2001年公開 ,2004年12月20日加筆修正
ステンレス鋼は鉄(鋼)を基質とした合金であり,クロムを 12% 以上添加し,そのクロムの不動態皮膜によって耐食性を得ている.耐食性は鋼より格段に優れており,一般的な耐食材料であるといえる.JIS ではその記号を SUS とし,また,その結晶組織から 4 つに分類している.4 つの系統は,それぞれオーステナイト系,フェライト系,マルテンサイト系,析出硬化系であるが,析出硬化系は家庭や商店などではあまり見かけない.
オーステナイト系は,ニッケル,クロムが主添加元素である.フェライト系,マルテンサイト系はクロムが主添加元素である.また,どの系列でも制限元素として,炭素,ケイ素,マンガン,リン,硫黄の含有限度が定められている.
最も多く用いられているステンレス鋼はオーステナイト系の SUS304 である.家庭にある様々ステンレス鋼製の製品の大部分や,車輛材料(現在は SUS301 であることが多い)などはこの合金である.他の一般的なステンレス鋼としては,オーステナイト系では SUS302 や,SUS316,フェライト系では SUS430,マルテンサイト系では SUS403 などがある.SUS302 は主に刃物などに使われるもので炭素含有量がやや多い.SUS316 は SUS304 の一つ上のグレードでニッケルの添加量をやや増し,モリブデンを少量加えたもので,高価な実験器具や SUS304 よりも耐食性を求められるところ,例えば石油化学工業に用いられる.SUS430 は鉄にクロムを 16.00〜18.00 % 添加したもので比較的安価であり,建築材料や自転車の部品など,様々なところで見かけられる.SUS403 はケイ素,クロムの添加範囲を小さくした高品質なもので,蒸気タービンやジェットエンジンの部品,刃物などに使われる.
磁石につく,つまり強磁性なのは,フェライト系,マルテンサイト系,つまり,クロム系の合金で,クロム,ニッケル系のオーステナイト系は基本的に常磁性で,磁石につかない.しかし,厳しい曲げなどの冷間加工の際,組織がマルテンサイトに変化し,強磁性になることがある.ちなみに焼入れができるのはマルテンサイト系の合金だけである.いくつかのステンレス鋼の化学組成についての表にまとめた.
なお,表中の オはオーステナイト系,フェはフェライト系,マはマルテンサイト系であることを示す.
| 鋼種 | JIS記号 | C | Si | Mn | P | S | Ni | Cr | Mo | その他 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| オ | SUS302 | 0.15以下 | 1.00以下 | 2.00以下 | 0.045以下 | 0.030以下 | 8.00から10.00 | 17.00から19.00 | - | - |
| オ | SUS304 | 0.08以下 | 1.00以下 | 2.00以下 | 0.045以下 | 0.030以下 | 8.00から10.50 | 18.00から20.00 | - | - |
| オ | SUS316 | 0.08以下 | 1.00以下 | 2.00以下 | 0.045以下 | 0.030以下 | 10.00から14.00 | 16.00から18.00 | 2.00から3.00 | - |
| フェ | SUS405 | 0.08以下 | 1.00以下 | 1.00以下 | 0.040以下 | 0.030以下 | 0.60以下 | 11.50から14.50 | - | Al: 0.01から0.03 |
| フェ | SUS430 | 0.12以下 | 0.75以下 | 1.00以下 | 0.040以下 | 0.030以下 | 0.60以下 | 16.00から18.00 | - | - |
| フェ | SUS434 | 0.12以下 | 1.00以下 | 1.00以下 | 0.040以下 | 0.030以下 | 0.60以下 | 16.00から18.00 | 0.75から1.25 | - |
| マ | SUS403 | 0.15以下 | 0.50以下 | 1.00以下 | 0.040以下 | 0.030以下 | 0.60以下 | 11.50から13.00 | - | - |
| マ | SUS416 | 0.15以下 | 1.00以下 | 1.25以下 | 0.060以下 | 0.15以下 | 0.60以下 | 12.00から14.00 | 0.06以下 | - |
| マ | SUS431 | 0.20以下 | 1.00以下 | 1.00以下 | 0.040以下 | 0.030以下 | 1.25から2.50 | 15.00から17.00 | - | - |
さてステンレス鋼にはオーステナイト系や,フェライト系,マルテンサイト系,析出硬化系があるということはすでに書いた.これらのうち良く使われる,オーステナイト系,フェライト系,マルテンサイト系はどのような相なのか,ごく簡単に説明する.
オーステナイト系は,ニッケルの添加により,鉄の 910〜1390 ℃ までの安定相(γ相)を高温でも安定化させたもので,これをオーステナイトと呼んでいる.オーステナイトは,面心立方構造 fcc である.
フェライト系は鉄が 910 ℃ 以下でとる相 (つまり常温での鉄の相)である,フェライト(α相)の組織を持っている.フェライトは体心立方構造 bcc である.
マルテンサイト系は少々複雑である.オーステナイトを急冷した場合,常温でもオーステナイトとなろうとするが,ニッケルに代表されるオーステナイト安定化元素を含まない場合,常温ではオーステナイトは安定ではないので,フェライトの格子を少しゆがませた状態(フェライトの構造を引き伸ばしたような状態)に,マルテンサイト変態する.
なお,マルテンサイト変態とは,原子が長距離(長距離というのはあくまでまで便宜上の表現)を移動せずに,わずかな位置の移動で結晶構造を変える変態のことである.マルテンサイト系はこのマルテンサイト変態でできた相のものである.
ステンレス鋼は一般に,全面腐食には鋼に比べると非常に強い材料である.しかし,局部腐食には意外と弱く,応力腐食割れ,粒界腐食,孔食,すきま腐食等が知られている.
海水の腐蝕性を代表する成分は塩化物イオンCl-である.ここでは塩化物イオンのステンレス鋼への腐食作用をまとめる.
また,腐食を促進する原因としてステンレス鋼中の炭素の存在量に由来するものもある.ステンレス鋼中に含まれる炭素の量が仮に多かった場合(多いというのはあくまで便宜上の表現)には,ステンレス鋼中のクロムが炭素と結びつき炭化クロム Cr23C6 が生成して結晶粒界に析出するためクロム量が欠乏し,結果として不動態皮膜の形成に障害がでる.そのためステンレスメーカーは含まれる炭素量を減らした,SUS304L,SUS316L という鋼種も生産している.これはクロムが欠乏する事態を未然に防ぐためである.
また,モリブデンをステンレス鋼に添加すると塩化物水溶液中で,不溶性のオキシ塩化モリブデン皮膜を形成することで,不動態皮膜の破壊を防ぐとも言われている.しかし,海水に浸るような環境での使用はモリブデン添加鋼種である SUS316L でも十分ではないことがあるのが実情のようだ.
その他,ステンレス鋼に関するJIS規格(JIS G 4303など)を参考にした.