今年ドーバーに挑戦した藤田さんの手記。
「ドーバーを泳ごうと思った“きっかけ”」が感じ取れます。

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 海を泳ぐ楽しさ

 昨今の水泳界では「OWS」が静かなるブームになりつつあります。「OWS」とは、Open Water Swim の頭文字を取ってできたもの。すなわち「オープン」、「開かれた」とか「境が無い」とかの意味で、そのような生きた自然の水の中を自在に泳いでレースをしてしまおうと言うニュースポーツです。
 距離としては800mで短め。ちょっと長いと3,200m。超長距離級になると、50,000mのOWSレースもあるそうです。
 1998年、私の水泳仲間に「熱海で3,200mのOWSレースがあるので、出ませんか?」と誘われたのが、海で泳ぐ楽しさ、OWSを知ることになるきっかけでした。
 学生時代、水泳部だった現役の頃、バタフライと自由形を専門種目にしていた私は、社会人になってからも毎年7月に行われるジャパンマスターズに出場していましたが、好みはやはり長距離泳なので800mや1,500mの自由形にも出場しておりました。しかし、この当時は長距離泳の大会数が少なく、遠く北海道まで大会求めて出かけたりしていました。海でのOWSレースがあるなんて、友達に誘われるまでまったく知らなかったのです。
 このレースに参加するまで3,200mと言う距離を続けて泳いだことは一度もありません。熱海のOWSの話を聞いたのが4月。5月には申し込み完了。そして7月には、「3,200mを泳ぐ感覚」を、いつも泳いでいるプールで練習していました。
 生まれて初めてのOWSレース。胸が"ワクワク"、"ドキドキ"してきます。レース当日、周囲にいる人が「とても速そう・・・」に見えてきます。「完泳できれば良い・・・マイペースで泳ごう・・・」と決意したのでした。
「ヨーイ ドン!!」の号砲でスタートを切り、バシャバシャと走って海に飛び込み、泳ぎ始めた瞬間、「何よ、これぇー!!」とビックリしました。隣を泳ぐ選手とぶつかるのです。殴る、蹴る。中には隣の選手のスイミングゴーグルやスイムキャップを剥ぎ取る人まで出る始末・・・。
 普通、プールで行なわれる競泳大会は、1レーンに入る選手の数は1名で、隣同士の選手がレース中に接触などするわけがないのです。規則でもレース終了前に隣のレーンに入ることは禁止され、誤って入ったとしても「失格処分」になります。また大きな長水路(50m)のプールで横幅が最大でも9レーン。すなわち、スタートする人数は最大でも9名までです。
 ところがOWSではレーンを分けるコースロープなど張ってあるわけもなく、時には100名以上の選手が入り乱れての同時スタートです。スタートからして肌と肌が触れ合う・・・。もっと驚いたことに、泳いでいるときは肉体と肉体がぶつかり合う、まさに「肉弾戦」のスイムレースなのです。
ビックリはしましたが、負けず嫌いの私はその中で前のスイマーを抜かすは抜かすは・・・。
 OWSレースはプールの競泳大会とは違う・・・。スタート前の「完泳できれば・・・」なんて言う"しとやかさ"などどこ吹く風。何しろ初体験だったもので、始めの頃は「あっ、しまった。触ってしまった。ごめんなさい、悪気はありません」などと、それでも遠慮気味に考えていたのですが、1周800mを4周するこのレース。後半に入ってくると周回遅れの選手ともぶつかってきます。すると「何よこの人!! もう少し離れて泳いでよ!! 泳ぎにくいじゃん!!」などと、自分自身があきれるような、知らなかった自分がそこにはいるのです。新たな自分を見ることが出来ました。自身の開拓と発見です。
 レース中は選手同士のぶつかり合い、抜きつ抜かれつの肉弾戦。その相手の人数も数知れず。顔は参加選手全員がスイムキャップとスイミングゴーグルで隠しているので、わからないのです。判断の頼りは腕に書かれたゼッケンナンバー。その他には水着の色や柄くらいでしか判断材料がないのです。
 結局いっしょに泳いだライバルは、レース終了後の陸に上がったときにしか、その風体やお顔などを知り得ることはなく、しかもそのライバルがどう見ても私より年配の方だと、「げ-------すごい!!!!」と感心し、「今度こそは負けられない・・・」と思うのでした。
 OWSレース初体験。知り得なかった自分自身の発見。そしてライバル。このとてもおもしろいレースを知ってから、「OWS」と見聞きすると、なぜか胸が"ムズムズ"するのです。以来、私はOWSレースのトリコになりました。
 マスターズ&オープンウォータースイマーのための情報誌、月刊「ドゥ スイム」に出会ったのは、そのような頃でした。「私と一緒のようなスイマーがいるんだ・・・」と嬉しくなり、毎月郵送されてくる「ドゥ スイム」が楽しみで、「まだかまだか」と待っていました。そしてその雑誌を読みながら、「今度はどのレースに出ようか・・・」と考えていた日々が続きました。
