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クワッサリ〜の誕生日
革命軍駐屯地。食堂でお茶でもと足を運んだユーリーは、届いた封書を読みながら、一人悩むマリアを見つけた。少し尖った唇が、幼く見えて可愛らしい。眉間に縦皺なぞ寄せて、首を傾げている。
「う〜〜ん、どぉしよぅ…」
「どうした? マリア?」
「あっ、隊長。実は、ミミちゃんから招待状が来たんですが…」
「招待状? なんの?」
「その、私の誕生日パーティを開きたいとかで…」
マリアの報告に、ユーリーは顔をほころばせた。年相応の友人は、マリアにとって必要なものだ。
「ありがたい話じゃないか。行っておいで」
「で、でも…」
「ん? どうした?」
「わ、私…その、パーティに行くような服、持ってなくて…」
「あぁ、なんだ、そんな事か」
にっこりと笑うユーリーに、マリアはいぶかしげな顔を向けた。
「そんな事って…それは、確かに普段のコートでも、充分かも知れませんけど…」
「普段のコート? 折角の誕生日パーティだ。もう少し可愛い格好をして行きなさい」
「で、でもそんな服…」
持ってません。と言う言葉は、ユーリーの手真似で遮られる。そのまま、ユーリーの部屋へ連れて行かれた。やがて出てきたマリアは頬をバラ色に染め、大きな紙箱をしっかり抱えたまま、自室へ向かっていく。本当に嬉しそうに微笑んでいた。
足取りも軽く、マリアはミミの家へと向かう。いつものコート姿ではない。雪のように真っ白な、マントを羽織っていた。寒さでバラ色に染まった頬が、愛らしさを際だたせている。
一軒の家へとたどり着き、ノックをした。
「いらっしゃい、おね〜さま…きゃぁ、すってきぃ〜〜〜〜(はぁと)」

「そ…そう?」
まんざらでもない表情で、照れたように言うマリアに、ミミは両こぶしを揃えて迫った。無意識にマリアの腰が引ける。
「うん、雪の精みた〜〜〜〜い(はぁと)」
「うふふ、ありがとう。隊長に誕生日のお祝いに頂いたのよ」
嬉しそうに笑うマリアは、たしかに雪の精のようだ。
「ほらほら、ミミちゃん? そんなところでお話してないで、上がっていただきなさいな」
母親の声がする。マリアは慌ててマントを取ると、挨拶をした。
「あ、あの…本日はお招きありがとうございます」

「いえいえ、ゆっくりしていって下さいね」
「きゃぁぁぁっ☆ ドレスも素敵ぃ〜〜〜〜〜☆」
微笑む母親の横で、例によってミミがじたばたと喜んでいる。ふと見ると、その奥にひっそりと黒髪の少女が立っていた。
「えっと…あなたは?」

「あ、この子は妹のサラちゃんよ〜〜〜〜」
「…はじめまして…」
「あ、初めまして。あの、マリア・タチバナです」
「……」
「あの…サラちゃん?」
「……」
「うふふっ、サラちゃん照れてるぅ〜〜〜〜〜」
「そ、そうなの?」
「うん。サラちゃん無口なのぉ〜〜〜」
「そ、そう…」
「うんっ☆ この間、おね〜さまが来てくれたとき、サラちゃんお出かけしてて、いなかったのぉ〜〜〜。それでね、それでね、サラちゃん凄ぉく残念そうにしててねっ☆ 今日は凄ぉく凄ぉく楽しみにしてたんだよぉ〜〜〜〜」
ミミの良く回る舌が高速回転を始めた。マシンガントークにマリアの目が白黒し始める。放っておくといつまでも続きそうなお喋りを止めたのは、母親だった。
「ほらほら、ミミちゃん? お料理が冷めちゃうわよ?」
「あ、そうだったぁ。おね〜さま、行こっ☆」
マリアの手を取り、二回へと駆け出す。引っ張られていくマリアの後を、静かに、だが恐ろしく早い速度でサラが付いて行った。
暖かい家庭料理と、お手製のケーキがマリアを歓迎してくれた。ミミのマシンガントークに笑わされ、笑いすぎで涙が出てくる。サラは無口で無表情だが、料理を取り分けたり、飲み物を持って来てくれたり、と、かいがいしくマリアの世話を焼いている。二人とも、本当にマリアを慕っているらしい。暖かい家庭で育った、仲の良い姉妹だ。その輪の中に、いつしかマリアはすっかりとけ込んでいた。
こんな雰囲気を味わうのは、両親が存命の頃以来だ。ふと、マリアは涙ぐんだ。
「どうしたの? おね〜さまどっか痛いの?」
「いいえ、なんでも…ふふ、ミミちゃんがあんまり笑わすから、お腹が痛いわ」
「もぅっ☆ おね〜さまいぢわるねっ☆」
笑いながらミミが抱きついてくる。優しく頭を撫でていると、なんだか本当にお姉さんになったような気がしてくるから、不思議なものだ。ふと見ると、サラがじっとこちらを見つめていた。
「どうしたの? サラちゃん?」
「…」
相変わらず表情に乏しい黒い瞳が、じっとマリアを見つめている。マリアはなんとなくピンときた。
にっこり笑いならがら、膝を叩く
「いらっしゃい」
「…」
「いらっしゃい、サラちゃん」
サラがおずおずと膝に頭を載せた。絹のような黒髪をそっと撫でる。少しくすぐったそうに身じろぎしていたが、サラはすぐ大人しくなった。一辺に二人の妹が出来たような気がした。暖かいものがマリアの胸に流れる。
柔らかい時間が、ゆっくりと流れていった。
「ねぇねぇ、おね〜さまぁ」
「なに?」
「おね〜さま、サラちゃんのドレスも似合いそぉ〜」
「えっ…?」
「ね〜ね〜、サラちゃんもそう思うよね〜☆」
無言でサラは激しく頷いた。
「おね〜さまぁ、着てみてぇ?」
「え…え? え?」
さらり、と衣擦れの音がする。サラがドレスを脱いでいた。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜っ?」
すかさずミミがマリアのドレスを脱がす。気が付いた時には、しっかり着替えさせられていた。
「きゃぁ☆ 素敵ぃ〜〜」
「あ、あのねミミちゃん…」
「ねねね、そっちに座って? 写真撮りた〜い」
「あ、あの…そのドレス…」
「大丈夫ぅ〜皺にはしないから〜〜〜〜」
強く頷く下着姿のサラと、ミミに迫られるマリア。何となく迫力負けをしてしまった。
「う…お、お願いね」
「うんっ☆ さ、おねぇさま〜、そっちに座って?」
「あ…えっと、こ、こう?」

