ここには、取材の過程でどうしても記事にできなかったお店を紹介します。どうしてできなかって?それは以下の文から明かでしょう・・・・・

店名 O−Y,Y
紹介文(by 金子隆)  蕎麦懐石というのが一定の形態として定着しつつあるようだ。先日、蕎麦 屋の知人と話していたところ、彼の店は蕎麦を最後に旨く食べさせるためにそれまでに油で口をなめらかにするというダイナミックな展開をはかっているのだと述べていた。そうした発想ではウチは唯一なのではないか、と。

 これに対して私が「蕎麦屋では唯一かもしれないが、懐石屋が最後に蕎麦を出す例は結構ある」というと、彼は露骨にイヤな顔をしていた。蕎麦が主か従かの違いはあるが、ま、表面的には同じことになってしまうわけですね。

 懐石を出す店が締めくくりを蕎麦にするというとき、私の念頭にあったのは新宿のO−Y店だった。同様の店は天現寺にもあると聞いているが、新宿の方は登場するやいなや取材する暇もなく有名になったので気にかかっていたのだ。そこは今なお絶好調らしく、二号店を出したという。というわけで行ってみた。

 席に通されてびっくり。連れがいたのでカウンターでないのは仕方ないにしても、カウンター脇の席で当方はカウンターに向かって横並びに座らされたのだ。通路を確保するためだろうが、なにやら居心地が悪い。

 品書きを見るとただ「一万円」「七千円」といった価格しか書いていない。これでは選びようがないので内容を尋ねると、高い方は「すっぽん、河豚、あんこうを使ったコース」とのことだった。 さらに一万三千円だと牛ヒレまでつくという。四番バッターばかり並べた打線のようで大味に違いないと思ったので、私は安い方を頼むことにした。

 それで同時に注文したビールが現れる間もなく「白和え」が出てきたのだが、これが冷たいのは良いとしても、表面が乾いてしかも冷蔵庫の臭いが漂っている。つぼ八の付きだしによくある、あの臭いだ。その後は品数こそ多く満腹になったものの、 あんかけに山葵を添えた皿が妙に多く、ふた月分は山葵を食べたような気がした(メニューはほとんど印象に残っていない 。山菜と若芽を出汁で食べさせる鍋があったかな。)。刺身はあおりいかとカンパチだった。まあこれも高価なところを並べたんだろう、と思えてしまう。最後に出た蕎麦も、可もなく不可もない、といったものだった。良かったのは、蕎麦湯だけ。これは真っ白に濁って美味かった。

 この晩の食事からは、「山葵」「白和え」「すっぽん、河豚、あんこう」「手打ち蕎麦」といった品を出しさえすれば「懐石」になる、と主人が考えているらしいことが伝わってきた。「なんちゃって懐石」である。それでもこの店は雑誌やインターネットなどでも高く評価されている。それだけ「記号」を食べている客が多いということではないか。こうした記号は飲食店でますます増殖しているのだが。

 ちみなに我が友人の蕎麦屋は、懐石でこそないがこんないい加減なことはしない。それほど客が入ってもいないが、それぞれの料理に主人が愛情を注いでいることはよく分かる。

 悪口ばかりというのもナニなので、「これぞ懐石」という店にも触れて置こう。祇園のYは、カウンターだけの店だが、お任せで頼んだ料理が出てくるたびにため息をつくほどに素晴らしい出来だった。最初はずいきの白和え。次が伊勢エビの味噌のプリン風。あぶった鳥貝。お椀は空豆のすり流しにタケノコ。刺身は鯛を白髪ネギに巻き、ツマは岩のりとミョウガ。鱒の焼き物を出汁と合わせた酢で。ここまでビールと日本酒を楽しんで、少し胃が疲れてきたところでおこわのお茶漬け。一服したところでタラの芽と穴子のてんぷら。最後は漬け物、山椒ちりめんで熱々のごはん、というラインナップだった。

