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 はじめに レンズとカメラ カメラレンズ 露出を決める フィルム露光の理論 光と影を整える 写真撮影のコツ 光と影の協演
カメラのはなし

フィルム露光の理論

ここでは、フィルムの露光についての理論を述べている。内容が難しすぎるようなら、基本的なことは、他のページの必要な部分で繰り返し述べてあり、読み飛ばしても差し支えない構成にしてある。またここではカラーの3原色別の吟味はしておらず、単色として扱っている。

図1

図2

露光量

写真フィルムに光を当てて現像すると、光が当たった部分が黒くなる。その時の様子は、コップに水道の水を貯め込むことに似ている。コップの水の量(濃度)を一定にする場合、水道の流量(光の強さ)が少なければ時間(露光時間)をかけて、流量が多ければ短い時間で水を貯める(図1)。このとき、調節できるのは水の流量と、水を出している時間である。流量は蛇口のコックを開ける角度で、時間はコックの開け閉めのタイミングで調整できる。カメラでは、光の強さを絞りで調整し、露光時間をシャッタースピードで調整する。

このことは、フィルムの濃度が、フィルムに当てられた光の強さ(照度)と光が当てられていた時間(露光時間)のそれぞれに比例することを意味する。すなわち、照度が一定なら露光時間が増すほど濃度が増し、露光時間が一定の場合は、照度が増すほど濃度が増す。したがって、ある照度とある露光時間で一定の濃度になった場合、その照度を半分にし、露光時間を2倍にすると、濃度は元のものと等しくなる。これを写真フィルムの「相反則」という。また、「照度×露光時間」を「露光量」といい、単位を照度のルクス(lx)と時間(秒、s)の積の lx・s (ルクス・秒)で表す。

照度がフィルムの場所によって異なる場合は、それぞれに対して蛇口とコップが用意されていると考えよう。蛇口の開け方は全てが連動して同じになるとしても、それぞれの蛇口からの水の流量は、図2のように、それぞれの照度に比例したものとなる。したがって、各蛇口を一斉に開け閉めすると、各コップにはそれぞれの照度に比例した水量が貯まる。

写真フィルムには、露光によって濃度が増し始めるために必要な最小限度の露光量が存在し、また露光量を増しても、濃度がそれ以上増さなくなる最大露光量が存在する。したがって、あるシーンの像をフィルムに適正に記録するためには、フィルム上に映った像のうち、もっとも明るい点ともっとも暗い点が、フィルムの最大露光量と最小露光量の間(露光域)に収まるように、照度か露光時間を調節する必要がある(図 2(A))。これが実現したとき、これを「適正露出」という。

最大濃度に達したフィルムにさらに露光を加えることは、水が溢れ始めたコップにさらに水を注ぐことに等しい。濃度はもはや増えられない。したがって、それより暗い点のコップが一杯になった場合、両者とも同じ濃さに仕上がることになって、区別がつかなくなり、像の明るい部分を忠実に記録できなくなる(図 2(B))。これが「露出オーバー」の状態であり、逆に露光が足りなくなると、暗い部分が忠実に記録されなくなり、これが「露出アンダー」の状態である。

図3

図4

フィルムの感度

図3はネガフィルムの露光量に対する濃度の関係の典型例を示したものである。これを特性曲線といい、HD 曲線とよぶことがある。この HD の D が濃度(Density)と解釈できるため、H が露光量を示すと考えて、横軸に E ではなく H と記入することがある。しかし、HD 曲線は、この特性曲線を初めて描いた、Hurter および Driffield という人名に由来していることを指摘しておく。

フィルムの濃度は最小露光量以下および最大露光量以上ではほぼ一定となり、その間では露光量に比例して濃度が増える。このため、フィルムの特性曲線は、図のようなS字型の曲線で表されることになる。このような形状の曲線はシグモイド曲線とよばれている。フィルムの最小の濃度は、フィルムの透明素材の濃度(ベース濃度)や感光していないのに析出してしまう銀の濃度(カブリ濃度)を含むため、ゼロにはなりえず、これをカブリベース濃度とよんでいる。

一般に写真フィルムの特性曲線の横軸の露光量の表記法には独特のものが用いられるが、ここでは分かりやすくするため、ごく一般的な対数表記法を用いた。

ネガフィルムの感度は、フィルムの濃度がこのカブリベース濃度から 0.1 増加する露光量を Em とし、この点から露光量がさらに 20 倍大きい(log E = log Em + log 20 = log Em + 1.3)点の濃度が 0.8 増える(γ=0.62)ように現像されたフィルムで、
    …@
として規定されている。

