ルカニ村・フェアトレード・プロジェクトの経過報告とルカニ診療所のその後
辻村英之(京都大学農学研究科教員)
(本稿は『関西・南部アフリカ ネットワーク通信』41号 に投稿したものである)
2つの自家焙煎コーヒー店の協力を得て、2001年5月に産声を上げた「ルカニ村・
フェアトレード・プロジェクト」(本通信33号(2001年9月30日号)において紹介)も、
あっというまに3歳になりました。この場をお借りして、3年間の経過報告をさせてい
ただこうと思います。
プロジェクトの協力店と支援店
オルター・トレード・ジャパン社(ATJ)がキリマンジャロ原住民協同組合連合会(KNCU)
から輸入しているコーヒー生豆を、ボン・ネージュ(天保様)とCOFFEECHERRY(丸山
様)の2店に焙煎・販売してもらう。この基本的仕組みは現在も変わっておりませんが、
焙煎後のコーヒー豆を販売いただく「協力店」が5店あまりに増えました。ボン・ネージ
ュ焙煎豆は、当店の他、堺町画廊(伏原様)とVIVA LA MUSICA!(植松様)でも楽しむ
ことができます。またCOFFEECHERRY焙煎豆は、当店の他、コミュニティートレード・
al(葛葉様)で購入することができますし、また金沢大学経済学部地域経済情報センタ
ー(吉村様)で共同購入することもできます。
さらにこやまこおふぃ(小山様)には、当店が主催するコーヒー教室の参加費やコーヒ
ー麻袋・樽の売上げ、そして常連客(特に山下様)からのカンパを募金いただく「支援店」
になっていただいております。その他、関西・南部アフリカネットワーク(下垣様)、JATA
TOURS(根本様・金山様)、中島様には、積極的に宣伝をしていただいております。なお
以上の方々に対して、2003年3月、ルカニ村民が組織したNGO・ルカニ開発協会(LUDEA)
から、感謝状と名誉会員証が贈呈されました。
さらにはマスコミによる報道(毎日新聞、朝日新聞、テレビ大阪)やプロジェクト関係
者による書籍・雑誌等での紹介(『月刊 オルタ』(辻村)、『コーヒーと南北問題―「キリ
マンジャロ」のフードシステム―』(辻村)、『農業と経済』(天保様、辻村))もあり、歩み
はおそいですが、プロジェクトは着実に前へ進んでおります。
フェアトレード・プレミアムによる生産地への貢献
さてフェアトレードで最も重要なのは、いかに生産者・生産地への還元・貢献を果たす
かであり、その貢献内容を「売り文句」にして、消費者への販売促進が図られます。そし
てATJは、「フェアトレード・プレミアム」として、輸出価格の10%相当額をKNCUに支
払っており、それが生産地における社会開発経費として利用されるわけです。それゆえATJ
輸入のフェアトレード・コーヒーを販売するだけで、我々は生産地への還元・貢献を果た
していることになります。しかしながら、KNCUが同プレミアムをその傘下にある96単位
協同組合に振り分けると、支援額はあまりに小さくなってしまい、結局、コーヒー生産の
教科書の作成と配布、セミナーの開催、等の弱い貢献が実現したに過ぎません。
そこで本プロジェクトでは、コーヒーの販売利益の一部を「フェアトレード基金」とし
て積み立て、再度の「フェアトレード・プレミアム」の還元を試みております。具体的に
は、小売価格の2%(1袋400円の焙煎豆であれば8円)を積み立て、それをコミュニテ
ィー図書館建設の資金として、ルカニ村に還元しているのです。そうすることで、「キリマ
ンジャロ・フェアトレード・コーヒーを飲んで、ルカニ村に図書館を建てよう!」という、
生産地への具体的貢献を「売り文句」にすることが可能になっております。
コミュニティー図書館の完成
そして本プロジェクトはこの3年間で、総額5,200米ドルの還元を果たしました。93年
に始まりながら、資金不足で停滞していたコミュニティー図書館の建設でしたが、村民と
LUDEAの自助努力に、本プロジェクトによる還元が結び付いて、ついにコミュニティー・
センター(図書室、テレビ・ビデオ鑑賞室、会議室)の開設が実現したのです(写真1)。
図書室には現在、子供用の教材や絵本を中心に約200冊の書籍が備えられております(写
真2)。まだ司書を雇っていないため、本格的な貸出は始まっておりませんが、室内で閲覧
する村民をよく目にします(写真3)。そして子供や若者に大人気なのはテレビ・ビデオ鑑
賞室で、毎晩7時になると100名近くが部屋に殺到します。近隣村からも鑑賞に来るよう
です。テレビを所有する村民はほんの一部であり、50年代日本の街頭テレビのような役割
を果たしております(写真4)。また会議室は、村の長老を初めとする指導者達の集会場と
なっており、重要な情報交換と意思決定の場を提供しております。
村民からの謝辞と新たな支援要請
私の調査時の3月11日に開催された、「フェアトレード基金」の引渡式において、LUDEA
の村事務長から、以下のスピーチ(要約)をいただきました。
「毎年、村を訪問いただき、既に「村民」であるあなたに、そしてあなたの学生達に、
