Ala Fein(何処へ)
【1】夜のしじまに
夜のしじまに呼ぶ声が
私の目に涙をさそう
憧れの波よ、どこに私を連れていく?
夢、まだ見ぬもの、嘆きの夜 月が私にささやきかける
私は心を抱き締めて、歌と一緒に飛びたち、波の上をゆったりと歩く
夢を見ているんだ、この世よ、私を起こさないで
憧れの波よ、どこに私を連れていく?
かすれ声で風が約束する いつか私をさらって悲しみから遠ざけてくれると
そして本当の愛を運んできて 日々の旅路を助け、楽しませてくれると
そのやさしさは私の憧れや想いを満たしてくれるだろう
憧れの波よ、どこに私を連れていく?
私は夢見る 頭上高く掲げたくなるほどに 人々に愛される世の中を
愛に支えられ、その息の隅々まで愛が溶け込んでいるような
夜毎の祭りがその鐘を鳴らすような世の中を
私は夢見る 羽を広げて飛ぶことを
憧れの波よ、どこに私を連れていく?
(サイイド・ヒガーブ)
【2】コフル
その土地は行ったり来たり
あっちへこっちへゆらゆら揺れて
あんまり軽いものだから
二人もいれば担げるくらい
あんまり小さなものだから
鳩が二日で横切れるくらい
あんまり小さく見えるので
まだまだ来ないと思ってた
彼女は時の扉をたたいてたずねた
なくしてしまった二つの夜
あれはあなたのものだったのかしらと
時は二つの昼を彼女にあげた
そして私に言った、内緒だよ
二つの夜は瞳を飾るコフル(アイライナー)になったんだ
(タラール・ハイダル)
【3】家を持っていた人たち
これはかつて家を持っていた人たち
そして糸で吊るされた
肖像写真
彼らは人生の屋根から落っこちた
石の上に投げ出され
落っこちたのだ
まるであんずの実が
幼い子どもたちの上に落ちるように
私の一族は何処に行ったの?
弟の悲しみの粉引き場は?
揺れる寝台の上の
私の眠りの凧は?
我が心よ、呻けよ
巣箱の中の
蜜蜂のように
人生は落っこちた
手の間から
揺れる寝台の間から
(タラール・ハイダル)
【4】コーヒーの樹
私と君の間には
コーヒーの樹と
カルダモン
それに眠りの花
私と君の間には
九つの山と
ベドウィンに沙漠
一日の道のり
私と君の間には
槍の一撃と
馬と剣
それに朝の襲撃
私と君の間には
鳥の飛翔
そして人々は旅立ちを告げる雄叫びをあげた
君の婚資が町一つだというならば
婚礼の場はダマスカスだというならば
私は馬にまたがり君のために
エルサレムの鍵を持ち帰るだろう
君のために森を盗んでくるだろう
君のためにジン(霊鬼)を盗んでくるだろう
そして珊瑚の首飾りを
海の木々に掛けるだろう
(タラール・ハイダル)
【5】この一瞬
声に出さず、静かに、私が望むこと…
「かつて」とか「いつか」などとは言わないで
昨日のことを話さないで、明日について語らないで
今、この時には後も先もない
この限られた時にはもう何の意味もいらない
昨日はこだまとなり、影となって散ってしまった
まだ見ぬ明日は遠く拡がり、かすんでいる
それは私やあなたの夢が描いたものとは違っているかもしれない
私たちが望むものとは違っているかもしれない
でもこの一瞬には代わりがないの
それは私たちの手のうちに開いた花
実も根もない
瞬間の美をたたえる花
過ぎ去る前に掴みましょう
愛する人よ…
(ファドゥワ・トゥーカーン)
【6】マイヤーラ
ねえ、おじさん
マイヤーラっていう女がいたんだ
マッワール(民謡)を歌いに
遠くの村からやって来た
皆がいじめたものだから
影の中にしゃがみ込んでしまった
僕は彼女を植えて、柳の木にしてあげたよ
そしたら彼女は恥じらんだ
(タラール・ハイダル)
【7】海
轟く海が好きだ 風に運ばれる海の叫びが好きだ
私は波に感じる 自由な人々や本当の人生への秘められた憧れを
