「トランポリン」は英語?〜北の学園の奇跡・24時間テレビバージョン〜
-MIRACULOUS SUMMER WITH HANDICAPPED CHILDREN-
★第一回人気投票 優秀妄想作品賞受賞作品★

メディ・マイラブ(掲載No.53)


 トランポリンが英語かどうかは非常に悩むところだ。即座に答えられる君はアレだ、憎々しいな。
 この疑問に関するトランポリンの歴史をふまえた答えは最後に紹介しよう。

 今回本当に語りたいことはそんなことではなく、現在トランポリンが精神療法にどのような形で利用されているかをご紹介したい。

 知的障害児のうち、言葉などを理解できる比較的軽度の子供達がいる。
 しかし、往々にしてふさぎ込んでしまい、学ぶ意欲というものを見せないのが現状だ。
 なぜなら学ぶ楽しさを知らないからだ。親兄弟、他人の感情を理解できる彼らにとってこの世界はあまりにも複雑なのだ。
 期待に応えたい気持ち、どうにもできない無力感、その狭間で彼らはもがき続けている。
 そんな折、鬱状態になった彼らの心を開かせる鍵が見つかった。
 トランポリンとジャズのミキシングだ。

 僕がバンド仲間と北海道のとある山荘で合宿をしようとしたところ、どういうわけか道に迷い、ある施設にたどり着いてしまった。
 「ありんこ学園」
 僕等は知的障害児の収容施設だと直感した。不気味なほど静かな施設からは何の感情も感じとることができないいくつもの視線を感じた。知的障害児に特有の、こちらの心を突き刺すような視線だ。
 日も暮れかけていたので、そこの施設にとめてもらうことにした。
 そのかわりに、ジャズコンサートを開くことにしたのだ。
 理解ある責任者は快く承諾し、皆を体育館に集合させた。
 僕らは道に迷ったこと、そして一晩泊めてもらうことのお礼にコンサートをすることを説明した。が、集まった彼らの目は死んだ魚のようだった。意志が通じているのかさえわからない。
 しかし僕等は「陽気なチャップマン」「レイニーデイ・アフターサニーデイ」の2曲を演奏した。彼らの(人数は14、5人)体は楽しそうに揺れ始めた。しかし演奏が終わるととたんに精神状態が不安定になり、奇声を上げたりうずくまったりしていた。
 この辺が障害児の教育の難しい所なのだと言う。
 彼らの目の輝きを持続させたい。何故かそう強く思った。
 ふと、体育館の隅にトランポリンが置いてあるのが目に入った。
 責任者の話では、彼らは例外なくトランポリンが好きなのだそうだ。そこで僕は一つのことを思いつき、メンバーに話した。
 「子供をトランポリンで遊ばせ、その動きにあわせてテンポを作ってみよう。曲はボーイズ・フライ・ハイだ。」
 一人の子供(まさる君)にトランポリンで遊んでもらった。
 僕等は即座に演奏を開始した。
 まさる君は最初驚いたようで、動きを止めた。僕等も演奏を止めた。
 まさる君が立ち上がるとゆっくりと演奏を再開し、止まると演奏を止めた。
 こんなことを2、3回繰り返した頃だろうか、彼の目はこれでもか、というほどに嬉しそうな輝きを放った。
 彼はまるで森を翔る妖精の様に、楽しそうに、そして元気良く飛び跳ね始めた。
 僕たちは感激を音符にのせて、まさる君に、そして他の子供達に、世界中の全ての子供達に届けようと、必死に演奏した。
 「ボーイズ・フライ・ハイ」
 知らず知らず、僕は心の中で叫んでいた。
 気がつけば彼は、時には高く、時には低く、体全体でバランスをうまくとりながら、何とも楽しそうに飛んでいるではないか。
 周りの子供達もいつしかマットの上で飛び跳ねていた。
 子供達全員がまさる君と僕等の演奏のリズムを理解していた。

 いつしか僕等はまさる君のリズムを忘れ、今までにない異様な一体感の中で、ジャズを演奏する快感をむさぼっていた。
 するとどうだろう、今度はまさる君が僕等のリズムに合わせているではないか。
 感動のあまり涙が止まらなかった。
 全てを忘れ演奏に夢中になる僕等の気持ちの動きをしっかり見ていたのだ。
 涙を拭いもせず、僕等は憑かれたように演奏を続けた。一秒も無駄にしたくなかった。

 トランポリンの上に全ての子供が乗り出し、楽しそうにはねた。
 僕等は全員のリズムをジャズのリズムに変え、彼らに届けた。
 不意に彼らの動きが一斉に止まった。
 僕等はそれにあわせて演奏を締めくくった。
 気がつくと、トランペットを吹く僕の唇は腫れ、指はマメだらけ、涙と鼻水で顔はめちゃくちゃだった。
 トランペット、ベース、サックス、木琴、ドラム、全ての奏者も肉体的限界に達しようとしていた。
 そこまで彼らは見ていたのだ、、、、、、
 僕等は互いの顔を見て笑った。彼らも笑った。責任者は静かに拍手を送ってくれた。
 演奏が止んでも、トランポリンをやめても、彼らの笑顔が消えることはなかった。

 明くる朝、出かけようとする僕等に、子供達が演奏中の僕等の姿を書いた画用紙をプレゼントしてくれた。
 全部で15枚。それぞれの個性が見える、すばらしい絵だった。
 なんでも、自主的にこれほど集中して作業をしたのは初めてのことらしい。
 後日責任者から届いた手紙によると、彼らは嫌いだった文字を教えてくれとせがむようになり、熱心に授業にとりくんでいるのだという。
 学ぶ楽しさをまなんだのだ。

 現在、ジャズとトランポリンの融合による精神療法が実験的に進められているのだと言う。

 僕等は忘れない。あの夏を。

 「ボーイズ・フライ・ハイ!」

 ちなみに辞書に乗ってました。trampline。てへ。

コメンツ

ウソだけどいい話だ