 この店が素晴らしいのは、客がどのような生理状態で飲食しているのかを十分に理解してコースのメニューが組まれている点だ。最初はビールで喉を潤してつまみたくなるものが連続して出てくる。つまみの味が口に残る頃になると出汁をよく取った汁物で洗い流す。刺身は脂が乗った鯛だったがネギ、岩のりとポン酢で脂を感じさせない工夫。日本酒に酔ってきたところで熱いお茶漬け。これでリフレッシュしててんぷら、最後は山椒ちりめんをごはんにかけて満腹になる、という塩梅である。たんに個々の料理の味が良いとか高価でうまいものを並べるだけでなく、空腹で来店した客がどのように満腹し酔っていくのかを計算し、口だけでなく体で食事を楽しむのをサポートしてくれるのだ。

 こうした店に出会うと、「懐石」とは、主人の好きなものを一方的に客に押しつけるのでなく、客の身に(文字通り「身体」に)なりながら、客自身が満足するように配慮することに主眼があるのではないかと感じる。この店の主人は卓袱料理店の出だというが、それが従来から「もてなし」と呼ばれてきたのではないか。客が時間を追って五感のすべてで満たされるよう配慮するということだ。当方の生理が主人の掌でころがされ気持ちよくされているといった具合なのだ。 

 ちなみにYの主人に「東京の京料理の店をどう思うか」と訪ねてみた。答えは凄くて、にこにこ笑いながら、「やってはりまんな〜」とおっしゃるのである。ハナから相手にしていないのだ。さもありなん。話題店、著名店でも匹敵するものが思い浮かばない。せいぜい横綱に対する前頭といったところだろうか。まあ、それくらいの自負がないとあれだけの差は出るまいて。O−Yの店主なんかはどこに差があるのかもわかっていないのではなかろうか。客と一緒になって、「最近のMサン(「鉄人」だった人)のところは商売に走っているうんぬん」と大声でしゃべっていたのだから。当方、食事中は一切料理は話題にできなかったのだが。  

 

 

店名 M, M
紹介文(by 金子隆)  

諸事情で取材に子供を連れていくことがある。中華などはもとより問題ないのだが、スペイン料理となると微妙。それで事前に電話できいてみたのだが、「コースは子供用にできていませんがそれでもよければ・・」ということなので、ネットで評判の高い東麻布の店を訪ねてみた。

 入り口の大テーブルには女性グループが楽しそうに話に夢中になっている。私は六歳の息子とカウンターへ。まずパンが出てきた。サングリアはまずまずの味。息子に気遣ってくれてパンのお代わりをくれた。そうこうするうちに刺身入りのサラダ(マリネ)。それから小一時間、次の皿が出てこなかった。

 カウンターの中では男がゆっくりゆっくり食材をこねている。仕込みはやっていないようだ。スープは鍋に作ってあるようだが。時々顎に手をやって沈思黙考している様子。従業員の女の子はいまいちトロイのだが、それを主人が小声で叱っている。お客様が第一だ、と。それを二十分はやっていた。お前こそ客のために早くしろよ、といいたいが、主人の手は動かない。

 息子が次を待ちきれないというので、公園に遊びに出た。黒人が白人にカンフーを教えていたので見物した。

 帰ってみると魚のサラダが出ている。またもマリネである。すでに一時間半は経っているのだが、まだ前菜なのだろうか。ぺろりと食べてまた、待つ。スープがカップで出てきた。アフリカ風なのだそうな。コクがあると評する人もいるが、何の味にしてもうまくは感じなかった。

 すでに二時間。主人はこの半時間、あゆを焼いていたが、いよいよ出来たかと思いきやそれはテーブルの団体様の分だった。ということは、これから三十分待たねばならない。息子を見ると、体が硬直している。顔を覗き込むと涙がぽたぽた落ちている。「もう待ちたくない」と小声で訴える。

 子供を連れていった当方が悪いのだろう。この店、夜のコースでも2500円、時間がありあまっていて、酒飲みでなくつまみがなくても大丈夫な話好きの女性なら十分楽しめはすると思う。「当店は、二時間半のコースでないと・・」と言って、途中で帰ろうとする私からは1500円しか取らなかった。それにしても、ネットで褒めてなどあるからつい遠出して訪ねてしまうのだ。ネット情報を恨んだ一夜だった。