 1番嬉しかったのは、ドゥ スイムの郵送を「今か今か・・・」と待ち望んでいた12月のことでした。「今月は来るのが遅いなー・・・」と毎日郵便受けを見に行っていた矢先・・・、なんと24日の夜に届いたのです。「サンタさんの贈り物だ!!」と思い、嬉しくって嬉しくって涙が出てきました。
 グアムのレースに出られたのは、このドゥ スイムの情報のおかげです。海外旅行も初体験で、とても緊張しました。ココスからグアムまで(3,500m)のレースで、スタート地点のココスまでは、他の選手と一緒に船での移動です。みんなは友達同士で話しをしています。私は1人、「いいなぁ、みんなと同じように私も話しをしたい・・・」とは思えど、緊張しっぱなしでとても話せない状態。でも、どんなスイマーがいるかはチェックしていました。表情、体格、日焼け、持ち物、着こなし、振る舞い、会話の内容などなど・・・。だって私は敗北を味わいにわざわざグアムまで来たわけじゃない。
 スターターの篠崎(日本を泳ごう委員会:このレースの企画団体)代表によるピストルの号砲で老若男女入り混じっての同時スタート。いざグアム島へ。
 2人の男性に囲まれ、私は2,000mぐらい泳いだろうか? 頭を叩かれたり(わざとじゃない)隣のスイマーの作る波やしぶきで海水を飲んだり、抜きつ抜かれつを繰り返したりでたいへんでした。しかし3人で作る洋上バトル泳などなど・・・。泳ぎつつもいろんな場面が繰り返し、そのドラマがこれまたとてもおもしろいのです。
「ゴールしたらどんな顔か見てやる!」と、泳ぎながら腕に書かれてあるゼッケンナンバーと水着を覚えました。しかしグアムが近くに見えてくるにしたがって、自然と3人が離れて行ってしまったのです。それからは自分のペースになり、縦縞や横縞のお魚、カラフルな熱帯魚を見たりで、のんびり楽しんで泳ぎました。
 しかし1人で泳ぐのはとても不安ですね。「私の泳いでいる方向はあっているのか?」とか、「周囲のスイマーたちは先に泳いで行ってしまったのか・・・」とか・・・。前のスイマーのしぶきも見えなかったのです。
 ところがこれがまた不思議。さっきまで一緒に泳ぎ、「その後、行方不明・・・」と思っていたスイマーがまた隣に泳いでいるのです。「ウワォー!!」と思いながら、再び2人のバトル競いが始まり、ゴールを目指しました。
 立てる浅瀬まで着いたのは良いのですが、「立とう」と思っても膝や腰がガクガクしてしまってすぐには立てません。サポートの外人さんに少し手を引いてもらって、やっと歩ける状態。そしてゴールイン。
 周囲からの歓声がとても印象的でした。
 ゴール地点で私は最終スイマーの到着を待ちながら、完泳し、上がってくるスイマーにねぎらいの声を掛けていました。そして最後に感動したドラマがあったのです。それは最終スイマーが仲間のスイマーに連れ添われながらゴールしたシーンでした。
仲間「最後まで一緒に泳ぐと約束したじゃないか! よくがんばったね! おめでとう!!」
最終スイマー「本当に完泳できて良かった! ありがとう!」
 2人は抱き合い、そして泣きながら喜んでいました。もうもらい泣きで私は涙があふれ、そのシーンがにじんでよく見えません・・・。そして仲間がいるうらやましさを実感したのです。
「本当に良かったね。おめでとう!!」と、うらやましさと同時に素直に最終スイマーをたたえることができる自分がそこにはいたのです。
 OWSレースでは、このようなドラマを幾度か見ることが出来ます。「レース」とは言えど、勝つだけが目的ではないんだ・・・。完泳を目的にした最終スイマーに、「レースに参加する意義は?」と、またひとつ何かを教わった気がしました。
 近代オリンピックの創設者、クーベルタン男爵の言葉を思い出します。
「オリンピックは勝つためにあるのではない。参加することに意義があるのだ」
 昨今の競技スポーツは、クーベルタンの言葉に対抗し、「勝つため」だけを求め過ぎている気がします。「勝つため」だけを強いられて育ってきた競泳選手時代・・・、残念ながらこういうドラマをプールで味わったことはありません。
 その後も私は今に至るまで、いろいろなレースに出場して、いろいろなスイマーにお会いしました。そこにはそれぞれに数え切れないほどのドラマがありました。そしてこれからも私のドラマは続きます。
「海で泳ぐ楽しさみんなに伝えたい・・・。真のスポーツの意義と参加する楽しさを知ってもらいたい・・・」
「アホな奴だ」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、私は海で泳ぐのが好きです。仲間も大好きです。そしてこれからもどこまでも泳ぎ続けて行きます。
 皆さん、どこかの海で私に会ったら気軽に声をかけて下さい。そしていっしょに泳ぎましょう。いつまでも、どこまでも・・・・。

2002年10月末日
藤田美幸



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