店名 酒たまねぎや
所在地・連絡先 新宿区赤城下町55

電話 3235−5576

6:00pm〜11:30pm(日休、祝祭日は不定休)要予約
紹介文(by 金子隆)  日本酒マニアには、必ずぶつかる壁があるという。酒のうまさは品評会で口に含む利き酒と、実際に飲むのとでは相当に違って感じられる。また、口開け後の吟醸酒は飲み頃で個体差が大きいのに、銘酒を多く揃える居酒屋では何本もの封が開けられたまま一律に管理され、売り切られるまで数日を過ごす。だから語られることと飲んだ実感はどうしても違ってくる。

 そこでうんちくも前評判も関係なく、練達の管理者が供する銘酒を自分の舌だけで味わってみたくなる。そんな真の酒好きが味覚を鍛えるために集う道場のような居酒屋が、「たまねぎや」だ。

 店は最寄りの駅が地下鉄神楽坂だが、相当ややこしい場所にある。しかし足を運んだ日本酒マニアは、のれんをくぐってまず唖然、次に陶然とするだろう。一般の銘酒居酒屋がもったいつけて出し渋るような、飲み口で最上との評価ある銘柄ばかりが安価(適価)で勢揃いしているのだ。

 どれほど凄さか。この日飲んだものを列挙しておこう。磯自慢純米吟醸中取り(グラスで800円。以下同様)。十四代純米吟醸(450円)。初亀斗瓶取り97年もの大吟醸(1380円)。義侠「慶」当たり年の92年もの(1380円)。初亀三年古酒「亀」97年もの(1380円)。締めは東一純米大吟斗瓶取り「選抜」97年もの(1380円)。いずれも一滴一滴が宝石ような傑作であり、思わぬ方向に飲む者の味覚をつれ去ってゆく。酒肴は釣り鯖・生け烏賊・カマ(大)トロの刺し身ほか、「あんきものソテーうにソースかけ」(1800円)、「わさびの茎の醤油漬け」(600円)など、ツボを心得た品が完備している。

 主人の木下隆義氏は、ワインでは当然とされ数千年の歴史がある流通側による品質管理を吟醸酒でも実行している先駆者で、斯界では知られた人物。自宅と店にずらり並んだ冷蔵庫で、蔵元にもなくなった毎年の吟醸酒がどのように熟成してゆくかを日々検証している。眼光鋭くちょっと見は怖いが、真剣に飲む客を見る目は優しい。日本酒の最前線を発信する名店だ。

データ ビール キリン・ハートランド(中)500円、サッポロ黒(小)400円
日本酒 酔鯨純米大吟醸斗瓶取り 七BY酵母 1480円 九BY 1380円
醴泉 蘭奢待(らんじゃたい)大吟醸 900円
義侠 妙(たえ)純米大吟醸古酒 3380円
ワイン
(白)
センツベリー1995 4500円
モンラッシェ(ドメーヌ・ロマネコンティ)1990 15万円
他のドメーヌ 3万円
(赤)コンチャイトロ・ドンメルチ1995 7000円
ロマネコンティ1972 25万円など。
他にボルドー一級シャトー1923年ものより。
(つまみ)
さしみ、かま焼き、珍味などセットで5000円程度
ひとこと  ここの前身は早稲田にあった「いわしや」。とても店があると思えない通りの暗がりの、外見は立ち食い蕎麦屋のような店構えであった。のれんをくぐるとカウンター4席、デコラの机に6人も入ると一杯の店内に、不釣り合いな冷蔵庫が何台も壁際を占拠する異様な光景が目に飛び込んでくる。そんな光景は、漫画『味いちもんめ』で主人公が勤め先の料亭がはねたあと、出入りする店としてしばしば描かれていたので、今も思い出すことができる。『夏子の酒』の情報源の一つもここだったようだ。いつだったか訪ねたら、従業員の若い女性があんこうをまな板で裁くというのでたまげたことがある。築地の鮮魚卸の娘さんなのだそうだ。なんとも濃い店ではある。