図3では、Em が 0.008 lx・s (ルクス・秒)であり、感度 S は 100 となる。

これに対し、リバーサル(ポジ)フィルムでは、露光量と濃度の関係が反転する。これは像を直接鑑賞できるように、感光していない部分が発色するように処理しているためだ。このフィルムの感度は、図4のように、フィルムのカブリベース濃度から、濃度が 0.2 増加した点に対応する露光量 E および濃度がカブリベース濃度から 2.0 増加した点に対応する露光量 Es の相乗平均値(対数グラフでは両者の中央点になる)によって、
    …A
で規定されている。

図4では、Em が 0.1 lx・s であり、感度 S は 100 となる。

後述するように、カメラ映像機器工業会(CIPA)の「デジタルカメラの感度規定」によれば、濃度の代わりにカメラ出力が用いられているが、デジタルカメラの感度を「ISO」感度として表示する場合の規定にも同じ考え方が適用されている。

図3図4のフィルムの特性曲線の直線部の傾き(露光量が10倍増えたときの濃度の変化)はガンマー(γ)値と呼ばれている。 紙の反射光で見るネガフィルムでは、取り扱える露光域が広く取れるように、γ 値を 0.5〜0.6 程度に抑え、焼付けのときに、シーンの輝度変化と印画紙上の像の明るさの変化が比例(γ=1)した仕上がりになるような特性を、印画紙に 持たせている。これに対し、透過光でフィルムの像を鑑賞するリバーサルフィルムでは 1.3〜1.6 と大きめの γ 値を有している。これは、シーン本来の輝度分布より、フィルムをみたときの明るさ分布の方が強調されることになるが、 これは映画用ポジフィルムの仕上がり γ とも共通した特徴である。図3のネガフィルムは γ=0.62 に、図4のリバーサルフィルムは γ=1.5 に相当している。

また図3および図4のグラフは、ISO100 の感度に相当する。ネガとポジのフィルムの感度の規定方法は異なっているが、実際の露光域はほぼ一致しているといえるが、厳密にはネガフィルムの方が広いことが分かる。

フィルム感度は英語では「film speed(フィルム・スピード)」といわれている。これは一定の照度の光を与えた場合、フィルムの濃度が一定値に達するまでの速さを表しているといえる。フィルムの感度は ISO 100、ISO 200 などの数値で表されているが、黒くなるのが速いほど、すなわち少ない露光量で黒くなれるほど、数値が増える。感度の数値が 2 倍になると必要な露光量は半分になる。すなわち、ISO 100 のフィルムでシャッタースピード 1/125秒、絞り f/8 で適正な濃度になる仕上がる場合、ISO 200 のフィルムなら、1/250秒、f/8 と半分の露光量で、ISO 400 のフィルムなら、1/500秒、f/8 と 1/4 の露光量で、同じ濃度になる。このことは、フィルムの感度が高くなるほど、 特性曲線が左側に平行移動することを意味している。

カメラの露光に関する理論

カメラで、あるシーンを撮影するとき、そのシーンを照らしている照明光の強度(照度)、あるいはその光を反射しているシーンの明るさ(輝度)が、レンズを通じてフィルムあるいは撮像素子の上に像として映されるとき、その像の明るさ(像面照度)がどうなるかを求めてみよう。

シーンへの照明光の照度、あるいはシーンの輝度と像面照度の関係を理論的に求めるためには、かなり厄介な数式を扱わなければならない。しかし、その結果は直感的に理解できるものなので、ここではその結果だけを使って説明していこう。カメラの動作を理解するのに厄介な数学を勉強することもないだろう。

図5

図5のように、光源から IL (lx)の照度で照らされているシーンの輝度 BS (cd/m2)は、
   …B
となる。ここでシーンは光源の光を四方八方に満遍なく反射する、均等拡散面であるとする。また k はシーンの反射率π は円周率である。

次に、このシーンを、口径が D で焦点距離が f のレンズで、レンズから b の距離に像として結んでいる場合、像面照度 II はシーンの 輝度 Bs から、
   …C
として求められる。

また、シーンの輝度 BS はシーへの照度 IL式Bの関係にあるので、式Cは、
   …D
と しても表せる。この式には2つの π が現れており、これらは互いに約分できるが、均一拡散面の照度と輝度の関係を明示するためにあえてこのように表記した。

