
薫香について
| 壱、薫香の種類 | 弐、香料の種類 | 参、六種の薫物 |
| 薫香の種類 | 現代日本において香りは比較的非日常的な存在になりつつありますが、源氏物語が映し出す時代には、香りは日常生活の中にとても身近な存在だったようです。人々(ただし貴族達)は衣類に、部屋に、手紙に、香りを焚き染めて楽しんでいたようです。また、この時代の薫香は、香木を粉にして蜜で練り固めた練香(ねりこう)と、香木を砕いて絹袋に包んだ匂い袋が中心で、香木自体を燻らして香りを楽しむ「聞香(ぶんこう又はもんこう)」はまだ登場していなかったようです。当時の香りの楽しまれ方を大別すると、「名香(みょうごう)」「衣香(えこう)」「空薫物(そらだきもの)」の三つに分類されるようです。 | |
| 名 香 | 名香とは仏前に燻らす香りのことで、「削り香」や「刻み香」など、香木や抹香、練香が使われてたようです。 | |
| 衣 香 | 衣香は衣類に香りをつけて楽しむ香りのことで、匂い袋のような「えび香」のほかに、衣に焚き染める「薫衣香」があったようです。また、「六種の薫物」と呼ばれる代表的な薫物も重用されたようです。 | |
| 空薫物 | 空薫物は室内用の薫物で、「空香(くうこう)」とも呼ばれ、室内にそれとなく燻らせて楽しんだようです。火桶にくべたり、火取香炉で焚かれたりしたようです。この場合も「六種の薫物」が重用されたようです。 | |
| 香料の種類 | この時代には精油のようなものはありませんでしたし、薫物の原料としては香木や香草が中心であり、それらを焚いて香りを楽しんだようです。香料として用いられた香木や香草には、「沈」「麝香」「白檀」「丁子」「薫陸」「「貝甲」「甘松」「欝金」「かっ香」「青木香」「占唐」「安息香」「零陵香」「桂心」「竜脳」「蘇合」などと呼ばれるものがあるようですが、各々の香料に対して書物によってまちまちに解説されているため、下記に列記はしてありますが、これが絶対正しいともいえないようです。 | |
| 沈 | 沈(じん)は、沈香(じんこう)または沈水香(じんすいこう)ともいわれ、東アジアの熱帯に生育する数種類の喬木の樹脂部分が固まったもので、香道で用いられる「伽羅」もこの種類です。 | |
| 麝 香 | 中央アジアや雲南地方に生育する「麝香鹿」の生殖腺の近くにある麝香嚢から抽出されるもので、諸凶邪鬼の気を払うとされるようです。 | |
| 白 檀 | 栴檀樹の一種で、沈香木と並び称され、栴檀には他に紫檀、赤栴檀などがあるようです。 | |
| 丁 子 | モルッカ諸島原産のフトモモ科の熱帯樹。香味料や薬料にも使われるようです。 | |
| 薫 陸 | インドやペルシャで採れる香木の樹脂で、乳頭香ともいわれます。 | |
| 貝 甲 | 一種の巻貝の貝殻で、甲香ともいわれ、これを入れることで他の香りを引き立てる効果があるようです。 | |
| 甘 松 | 香草の一種で、刈安に似ているとのことです。 | |
| 欝 金 | カシミール地方の産でサフランのこと。 | |
| かっ香 | 南方の香草。 | |
| 青木香 | インド原産の香草で、蜜香ともいわれます。乾かしたものは木香といわれ、衣服の防香、賦香に使用されました。 | |
| 占 唐 | 橘に似た樹で、枝葉を煎じて使用するようです。 | |
| 安息香 | エゴノキ科の安息香樹の樹脂から採取され、粉末にして用いられます。 | |
| 零陵香 | インドやヒマラヤ北西部の夾竹桃科の低木です。 | |
| 桂 心 | 肉桂の樹皮から採った香料です。 | |
| 竜 脳 | スマトラやボルネオ原産のフタバガキ科の竜脳木の心材部の結晶樹脂で、一種の樟脳のようなもののようです。 | |
| 蘇 合 | 色々な香草の茎から採取した汁を煮詰めるという説と、マンサク科の楓と同属の喬木の樹皮から採取した半流動性の芳香樹脂という説があります。 | |
| 六種の薫物 | 平安時代に薫物として用いられた薫香の中で、代表的な「黒方(くろぼう)」「梅花(ばいか)」「荷葉(かよう)」「侍従(じじゅう)」「菊花(きっか)」「落葉(おちば)」の6種類の薫香を特に「六種の薫物(むくさのたきもの)」と呼び、そのうち「黒方」「梅花」「荷葉」「侍従」の4種類が源氏物語に登場しています。 | |
| 黒方 | 沈、丁子、白檀、甲香、麝香、薫陸の粉をつき合わせて作ったもの。冬の香りだが、祝儀用に用いられることが多い。 | |
| 梅花 | 沈、占唐、甲香、甘松、白檀、丁子、麝香、薫陸を合わせて作ったもの。梅の香りをイメージしたもので、春の香り。 | |
| 荷葉 | 甘松、沈、甲香、白檀、熟欝金、かっ香、丁子をあわせて作ったもの。蓮の香りをイメージしたもので、清涼感ある、夏の香り。 | |
| 侍従 | 沈、丁子、甲香、甘松、熟欝金をベースとして、占唐や麝香が加えられる事もある。秋風をイメージしたもので、秋の香り。 | |
| 菊花 | 沈、丁子、甲香、薫陸、麝香、甘松を合わせて作ったもの。菊の香りをイメージしたもので、秋または冬の香り。 | |
| 落葉 | 沈、丁子、甲香、薫陸、麝香、甘松を合わせて作ったもの。合わせる量も順序も菊花と同じだが、麝香や沈などの量を増して用いた。秋または冬の香り。 | |