| 酒のある書斎 ー 三題噺作品集 より これはFSAKE(酒とバッカスのフォーラム)−現在)FSAKEB(楽酒館)−で1995年に毎月お題を出して三題噺を投稿するという企画があり、それに参加したときの作品です。 課題は毎月二つ+「酒にかかわる何か」で三つ。 1月「チョコ・猪口」2月「もも、パンティ」3月「花、カラオケ」4月「本、誕生日」 5月「青葉、初がつお」6月「らっきょう、ほや」7月「花火、心太」8月「天災、口紅」 9月「月、衣被」10月「小春、蕎麦」11月「映画、おでん」12月「日記、苗」 ジャンルは小説、詩、俳句、川柳、短歌、エッセー、コント、で必ず課題の3つを入れる こと。ボードリーダーKAORU先生の独断厳正なる審査による評価が行われました。 わたしは10月を除いて毎月応募し優秀なる成績をいただきました エヘヘ\(^o^)/ 作品応募開始が告知された翌日の未明に、あの呪うべき阪神大震災が起こったことと ともに忘れられない想い出になりました。 (睦月)「猪口、チョコ」 短歌 二日酔に効くと信じて板チョコを 齧りつつ呑む猪口の菊姫 川柳 チョコ色のカクテル九谷の猪口で呑み (如月)「もも、パンティ」 都々逸 パンティの上からもも引きはいて 白酒飲んでるギャル御輿 川柳 桃太郎縞のパンツの鬼ころし 小説:[お伽噺 桃姫の鬼退治] むかしむかし、あるところに、えっちなじいさんがおったそうな。じいさんはばあさんのいいつけで、川へパンティの洗濯に行ったそうな。すると、川上から大きな桃がドンブラコと流れてきたんじゃと。じいさん喜んで桃を家へ持って帰り、ばあさんに包丁出せというたが、貧乏でそんなもんありゃせんというので、長年使ったこともなかった自慢のスリコギを出して、桃の割れ目のここという場所にあてがってすこしばかりこすると、あらま不思議やな桃がパッと二つに割れて、それはそれは可愛い玉のような女の子が生まれたんじゃと。よかったのう。 桃から生まれた桃姫は、じいさんに可愛がられてすくすく育ち花も恥じらう年頃に。じいさんの晩酌相手をするうちに腕が上がって、娘だてらにひとかどの酒通になったそうな。そんなある日のこと、桃姫のいうことにゃ西の方には美酒覧島というおいしいお酒のたんとある島があるそうな、ぜひ行かせておくんなましと何処で覚えたのか廓言葉で掻き口説いた。じいさんこれには弱いわな、ヨッシャヨッシャと送り出したんじゃと。よかったのう。 道々、桃姫の色気に釣られて、ひらかな組系ふたもじ会とやらいう強そうな連中が、お供させてくださりませとゾロゾロついてくる。やがてとある浜辺に来てみれば、海銅鑼丸という壊れかけた廃船に沖のかもめが一羽、羽を休める侘びしい風景。ところがなんと桃姫がかの廃船に飛び乗るやいなや、あらま不思議、桃姫の姿はたちまち謎の美少女船長と一変し、ボロ船は絢爛豪華を誇る日本郵船飛鳥かと目を疑わんばかりじゃった。 よかったのう。 かくて船は出ていく美酒覧島へ。上陸せんとかなたを望めば、かの島の酋長こそは魔苦大王とその名を知られた顔面ひげもじゃの怪人なり。妖しき船影よと厳戒して迎え撃つ 手にはピカピカ光る七つ道具を持ち、手下どもは越前蟹のごとき大鋏を振り回す。海銅鑼丸の面々口だけは達者じゃが、これ見てたちまち戦意喪失、われさきに逃げんとするを見た桃姫、何思いけん、矢庭にパンティするりと脱ぎ捨て、指先にてつまみあげ魔苦 大王の鼻先にヒラリヒラリと振り回す。その姿いとやんごとなし。