遠泳入門
「黒潮旅泳」の抜粋です。
これから海を泳ごうと言う方には必見です。

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 遠泳入門

 海峡横断など少し大袈裟な遠泳を行なうには、次の三つのステップから進めていく。

 第一ステップ。計画書作りである。
 このためには泳者の能力を高めるトレーニングを充分に行なうこと。そして、泳者の能力に合った海の選択である。泳者の能力が高まるに連れ泳ぐ海の選択数が増し、逆に海が決まっていればその環境に合わせたトレーニングが必要になってくる。
 泳者のトレーニングは科学的に、且つデーターを出すこと。同時に泳ぐ海のデーターを入手し、双方の特徴を考慮した上でいつ、どこで、誰が、何を、どうするといったシミュレーションを制作する。また問題点を探っておく。
 次にこのシミュレーションを基に具体的な遠泳の方法と安全対策を明確に列記する。
 例えば鮫など泳者に危害を及ぼす危険性のある魚類が現れた場合の対応、大型小型を問わず他の船舶が接近して来た場合の対応、泳者を含むスタッフの病気やケガの対応、夜間の航行がある場合の対応、陸上との連絡確保、遠泳の中止、休止、コースの変更等の基準、監視者などスタッフの役割分担、問題点の対応等きちんと整理する。
 こういったシミュレーションや安全対策は裏付けが明確で、どんな相手に説得するにも充分満足出来るものでなければならない。従って計画書には、動機及び目的、具体的な方法(泳者、海象などデータも含む)、安全対策、乗船名簿、連絡網等、簡潔明瞭に記載されていること。

 次に第二ステップ。必要な伴走(監視)船の確保、関係各所へ計画書の届け、許可申請など。
 伴走船は泳ぐ目的に充分合ったもので、且つ合法的なものでなければならない。つまり大き過ぎても小さ過ぎても伴走には不向きである。また船舶には法律で航海区域が定められており、泳ぐ海域がその区域の内でなければならない。
 経験上から言うと、大きめの小型船舶(容積が一0トン未満)でパイロットは地元の漁師が良いと思われる。その方が潮にも詳しいからだ。また陸上との連絡を確保する上で漁業無線の利用も考えねばならないから、地元漁業協同組合に依頼して探してもらうのが一案であろう。
 関係各所、つまり管轄する海上保安部、警察署、消防署(救急)、定期航路を持つ海運会社などに届けておく。場合によっては(港内とその付近等)許可が必要な事もある。ただ病院の場合、救急隊が選択するので届けても意味をなさない場合が多い。従って、届けた方が良いと思う者は届ければいいだろう。
 海上保安庁は立場上、『指導』という名目でいろいろと重箱の角を突くような嫌がらせ(?)をしてくることが多々ある。がしかし、それは出来る範囲で対応することにして、全てが総て指導通りに出来ない場合がある。この無理難題には「出来ません。」とはっきり言おう。

 最後に第三ステップ。協力者を得る。
 地元の役所、関係するであろう個人または法人、マスコミ等に届けて必要な協力者を求める。
 以前に同じ海域を泳ぐなど、同等の企画を行なった個人若しくは団体がいたら、そこからの情報を得よう。それは生きた情報だ。それが見付からなかったら、トラジオンに聞け。お金は無いが、石井はニコニコしながら協力するだろう。
 例えば中々首を縦に振らない海上保安部も、鶴の一声ではないが有力者の一声で、スーッと話が通ってしまうことがある。思わぬ余禄が手に入ることさえある。ただし協力者が現れても頼ってはいけない。あくまでも補助程度に留め、自分でやるぞという心構えが必要不可欠だ。時として協力者やマスコミに振り回される危険性もあるので、充分注意しなければならない。そして、大きな声で「NO。」と言える勇気も必要なのだ。
 一つのことを成し遂げるのにたくさん協力者が必要だ。ただ、協力者はあなたと同じ感動を味わいたいと思っている。それに応えるのは『前向きの努力のみ。』と知ること。
 ここまで終えれば、その遠泳の九0パーセントは完了と言って過言ではない。あとは実際のトライに望むばかりだ。遠泳は時の運。結果の善し悪しや思わぬ方向へ行ってしまうことも、神のみぞ知るというものだ。しかしこれが遠泳。大自然の中へハダカ一貫で飛び込んで、全て計画通りになったらとうの昔にぼくは遠泳を止めていた。何が起るか分からないところに期待、不安のハラハラ、ドキドキ、ワクワクがある。
 遠泳の出発とは、終着駅のあやふやな列車の見込み発車みたいなものだ。
 『百里歩む者は、九十九里をもって半ばとす。』
 一00パーセントしか信用出来ない者は遠泳などおやめなさい。
成功への九0から九十九パーセントの間に遠泳の醍醐味がある。



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