音に対する渇望というのがあるかどうかはわかりませんが、このところ久しく生の音を聴いていなかったので、「聴きたい」という欲求が自分の中で高まっていたのは確かだったと思います。ですから、今日は聴く気満々で出かけたのですが、そんな自分の欲求を満たしてくれる演奏でよかったと思います。ある種の酩酊のようなものを感じました。テナーサックスという包容力のある楽器が為せる技か、ゆるやかに音が解き放たれていくという感覚を味わうことができました。そして、それに身を委ねる心地よさがありました。もちろん、「音が解き放たれていく」というのは、野放図で勝手気ままな音の放出などでは決してなく、それは紛れもなくフリー・インプロヴィゼーションという演奏性によって、音楽が抑圧から解放されていくかけがえのない時間性のことだと私は思いますが。こういう、ある意味成熟したインプロをやるミュージシャンの方は、実に謙虚ですねー。
Sound Cafe dzumi を訪れるのは2度目でした。今日は演奏が始まるまで待ち時間があったので、お店を観察したのですが、狭いながらも今の時代に合ったいい雰囲気だと思いました。内装を簡素に白でまとめているところや、照明をかなり暗いところまで調節できるところなどです。でも、一番の強みはやはり7階からの眺望で、私の居住地近辺にはない風景が魅力的でした。公園の木立や家や灯りのバランスがいいのかしら。最初のセットは、この窓をバックに夕方の明るさに助けられての演奏。お店のスポットライトの灯りを小さくして、だんだん暗くなっていくにつれて、演奏者の姿が薄暗いシルエットに変わっていきます。開かれた窓からの風景というのもまた、自分を解き放ってくれるように感じられました。未だないどこかに。
今日は朝からソワソワしながら夕べの時間を待ちわびていました。しかし、途中1本の電話があって、この電話が私の心を暗くしてしまったようです。・・・夫亡き後の家の問題です。そのせいもあるのか、いざ、演奏会場に到着してみると、ちょっと重苦しい気分と共に意外なほどクールで醒めた自分がいたので驚きでした。
まず埼玉会館、こういうきちんとしたホールで土取さんを観るのは久しぶりでした。山内さんはむろん初めてでした。オープニングに山内さんのサックスが鳴り響いて、土取さんがアフリカの太鼓を。私は最初の響きで気持が高揚すると思いましたが、進んでいくうちに、なぜか今まで聴いてきた過去の音楽体験にタイムスリップしていくような感覚に襲われました。すでに観た、という感覚。時間が過去に遡っているはずではないのに。周りを見回せば観客の世代は若返っており、一緒に土取さんを観てきた夫はすでに亡く、この時間は確実に2009年の現在であるはずなのに。体験を重ねるにつれて、新鮮な驚きは失せ、見方がクールになっていくのは避け難いことかもしれないのかと。しかし、体験を重ねてきた分、自分なりに見えたと思うことがあると思いました。それは、土取さんは最早、他の追随を許さない、自己完成された独特の「土取利行の音楽世界」ともいうべきものをを築いている方なのではないかということです。ミルフォード・グレイヴス仕込みの、決して表面的ではなく、内奥から発せられ常に変化する音、非常にスポンタネアスで自由な演奏。打楽器の特性からしても、叩き出す音が生み出していく音空間に他の音が入る余地があまりないのではないかと思いました。恐らくは、打楽器以外に。誰とだったら共演できるとかできないとかいった問題ではなくて。
土取さんも山内さんも、私が敬愛する、この上なく真摯なミュージシャンであり、両者の音を聴くのは私にとっては喜びですが、デュオというのはそれ以上の何かを期待するわけで、彼方というか予測できない瞬間というか、そういった未知の何かを期待するわけですが、そういった観点からは、それぞれの演奏が、ちょっと平行線をたどったかなという感じがしました。インプロにおいて、意外な組み合わせ、「この人とこの人がやるのか」といった発想には自分もワクワクしてしまうクチですが、やってみなければ分からない、という演奏の場にすべてを丸投げしてしまうのもまたインプロのひとつの特性でもあるわけで。
それにしても、ホロ響はよく開催にこぎつけたと思います。こういう音楽に献身できる若い人がいるということこそが、予測できなかった事態でした。山内さんと土取さんの音楽が、今日聴きに来た若い世代の人たちに新鮮なショックを与えたと思いたいです。それにしても、肥大化する市場原理の中でこういう音楽をどうやって伝えていったらいいのか。それには、とにかく場(シーン)を作って共感を求めていくしかないのかなと。それも厳しくなっているのが今の現実だとは思いますが。
さてさて演奏も終り・・・私は家路にたどり着いて、ヨークシャー・ツイード・チャンキーの袖を編むことに勤しもう。縄編みが難しくて、今年は難航を極めていますから。そういえば、浦和はレッズの本拠地でしたね。駅前の赤いイリュミネーションが美しくて印象的でした。