この時一陣の風起こり 桃姫の桃色のパンティから妙なる匂いが流れるや、たちまちにして魔苦大王の軍勢は 萎えしぼみ、桃姫の前に平伏し家来になると誓ったそうな。よかったのう。 こうして敵も見方もなくめでたく一同なごやかに大酒盛りが七日七晩続いたそうな。 そして、美酒覧島にしあわせのピンクのハンカチを張り巡らす日が一日も早く来るように 、みんなで力を合わせようと申し合わせたそうな。それを聞いてた海底にうごめく悪魚 ナマズどもも、酒のお相伴にあずかりこれからはもう決して暴れませぬと固く誓ったという ことじゃて。 よかったよかったよかったのう。 メデタシメデタシ、あれまぁ、もう眠っちまったか>初孫タックン (おしまい) 解説:文中には特定のモデルがありますがどれが誰かはご想像のとおりです。 (弥生)「カラオケ、花」 短歌 −花見オフに行けず悶々として詠める− カラ桶に酒を満たして花びらを 浮かべ呑み干すうたかたの夢 川柳 夜桜や両手にマイクとワンカップ 都々逸 なじみの酒場のうば櫻でも デュエットするうち気分出る (卯月)「本、誕生日」 短歌 −初孫タックンの2才の誕生日に詠める賛歌− バースデーケーキ飾って絵本見て 膝に初孫猪口に「初孫」 川柳 −62才の誕生日に詠める哀句− ムソジ 艶本も媚酒にも立たぬ六十二かな (皐月)「青葉、初がつお」 俳句 初がつを食ふて青葉の宵に酔ふ 都々逸 小料理「青葉」のおかみの酌で 酒は酔鯨初かつを (水無月)「らっきょう、ほや」 短歌 あらっ きょうはお早いのネと擦り寄られ つい呑みすぎるおいらはあほや (文月)「心太、花火」 短歌 酔い醒めに花火見たあと心太 食べたいというかわいいおんな (葉月)「口紅、天災」 俳句 泥酔のジェーン颱風ルージュ濃し 短歌 ワイシャツの口紅のあと咎められ 酔うて誤魔化すこれぞ天災 川柳 復興へ屋台の蔭でルージュ引く (震災神戸所見) アースクエーク 都々逸 ”地震”という名のカクテル飲んで グラスの紅のなまめかし 小説 「スタンプを押す女」 カレンダーは九月。 風はすでにして秋である。 その夜、杉山が残業の帰り、若い友人を無理矢理さそって北新地の酒場「なつみ」の重い扉を押したとき、颱風13号はやがて九州北部から日本海へ抜けると電光ニュースが告げていた。 「逸れたらしいな。まぁゆっくりやろや」若い友人と夏美ママのどちらにともなく声を掛けて、とりあえずビールを呑みだしてからもう2時間になる。友人が時計を気にしだして何となく落ち着きがなくなり、やがて寡黙になった。 「こちら、どないしはったん」夏美の声に促されるように 「すんません、お先に失礼します」と止まり木から弾かれるように飛び出して行った。 杉山が仲人をした結婚の1周年記念日だ。早く帰りたい気持ちも分からぬではないが、俺たちの 若い頃はむしろそんな日だからこそ日付の変わる深夜帰宅をしたもんだ。近ごろの若い奴は女房 に甘くていかん、と夏美を相手に管を巻いていて ふと 「そりゃそうと今夜はヒマやなぁ」と気づく。 杉山たちが来てから3時間近くになるのに、まだ新しい客がない。バイトの美代ちゃんも用がないので帰したらしい。 「テレビ、プロ野球ニュースやってるんちゃうか」 そのテレビに速報のテロップが流れ、颱風が急に進路の向きを東へ振って近畿を直撃という。大阪湾、千里ニュータウンなどからの実況中継が物凄い風雨のありさまを報じている。大阪駅のJR も30分前から止まっているという。 