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『バスルーム』
服を脱ぎます。
窮屈な制服を脱ぎます。
ベストから下着まで、わたしの手で四角く折りたたまれて重なっていきます。
全裸になります。
全裸のわたしが大きな鏡に映ります。
そこにはさして怒るべきところはありません。
シャワーを浴びます。
鏡は髪が濡れて顔にへばりつく様も見逃しません。
そこにもさして怒るべきところはありません。
シャンプーに手をかけます。
白い蛍光灯の下にシャンプーもボディソープもくっきりと見えます。
わたしもくっきりと見えます。
そこにもさして怒るべきところはありません。
髪が泡立ちます。
客観的に見てわたしの頭はマーブルになります。
白い泡と真っ黒い髪がまじりあうからです。
白と黒は対照的だと思います。
そこにもさして怒るべきところはありません。
日常です。
いつもシャワーを浴びます。
でも今日は違いました。
少し悲しかったのです。
スイッチを押しました。
バスルームには窓がありません。
閉ざされた空間です。
真っ暗になりました。
少しほっとしました。
蛍光灯はもう見えません。
ほとんど何も見えません。
ほとんど?
目が慣れてくるとまだシャンプーが見えていました。
少し不安になってひかりを探します。
除湿機が作動していました。
運転の文字がひかって浮き出ています。
ボタンを押します。
ひかりが消えます。
胸をなでおろします。
ほとんどまったく何も見えません。
ほとんど?
鏡を見るとまだわたしがいました。
恐くなって残りのひかりを探します。
小さなひかりがまだ何個もありました。
このバスルームには光が多すぎることに気付きます。
さあ真っ暗です。
鏡には何も映りません。
それどころか鏡がどこにあるのでしょう。
黒しかわかりません。
黒しかないのです。
黒以外に何があったのかわからなくなりました。
なにも見えません。
全てが等しく真っ暗です。
そう、これは闇でした。
大きな息をつきました。
安心したからです。
目を閉じます。
真っ暗です。
目を開けます。
真っ暗です。
何も変わりません。
まばたきをしてみます。
何も変わりません。
何回もまばたきをしてみます。
自分が目を開けているのか閉じているのかわからなくなりました。
手を伸ばします。
右手の先には扉があるはずです。
見えません。
左手の先には壁があるはずです。
見えません。
ここがバスルームの闇なのか、永遠に続く闇なのかわからなくなりました。
周りを見まわします。
前を向いても闇です。
後ろを向いても闇です。
立って見ても闇です。
しゃがんで見ても闇です。
前も後ろも上も下もあいまいになってきました。
自分が立っているのかしゃがんでいるのか、本当に首を動かしているのかわからなくなりました。
てのひらを見ました。
てのひらは見えません。
てのひらがあるのかわからなくなりました。
わたしがあるのかわからなくなりました。
わからなくなっていきます。
気付くとさっき脱いだ制服が積まれています。
背中でスイッチを押してしまったみたいです。
怯えた顔のわたしが鏡にいます。
とてもほっとしました。
そのことがとても悔しくて泣きました。
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