4月のライヴは、improvisationに限定して2つのプロジェクト「トシ・マキハラ プロジェクト 2004」と「大友良英プレゼンツ ニューミュージック コンファレンス 一楽儀光 & 大友良英 Duo Improvisation 3 days」をピックアップしてみたいと思います。
トシ・マキハラ プロジェクト 2004
4/3(土) インプロヴァイザーズ ネットワーク@新宿シアターPOO
牧原利弘(percussion)、松本健一(saxophones)、大蔵雅彦(alto-saxophone & bass clarinet)、入間川正美(cello)、しばてつ(piyanica)、クリストフ・シャルル(electronics & computer)、米本 実(self-made electronic instruments)、風巻 隆(percussion)
4/6(火) 牧原利弘(per)、松本健一 (saxs)、河合拓始 (pf)、風巻 隆 (per)@入谷なってるハウス
4/10(土) 牧原利弘(per)、風巻 隆 (per)@大磯すとれんじふるうつ
4/14(水) 牧原利弘(per)、高岡大祐(tuba)、Kelly Churko(g)、松本健一 (saxs)@西麻布super deluxe
大友良英プレゼンツ ニューミュージック コンファレンス 一楽儀光 & 大友良英 Duo Improvisation 3 days@明大前キッド・アイラック・アート・ホール
4/8(木) 一楽儀光(ds)ソロ、大友良英(g)ソロ、一楽儀光+大友良英デュオ
4/9(金) 一楽儀光(ds)+大友良英(g)デュオ、一楽儀光+大友良英+広瀬淳二(selfmade-instrument)トリオ
4/10(土) 一楽儀光(ds)+大友良英(g)デュオ、一楽儀光+大友良英+Sachiko M(sine-wave)トリオ
私は今日はいつもより少しだけ着飾って、赤いカーディガンを羽織って出かけました。坪口昌恭トリオ@六本木アルフィー。雰囲気のいい素敵なジャズクラブでのいい感じのピアノトリオは、私を幸せな気分にさせてくれます。ここはこじんまりとしていますが、照明と音響が申し分ないところ。ピアノの音がとてもいいと思ったら、もともと音がいいところを菊地さんが手を加えているそうで、菊地さんは、私が思っている以上にサウンドに対するこだわりをお持ちの方なのかなと思いました。
さて今日は、前回観た時とは違った曲目による演奏でしたが、やはりこのトリオがやるのはいい曲ばかりという印象でした。「アッ、この曲」と思ったのは「all the things you are」。トフは実はジャズに関しては、ビ・バップから、ディジー・ガレスピーやチャーリー・パーカーあたりから聴き始めているので、何というタイトルだったか忘れてしまいましたが、この曲が入っていたアルバムを昔何回も聴いたことが懐かしく思い出されました。坪口さんのオリジナル曲もなかなか良かったですが、細野晴臣さん作曲によるYMOの曲なども新鮮に感じられました。3人がそれぞれ違ったリズムで、ポリリズムでやる「improvisation」も面白かったです。
坪口さんのピアノの左上にはディレイが、右上にもちょっとした装置が置かれていて、演奏の途中にそのタッチパネルみたいな画面を指で擦るとノイズが出てくるのですが、これは藤井さんのドラムの音をとっているんだそうです。坪口さんが立ち上がって、左手でピアノを弾きながら、右手で装置を使う姿はなかなかの見物でしたよー。トフはやっぱりこういう実験的なものが好きなのか、「何をやっているんだろう」と身を乗り出して観てしまいました。
坪口さんのピアノは、いい意味での抑制と品性の良さが感じられると思いますが、さらにそこに遊び心というか、実験精神が随所にちりばめられているところにとても魅力を感じました。前回聴いた時、曲の終わりにディレイを使ってピアノの最後の何音かがしばらくの間繰り返し響いていたのがとてもいい感じだったので、また聴きたいと思っていたのですが、菊地さんからのお話だと、あれはなかなか大変なんだそうです。
松本さんと風巻さんの尽力で、フィラデルフィア在住のパーカッショニスト牧原さんを囲むプロジェクトが実現しました。初日の今日はデュオ、トリオ、カルテットによる短かめのセットの連続で、顔見せ的な感じもありましたが、共演する機会の少ない人たちが集まったと思います。以下、プログラムと気付いたことを書き記してみたいと思います(敬称略)。