「えらいこっちゃがな。タクシーあるやろか」 「表で見てくるわね」と、夏美が出ていったがすぐ引き返してきて 「あきませんわ。全然ですよぅ」 と、なぜか嬉しそうな甘い声である。 こりゃ、今夜は帰れそうにない。家にどう連絡しようかと、咄嗟に頭がめまぐるしく回転する。 カウンターの端の電話を取って 「いままで残業や。えらい颱風で電車もタクシーもないんで会社の応接のソファーで寝るわ。心配いらん。朝なるべく早く帰るから」 テキの質問の間も与えず早口でそれだけしゃべって切る。さて、一つ解決した。 「そうと決まればトコトン飲もうや。明日は土曜やし」 「ほな、うれしいわぁ」 ニッコリ、その瞳が濡れている。 あらためてグラスを合わせる。カンパーイ。 さて、時計の長針が何回転かして、杉山は醒めた。ボックス席のシートの背を互い違いに並べて寝返っても転げ落ちないようにベッドにしたらしいが、杉山にはいつ、どうして寝たのかその辺の記憶が全くない。靴とスーツは脱ぎ、ネクタイを外しているが、ズボンは着けたままだ。記憶は夏美と乾杯したところでプツンと途切れている。腕時計に目をやると8時40分を指している。慌ててまわりの様子を窺うが、人の気配はない。夏美は夜明けにでもマンションへ帰っていったらしい。 急いで身支度して店を出る。悪いことしたわけじゃないのに、なんとなくうしろめたい気持ちがして 足早になるのが不思議なことのように思われる。 雲ひとつない快晴の朝帰りは妙な気分だな、頭がちょっと重い。シャワー浴びてひと眠りするか、 と思って浴室に飛び込んだ。素裸になって熱いめのシャワーの雨を掛けながら、男性自身の前に 目を当てた杉山の口からウッ という声にならぬうめきがした。 臍のまわりから下、一面に朱色の痣のような色模様が・・・。よく見ると唇を開いた形で五つ六つ あるいは濃くあるいは薄く、いっぱいにひろがっている。 夏美が口紅をつけた唇を下腹部に押し当ててスタンプしたにちがいない。その行為に従事してい る姿を想像して、杉山の頭の中には甘い電流が走った。 橋の下をたくさんの水が流れて去った。その後、「なつみ」には幾度となく行ったが、夏美は何事も なかったかのようにそのことに触れることがない。女というものは怖いものであり偉いものであり可愛いものであるという、杉山の信念はますます堅固なものになるばかりである。人生って難しいものなんだなぁ。 カレンダーは九月。 ことしも、風はすでにして秋である。 明日あたり、「なつみ」に行ってみようかと思う。 (完) <あとがき> きょう九月二日、山口 瞳さんの告別式が東京国立市の自宅で執り行われました。 この駄作は、鰻の蒲焼きの匂いで飯を食う式に、山口ブシの匂いの真似事をしてみたつもりです。 人生これ合縁奇縁でありますなぁ。合掌 1995.9.2 以上 (長月)「月、衣被・芋」 俳句 きぬかつぎ剥く指細く月見酒 (霜月)「おでん、映画」 俳句 おでん煮えマドンナ相手に手酌する 短歌 おでん食べボギー求めて「ハンフリー」 探しあぐねて「コレヒオ」で飲む (註)渋谷にハンフリー・ボガート贔屓のハンフリーという名のバーがあると聞いて 探したが見つからず馴染みのコレヒオで飲んだ 川柳 仮設館おでんの匂ひコップ酒 (師走)「苗、日記」 短歌 酒日記苗の三題詠み込みに 難行苦行で夜も眠れず 川柳 苗植えし日記したため盃を干す エッセー [ 錯乱亭恵府酒日記 ] (近日公開予定) |