 思い出したが、恵比寿南でやはりネットでのみ評判のイタリアンがある。一軒家でつねに満員の盛況。やっとカウンター予約ができたので行ってみた。

 誕生日の客がいるらしく、店側で歌など歌って祝福している。楽しそう。女性従業員が気遣って話しかけてくれる。

 ただ、この女性、食事の内容については何も答えられないのだ。「本日のパスタは何」と聞くと、「主人の気まぐれですから出てくるまで分かりません」。「気まぐれ」ってのはそういう意味か?鯛の尾頭付き刺身が出てきたが、顔が鯛ではない(フエフキダイだろう。あれは鯛科ではない魚)のでこれは何と聞くと、「鯛と思う」としか答えない。

 従業員と友達ノリの店があってもいい。食材が気になる私には合わないだけなのだろう。

ひとこと 疲れた。

 

店名
紹介文(by 金子隆)  

 連休中、仙台に行く用があったので、お店巡りしてみた。やはり海産物だろうということで、ネットでダントツ人気の寿司屋へ。しかしこれにはあきれた。

 古くから著名人が訪れる店らしい。色紙も数多く張られている。「これほどうまい店はない、玉に瑕は値段のみ」との評価が一般的で、悪く言う者は見当たらない。だが・・・

 要するに、金に飽かして全国から良い食材を集め、それを刺身にして酢飯に貼り付けているだけの店。たまたま日が悪かったのかもしれないが、若いあんちゃんが一人で握っている。他の日なら大将がいるのかもしれないが、当方は予約である。手をぽんぽん叩きながらゆっくりやっている。その割には魚の切り方が粗く酢飯も皿にこびりついたりしている。

 最初はうにを殻着きで。なるほど新鮮ではある。はまぐりは煮汁につけこんだもの。まあ、仕事もしてある。だが、それだけ。

 「せっかく三陸に来たので、何かめずらしいものでも」と頼むと、海老の海苔巻きが出てきた。唖然とする。それ以外のヒラメや本マグロも、捕れた場所を聞くと紀州だのどこだのと三陸以外を答えている。東京の値の張るだけが取り柄の店をまねているのだろうか。

 女の子は三人とも使い物にならない。ただでさえ客が十人以上、食べるものもなく待っているのにあんちゃんは目の前で勘定を計算したりしている。あきれて帰る客に「気を遣っていただいて」と挨拶したりしている。違うよ、ヒラメ一つに三十分もかかったから帰っただけなんだよ。

 これで1万5千円とられた。二度と行かない。

 ちなみに、悪口ばかりではなんだから、絶品のてんぷらを紹介しておこう。「銀たなべ」は国分町の商店街の果物屋を折れたところにある各階で割烹を食べられるビルだが、その二階のカウンターのてんぷらは素晴らしい。東京で友人の蕎麦屋から、「みかわ、天亭を上回るクラス」と紹介された。なるほど、刺身になる食材に、レアなままで火を通している。アスパラやウドなんて、囓ると汁がしたたり落ちてる。生の味を火を通すことでさらに浮き上がらせる技法だ。ただの刺身を酢飯に貼り付けて仕事した気になってる寿司屋とは大違い。

 「めずらしいもの」として、月山のたけのこを揚げてくれた。これよ、これ。地方色を言っているとすぐにピンと来てくれるのがうれしい。最後はバナナのてんぷら。シャレも解する職人さんだ。これで夜で3500円。満点。

 

 