静まった海が好きだ 海の囁きは私を酔わせる
海は私の夢にじゅうたんを広げ、私を生かしてくれる
始まりもなく終わりもない その底には秘密を隠している
いつも愛の中を旅し、その歩みに終わりはない
海が好きだ、海が好きだ、海の笑い声とうめきが好きだ
人々が好きだ、人々が好きだ、海のようなところのある人々が
君が好きだ、君への愛ゆえに私の夢が歌い騒ぐような君よ
ああ故郷よ、いながらにして郷愁の眼差しを向けずにはおれない故郷よ
塀をつたうバラが好きだ、そのはかない笑い声が好きだ
その香りに私は感じる、自由な人たちと今とは違う人生への魅力に満ちた憧れを
思慕に飾られた手紙のように、恋人たちの手に握られているところが好きだ
別れの思い出のように、愛の物語のページにはさまれているのも好きだ
バラの命は二晩と短いが、それを惜しむことなく
香りを道行く人々にまき散らし、近づく者たちと分け合う
バラが好きだ、バラが好きだ、その笑い声とうめきが好きだ
人々が好きだ、人々が好きだ、バラのようなところのある人々が
君が好きだ、君への愛ゆえに私の夢が歌い騒ぐような君よ
ああ故郷よ、いながらにして郷愁の眼差しを向けずにはおれない故郷よ
海が好きだ、バラが好きだ、人々が好きだ、色や人種に分け隔てられることなく
自由に、頭をもたげて生きるのが好きだ
教会の鐘の音に抱かれながらひるがえるアザーン(イスラームの礼拝への呼び掛け)は私を酔わせる
皆、つどえ、きたるべき明日のためにミサを開こう
(サイイド・ヒガーブ)
【8】剣
アレッポ産か
ダマスカス産か
それは北から届いたヘンナ
おまえは手をヘンナで染めた
線で描いた模様で飾った
そのトゥーブ(民族衣装)はお前に似合う
ダマスカス織りのターバンも
剣を抜いて歌うがいい
その歌はお前に似合う
剣の上には
ク−フィ−書体で刻まれた文字
「恋をした」と書いてある
残りの文字はかすれてしまった
(タラール・ハイダル)
【9】歌
歌いたいんだ、夜明けの星に
ブルカーシュで見かけた可愛い女に
水に踊るランタンの灯に
胸にしまった甘い言葉に
四十の階段のあるお屋敷に
茶屋にスカーフに水煙管
ダイナマイトと労働者たちとの哄笑に
頭を垂れない谷に山が頭を垂れる時
鎚と鉄床のダンスに
畑の農民の喜びに
歌いたいんだ、息子に
でも、俺が歌う時はまだ来ない
歌いたいんだ、自由のそよ風に
良心に宿った清らかな夢に
露をおいた赤いバラに
まだ見知らぬ未来の世に
愛がさらっていった少女に
ショールの縁を風になびかせた少女
丘に集う恋人たちの歌声に
心が語り、声が出ない時
雄々しく血筋正しい我が一族に
明けゆく朝に
歌いたいんだ、息子に
でも、俺が歌う時はまだ来ない
(サイイド・ヒガーブ)
【10】讃えよ
お前の心が愛する者を讃えよ さすれば人生は微笑む
お前の心は悩みや煩わしさから癒される
お前の心が愛する者を讃えよ 向い風に立ち向かえよ
どんなに険しくともお前自身の道をゆけ
さすれば望みは叶い、甘露を味わうだろう
船は進む、風は十分、波高く…俺たちは飢え、裸足だが
胸に秘めた癒しとなる夢がある
明日には俺たちは報われ、夜は去るだろう
俺は永遠に愛する者を称える、高らかな声で
いつか俺の希望は満たされ、自分から何もしなくとも、善きことのすべてが手に入るだろう
なんたる顕現…彼を讃えよ
(サイイド・ヒガーブ)
*サイイド・ヒガーブ:現代エジプトを代表する口語詩人。
歌謡曲やドラマの主題歌などの作詞で知られる。
*タラール・ハイダル:レバノンの口語詩人。同じく作詞で知られる。
*ファドワ・トゥーカーン:パレスチナ随一の女性詩人。
[翻訳:山本 薫]
SabreenAssociation@jp のトップページに戻る