──2995年、アルマータ島。

太洋の端に浮かぶこの島は、世界を大きく動かした。
自然保護区域、トリウム鉱脈、軍事施設・・・そして、国家の興亡。
数十年もの間、平和を享受し続けた現代人が経験する「初めての」戦争。
だが、それは同時に、人類を新たな時代へ導く鍵となった。
3年の歳月をかけて新時代の幕を開けたアルマータ紛争。 これは、その戦いの記録(の一部。あるいは一面)である。

─ What's new ─
090310 : 「靉靆」第八話「身業の清算」を公開。
090304 : 「靉靆」第六話「湖中の楽園」及び第七話「利害の一致」を公開。ローカルマップ追加。
080822 : 「暴戯/O.C.side」及び「靉靆」第五話「疑心の伏流」を公開。

Awakening
O.C.(オクスアイ共同体)の地質調査により、ある海域の浅瀬に、大規模なトリウム鉱床が発見された。 この発表に対し、テティスは鉱床の発見地点が自らの領海であると主張、領海内での無断調査に対する謝罪と賠償をO.C.各国に要求するが、O.C.側は同地点は公海であると反発。 国内のエネルギー関連企業に近海の探査権を与える。
テティスとO.C.のいつもの小競り合い、最初はただそれだけのことと思われていた。

Deterioration

ただの広大な無人島であるアルマータ島がこの年、俄かに脚光を浴びるようになる。
本年初頭、採掘プラントの完成を間近にして、テティスが国際法を盾に鉱床の北西に存在するアルマータ島の領有権を主張し、鉱床が領海内であるという宣言の正当性を訴えたのだ。 しかしO.C.は、同島が共同体加盟国であるO.C.イェルダールの領内であったと発表、テティスによる領有権の主張自体が見当違いであると非難する。 元々歴史的に軋轢の多い二国だけに、その関係の更なる悪化に長い時間は要さなかった。
同年6月、領有問題の目処が立たないままテティスはアルマータ島北部に軍を派遣、駐屯させるという強硬手段に出るが、O.C.もこれに対抗して同島南西に共同体連合軍を派遣。 かくして自然の楽園であったアルマータ島に緊張が走る。
そして遂に同年10月、テティス側の進軍により、両軍は交戦状態に突入する。
──様々な条件が重なり、航空機も戦闘車両も使えず始まった紛争。 それは、白兵戦などを含むゲリラ的戦術を中心とし、おおよそイメージされる「現代の戦争」の姿とはあまりにもかけ離れたものであった。

■...In Alma-ata Isl.

開戦当初の熾烈な前線争いは既に息を潜め、島内は静寂に包まれている。
僅か数十mを監視し、そこから監視される事で成立している戦争。
迂闊な攻撃は敗北を意味し、不用意な偵察は、敵の防御を促す糧となる。
まるで、予定調和の様な睨み合い。笑うと負ける、にらめっこ。
今日も、この島は静寂に包まれている・・・。

──開戦当初、両軍は持てる軍を総動員して、敵防衛線の突破を目指した。 だが、島全体に広がる湿地と密林により攻撃は難航し、補給も困難を極めた。 その結果、兵站を重視した両軍は無理な攻撃を避け、防御に重点を置き始める。 ・・・こうして前線は西部より硬直化し、2997年初頭には全ての戦線が固定されていた。

膠着する戦線を唐突に打ち破ってきたO.C.共同体連合軍。
敗北を覚悟したテティス兵の見たものは・・・
──2996年、紛争の開始と共に、両軍はめざましい進軍を見せた。
それと同時に、島内の至る所でゲリラ戦の様な小競り合いが繰り広げられた。
・・・彼らはまだ、この島の真の恐怖を知らない。

■...In Alma-ata Isl.

膠着した戦線は、依然として続いていた。
しかし、この年の8月、O.C.がCNNU──北方国家連邦と軍事協定を締結。
その2ヶ月後、CNNUはアルマータ島に「怪物」を送り込んだ・・・。
それらは、湿地を、密林を蹂躙し、刃向かう者の全てを奪う。
テティス軍は、「怪物」の前に為す術も無く、ただ恐怖するだけだった。

──2997年8月、O.C.はCNNUと軍事協定を結び、彼らにアルマータ島への支援部隊の派遣を要請した。 同10月、CNNUは多脚有脚兵器「ヴァクロフ」をアルマータ島に投入。 それは対人戦闘に非常に優れたもので、テティス兵からは「鋼鉄の蜘蛛」と呼ばれ怖れられた。 その僅か2ヶ月後、O.C.の戦線は、テティス軍司令部の1km手前にまで肉迫。 テティスは司令部の後方移設を余儀なくされる。