1部:牧原+米本+大蔵/シャルル+松本+風巻+しばてつ/入間川+牧原/大蔵+松本+米本
2部:松本+入間川+シャルル/米本+風巻/しばてつ+牧原+シャルル/大蔵+入間川+風巻+しばてつ
初めて観る入間川さんと久しぶりのしばてつさんの演奏は、水準が高いと思いました。まだこんな風な楽器へのアプローチの仕方があるんだという個性と可能性を感じさせました。大蔵さんと松本さんの共演も新鮮でした。松本さんのテナーよかったですね!今日のメンバーの中ではシャルルさんだけが異質なものという感覚を抱かせたのですが、他のアコースティック楽器と共演すると意外性が生まれると思いました。最後の風巻さんと牧原さんの共演は、風巻さんのシンプルな太鼓らしい音の隙間を牧原さんのノイズが埋めていくような感じがあって、音がほとんど重複しないスタイルの違いが楽しめました。
トシ・マキハラ プロジェクトの2日目は入谷なってるハウス。今日は前半と後半を通して4人での演奏に終始しました。私はなかなか素晴らしかったと思います。松本さんのテナーも河合さんのピアノも(ピアニカも少し使いました)、こういうと何ですが、私が思っていた以上に素晴らしいインプロヴィゼーションで、楽しめる!と思いました。風巻さん、やっぱりよかったですねー。風巻さんのドラムを聴くと、いつも他の人からいい演奏を引き出す力を持っているような気がしてなりません。
演奏が終わった後、私は充足した気持になって、音楽=インプロの持つ力って大きいなーと思いました。というのは、今日ここにいる皆さまと特に親しく話したりおつき合いしているわけでもないのに、今ここに風巻さんがいて、牧原さんがいて、松本さんがいて、河合さんがいるという出会いが自分にとってかけがえのないものに思えたからでした。これは後で思ったことですが、昔といっても90年代に、山梨の方へサニー・マレイを観に行った時のことを思い出しました。その時は、今は亡き高木元輝さんや豊住さんや小川圭一さんや榎田さん(?)がいて、こうした出会いがともかくも嬉しくてかけがえのないものに思えたのでした。
しかし一方、自分の中ではこんな声も聴こえてきました。「インプロと言われる音楽は、熱い出会いを演出する。出会ってしまった後には何が残るのか」。高橋悠治さんが昔こんなようなことを言っていたことが心のどこかに引っ掛かっていたのでした。インプロに対する批判的なニュアンスを含んだ高橋さんのこの言葉の真意はどこにあるのか?それはひょっとして、即興と音楽の新しさ、新しい音楽の追求の間にはズレがあるという意味が含まれているのかどうか ?自分ははっきりと言い表わすことができないのですが、こういう風に素晴らしいと感じる体験を音楽共同体みたいなものに結び付けようとする自分の心を諌めるというか、冷水を浴びせるようなバランス感覚のようなものが自分の中に生じてきたのではないかと思います。(このへんのことについて、もう少し考えてみたいと思うのですが、すみません、今は力不足で思うように言いたいことが書けません)。
一楽さんと大友さんとのトリオのワンセットが終わった後、もうひとつと大友さんが合図すると「もういいでしょ。この人たちはもうー、やりたがるんだから」といささかあきれ顔のさちこさん。もう圧倒されっ放しといった感じで、このくらいの貪欲さがあれば、名演も生まれるわなーと妙に納得してしまった2日間でした。
まずは一楽さんについて、たっぷりと演奏が観られてよかったと思います。今まであまり観る機会がなかったせいか気付かなかったことですが、潜在能力の高さを感じました。それとこれは、イトケンさんにも感じることですが、グルーヴがあってほんの一打にもノリが感じられると思いました。ドラムセットもユニークでした。ひとつのシンバルの上に大きめのお鈴を、もうひとつのシンバルの上には小さめのお鈴が据えつけてあって、あと脇にも小さいシンバルが置いてあって、これらを弓で擦るのですが、この金属の大小がサウンドに影響を及ぼしているのかなと思いました。セット全体としては、"打つ"要素と"擦る"要素を取り入れたもので、観応え聴き応えがある!と思いました。弓を2本両手で使って金属を擦っているうちに、弓の毛束がボロボロになってきてしまって、そうすると今度はその弓でドラムを叩き始めるという場面があって、"打つ"要素と"擦る"要素が渾然一体になるような感じがして面白いと思いました。