店名
紹介文(by 金子隆)  温泉がブームである。癒しブームとシンクロしているのだろう。で、老舗でリニューアルした一軒 Kに、新年家族で行ってきた。場所は修善寺、大人の趣味雑誌にこのところよく掲載されているというので、細君のお薦めである。ところが懐石が自慢のはずが、これには参った。なにしろ無意味に品数が多い。いきおい、一品一品の質は落ちる。刺身はまぐろとぶり、これだったら地物の新鮮な安魚の方がよほど良い。リンゴをくりぬいたグラタンのようなものはほとんど残した。良かったのは露天風呂のみ。伊豆にはこうした量のみで勝負の宿が多いが、がっかり。

 あまり悪口ばかりも何なので大発見もあったことを紹介する。「虹の郷」というテーマパークの中に、一月というのに入り口付近に鮎の塩焼きを売っている民芸調の店がある。しかも巨大な鮎だ。口上のうるさい主人がいかにもうさんくさく見えたのでからかいがてら一匹食べたらこれはショック。大変なうまさだ。
 
 今は天然の落ち鮎が獲れるのだそうで、代々免許を得て主人の親父さんが獲ってくるのをここで串にして塩焼きしているという。小生はタデ酢が好きなのだが、甘い味噌や梅酢など、いろいろかけてくれる。うまいッ。

 串の刺し方の説明も知らなかったことばかり。青竹の骨酒がまたうまい。骨酒というのは、干した鮎の骨まわりのみに日本酒が回るようにするからちょうどダシを取った状態になってうまいのだという。だからフグ屋でもインチキなのはよく乾かさずに日本酒に浸すから、生臭いのだ。テレビでも何度も紹介されたらしいが、掛け値なし、名店である。 (2002.1.14記)

 

店名
紹介文(by 金子隆)  雨の降る午後、家族と一緒に新宿駅に降り立ち、濡れずに行けるビルで食事することにした。息子の好みもあって、「京風らーめん」のAへ。らーめん390円と格安である。私はそれにもやしをトッピング。午後一時を回っているが、大変に混みようだ。
 ところがやってきたらーめんは、なんとも凄いもの。汁はなまぬるくて、味がない。卓上の胡椒は、アミノ酸配合のやつ。これで味をつけろということか。麺はすでに伸びている上に、カップ麺よりも腰がないタイプ。もやしは午前中に茹でたのか野菜のくせに伸びている。しかも冷たい。もちろんチャーシューは出汁を取った出がらし。これは食えたものではない。場所だけで流行る店というのが存在することを再確認した。
 ちなみに380円ラーメンなのに恐ろしく手をかけ美しくかつ熱い一杯を提供しているのが阿佐ヶ谷南、ロータリーを右に入った飲み屋街にある「彦十」。和風出汁にゆずが乗っているのがうれしい。ネギも美しくカットしてある。チャーシューも味が詰まっている。トッピングの卵は半熟。以前はスープと麺、具がバラバラな印象だったが、それも改善。200円値上げしてもごく普通に「激うまラーメン」と呼ばれるだろう。
 店主の顔の見えない店/見える店でどれだけの差があるのかがよく分かった。(2001.10.1記)
ひとこと まずいもの、今年度首位候補。

 

店名
紹介文(by 金子隆)  ここは都内でも有数のシングル・モルトを置くバーである。ではそれがなぜ「美味地帯」の候補かというと、ランチで出す6種のカレーが日本最大のサラリーマン地帯で評判になっていたからだ。

 たしかに、なかなかおいしい。「欧風カレー」も「インド風カレー」もともに洋食屋風に長時間煮込んであって、野菜は完全に煮くずれている。深い味だ。しかし・・・

 ランチは2:30までとメニューにある。カシミール・カレーがあまりに辛かったので、メニューの「ラッシー(インド・ネパールあたりのヨーグルト飲料)」を頼んだら、くわえタバコの主人は「2時までだからダメ」と黙って首をふる(店内には大きな鏡があるので、応対が丸見えなのだ)。じゃ、アイスコーヒーは、と頼んでも同じ。間に立った愛想の良い女の子が泣きそうになっていた。ラスト・オーダーが二時とはどこにも書いていない。さすがに読者にここはお勧めできないと判断する次第。    (2001.8.23記)

データ カレーは800円から900円。
ひとこと 二度と行かない。