式C式Dの両式は、互いに式Bで変換された同一の式であり、像面照度を決める直接的な要素はシーンの輝度そのものであることが理解できる。

式C式Dの両式には、どちらにも π/4 の定数が掛かっているものの、D2/b2「像の明るさはレンズから像までの距離の2乗に反比例し、レンズの直径の2乗に比例する」(『レンズとカメラ』の「カメラレンズの口径比」)というレンズの性質をそのまま表している。これから、シーンへの照度あるいはシーンの輝度と像面照度の関係は、レンズの性質から直感的に理解できるものであることに納得がいくだろう。 ただし、これらの式では、レンズ表面での光の反射、レンズ素材による光の吸収等を反映する、いわゆるレンズの透過率は無視している。

式C式Dはレンズの性質からは納得できる形であるが、カメラで考えるには b の値を知ることが容易でなく扱いにくい。そこでこの式をカメラで扱いやすいように変形してみよう。

まず、式Cの D および b の両者を焦点距離 f で割ると、
  
となる。D/f はレンズの F 値の逆数であり、また、(『レンズとカメラ』の「レンズの性質」)であるから、

グラフ

  
となる。ここで、b/a は像の大きさ M と被写体の大きさ L の比 M/L に等しく、これを像倍率 m と呼ぶことにすれば、像面照度は結局、
   …E
のように変形される。

これで、像倍率 m とレンズの F 値を使って、シーンの 輝度 BS と像面照度 II の関係を表すことができた。

また、シーンへの照度 IL から増面照度 II を求める式Dもまったく同様の過程を経て変形でき、最終的に、
   …F
が得られる。

式E式Fによれば、フィルム上の被写体の像の大きさ M と、被写体の実際の大きさ L の比、すなわち像倍率 m が大きくなると、像面照度は暗くなる。この m の値は、接写専用のマクロレンズなどでは目盛りが付いていて、直接読み取れる。しかし、目盛りが付いていない場合でも、レンズの焦点距離 f と、レンズ中心から被写体までの距離 a が分かれば、グラフから求めることができる。グラフから分かるように、m を考慮しなければならないのは、被写体とレンズの距離が焦点距離の10倍以内に接近した場合で、これ以上に離れれば、m はゼロに近づき、無視できる。

表1

表2

EV値の定義

次に EV 値の厳密な定義について触れておこう。

既に述べたように、写真フィルムの濃度を決めるのは露光量で、これはフィルムの像面照度と露光時間の積に比例する。また、フィルムの「相反則」によって、例えばシャッタースピード 1/125、絞り f/8 の組合せと、1/250、f/5.6 の組合せは同じ露光量になる。そこで、この露光量そのものを数値的に表現しようというものが EV 値だ。露光量が等しいときは、同じ値になるような量として EV 値を導入しようというわけだ。このEV 値の考え方は、1961年にASA (American Standards Association:アメリカ標準規格)が制定した ASA PH2.12-1961の中で、APEX (Additive system of Photographic EXposure)として提案されている。ASA とは現在の ANSI (American National Standards Institute:アメリカ規格協会)の前身であり、昔、写真用フィルムの感度は ASA 感度といわれていた。また APEX すなわち「Additive system of Photographic EXposure」とは「加算的写真露出法」と訳すことができる。

露光量はフィルムの像面照度と露光時間の積で決まるので、EV 値も本来は積(掛け算)で考えるべき量である。しかし、露光量を調節する、カメラのシャッタースピードや絞りは、1段階変化させる毎に露光量は 2 倍あるいは 1/2 倍という、1定比率で増減する。このような場合は数値を対数で表すのが便利だ。何よりも人間の感覚の反応も対数的であって、視覚、聴覚などに関する量は対数で表されるのが一般的になっている。たとえばカメラで絞り込んだ像を見られるように設定し、絞りを1段ずつ変化させると、人間の目には、像の明るさが一定の刻みで変化しているように見える。さらに、数値を対数で表すと、元の数値の掛け算、割り算が、対数の足し算、引き算で済むようになる。これがAPEXの「加算的」という名前の由来だ。

カメラの露出設定のEV値

APEX では、まずカメラ側の露出設定値について、シャッタースピードに対して Tv (Time Value)値とよばれる、シャッタースピードが 1 秒のときが 0 で、シャッタースピードが 1 段階速くなる毎に数値が 1 ずつ増える値を割り振っている。次に、絞りに対しては、Av (Aperture Value) 値とよばれる、f/1.0 のときに 0 で、絞りが 1 段階絞り込まれる毎に数値が 1 ずつ増える値を割り振 っている。こうして、EV = Tv + Av でカメラ側の EV 値を定義している。 これらはシーンの明るさなどはまったく考慮せずに割り振られた値である。この EV 値を、Tv 値、Av 値とともに表にしたものが表1である。

