クワッサリ〜、街へ!





 その日、クワッサリ〜は街へと出かけた。ブロマイド他のプロパガンダが功を奏し、革命軍は好意的に受け入れられている。クワッサリ〜にはファンまで出来ていた。
 人々からサインをねだられたり、やけに親しげに声をかけられたりするたび、真っ赤になって俯きながら足早に雪の街を歩く。なにしろ部隊とは違うのだ。怒鳴りつける訳にもいかない。街の人間には恐怖感を与えないように、と、隊長からくれぐれも念を押されていた。
 ファンと名乗る人物から招待を受けている。プロパガンダの為に行かねばならない。…はっきり言って、憂鬱だった。だが、隊長命令では仕方がない。…それにしても、何故この衣装を? …もしも相手がいやらしい親父だったりしたら、はり倒して帰ろう。そう決意の拳を固めて、目的の家のドアをノックする。いきなりドアが開いた。
「おね〜〜〜さま〜〜〜〜〜〜っ☆ 来てくれたのね〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「うひゃぁぁぁぁっ!?」
 年の頃は同じくらいだろうか。くりくりのカールを二つに分けた娘が、いきなり抱きついてきた。妙に可愛らしい声をあげてしまう。なにしろこんな事は初めてだ。
「だだだだ、誰なのっ!?」
「ミミちゃんよ〜〜〜、おね〜〜〜さま〜〜〜〜(はぁと)」
「みみみ、ミミちゃん?」
「あ、おね〜さま、ブロマイドの格好してないぃ〜〜〜〜。楽しみにしてたのにぃぃぃ〜〜〜〜」
「ち、ちゃんと持ってきたわ。あんな格好じゃ寒くて歩けないじゃない」
「あ、そうか。えへ☆」
「いや、えへって…」
「ごめんなさいねぇ、この子、元気が良すぎるから…」
 にこにこと愛想の良い婦人が、奥から現れた。どうやら母親らしい。
「あ、あの…初めまして。ボルガ第三連隊所属、マリア・タチバナと申します」
「えぇ、えぇ、良く存じてますよ。この子はあなたの大変なファンでして…さぁ、お部屋へどうぞ」
 部屋へと入ると、ミミがウィッグを出してきた。
「ね〜ね〜、おね〜さま、これ似合うと思うのぉ〜〜〜。被ってみてぇ?」
「え、え、えっと…い、いいわよ…」
「その前に、着替えて着替えて〜〜〜〜」
「あ、えっと、その…」
「大丈夫〜〜〜、女の子同士だから〜〜〜〜」
「あ、あの、…わ、分かったから、向こうむいてて」
「は〜〜〜〜〜〜い」

 ごそごそ……

「えっと…これでいいかしら?」
「あ〜〜〜素敵ぃ♪」
「そ、そう?」
「うんうんうん!! 白のウィッグ似合う〜〜〜〜〜♪」



 誉められて悪い気はしない。
「おねぇさま、こっちのウィッグも似合うかも〜〜〜〜♪」
「な…なんでそんなにたくさん、ウィッグ持ってるの?」
「おか〜さんに買って貰ったの〜〜〜〜♪」
「いや、そうじゃなくて…どうして…」
「え、なぁに?」
 きらきらとした瞳に見つめられ、クワッサリ〜は何も言えなくなった。
「…いいえ、なんでもないわ。えっと…これでいいかしら?」
「いやん、素敵ぃ〜〜〜♪ ソバージュも似合うぅぅぅぅ(じたばた)」
 散々誉められ、クワッサリ〜もその気になってきた。
「そう? …そんなに似合う?」
「うん、素敵素敵ぃ〜〜〜♪ ちょっとポーズ取ってみてぇ♪」
「えっと…こうかしら?」



「あん、もぉ、素敵ぃ〜〜〜っ! おねぇさま、お臍も見たいぃぃ〜〜」
「…女の子が女の子のお臍見て、楽しいの?」
「だって、可愛いじゃない?」
「そ、そぉ? それじゃ…ちらっ」



「きゃ〜〜〜〜〜〜〜っ(じたばたじたばた)」
「ちょ、ちょっとミミちゃん落ち着いて…」
「ねぇねぇ、おねぇさま、髪が床に広がってるところも見たい(はぁと)」
「え? えっと、それじゃ…仰向けに寝た方がいいのかしら?」
「うんうんうんうん♪」
「んっと…こう?」





「いや〜〜〜〜〜〜んっ☆ もぉもぉ、素敵すぎぃ〜〜〜〜〜〜〜っ☆」
「…そ、そうかしら? っと…もういいわよね?」
 ウィッグを外したクワッサリ〜に、ミミが抱きついて来た。
「み、ミミちゃん!?」
「やっぱり普段のおね〜さまが、一番素敵ぃ〜〜〜〜(すりすり)」



 手にやり場に困り、結局抱き合うような形になってしまう。ふと、窓の外に気配を感じた。
(……! た、隊長…?)
 相変わらずすりすりしてくるミミに、機械的に答えながらクワッサリ〜は固まっていた。
(どどど、どうしよう…こんなところを…隊長に見られた…?)



 しばらくして、ドアにノックの音がした。
「失礼。ボルガ第三連隊小隊長、ユーリー=ミハイル・ニコラーエヴィッチと申します。こちらに部下のマリア・タチバナがお邪魔している筈なのですが…」
「た、隊長!?」
「マリアか。間もなく会議が始まる。そろそろ隊舎に戻ってくれ」
「あ、りょ、了解しましたっ! すぐ参ります!」
 慌てて着替え、ミミと母親への挨拶もそこそこに、隊舎へと向かう。並んで歩くユーリーの顔が、まともに見られない。
「あ、あの…隊長?」
「ん? どうしたマーニャ」
「…い、いえ、なんでもありません…」
 しばらく気まずい沈黙が続く。ユーリーが言いにくそうに切り出した。
「あ、あ〜〜〜…なぁ、マーニャ…」
「な、なんでしょう?」
「その…いくら女の子同士とは言え、ああいうのは…」
「…! みみみ、見たんですかっ!? 覗いてたんですねっ!?」
「い、いや、覗いてたというか、見えてしまったというか…」
「お、女の子の部屋を覗くだなんて…お、お行儀悪いですっ!! 失礼しますっ!!」
 耳まで真っ赤にした顔を振り上げ、ずんずん歩いていくクワッサリ〜の背中を見送って、ユーリーはため息をついた。
「やれやれ…難しい年頃だなぁ…」