機械式時計のチェックポイント

〜 知ってると得するかも 〜

 機械のレベルを判断する上で重要なのは”機械の仕上げ”といわれます。その中でも特に重要視されるのは”脱進機の種類”と”テンプ周囲の構造”でしょう。”脱進機の種類”については、さくだいおうの『機械式時計研究会』に詳しく掲載されているのでそちらにゆずるとして、”テンプ周囲の構造”について解説します。ではどんなところに注意すれば良いのでしょう?

 基本的には、”手の込んだ仕上げ”が沢山あれば良いのです。例えば地盤はペルラージュ装飾、ブリッジはジュネーブウェーブや金張り、パーツの一つ一つが見えない裏側まで丁寧に研磨されている等です。しかし販売している品物を分解させてくれるわけはないし、分解出来る技術も無いので、裏側まで磨かれているかどうかなんてその場で判断出来るわけが無いし。達人レベルになるとガンギ車やハンマーの”えぐり”でピンとくるらしいのですが、ビギナーにはそんなことはおろかガンギ車ってなに?から始まるのだから、そんな方々のために少しでも分かりやすく解説してみたいと思い、見た目に分かりやすい箇所を取り上げてみました。収集する際の一助となれば幸いです。

 『機械式時計研究会』の機械式時計の基本15番、OVHご案内編に『ネットで分解やろうよ』があり、順番に分解しながら各部品の名称や役割りを説明してあるのでそちらも参考にされながらお読み下さい。

 

<1:緩急系>

 緩急計はヒゲ挟み(針様のものと反対側にある)の位置を変える為にありますが、ほんの少し動かすだけでヒゲの相対的な長さが調節され進みや遅れが著明に変化します。スワンネック等のマイクロレギュレーターは、ヒゲ挟みの位置をさらに「微妙」に変える為にあります。これにより日差10秒以下まで調整出来るようになっているのです。これを更に発展させ、数秒単位まで出来るようにしたのがパテックの特許”ジャイロマックステンプ ”です。

ストレートレバータイプ

 一般によく見られるタイプでテンプ受け石の周囲から針のようなものが1本出ているタイプ。先端と反対側(アンクル側)にヒゲ挟みが付いている。

例)バセロンデテント、アガシフルハンター

スワンネック式マイクロレギュレーター

白鳥の首のようなカーブを持った金属とネジで調整するタイプ。微調整しやすい。

例)クロノメーターロワイヤル、ロンジン、トーションスプリット、J.W.ベンソンミニッツ、

スワンネックタイプ2

例)グルエン50周年記念モデル

ウオルサムパテントマイクロレギュレーター

アガシパテントのカム式マイクロレギュレーター

スワンネックタイプと基本的には同じも、ネジではなくカタツムリ状の金属板を回転させて調整する。

例)アガシスプリット

一般的にはパテックのクロノメトロゴンドーロが有名

 上記のスワンネックのような緩急系が付いている時計は、一般的にグレードが高いです。ここで特に注意したいのはスワンネックが元々ないタイプなのか、あるいはなんらかの理由で取り外されたかです。スワンネックを取り外した痕跡(テンプ受けブリッジに小さな穴が1つ2つ開いている)が無いかを要チェックしてください。→ ポイント1

 また上記のスワンネックやマイクロレギュレーターの中心部(テン輪受け石の横、ヒゲ挟みの90度横)に”髭押さえ”(吊り髭持ちとも言われる)が見えますが、ここに止めている髭の角度や、天真に向かっての深さを微調整出来るので『髭押さえの2本ビスは高級の証だ!』と言われています。→ ポイント2

 

<2:パラシュートサスペンション>

ブレゲの発明した耐震機構1950頃より前の耐震機構として唯一のもの。

例)ブレゲ工房系クォーターリピーター、『機械式時計研究会』のアーノルドアダムス作超絶テンプJ&Lさんのキャプテンウォッチ

 

 このパラシュートサスペンションは、果たしてどれほどの効果があるのか、落とし比べをして調べたわけでは無いので解りませんが、”天真折れ”に対して考案された非常に手間とコストのかかる機構なので、これがあれば他の部分もそれなりに良いだろうと言う”間接的”な一つの目安としてください。

 

<3:ガンギ車受け軸等の金属プレート>

 上2つの写真の左側にアンクルと直接かみ合うガンギ車という部品があります。そのガンギ車を受ける軸等に、金属板が付いているのが判るでしょうか?左の写真では黒ずんで写っており、右の写真では銅色に見えるところです。これは注油した油を保たれやすくし、激しい動きをするガンキ車やアンクル受けの摩擦を減らすのに効果的なのです。右の写真では2つのダイヤ受け石の間にあるアンクル受け軸も同じ色をしているのが判りますね。→ ポイント3

 ちなみに当時からルビーよりダイヤが貴重とされていたので、受け石にダイヤを用いたものの方が少ないです。またサファイヤを用いたものもあります。

 

<4:シャトン止め>

上: プレミアマキシマス

右: アガシフルハンター

 各輪列軸受け石の周りにシャトンという部品を配置し、ビス止めしているモデルがあります。これは1800年代は工作精度が悪かったので、石の位置を微調整する為に用いられていた様です。1900年代前半からは、工作精度が向上したので微調整する必要性がなくなり廃れていったようです。→ ポイント4

 右上の写真には輪列が写っていますが、これら輪列が金無垢で出来ているものを特に”ゴールドトレイン”と呼びます。それ自体も一つのポイントですが、ガンギ車(右上のギザギザが大きい歯車のこと)が金無垢で出来ていると非常にポイントが高いです。

 

 今回取り上げた項目はあくまでも”1つの目安 ”です。例えば最初に紹介したストレートのみの緩急系でも脱進機の種類によってはスワンネックの付いているものより精度が高く、高級なものもあります。例えばデテント脱進機が登場したころは、マイクロレギュレーターが無かったので、ノーマルのレギュレーター(バーのみ)仕様が多いはずです。また精度が高ければ、レギュレーターが存在しないのもあります。ハワードのサファイヤモデル、さくだいおうさんのトーマス・ラッセル・サンドクターJ&Lさんのスプリングデテントなどです。つまり、今のパテック腕時計がジャイロマックスのみで、レギュレーターが無いのと同じですね。

 その他にも温度変化に対応する目的で改良されてきたテン輪の材質と形、慣性モーメント絡みの問題解決にチラネジの材質、アンクルの平行錘(矢印型等)やムスターシュ型などいろんな要素が挙げられますが、手持ちに十分な材料がないため持ち越しとします。収集しましたらアップしますね。

 最後にページの作成にあたり、数々の御指導を頂いたJ&Lさんに深く感謝致します。