シーン側の明るさを表すEV値

写真の適正露出とは、フィルム上に映ったあるシーンの画像のもっとも明るい点と、もっとも暗い点の露光量が、フィルムの露光域に収まるように、絞りやシャッタースピードを調節したものである。これは真夏の海辺のシーンであろうが、夜間の室内のシーンであろうが、同じである。フィルムの感度が同じなら、シーンそのものの明るさがどうであれ、それがフィルム上に像として映った時の露光量の分布範囲が、常に同じ露光域に収まるように調整しなければならない。

さて、フィルムの感度が決まると、そのフィルムに対する適正な露光域が決まる。シーンの輝度分布が分かったら、これが適正な露光域に一致するようにシャッタースピードと絞りを調整する。このシーンの輝度分布はシーンへの照度とシーンの反射率から決まる。

APEX ではシーンへの照度あるいはシーンの輝度に、それぞれ Iv (Incident Light Value)Bv (Brightness Value) という値を、そしてフィルム感度に Sv (Speed Value) という値を割り振り、EV = Iv + Sv = Bv + Sv でシーン側の EV 値を定義している。そして、最終的には EV = Iv + Sv = Tv + Av あるいは、 EV = Bv + Sv = Tv + Av と、シーン側、カメラ側ともに同じ EV 値に合わせて撮影することになる。

フィルム感度 Sv については ISO 3 (正確にいうと 3.125)を Sv = 0 になるように割り当てているが、この値も、まだシーンの明るさなどは考慮せずに決められている値である。表2では実用的な範囲として ISO 12 (Sv =2)から取り上げている。

また Iv および Bv については、1961年当時のAPEXでは Iv = 0 は 6 フートカンデラ(64.6 lx 相当)、Bv = 0 が 1 フートランバート(3.43 cd/m2 相当)とされていた。実際にはこれらの値には、ある範囲が許されていたので、一定であるとは限らないのだが、これらの値が代表として挙げられるのが常であった。

しかし、現在でもこれらの代表値をそのまま使ってよいかどうかは疑問である。なぜなら APEX が提案されて以来、フィルム感度や露出計の規格を規定する組織が ASA から ANSI、 ISO へと変わっていった。その過程で、フィルムの感度 規定法も若干見直され、しかも APEX の考えは、この途中で引き継がれなくなっているからだ。

そこで、現在、この APEX の概念を使おうとした場合、上記の照度や輝度に変化が無いかどうかを確認しておいた方がよさそうである。

これを行える第1の方法は、シーンへの照度、あるいはシーンの輝度を計って露出を決めている、現在の露出計の規格を確認することである。露出計の規格は ISO 2720(1974年)で規定されている。

物理的誤差と視覚効果

今後、写真に関連する量を検討することになるが、これらの量に、結構大きな相違を生じていると感じるような場面に遭遇することになる。しかし、写真は視覚で鑑賞するものである。この視覚の反応は、光の変化に対し対数的に反応する。このため、物理的な量の変化の度合いと、それが写真として仕上がったときの視覚上の違い(写真的効果)は同一ではないことをここで指摘しておく。

昔のカメラでの露出の調整は、シャッタースピードで 1/60 秒から 1/125 秒など 1EV 単位、絞りでは f/8 から「半絞り」 開く、絞るなど 1/2EV 単位であった。このため、全体としていえば 1/2EV 単位の露出調整ができた。最近のカメラでは、シャッタースピード、絞りとも 1/3EV 単位が珍しくなくなり、より細かな露出調整が可能になったといえる。しかし、それでもカメラの露出調整は連続的には行えない。むしろ昔の方が、絞りなどはリングを回して設定していたので、やろうと思えば連続的な調整ができた。それが現在ではデジタル的に 1/3EV 単位で飛び飛びにしか調整できなくなっている。しかし、これは写真的効果から見た場合、1/3EV 以下の調整は意味がない(見分けられない)ほど小さいことを物語っている。これは視覚が光の強さに対し、対数的に反応しているからにほかならない。

ちなみに、1EV の相違を物理的に考えると 2 倍または 1/2 の相違であり、1/2EV の相違は 1.41 倍あるいは 1/1.41=0.71 倍の相違、1/3EV の相違は 1.26 倍 あるいは 0.79 倍の相違である。したがって 1/3EV の違いは 26% の変化で、意外と大きな相違に思える。しかし、この 1/3EV の違いで仕上がった写真を見た場合、実際には大きな違いには見えない。物理的な 26% の変化は、写真的には大目にいっても 2〜5% の変化にしか相当しないのだ。

