たまたま昨年の秋に、11月公演の広告が目に入って出かけてみたいという気になりました。というのも、転居に伴ってレコードやCDの大半を処分し、しばらくの間家で音楽を聴くこともなかったのですが、残しておいた「Undercurrent」を聴くようになったあたりから、自分の中で暖かい血が流れ始めるのを感じたからです。しかし、ジム・ホール氏の体調不良により公演はこの時期に延期。脊椎損傷だそうで、ステージでの移動は車椅子でした。またこの日は、クインテットのメンバーとは別にロン・カーターがゲストで登場。生で観るのは初めてでしたが、おしゃれな素敵な雰囲気の方でした。
で、最初にジムがソロをやって・・・アランフェス協奏曲のテーマとオール・ザ・シングス・ユー・アーがない交ぜになったような演奏でしたが、やはりジム・ホール独特の音色があると思いました。ジェローム・カーンのオール・ザ・シングス・ユー・アーは、何時聴いても本当に良い曲ですね。
そのあと、ロン・カーターとデュオをやって・・・そのあとジム・ホール・クインテットの演奏になって・・・そのあとはよく覚えていないのですが、「アランフェス協奏曲」の時は、ベースがロン・カーターに入れ代わったと思います。
実を言うと、自分は思ったほど演奏を楽しめなかったというのがありました。というのも、サックスのグレッグ・オズビーを始めとして、メンバーはテクニック的には申し分なく、だからこそこういうステージに立てるのだと思いますが、立派な高いステージで完璧なテクニックで4ビートのジャズを聴いても、へそ曲がりな自分はもう楽しめなくなっているのだということを肌で感じさせられたような思いがしました。ジムの演奏と他メンバーとの演奏の間にも何かしらしっくりいかないものを私は感じました・・・コラボレーションとかコミュニケーションとかいう意味とやはり時代のズレというか・・・。まあこういうこともあって、トータルに観たいわゆるコンサート評は自分には書けないと思いました。こういう場に身を置いて一番感じるのは「時間の経過」というものだったかもしれません。
で、メインの「アランフェス協奏曲」について、'75年にこれをジャズにアレンジした「Concierto」が発表されていますが、本公演ではジムが新しいスコアで、ということでやりました。その「Concierto」は未聴なので、今回との違いは分かりませんでした。チェロ5名、ビオラ5名の女性のストリングスが加わってやりました。思ったよりもドラマチックでなかったのがよかったのかもしれません。その新スコアが演奏後飛ぶように売れていました。
しばらく観ないうちに、といっても数年になるが、異形のギターになったと思った。おおよそアコースティック・ギターからは普通には到底出しえないと思われる音群。小道具などは一切使わないで、間も置かず、彼曰く、演奏という"作業"を絶えず続けていくのだが・・・何だろうなー、この一歩遅れて音がついてくるような感覚は!不協和音、無調・・・こういった単語が浮かんでくる。実際の演奏と合致しているかどうかはわからないが。私がいままで体験したことのない演奏=フリー・インプロヴィゼーションだった。ある種の表現主義の音楽と言ってもいいような・・・。彼のパッションはどこに向かっているのだろうか?私にはあたかも存在の受苦のようにも聴こえるが・・・
この日、井の頭公園の森は靄がかかっていたが、とても楽しい一時だった、赤ワインもおいしかった。エレクトリック・ギターの蔦木さんは、30年ちょっとロックバンド「突然段ボール」をやっているそうで、ギター演奏には長けている方だと思うが、そういう長年のギターとの密着度というか親密度がとてもチャーミングに演奏を導いていったと思う。型にはまっていない感じで、ロックの人らしい逸脱や奔放さも感じられた。小道具も幾つか用意していたが、使ったり使わなかったりで、けっこう臨機応変。オーブントースターのトレイ?を弦の上に置いて、そこにビー玉のような玉をぼろぼろと落としたり・・・長年の相棒であるギターにも、自由に遊ばせてあげているような感じがあって、そういう余裕が自然体な柔らかい演奏を生み出していたと思う。
前半、後半とソロをやった後、最後に30分くらい「突然段ボール」の若手の新ドラマーの方とデュオをやったが、この方がまた良くてびっくりした。最初に豆絞りの手拭いを取り出したので、「おッ、ハン・ベニンクか!」と思った。
というのも、'84年か'86年頃にスタジオ200で初めてハン・ベニンクを観た時、豆絞りの手拭いを鉢巻きにしていたのを思い出したからなのだが、このドラマーは手拭いで目隠しをしたので驚いてしまった。でも「そうか!心の目で観て=聴いて演奏するんだねッ」とすぐに思い直した。目隠しをしていたので、右手の窓に吊してあったガラスの風鈴にはなかなか命中しなかったが、基本的なテクニックとセンスがあり、オリジナリティーもあった。マレットを左右逆に持って、胸にもカウベルみたいなものを吊るしていた。このデュオは、両者の力関係が上手く拮抗していて、ずっとほぼ同じテンションを保って行って、その中で変化があったのでとてもいいと思った。