントーその2
刀根康尚パフォーマンス@Tokyo Opera City Art Gallery
出演:刀根康尚
音響技術:藤本由紀夫
曲目:
1.Molecular music(1982-1985)
2.Wounded Man'yo 2000 (2000)

刀根さんの東京でのパフォーマンス。「出会い」展が開催されている会場内にある映写室のような所で行われました。ここは狭くて窓のない密室のような所。大勢人が来たのでぎゅうぎゅう詰めに押し込まれて全く身動きがとれなくなりました。長時間演奏が続いたら耐えられないような状態で苦しかったです。
この日は刀根さんも今一つ気が乗らない様子。Wounded Man'yo 2000 を操作している途中、音が途切れてしまう個所が何度かあって首をかしげる場面もありました。
これに先立つMolecular music は、映写機によるフィルムと音の合体作品。「いわばソフトウエアーとしてのフィルムとCdSによるライトセンシティヴ・オッシレーターというハードウエアーから成るパフォーマンス作品。したがってスクリーンとプロジェクターの距離や映像の明度とCdSの配置のいかんによって、演奏の度ごとに音響のピッチ、音色、強度も異なる。フィルムの内容は、甲骨による卜文、古代中国および日本の詩の漢字をイメージ化したものでそれらが、文字の発声にシンクロナイズされて編集されている。したがって詩のテキストのリズム構造がそのままフィルムの時間構造を形成する」(解説:刀根康尚)。
これはスクリーンに吸盤のようなものが10個ぐらい張り付けてあって、それが手元のテーブル上にあるスピーカーのような形のものに繋がっていて、刀根さんがそれに懐中電灯をパッと当てると音と映像が飛び出してくるというもの。映像と音の出方の密度が高くて、ただただ驚くばかりでした。

2月17日(日)
Scott Fields(g) @Deluxe
ゲスト:サム・べネット(electronics perc)、斉藤徹(percusive contrabass)、神田佳子(perc)

スコット・フィールズは、全く知らなかった人ですが、プロフィールを読んで親近感を覚えました。というのは、彼は私とほぼ同世代で、同じような音楽体験を持っているからです。スコットはシカゴ出身で、若い頃地元のアート・アンサンブル・オブ・シカゴに熱狂して自分でもバンドを組んでいて、その後しばらく音楽から遠ざかっていた時期を経て音楽活動を再開したそうです。自分もまた若い頃、アルバート・アイラーやオーネット・コールマンに熱狂し、その後しばらく音楽を聴くことから離れていた時期があって、またフリー・インプロを聴くようになったからです。
演奏はスコットがメンバーとデュエットした後全員で。スコットは、のんびりとしたアメリカのおじさんといった感じですが、自分の表現があって良かったです。彼のギターは、とにかく飽きさせない感じ。静と動、ミニマルとフレーズ、アンビエントとメロディーなど相反する要素を次々と繰り出して変化をつけている感じでした。それから、音はちょっとカントリーっぽいようなアメリカ的な音がすると思いました。
神田さんは邦楽関係の方か?小さなスチール・ドラム一つとテーブルに木魚など幾つものジャンク楽器を置いて叩いていましたが、スコットの顔を見ながら合わせるのが精一杯といった感じでした。楽器は多いのですが叩くという行為は単調な感じです。徹さんは、ベテランらしくヴォキャブラリーがとても豊か。普通にベースを弾く他に、小道具を使ってプリペアドする、マレットでところかまわず叩く、擦るなど・・・全員での演奏では、徹さんのパーカッシヴ・コントラバスがパーカッション化して全面に出て、神田さんのパーカッションを喰ってしまったようになりました。サム・べネットは、近くで観ると器用だなあと思います。

2月18日(日)
EXIA-J "Experimental Improviser's Assosiation of Japan"@赤坂・JAZZ 喫茶橋の下
谷川輝明(sax) 西沢直人(ds) 近藤秀秋(g) guest:清水浩(g/Shutte Cock Music)