シーンの照度、輝度と露出計

入射式露出計、反射式露出計あるいはカメラの自動露出装置は、一般の照度計、輝度計というより、フィルムに確実に像を残すための測定装置である。このため、ある照度、あるいは輝度を、どの EV 値に換算するかには若干のマージンを含めることが許されている。この匙加減をするのが、露出計の校正係数と呼ばれるものである。校正係数とはシーンの明るさなどをまったく考慮しないで決められている表1の EV 値と、実際のシーンの照度、輝度とを結びつける魔法の数ともいえる。

この Iv や Bv については、 ISO 2720:1974 の規定にしたがうと次のようになる。
   …G
   …H
この式の C および K が校正係数である。ここで、I は照度(lx)、B は輝度(cd/m2)を表し、0.32 の定数は、後でも触れるが、Sv = 0 の感度を ISO 3(3.125) としていることを示している。ISO 2720:1974 によれば、入射式露出計の校正係数としては C = 240〜400 (平板型受光部式)、C = 320〜540 (半球型受光部式)が、また反射式露出計の校正係数としては K=10.6〜13.4 が推奨されている。

工業製品の規格なのに、なぜ校正係数を1点に固定できないかというと、次のような事情がある。各フィルムが同じ感度という場合、1/3EV 分のバラツキが許容されている。また、フィルム出荷後の一般的な感度変化も想定しなければならない。さらに、メーカーによって、同じ感度でありながら特性曲線(γ 特性)が微妙に異なる。そして、感度測定時の光源と実際の撮影に使われる光源の性質が同一とは限らないなどである。これらは全て実効的露光量を変化させ、露出計はこれらの状況の違いを吸収して、確実に像を記録できる露出値を表示できることが要求されるのだ。 この場合、露出不足の状態では、露光量の少ない部分はまったく記録されないことになり、救済の方法がなくなる。したがって、露出計のマージンは露出オーバー側に設けられることになる。

 ISO2720:1974 では「校正係数 C、K は、さまざまな照明光の状況、明るさの下で撮られた、露出の分かっている多数の写真に対し、どれだけ大勢の鑑賞者が受け入れるかを多数回試験し、その結果を統計処理して決めるべきである。」としている。人間の感覚を相手にする計測器の性能をこのようにして決める試験を官能試験といい、味覚などでは一般的であるが、視覚に属する写真も同類ということになる。

現在、実際に採用されている校正係数には、入射式露出計では平板型受光部式の C=250、半球型受光部式では C=320 または C=340、反射式露出計では K=12.5 または K=14 などがあり、デジタルカメラの自動露光装置では K=14 が一般的ということである(カメラ映像機器工業会(CIPA):「デジタルカメラの感度規定」)。K=14 の校正係数は規格の推奨範囲を超えていることに注目すべきである。

さて、ここでは現在のフィルムあるいは撮像素子の光を感じる能力を知るため、上記の露出計の校正係数の中から、できるだけマージンの小さいものを用いて、実際の照度、輝度を求めて見よう。 まず、入射式露出計で照度を測定するときには平板型受光部を使用すべきため、その校正係数として、平板型の C=250 と、反射式露出計の校正係数としては K=12.5 を用いて照度、輝度を求めた結果を表2の照度、輝度欄に記入しておいた。この表2の照度、輝度では誤差が ±1/10EV 以内(±7%)に収まる範囲で、カメラの規格で使われる切りのよい数値に丸めている。

表2によれば、当初の APEX の Iv=0 の照度、64.6 lx が 80 lx になっている。この違いは 1/3EV に相当する。 実はこの相違は、写真フィルムの感度を規定する組織が ASA から ISO に代わったときに、感度の算出法の値が変わった(リバーサルフィルムの感度を例にすると、 式AがASA では S=8/Em であったものが、ISO では S=10/Em とした)ために生じたものである。

ともかく、表2から、たとえば照度が約 10,000 ルクスといわれている日陰の被写体で、フィルム感度が ISO 200 なら、EV 値は「13」となり、表1で EV = 13 をたどれば、 シャッタースピードが 1/250 の場合、絞りは f/5.6 となって、 『露出を決める』の「露光ガイド」で示したものと同じ値になる。

また表2で 『露出を決める』の「サニー 16 ルール」の条件に一致する Iv は 10 で、照度は 80,000lx である。一般に、快晴時の日中の太陽光の照度は 100,000lx といわれていて、1/3EV ほどの開きがあることになる 。しかし、太陽光による照度は地域や季節によって異なるため、かなり丸められているので誤差範囲内とみてよいだろう。結局、「露出ガイド」、「サニー 16 ルール」といった 、一見大雑把に見える露出決定法が、日陰から快晴までの範囲で、露出計の表示と一致する結果になっていることが確認できた。