一方、大友さんは、9日の一楽さんとの最初のデュオはエレクトリック・ギターが中心でしたが、大友さんらしい演奏だったと思います。しかし、大友さんのギター、こういうフリー・インプロヴィゼーションの場面や3月のTuki No Waの中で聴くと気持いいと感じるのに、ジャズの中で、ジャズとしての曲の中で聴くとうるさ過ぎると感じてしまうんですねー、トフは。で、10日の最初のセットは、主にターンテーブルを使ったと思いますが、そうした2日間を通しての演奏、ギターやターンテーブルを扱う動きを観ていると、大友さんの音に対する貪欲さ、音作りに対する貪欲さのようなものが垣間見られて面白かったです。つまり、それらの楽器の中からどんないい音や効果的な音を見つけるための技法/チャンスをも逃さないといった感じがしたのでした。指につばをつけて、ギターのボディを擦ったりもしていましたよ。
一楽さんと大友さんのデュオは、ボキャブラリーが豊富で音の密度が高いと思いました。楽器の特性もあるかと思いますが、ノイズや音響を巧みに取り入れる豊かな表現力を感じました。というか、もう、冒頭のさちこさんではありませんが、音作りに対する執念のようなものさえ感じられると思いました。
最後に、全体の演奏の流れを書いてみますと、9日、10日共、最初に一楽さんと大友さんのデュオが何セットかあった後、ゲストのソロがあって、最後に3人での演奏がありました。広瀬さんのselfmade-instrumentは、初お披露目か、今までのものとは違ってシンプルになっていました。自転車の車輪?を二つ並べただけのもので、それを主にシンバルで擦ったりしました。
2/17 - 4/3にかけて、Sachiko Mさんの初のサウンド・インスタレーションの展示がオフサイトでありました。私はこの時期いろいろとあって、最終日の4/3でさえ新宿に来たにもかかわらず会場に寄る余裕がなかったという始末でした。
で、今日はそのサウンド・インスタレーションを使ったBar さちこ。壁の両サイドに2つずつ、計4つのかわいい丸いおせんべいみたいなスピーカーが据え付けてあって、それ以外に通常のスピーカーが前に置かれてありました。1時間くらいだったでしょうか、演奏は、サウンド・インスタレーションの音に少し手を加えるといった感じだったようです。非常に微かなミニマルな持続音でしたが、途中で音が途切れたり別の音が出てきたりといった変化もありました。聴いていると、最初の方は、意識を失う直前のような、例えば、もう少しで眠ってしまうような感覚に訴えてくるようなところがあって気持良いと感じたのですが、ずっと聴いているとちょっと違う印象になってきました。つまり、この微妙な音をずっと拾い続けるには、かなりの緊張感が要ると感じてきたのでした。この音は、緩い音では決してないですねー。最終的には、リラックスしているのか緊張しているのか、自分でも分からないような境地になってしまって、この感覚はとても刺激的だ思いました。こういう時、自分の脳波はどうなっているのかしらと思いました。
23日のbar さちこ、あの体験はサインウェーヴの音というものが、どんなにヴォリュームを下げようとも本質的に何かを貫通させるような鋭さを持った音であることを露呈した体験であったと私は感じているのですが、今日の体験は、同じようなというか、更に微妙な極小とも言えるエレクトロニクス音の連続であったのですが、そういう鋭さを持った音とは違う"優しさ"を感じさせる何かがあったと思います。
本当に微かな小さな音の連続で、ここplanBは通りに面した地下にあるので、オートバイや車が往来する音や休日の人々の開放的なざわめきの方が、遥かに大きな具体音として聴こえてきてしまうのですが、そういうことは私はもう慣れっこになっていて、それはそれとして別に?あるいはトータルに?音を聴き分けるといった感じです。こういうことを書くと、また妄想的なことを言っていると笑われるかもしれませんが、もし私が小さな昆虫か何かだったら、人間様には決して聴こえないこんな音を拾うことができるんじゃないかなと思ったりしました。それはひょっとして、葉群の上を水が流れる音、土筆がひょいと顔を出す音、小動物の小さな心臓の鼓動...何だかとっても優しさが感じられて心打たれるものがありました。この感覚はまた、"和む"というのともちょっと違うのではないかと思いました。