噂には聞いていたけど、主要登場人物の4人が全て死んでしまうという、いわば「台本読み替え」のシリアス演出。部分的にはセックスシーン、暴力的と受け止められる場面もあるし、華やかさ皆無、決して万人向けの「カルメン」ではないかもしれません。
それでも、不思議なくらい違和感も、嫌悪感も感じなかったのは、「物語や設定を読み替えていても、こちらが意味を感じられないような、人物像の矮小化をしていないから」かな…と感じました。
殺伐、荒涼とした砂地をベースに、どことも知れない舞台+その暗い運命を暗示してか、照明も全体的に暗め。特に2幕と3幕は一貫して暗いというか、青白い感じ。場面によっては、ほぼ真っ暗ということもあります。
1幕のタバコ工場は殆ど娼館のよう。これが、質実剛健がウリの、ここのオーケストラとは思えないような甘美な管弦楽と、ゆったりした合唱団の声と不思議とマッチしていて、なんとも耽美的な気分になります。
音だけを聴いていたときにも感じましたが、ドスを効かせるタイプではないけれど、知的で抑制が効いていて、凄んだ時の表情も美しいカルメンは、今まで映像で見たカルメンの中で、一番私のイメージに合っているように思います。
2幕だけは長袖のシースルー風のアンダーウェアナシですが、一貫して黒いレザーのワンピース。立ち居振る舞いが美しく、シルエットも決まっています。
時折羽織る、暗めの赤のショールがアクセントを利かせています。場面に応じて、このショールがホセとカルメンの関係を象徴しているかのような印象を受けます。
4幕冒頭、カルメンが既にホセを見限っている場面では、このショールは、風に吹かれて砂地に晒されたまま。フィナーレの二人のやり取りで、このショールが再び活躍?するのですが、最後には銃殺されるホセの目隠しとして使われていたのも、暗示的でした。
ホセは最後まで成り行き任せというか、子供っぽいというのか、オトナになりきれないままという感じ。これは「人物の矮小化」ではなく「人物像をより明確にした」と解釈できるかと思います。
2幕でカルメンとの密輸団に加わってほしい…いやそれはダメだ…との問答の最中、スニガが途中で入ってきますけど、刺し違えてしまって、多分殺してしまったのでしょう。これが第一の殺人。
そして3幕では、エスカミーリョとのひと騒動のあと、彼を探しに来たミカエラを意図的にではなく「誤って発砲して」殺してしまいますし、フィナーレではカルメンを殺すのですから、3人も殺せば、殺人罪で銃殺されるのも無理はないのかもしれません…
エスカミーリョとの決闘の場面でも、ぎゃあぎゃあわめきちらし、命を助けてもらったにも関わらず、形勢逆転した途端、相手を蹴っ飛ばしたり、馬乗りになったりと、まるで子供っぽい。
4幕、カルメンとエスカミーリョの2重唱の後、舞台の隅っこにうずくまるように座って、いじけたように砂遊びをしている姿に、ああこのひとは、オトナになりきれていないんだな、と、納得させられました。
さてそのホセの恋敵エスカミーリョ。登場場面では、何となく通りかかった街の酒場に、一人でふらりと立ち寄って、皆が乱痴気騒ぎを繰り広げている中、勢い込んで武勇伝を歌ったはいいけど、終われば何事もなかったかのように、みんな無関心。完全にこの場から浮いた部外者という感じです。一人カルメンがちょっとだけ関心を示しているのが救い?
3幕のアクションシーンは颯爽として素敵…とは言い難く、頭を抱えてしまいましたけど、何度か見ていると、まぁ何て言うんでしょ、予期せぬところに現れた恋のライバルに対し、一人で勝手に暴れてわめく子供っぽいホセVS悠然?鷹揚と構えている(単に、モタモタしてるだけかもしれませんが)エスカミーリョ…と取れなくもないわけで(^^;贔屓目ですけど。
それにしても、辛気臭いし、地味…
もっとも、この演出では、最後には牛に突き殺されてしまいますし(^^;「華やかで強い闘牛士」を求めていないと思うので、これでいいのかもしれませんが、本当はもっと華やかに、派手派手に歌い上げて、派手な振る舞いをしたほうが、万人受けするでしょうね…
(かといって、そういう振る舞いをする彼を想像できるか?!と聞かれると、それがイヤだったから、この役はイヤよ!!って思っていたわけで…ということで、堂々巡り。要するに、「ホントはこれじゃダメだし、なんか変だけど、私にはこれでいいわ」ってことかしら^^;)
演奏の方は、3幕以外は同時中継していたラジオで聴いていたのですが、絵を伴ってみると、また違う感想になった部分もありますが、昨年末の「ボリス・ゴドゥノフ」で、裏切られた(^^;バレンボイムの指揮が、えっ?!というほど(私には)よかったので、嬉しいびっくりでした。
画質はそこそこいいのですが、照明が暗い部分が長く、映像で見るのには適したタイプの演出ではないように思いますが、元々この作品には大した思い入れがなく、スノッブぶっているわけではないのですが、普通に演出されたら退屈でかなわない…と思っている私にとっては、ちょうどいいのかな、と思いました。
日本でもテレビ放送、若しくは正規の映像発売…ということにでもなれば、それはやっぱり、飛び上がるほど嬉しいですし、縁あって先行して見られたのは、勿論嬉しいです。
映像で彼を眺めるのには慣れていませんから、片手では足りないくらい、アラが目についてしまって、何となく気恥ずかしくて、相変らず「胸の中にヴェスヴィオ火山があるみたい」状態なのですが、何度も眺めていれば、それはもう…
…愛しい人のお顔ですから。アラが見えても「アバタもえくぼ♪」ってこと(///