露光理論からシーンの照度、輝度を求める

上記で求めた照度、輝度は露光理論からも求めることができる。露光量 E は、像面照度 II とシャッタースピード T の積であるから、
  
となる。

ここで、露光量として、 デジタルカメラでも準じている、リバーサルフィルムの感度の定義に使用した Em の点を考えてみることにしよう。この Em はリバーサルフィルムに、カブリベース濃度 + 1.1、すなわち濃度約 1 の中庸な濃度(灰色)を与える露光量である。この濃度を与える露光量を求めることにすると、式Aから、
  
であるから、
   …I
となる。ここで式Eから、
  
であるから、式Iは、
  
となる。この式で、レンズから被写体までの距離が、レンズの焦点距離より十分離れているとして m≪1 とすると、
  
  
となり、両辺の対数(2を底とする)をとると、
  
となる。ここで APEX のAv、Tv、Sv の定義から、になるため、
  
となり、最後まで残った対数項が Bv に相当する ことになり、
  
となる。 したがって、上の式は Bv + Sv = Av + Tv  となって、APEX の式が露光理論から求められたことになる。

ここで Bv の式は式Hと同じ内容なので、形を合わせるために、
   …J
と変形しておこう。

上述の誘導方法とまったく同じに、式Fから 照度からの Iv の式を誘導でき、
   …K
となる。

図6

図 7

式J式Kが示す Bv と BS の関係、 Iv と IL の関係は何を意味するかを考えてみよう。そのためには、まず理論的な輝度 、照度と露光量の関係に、シーンの反射率がどのように影響するかを理解しておく必要がある。シーンの輝度は反射率に比例するため、最大露光量が反射率 100% に対応し、その他の露光量は反射率に比例して対応させられる。そこで図4のフィルムの特性曲線に、シーンの反射率と露光量の関係を記入してみたのが図6である。このフィルムは、ISO100、 γ=1.5 に相当している。このフィルムの最大露光量に反射率 100% を一致させると、シーンの反射率 1〜100% の範囲が、ほぼこのフィルムの露光域に入ること、また露光量 Em の点が反射率 18% に一致していることが分かる。露光量 Em のときのフィルム濃度は、濃度約 1 の灰色に仕上がる。

これは、偶然のことではなく、フィルム感度を規定する Em はシーンの反射率 18% を想定して選ばれている露光量なのである。写真では、反射率は 18% は標準反射率とよばれ、(反射式)露出計の校正も反射率 18% で行われている。したがって、式J式Kは、露出計の Iv、Bv を与える式G式Hを露光理論から誘導したものとみなせる。

ということであれば、まず、式H式Jを見比べれば、反射式露出計の校正係数が、K = 40/π = 12.7 と直接的に与えられることになる。しかもこれは、表2の輝度を求めたとき に前提とした K=12.5 とほぼ一致している。またこの値は、規格で推奨されている K=10.6〜13.4 のほぼ中央に位置している。しかし、現実に採用されている校正係数の範囲は K=12.5〜14 で、規格の推奨値をはみ出していることを考えれば、現実の校正係数は、理論値より大きい領域に位置しているとみなしてよいだろう。校正係数の範囲が理論値より大きい領域に位置しているのは安全マージンを確保するためと考えられる。

同様に式G式Kを見比べることで、入射式露出計の校正係数 C は理論的には 40/k となるべきことが分かる。入射式の校正係数にシーンの反射率がかかわっていることは奇異に感じるかもしれない。これは、今回、照度、輝度と露光量の関係を求めるための基準点に、露光量 Em の点を選んだためだ。入射式露出計が実際に測るべきは照度(すなわち最大露光量)であるが、Em は最大露光量ではない。Em の露光量を最大露光量に変換するには、露光量 Em を、その点に対応する反射率で割らなければならない。このために、式に k が入っているのだ。ここで、シーンの反射率 k は 18% であるから、C = 40/k = 40/0.18 = 222 となる。これは露出計の規格の校正係数の推奨値 C = 240〜400 (平板型受光部式)の小さい数値よりも小さいが、その違いを EV 値で表すと 1/9EV 相当分である。また表2の照度を求めるために前提とした C=250 との違いは 1/5EV 以内である。入射式露出計の校正係数の推奨値も理論値より大きい領域に位置している。これも安全マージンのためと考えられる。