「いやん、素敵ぃぃぃ(じたばた)」
「ちょ、ちょっとミミちゃん、落ち着いて…」
「あ、次はこっち着て? お願いぃ〜〜〜」
服を差し出すミミと、くしゃみをするサラの無言の圧力。再びマリアは負けた。
「わ、分かったわ…」
着ようとしてみたが、この服にはボタンがない。
「み、ミミちゃん? その、これ、ボタンがないんだけど…」
「あ〜、これはね、こうするのよ…。これねぇ、日本の衣装なの〜〜〜」
日本…母さまの国…マリアは一瞬遠い目をした。気が付くとすっかり着付けが終わっている。
「『ミコサン』っていって、神様に仕える女の子の衣装なんですって☆」

「へぇ…あ、サラちゃん、どうもありがとう。早く着なさい、風邪ひいちゃうわ」
こっくりと頷くと、サラはドレスを着込んだ。その横では、ミミがマリアの写真を撮りまくっている。やがて、満足したのか、ミミはため息をついた。
「えと…もういい?」
「うん。…あ、ねぇねぇ、おね〜さまっ☆」
「なな、何?」
「ミミちゃんもおね〜さまのドレス着てみたい〜〜〜〜」
「えぇっ!? え、えっと…」
「ねぇねぇ、いいでしょぉ? 汚さないからぁ〜〜〜」
三度、きらきらの瞳で迫るミミ。マリアはやはり負けてしまった。
「い、い、いいわよ、うん…だけど、その、大切なお洋服だから…ね?」
「うんうんうん、分かってるぅ♪」
あこがれのマリアの服を着て、はしゃぐミミ。マリアは隊長からもらった洋服が、どうにかなるのではないかと、気が気で無い。そこへ母親が上がって来た。
「あらあら、お洋服まで取り替えて…たのしそうね?」
「あ〜、おか〜さ〜ん☆ 見て見て、似合う〜〜?」
「えぇ、とってもお似合いよ。ありがとうございます、マリアさん」
「え、い、いえ…」
「三人仲良くしてるところを、撮ってあげましょうか?」
「わ〜い撮って撮ってぇ☆」
はしゃぐミミとさっと寄り添うサラに挟まれ、マリアは写真を撮る事を余儀なくされていた。まったく、ミミペースで事が進んで行く。
「はい、チ〜ズ」

この記念写真を最後に、衣装交換会は終わり告げ、マリアはほっと安堵のため息をついた。そのあと、アクセサリー類などをプレゼントされ、お礼を言ってミミの家を後にする。
帰り道、紐を結ぶ事で着る、奇妙な服を思い浮かべた。
「母さまの国の服…『ミコサン』の服…」
空を仰ぐと、寒さに澄み切った空気が、宝石のような星くずをはっきりと映している。いつか、自分も母の国へ行き、あの服を再び着る事ができたら…。そんなたわいもない想像が、マリアの表情を明るくしていた。
fin.


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