部活終了後、着替える僕の元に英二がやってきて小さな声で囁いた。
「今から時間ある?良い場所見つけたんだ♪」
余程お気に入りの場所を見つけたのか話す間も英二の大きな目はキラキラしていた。
そこまで英二が気に入ったものというのに興味が沸いて僕は二つ返事で
英二の言う”良い場所”に行くことに頷いた。
向日葵の坂
「本当にここを上るの?」
そこは通学路とは正反対にある場所で、ここが通学路となっている生徒達も
わざと遠回りして通らないようにしてるというくらいの
通称”心臓破りの坂”と呼ばれている道だった。
僕達は今、その坂を目の前にしていた。
「そうにゃ!!」
元気よく答える英二を見て僕は諦めのため息をつく
この様子だと何を言っても無理だろう。
上り始めて数分。坂の終わりは全然見えてこなくて
そして慣れない急な坂を上っているせいでだんだんと呼吸が荒くなっていく。
ここを上るだけでも結構なトレーニングになるんじゃないかな?
普段厳しい練習を毎日こなしている自分達でもこんな風になるのだから。
横を歩く英二を見れば、上り始めた時は煩いくらいに騒いでたのに今はひたすら無言で上り続けている。
「英二、何処まで上るの?」
聞いた僕に英二は先がまだまだだということを告げた
「上までにゃ」
「・・・一番上?」
「そう」
この終わりがなさそうな坂の上
何時になったらたどり着くことができるのかと一瞬くらりと眩暈がしたような気がした。
それからも二人で無言で歩いていて。。。
「不二、もうすぐにゃ!!」
英二の指差す先を見れば確かに坂の終わりが見えた。
そのことに安堵して額に流れた汗をぬぐう。
あと一踏ん張りと力強く歩き出して、よくやく坂が終わった。
「で、英二の見つけた良い場所は何処にあるの?」
「あっちあっち!」
ニッと笑って英二が先を駆け出す。
それを追いかけて行って、ついた先は一軒の大きな家。
けど目が行くのはそこではなくて、その大きな家の庭一面に咲き誇る向日葵の花だった。
「すごい」
それ以外の表現のしようがないといった光景
魅入る僕に英二が嬉しそうな声を掛ける
「へへっ♪不二も絶対に気に入ると思ったんだにゃ♪」
その言葉に僕は返事できなくて、そんな僕に苦笑しながら英二も一緒に目の前の向日葵を見ていた。
そんな僕達の横を小さな人影が通り抜けて行く。
なんとなく気になってその人影を目で追えばその人影、
僕達と同じくらい、いやそれよりも少し小さな男の子が向日葵の家の門に手を掛けた
「君、ここの家の人?」
何故かその子と話してみたいという気持ちに駆られて声を掛けたのだけど
僕の声にその子は一度振り向いた後何も言わずに家に入ってしまった。
「うにゃ!!無愛想だにゃ!!」
返事くらいしろーと叫ぶ英二をまあまあと宥めて僕達は帰ることにした。
帰る時、向日葵の家をもう一度振り返ると。。。窓一つ、わずかに開いていたカーテンが引かれた
「あれっ?」
「どしたの、不二」
「・・・・ううん。なんでも」
「なんでもない顔じゃないけど?」
「本当になんでもないって。英二、今日はココに連れてきてくれてありがとう」
とても良い物を見れたよ。と笑うと英二は照れながら”喜んでもらえて良かった”と笑った。
そうして僕達は家に帰った。
「ふーじー」
「何、英二」
「今日も行くの?」
「うん」
「。。。。オレも行って良い?」
「もちろん」
あれから数日たってのやはり部活の練習が終わってからの会話。
僕はあの日から毎日あの家に行くようになった。
そしてとうとう昨日、突然で失礼かと思ったのだけどどうしてもあの向日葵でいっぱいの庭の中に立ってみたくて
初めてあの家のチャイムを鳴らした。
「聞いた時はびっくりしたにゃ!!」
まさかあの日から毎日通ってるなんて!そして家にまで入れてもらってたなんて!!
昨日のことを話したら英二はそういって”良いにゃ!!見つけたのはオレのが先なのに!!”と
喚いていて。。。きっと一緒に来たいと言い出すだろうと思っていたから
その通りになったことが可笑しくて思わず笑ってしまう。
「笑うにゃ!!!!」
軽くこぶしを握ってぽかぽかと叩く真似をする英二を僕は笑いながら止めて
そのまま僕達は笑いながら部室を出た。
そしてまたあの坂を上る。
まだ通って数日だけど大分慣れてきたのか上る時にも会話する余裕が出来ていた。
さすがに英二は相槌打つのに精一杯といった感じだけど
「で、どんな人?」
「ん。とても優しそうな人だったよ。」
「へー」
昨日突然尋ねた僕に家の人は嫌な顔一つせずに僕を中に入れてくれた。
僕は向日葵畑の中に立って、持ってきていたカメラで何枚も何枚も写真を写した。
夢中になってどのくらいたったのか
「お茶は如何?」
と声を掛けられた。
にこにこと優しいそうな笑顔を浮かべたその人はお茶の合間の会話を楽しそうに聞いていた。
特に青学での話を熱心に聞いていた。
そのことが不思議で聞いてみるとその人は自分の子供も2学期から転入するのだと教えてくれて、
丁度その時に彼が現れた。
それは先日僕が声を掛けた子で
「、この人は不二君といって今度あなたが通う学校の方よ」
挨拶しなさい。と母親の言葉にその子はじっと僕の顔を見た後にぺこりと小さくお辞儀して庭に下りていった。
「ごめんなさいね。あの子、人見知りの激しいから」
そういって申し訳無さそうな声を聞きながら僕はこころ君を見ていた。
その後、少し買い物に出てくると母親は出て行ってしまい。
残された君と僕の間で会話が交されることはなくて・・・
見てると君は庭一面の向日葵に水をあげていた
「えーと・・・君?この向日葵は君の?」
なんとなくこのまま沈黙というのも居づらくて声を掛けた。
僕の声に一瞬びくっと肩が揺れておそるおそる・・・振り向いたこころ君はやがて小さく頷いた。
「世話も全部君がしてるの?」
僕の質問にまた小さく頷いて。。。最後に思っていたことを
「向日葵、とても綺麗だね」
そんな感想を言うと、思いもよらなかったらしその言葉に彼は一瞬目を大きく見開いた後、
始めて見る本当に嬉しそうな笑顔で笑ってくれた。
それからはやっぱり僕が一方的に質問してこころ君が頷いてそんな会話といってよいのか分からないような会話をしていて
買い物から返ったきた母親が僕に
「こんなに早く打ち解けるのは初めてよ!」
なんて驚いていた。
帰る時に「また来ても良いですか?」と尋ねた僕に母親は「いつでもどおぞ」と言ってくれた
こころ君はというと・・・・・本当に小さな小さな声にならない声で
「またね」
そんな声が聞えた気がして顔を見るとはにかんだ笑顔で手を振ってくれていた。
その時の笑顔が忘れられなくなった。
”いつでも”の言葉に甘えて尋ねる僕に、今日も笑ってくれるだろうか?
今日こそその声をちゃんと聞かせてくれるだろうか?
それを考えるときつい坂を上る足取りも楽しみで軽くなってくる。
「不二、嬉しそうな顔してるにゃ」
「そお?」
「不二にそんな顔させる”君”に早く会いたいにゃ♪」
「きっと英二も気に入るよ」
そう言って僕は笑った。
坂はもう終わり、あと少しで向日葵の家が見える。