図7は、参考として、感度が ISO 100 に相当する、デジタルカメラの一般的な露光特性を示したものである。ただし、フィルムと同等に扱うため、縦軸をデジタルカメラの JPEG 出力ファイルの値(画素値)を濃度に換算して表しているため、よそではあまり見られない形のものとなっている。また、デジタルカメラの場合、RAW 画像出力なら撮像素子の出力がそのまま記録されるので γ=1 であるが、図7では JPEG 出力(正確にはExif形式)として扱っており、γ 値は 0.45 になっている。これは Windows パソコンのディスプレー、プリンタに採用されている色の取扱い規定である sRGB の γ が 2.2 であるため、これに合わせた γ 補正がされているためである。

デジタルカメラの標準出力感度は、反射率18%に対応する画素値(118)が得られる露光量 Em から、S=10/Em で規定されている。図7で、デジタルカメラの露光域が、特に露光量の小さい方でどこまで広がっているかが気になるが、最小露光量を決めるのは撮像素子の雑音出力になる。現在の技術からすると、図7に記入した直線の範囲程度といえる。

これで比較すると、デジタルカメラの出力は、写真フィルムのネガフィルムの考え方と同様、撮影する方の γ を小さく抑えて、扱える露光域を広げておき、ディスプレーやプリンターに出力する際の γ 変換によって、本来の γ=1 に戻すというやり方(図7青色破線)を継承していることが分かる。またその露光域も、ほぼ写真フィルムと同等の範囲を扱えるといえる。しかし、最大露光量以上の部分、あるいは最小露光量以下の部分で丸みを帯びながらも延びを示しているフィルムの特性曲線と違って、ディジタルカメラの撮像素子の出力では、 原理的には、特に明るい方でデジタル変換値に最大値が存在するため、明確な折れ曲がりを生じてしまうことになる。これがデジタルカメラの露光域は狭いという人たちがいる原因 なのだろうか?

また、フィルム写真の場合はプリントを前提としたネガフィルムと、投影等を前提としたリバーサルフィルムが存在し、それらの用途にしたがって、γ 値の異なったフィルムを選択することができた。 そして、プリント時には印画紙の号数を変えて、自分の表現意図に合わせた、仕上がり(over-all)の γ 値を得ることができた。しかしデジタルカメラではカメラ固有の値を受け入れ、必要があれば自分で修正しなければならないことになる。 この修正は自在にでき、融通性が増えた。とはいえ、これまでの写真にはなかった概念なので、この辺をどう処理するかが新しい議論のまとになることだろう。 これまでのところ、RAWファイルで見る限り、一見白とびしている部分も、明るさやコントラストを調整すると、意外とディテールが残っているし、今のところ、露光域が狭いという印象も感じられない。しかし、フィルムで味わっていた粒子感が感じられず、あまりにも精緻に色塗られた画像は、少し違和感を感じているところである。

これからじっくり付き合ってみることにしたい。

露光理論からみた露出計

一般的な露出計に対する評価は、反射式露出計ではシーンの反射率が仮定されており、背景が白や黒で、反射率が偏ったシーンの露出が不正確になる、一方で入射式露出計はそのような仮定が入っておらず常に正確とい うものであろう。この辺の事情を露光理論から整理しておこう。

フィルムへの露光量を決める式C式Dのところで説明したように、像面照度を直接的に決定するのはシーンの輝度である。 そのため、輝度を測定した場合は、シーンの反射率を考慮することなく、直接像面照度に変換できる。その意味では、適正露出を決めるためには、意外に思えるかも知れないが、シーンの輝度を知るのが最善といえるのだ。しかし、それには輝度のもっとも高い点と、もっとも低い点を知ることが必要である。それは、 これらの点が、フィルムの 露光域に収まるように露出を調整しなければならないためだ。このためには、スポット型反射式露出計でシーンをスキャンしなければならないことになる。これは面倒な操作である。そこで一般的な反射式露出計(カメラの自動露出機構も含む)では、対象シーンの平均輝度を測定している。問題は、これがどのようなフィルム濃度に仕上がることになるかということである。

反射式露出計でシーンの平均輝度を測定すると、露出計はシーンの平均反射率が 18% であるとの仮定にしたがい、露光量が Em になるような EV 値を表示する。これに合わせて露出するとフィルムの仕上がりの平均濃度は、反射率 18% の濃度に相当する約 1 (灰色)に仕上がることになる。このため、 実際のシーンの輝度(反射率)分布が、平均的な場合は問題ないが、シーン内の反射率に大きな起伏がなく、しかもその平均が 18% からずれているような場合、すなわち全体的に白い、あるいは全体的に黒いようなシーンの場合にも、やはり露光量が Em になるような EV 値を指示する。したがってこれに不用意にしたがうと、これらは全て灰色に仕上がることになる。これが反射式露出計で反射率の偏ったシーンを撮影すると、露出が不正確になるという理由なのだ。

