昨年の暮れに教育テレビで20世紀の名演奏という番組でいろいろな演奏家の名演奏を放送していたのを御覧になった方も多いかと思います。その中でカール・ベーム指揮のウィーンフィルのレオノーレ3番の序曲のあのフルートの有名なソロを吹いていたのがウェルナー・トリップ教授でした。私は理屈抜きにこれがフルートの本来の音だと文句なしに感動しました。そんなトリップ教授にまつわるお話です。
ある日本の音楽大学はウィーンに宿泊施設とレッスン室がある分校のような施設があって4年生になるとそこに2週間ほど滞在してウィーンの先生のレッスンを受けられる制度があるそうです。フルートの先生は先程のトリップ教授。今でこそ引退していますが現役の頃はウィーンフィルの看板奏者の一人でした。そのトリップ教授のレッスンを実際に受けた学生さんから話を聞きました。
その学生さんは当時日本の先生から強制深呼吸を強制されていて、なおかつブレスの際には下あごを動かさず上唇をめくるようにブレスをして吹いていたそうです。それをを見たトリップ教授は「少し前かがみになって吹きなさい」「ブレスを取るときは下あごを下げて吹くときには下から閉じなさい」「低音は唇を横に引きなさい」というようなレッスンをされたそうです。私はこれを聞いて思わず「なんだ全てつじつまが合うじゃない」と思いました。「少し前かがみになって吹きなさい」は強制深呼吸の人は下腹を突きだしてそっくり返ったような姿勢になりますからまずそれを直そうとしたと考えられます。「ブレスを取るときは下あごを下げて吹くときには下から閉じなさい」は喉を自由にし、また頭声バランスに入るためには不可欠です。「低音は唇を横に引きなさい」は強制深呼吸の場合低音は開き過ぎますから口角を引くことによって声門を閉じる作用を狙ったと考えられます。すべてベルカントモードと矛盾しないどころか全く一致しています。やはり名人はすごいですね!