繁栄の鼻
-PROSPEROUS NOSE-

星 めだ一(掲載No.59)


 恐ろしく鼻の利く男がいた。
 別に肉体的な意味で嗅覚が優れていたのではない。ゴールハンター的な意味でずば抜けた嗅覚を持っていたのだ。つまり、人の一瞬のスキを見逃さないのだ。

--昨年7月、都内某所--

 私がその日の仕事を終えそそくさと家路につくと、私と全く同じ髪型をし、同じ眼鏡をかけ、同じスーツを身にまとい、同じネクタイを締める一人の男と信号待ちで隣り合わせた。
 彼は都会の男らしく別段驚いた様子もみせず、ただじっと信号が変わるのを待っていた。ただ、私にはその時間は非常に長いものに感じられた。
 私がいたたまれなくなってその男に声をかけようとして男の顔を見ると、男はこちらを向いて人差し指を唇に押しあてていた。
 「!」(私は驚くあまり声がでなかった。)
 男は表情を全く変えぬまま前に向き直り、スタコラスタコラ歩き出した。信号が、、と言おうとして信号を見るとしっかり青になっていた。私は訳も分からず、本能的に男の2メートル後をつけた。もし男が振り向きざまに殴りかかってきても十分対応できる数字だ。
 男がフライイングボディアタックをしてきたら横になって転がり、自爆を誘おう、そんなことを考えているうちに、気がつくと私はバックを取られていた。
 私はこれまで27年間の人生で、初めて投げっぱなしジャーマンを喰らった。
 宙に浮く体、回る視界、鈍い衝撃、私はジャーマンされた格好のまま小一時間意識を失った。

 目を開けると自らの股間を通してきれいな青空が果てしなく拡がっていた。
 男は私に思い出させたかったのかもしれない。
 空の青さを、人生の素晴らしさを。

根掘り葉掘り

おまえまだ22だろが