入射式露出計の校正係数を求める式Kには見かけ上、反射率 k が入っている。しかし、これは Em から最大露光量、すなわち照度を求めるためであった。入射式露出計は照度で校正され、照度から EV 値を決める。このため k の値に不適切なものを使った 場合は、照度を見誤ることになり、常に一定の露出補正を掛けなければならない、すなわちマージン設定が不適切な場合に相当する誤差になる。このような誤差があっても、フィルムには実際のシーンの各点の反射率(0〜100%)に比例した濃度で記録されるので、反射率が露出測定に影響することはない。

とはいえ、反射率 k が、入射式露出計に影響する可能性がないわけではない。ここでは深入りしなかったが、γ 特性が異なるフィルムを使用すると問題を生じることになる。感度の規定法から分かるように、同じ感度でも γ 特性が異なると、露光域が異なってきて、入射式露出計でもフィルム毎に露出補正をしなければならない状況になる。しかし、幸い γ 特性が大きく異なるようなフィルムは存在しない。ネガフィルムでは、γ 特性が大きく異なるが、感度の規定法が異なるので今回の議論とは別に(手法は同等であるが)、評価し直さなければならない問題なのだ。

また、入射式露出計には平板型受光部のものと半球型受光部のものがあって、それぞれの校正係数の範囲が異なっている。これらを同一に扱って、式Kでシーンの反射率を計算すると、7.4〜16.7% ということになり、標準反射率 18% と大きく異なるものになる。あるいは式Bから分かるよ うに、あるシーンへの照度とその輝度の関係は、シーンの反射率できまる。したがってそのシーンを入射式と反射式の露出計で測った場合、一般には同じ値にならなければならず、 そのときのそれぞれの校正係数から、反射率が求められる。たとえば C=250 の入射式と K=12.5 の反射式で同じ表示になる場合、反射率は 12.5*π/250=16% と求められるが、これも 18% とは異なった値になる。

これらを根拠に、実際のシーンの平均的反射率は 18% より小さく、12〜16% であるなどの議論や、反射式露出計の校正は反射率 18% の標準反射板で行われていないなどの議論をしている連中が、特に海外にいるのだが、これは意味のない議論である。シーンの平均的反射率は、実際に多数のシーンを調べて算出すべきもので、計算式 や理論から出すべきものではない。この平均的反射率が何パーセントになろうが、現実に撮影するシーンの反射率が平均的といえる保証はないため、反射式露出計を使用する場合は、常にシーン毎に反射率を考慮しなければならない状況が変わるわけでもない。同様に、反射式露出計を標準反射板を使用して校正したところで、それにマージンが設定されるなら、その 表示が反射率 18% に基づいた予測値からずれたものとなるのは当たり前のことである。それなら最初から反射率の方にマージンを持たせたもので校正しても同じことだろう。しかも、実際に反射式露出計で反射板を使って露出を決める場合に、このマージンを活かそうとするなら、反射率 18% の反射板を使用しなければならないことも当然のことなのだ。

入射式露出計の平板型と半球型の校正係数が異なるのを、反射率を異なって見積っているためと解釈するのも正しくない。被写体が平面の場合は、被写体からカメラの方に反射される光は、カメラの方向から被写体に浴びせられたものと考えてよいであろう。このような場合は、ほぼ一方向からの光に反応する、平板型入射式露出計で露出を判断しても差し支えない。しかし、被写体が3次元的構造物である場合、 それがカメラの方に反射する光は、被写体の表面の角度によって、さまざまな方向からのものになる。したがって、このような場合は、より広い範囲からの光に反応できる半球型入射式露出計を使った方がよいことになる。しかし、より広い範囲の光源に対して反応するということは、光源が広く分布している場合、露出計が受け取る光束は平板型より増えることになり、同じ校正係数では表示が大きくなることを理解できよう。このために校正係数を大きくしているのであって、反射率を小さく見積もっているわけではないのだ。

このように理解したうえで、各方式の露出計の校正係数を許容範囲で変化させた場合の写真的効果を見てみると、入射式露出計では平板型、半球型とも最大で 3/4EV、反射式露出計で最大 1/3EV 程度であり、校正係数による匙加減は 1EV(1 絞り)以内に留まっており、 その写真効果は意外に小さいことが分かる。

ともあれ、同じような輝度分布のシーンを撮影するにしても、ある場合は明るい部分(ハイライト)のディテールを重視し、またある場合は暗い部分(シャドウ)のディテールを重視し、状況に応じて露出補正を行っているのが常で あって、露出は常に機械だけで決めてよいというようなものではない、ということが結論になるだろう。