EXIA-J(実験的インプロヴァイザー日本連合)いう凄い名前のグループを観ました。お茶の水のユニオンの壁にライヴを知らせるチラシが貼ってあったので、観に行きたくなったのです。観客は、福島恵一さん?らしき人と私の二人だけ。観客が少ないとリラックスして聴けないのでちょっと困りました。
初めて聴くこのグループは、ちゃんとしたバンドだなあという印象。デタラメだったりノイジーだったりカオスティックだったりしないので、フリー・インプロという感じがあまりしません。直線的で計算されているとでも言うべきか。未分化な未知の音が聴こえてくると言う感じではなかったと思います。相手の音を聞きながら手探りで音を出しているように見える部分(聴いていて退屈に感じられる部分)とアンサンブルが全体的に盛り上がる部分(ああ盛り上がってるなあと感じられる部分)とにはっきりと分かれているような感じがしました。アンサンブル全体の構成や調和を優先させているのか、演奏していく時間の流れの中で恣意的に作曲を施していく即興的なバンド演奏を聴いているような感じがしました。
リーダー格の近藤さんは、まだ若いようですが理論家で勉強家らしき人。エレキのロックギターをベースにした演奏は、All Time Present のギターを思い起こさせました。
会場のジャズ喫茶の入り口が面している赤坂の石畳の通りは、多国籍な飲食店が立ち並ぶ街。横の小路をのぞくと野良猫のえさ場があって5〜6匹の猫が食事中。隣の店は新規開店のための工事中で、夕方ライトを付けての作業。大きな音が出ると猫が一瞬驚いてえさ場から離れます。こんな雑多な街の雰囲気は、心を和ませるものがあります。そんな光景を眺めながらしばらく時間をつぶしました。「橋の下」は昔のジャズ喫茶を思い出させるような場所。地下に通じる階段のあたりから雑然としたそれらしい雰囲気があります。若い頃は、ジャズ喫茶が大好きだったのでこういう場所に一人で出入りするのは平気だったのですが、今は階段を降りて行くのがちょっとためらわれるような感じがします。でも、マスターがていねいに入れてくれたコーヒーがとてもおいしくて、こんなにおいしいコーヒーを飲みながらライヴが観られる場所も今はないのではと思いました。

3月2日(金)
冨樫雅彦(perc)@Pit-Inn
大友良英(g,electronics)、Sachiko.M(Sampler with sine wave)、石川高(笙)、大谷安宏(computer) 、杉本拓(g)

冨樫さんと大友さん率いる若手ミュージシャンの共演。本当に素晴らしかったです。途中で何度もぐっとくるものがあって、音楽を聴いてこんなに感動したのは久しぶりでした。とても奥深い幽玄な美しさを感じました。自分には日本的な響きを持った音楽に聴こえました。こういう音楽をこそ、アングラでもジャズでもない創造的なコンテンポラリー・ミュージックとして、一人でも多くの人達と共有したいと思いました。現代の日本を代表する音楽として世界に紹介したいような気になりました。
とにかく人選がいいです。大友さんは、グループの中で欲しい音を考えてメンバーを決めているのだと思いますが、彼の音に対するセンス、音を組織し構築するセンスは並々ならぬものがあると思います。
前半は、メンバーと冨樫さんとのデュオ。コンピュータと笙は同じような音がすると思いました。どんな音が来ようと冨樫さんは悠々と構えて自分の演奏をしている感じ。冨樫さんの音楽性の豊かさ、包容力と懐の深さを感じました。例えが変ですが、メンバーは、お釈迦さまの手のひらの上で遊ぶ孫悟空みたいだと思いました。とりわけSachiko さんとのデュオが感動的で、彼女はサイン波のちょろちょろとした音にうまく間を入れていて、冨樫さんとの音の共演は繊細な面白いものになったと思います。後半は全員での演奏。言葉にできない感動が残りました。

3月21日(水)
Elliott Sharp(g,sax,computer)@Deluxe
今井和雄(g,electronics)

エリオット・シャープ公演。東京では三カ所目の演奏とはいえ、あまりに人が少なくて寂しかったです。数えたら6人でした。エリオットは、近くで観ると意外に繊細な感じの人で白くて長い指の華奢な手をしていました。ギター、サックス、コンピュータを駆使して、空間を音で埋め尽くしていくような感じ。軋みや歪みなどのノイズを出しっ放しで音空間を絶えず変容させていくような感じ。ユニークだなあと思いました。今井さんも、ギターとエレクトロニクスを使って、マージナル・コンソートのような演奏をしていました。今井さんのエレクトロニクスは、今の感覚から見ると少し拙くて古臭い感じがしますし、ギターも器用とは言えないですが、それはそれでいいと思いました。ワンセットの長い演奏で最後はドローンのようになって行きました。

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