彼は、ただの新兵であった筈だった。
だが、彼の目には、戦場にいる全てのヒトが「標的」にしか見えていなかった。

睨み合いをする為に戦場に来た訳ではない。
両者に欠けているモノは、戦線を動かす「決定打」。
何でも良い、味方を揺り動かす「何か」が、両軍には必要なのだ。
その部隊は歴戦を生き抜いてきた優秀な部隊であった。
だが、それは必ずしも全員が優秀な訳ではない。
その事に気付いた時、彼らのメッキは脆く崩れ去る。
天運とも言える才能と、曲がりなりにも地の利を得て戦い抜いた3人の男達。
だが、それだけでは戦場を生き残る事は出来なかった。
しかし、彼らに人の利が加わった時──その恐怖は計り知れないものとなる。
終戦後、撤退したテティス軍の司令部で、その戦闘記録を漁る影。
記録は2997年。 「鋼鉄の蜘蛛」が、逃げまどう敵を喰い散らしていた時である。
だが、残された戦闘記録に、その勇姿は無かった。

■...In Alma-ata Isl.

目には目を。怪物には怪物を──。
テティスの取った行動は、そんな、極めて自然な選択肢だった。
そしてその瞬間、戦争はその姿を大きく変えた。
鋼鉄の怪物がお互いを喰い漁り、人間はその後始末を行う。
そんな、極めて不自然な光景が広がっていた。

──司令部陥落寸前に追い込まれたテティスはこの年の2月、試作段階であった“歩行戦車”「ルツィンデ」を急遽戦線に投入。 その戦果は凄まじく、有脚兵器同士による初の会戦「バラク─ヤディク渓谷攻防戦」では、敵ナユタ級12体を僅か2体で殲滅する程の快挙を成し遂げた。 同時に、テティスは歩行戦車の生産を本格化。戦争はその姿を大きく変えていった。

「アルマータ症候群」と呼ばれる、テティス兵により多く見られた精神疾患。
そして、
鉄の歩兵の最初の被害。
その裏には、共通してあの「影」があった。

一体、何が善くて何が悪いのか? 何を信じて何を疑うのか?
一体、何の為に戦い、何の為に散っていくのか?
──それらに解はない。 少なくとも、この場所に居る限りは。

(UPLOADED 080822)
一体、何が善くて何が悪いのか? 何を信じて何を疑うのか?
一体、何の為に戦い、何の為に散っていくのか?
──それらに解は不要だ。 少なくとも、この場所に居る限りは。

■...In Alma-ata Isl.

・・・アルマータ島に、静寂が戻る。
紛争はO.C.の勝利により終結し、一応の平安が人々に訪れた。
だが、誰も気付いていない。
狂った歯車は、静かに、しかし確実に動いていた事に。

全ては、ここから始まる──。

──2997年末、アルマータ島において「戦線」という概念が消えた。 有脚兵器の機動性により両軍の作戦半径はかなりの広域に及び、テティス司令部南20kmの地点以南に、広範囲の「戦域」を形成したのだ。 2998年以降、情勢は加熱の一途を辿り続け、もはや「紛争」とは言えないレベルとなっていた。 しかし、CNNUと協定を結んだ事でO.C.が物量的に勝り、戦域を次第に北へ押し上げていった結果、紛争は終結へ向かっていった。 そして2999年12月8日、テティス中央議会はアルマータ島からの撤退を決定。 同23日、テティス大統領・フレンツヒェン・ゼーベック氏はO.C.より提出された降伏文書に調印、アルマータ紛争は終結した。

共に歩を進める者が、同じ志を持つ者とは限らない。
利害の為には、主義主張を捨てねばならない事もある。
当然“僅かな代償”を支払わされる者も、少なくはない。
確かに腕の立つ兵士であった。
そして、頭の回転も悪くは無かった。
・・・しかし、自分が運命に弄ばれようとている事に、気付いてはいなかった。
少なくとも、想像していた「地獄」とは違った。
そこには、広大な殺人現場と、怯えた目をした殺人鬼達以外何も見えなかった。
これならば、人外のモノが蠢く地獄の方がどれだけマシだろうか。
逃げ込んだ地下室は、下へ下へとさらに伸びている。 最初は誰もがそう思った。
しかし、調べているうちに判って来る。
「下」と上の連絡の為に、この地下室が後から作られたのだという事を。
モノを隠す時は、却って目に付く場所に置くと良いと云う。
それはヒトを隠す場合であっても同様だ。
そして彼もまた、そうあった。
既知の情報、未知の事象。
その間で揺れ動く憶測、妄想、感情。
下した決断に評価を与えてくれる「誰か」はここにいない。
(UPLOADED 090304)
新たな仲間。 新たな脅威。
自らの 意志に関わらず、状況は流転する。
この長い一日に、終わりは来るのだろうか。
(UPLOADED 090304)
目前の「敵」を排除するために、より利害の対立が少ない相手と手を組む。
これが「利口なやり方」というもの。
──本当に?
(UPLOADED 090310)
それを相応しい末路と見るか。
それとも私刑と批難するか。
おそらく正解は存在しないだろう。 あるいは間違いも。

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written by Yaoroz and G.T.
illustrated by. sagittal
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