第19話
歯のコンプレックス
ある歯科医師のページに「金管楽器演奏に有利な歯並びは?」というのがありました。
私は反対咬合、いわゆる受け口というやつで、おまけに歯列の段差もかなりあるでこぼこで、かなり不利な条件のようです。
また別の歯科医師で、管楽器奏者のための治療を手がけているという方が、私が大学生だった頃、大学に講義に来られました。その時の内容はほとんど記憶にないのですが、その後その先生は本を出されたのでおおかた本と同じ内容だったと思います。前歯に段差があるとバテの原因になるとか、アダプターをはめるとそれを解消できるといったようなことでした。その本には私のように反対咬合の方がアダプターを付けたら調子が良くなった様なことも書かれていました。
当時の私は基本的には耳と勘だけでなんとか吹いていたので、好不調の波がものすごく激しい状態でした。そして調子の悪い時ほど「やっぱり反対咬合だからか」と歯のせいにしようとしたことがありました。自分の咬合にコンプレックスを持っていたわけです。
しかしそうは考えても例のアダプターを付けようという気持ちにはどうしてもなれませんでした。確固たる理論を持っていたわけではありませんが、そんなもの付けても「もともと出ないハイトーンは出ないだろう、演奏中に万が一破損でもしたら終わりだ」などと私の勘がそうさせなかったのですが、今思えば勘は大正解でした。
当時私はP.ファーカスが言っているような理由ではありませんが、上下の歯をそろえようと必要以上に顎を下げて吹いていました。顎が下がればどうしても唇のすき間も広くなりますので粘膜振動に頼ってしまいます。藤井先生に相談したところ受け口だろうが、何だろうが顎関節には余計な負担をかけずに普通のまま使えばよいということはわかりました。そこで上下の歯の隙間も小さくしようとしましたが、それだけではうまくいきませんでした。顎の位置や歯の隙間から考えてもいっこうにうまくいかなかったのです。理由は一言で言えば、喉の位置が地声ポジションにあったからです。もし喉が開いていない人がクラシック、特にオーケストラなどをやろうと思えば、反対に歯のすき間を大きく取ろうとするかもしれません。特にホルンなどではそれらしい音がしないので、そう考える人がいるかも知れませんね。
ベルカントモードのトレーニングを積んで、「歌うように吹く」ことをコンセプトにした結果、私はその長年の歯のコンプレックスから完全に開放されました。母音の位置が声楽発声の位置で吹けるようになるにつれ、気が付いたら歯のすき間は狭くなり、顎もほぼ平常時に近い(奥歯を噛んだ状態からほんの少し離れただけ)状態になっています。咬筋の働きも重要なのがよくわかります。
現代はいろいろな情報が簡単に手に入りますが、それを判断するのは自分ですよね。歯を矯正したり削ったりして上手くなると思う方はやればよいと思います。歯のせいにしてしまえば自分は努力しなくていいですからね。
でももし失敗しても歯科医は責任とってくれないでしょうし、「あなたの練習が足りないからです」なんて言われても後の祭りですからね。