今回は完成した村図書館やコミュニティー・センターをお見せすることができ、うれしく
思います。
まずは日本の友人達からの診療所リハビリに対する支援(出産用ベットとその付属品の
購入、病棟(入院用)の新築)のおかげで、遠くの病院に通院する妊婦の困難さが軽減し、
出産後の母子保健面も大きく改善したことを感謝します。
そして図書館に関しては、1年前には空の部屋でしたが、このように書棚、キャビネッ
ト、机・椅子、図書が備えられ、電気を引くこともできました。またテレビ・ビデオ鑑賞
室は毎晩、特に子供で満員となり、会議室には特に老人が集まって、ともにコミュニティ
ーの情報伝達のために役立っております。心から感謝の意を表します。
既にご存知のように、タンザニア経済はいまだ、沈滞したままです。最大の輸出品であ
るコーヒーの価格は低迷し、それゆえ生産量が激減しております。昨年からのひどい干ば
つで食料不足も著しく、公的な食料援助がないと飢餓が生じてしまう地域もあります。こ
のような困難な状況の下にあるため、私達は皆様のフェアトレード・プロジェクトに対し
て、下記の2点の支援を新たに要請したいと思います。
@診療所プロジェクト
2年半前の皆様の支援により、診療所は閉鎖の危機を乗り越え、ルカニ村のみならず近
隣村からも患者が通院する、充実したサービスの提供が可能になりました。しかしコーヒ
ー価格低迷で現金収入に乏しい村民は、十分な医療費(特に薬剤費)を支払うことができ
ず、やはり診療所の経営は苦しいままです。それゆえ、増設した病棟用のベット(15台)
のマットレス、ワクチンを保管するための冷蔵庫、薬剤費を低く抑えるための基金創設、
等の支援をお願いしたい。
A牛乳販売プロジェクト
コーヒー価格低迷にともない、新たな現金獲得源が求められる中、女性達による牛乳(生
乳)販売が活発になっています。村広場で各農家から集荷した後、軽トラックで都市にま
で運んで乳業会社に販売しますが、運搬用冷却器がないために、安価なヨーグルト用生乳
としてしか販売できません。運搬用冷却器をご支援いただければ、高価な牛乳用生乳での
販売が可能になり、女性の地位向上や農家の現金所得向上につながります。
最後にもう1度、村民を代表し、日本のフェアトレード・プロジェクトの関係者の皆様
に対して、感謝の意を表したいと思います。あなたが日本に戻ったら、我々の友人達に、
この感謝の気持ちを伝えてください。そしてこの関係が長く続くことを祈念しておりま
す。」
今後のフェアトレード基金の還元先
上記のように、図書館完成にともなう新たな支援対象として、LUDEAは、@診療所プロ
ジェクト、A牛乳販売プロジェクト、の2つを提案してきました。ただしAについては、
冷却器の購入に対して、現地NGOが低利融資を行っており、まずはその可能性を追求する
とのこと。またLUDEAによる、B中学校建設プロジェクト(村内に技術専門中学の開設)、
の計画もあり、それに対する支援を求める声も少なくないですが、プロジェクトの具体化
や実践までには、まだ時間がかかりそうです。さらには、コーヒーの木の管理放棄(特に
高価な農薬の未投入)が一般的になっている現状を憂えて(注)、ルカニ協同組合の役職員
から、C苗木普及プロジェクト(無農薬栽培を可能とする新品種の苗木を国立農業試験所
から購入し、協同組合がしばらく育成した後、村民に無料で配布する)への支援を求めら
れました。
以上を踏まえ、今後1−2年の「フェアトレード基金」の還元先として、@診療所プロ
ジェクト、C苗木普及プロジェクト、の2つを選択したいと考えます。@に関しては、3
年前に本ネットワークで募金を呼びかけていただき、皆様から2,000ドルのご支援をいた
だいたおかげで、出産用ベット等のほか、入院病棟の建物完成にまで至りましたが、まだ
内部は空っぽです(写真5)。ベット自体の調達は終わっているので、マットレスや毛布を
初めとするベット付属品を確保できれば、入院病棟の開設が実現します。そして基金があ
まれば、Cのコーヒー苗木の普及(写真6)に資金を向けたいと思います。診療所の冷蔵
庫に関しては、停電時の対応や見積額が不明のため、A牛乳販売プロジェクトと同様、次
年度以降の支援対象として残しておきます。
*「キリマンジャロ・フェアトレード・コーヒーを飲んで、ルカニ診療所の入院病棟を完
成させよう!」
* 「キリマンジャロ・フェアトレード・コーヒーを飲んで、ルカニ村に有機コーヒー生産
を普及させよう!」
ご協力をよろしくお願い申し上げます。
(2004年4月4日執筆)
注:ルカニ村におけるコーヒー産業の危機の現状、それを導くコーヒーのフードシステム
(生産者からの消費者までのつながり方)の問題点、さらにはフェアトレードや有機
コーヒー生産の重要性に関して、2月末に発売させていただいた拙著『コーヒーと南北問
題−「キリマンジャロ」のフードシステム−』日本経済評論社、において、詳細に分析し
ております。定価4,200円(税別)と高価で、また専門書であるため難解な部分もござい
ますが、どうかご一読いただければ幸いです。