高知県立美術館
THE MUSEUM OF ART, KOCHI
ヒアリング実施日:1997年4月30日Wed.
学芸員 M氏
美術館DATA
〒780 高知県高須353-2
TEL 0888-66-8000
FAX 0888-66-8008
交通 JR高知駅から土佐電鉄ではりまや橋乗り換え
県立美術館通り下車徒歩約5分
土電バス高知医大行、県交通バス東高校行県立美術館前下車すぐ
高知空港から車で約20分
OPEN 1993年11月3日
面積 敷地:20,000平方メートル
建築:6,388.34平方メートル
延床:11,723.72平方メートル
職員 学芸員は6名
管轄 知事部局文化環境部
設立の経緯
もともと郷土文化会館があったのだが、その名の通りこちらは郷土のことが中心であった。また、この会館は第2次美術館ブーム時代の産物であり、レンタルスペース機能が主であったため、本格的な企画展に対応できる施設がなかった。そのため、郷土文化会館が文学館に生まれ変わった時、文化会館の歴史資料は先行してできていた歴史民族資料館に、美術資料は美術館に移動された。
いたるところに美術館がつくられる昨今のご時勢の中で、美術館がないのはよろしくない、また、建物も他県と競合するものがなかった、というのも美術館建設の理由の一つである。
基本方針
絵画に限らず、多様な美術表現を総合的に見せいく。その為、各種講座や講演会などの教育普及活動、併設ホールでの演劇、映画上映にも力を入れている。
また県民ギャラリーは、県内の作家や児童作品の発表の場としている。
その他の活動
創作講座では子供を対象としたワークショップや企画展での実演、作家のレクチャーなどを継続的に行っている。またホールでの催しは、型にとらわれず前衛的なものを取り入れるなど、質の高いものとなっている。その他、若手監督を起用した映画の制作や、市電にアーティストがペインティングをするプロジェクト等、美術館の活動は幅広く多岐にわたる。
運営
企画展の予算は年間1億円。作品購入に関しても、県立クラスで年間2〜3000万のところがあることを考えると、財政事情は決して悪い方ではない。
美術館の管轄は知事部局の文化環境部である。ここは、建設時は教育委員会の管轄だったのだが、完成後文化環境部に移管された。これは知事が、これからは文化が重要になるとの考えを打ち出しており、それに関するセクションを文化環境部として独立させたためである。
また、運営は第3セクターの高知県文化財団に委託している。しかし、財団と県との契約によって、美術館の運営に関しては県の規則に準ずることになっているため、フレキシブルな対応はできにくい。作品購入に時間がかかるのもそうなのだが、美術館は感動を与える施設であり、役所とは果たす機能が違うにもかかわらず、行政の条例改正がそのまま美術館にも適用され、困っているケースもある。身近な例では、食糧費の問題である。作家と協力して仕事を行う場合、作家とうまくコミュニケーションがとれていなければ感動は生み出せない。しかしそういう時、一杯飲んで語る場を設けようとしても、自腹を切らなければならなくなる。
収集作品
収蔵作品は、ニューペインティングで表現主義的傾向の強いもの、シャガール、そして高知県ゆかりの美術を3つの柱して収集している。ニューペインティングを扱っているのは、他県とは異なったもので、与えられた予算で購入でき、クオリティの高いものといったらニューペインティングしかなかったというのが実際の理由である。引き算引き算して残ったものが収集の種になった。しかし、やって見たら面白いものが多く、結果的には正解だったのも事実である。
現在、ニューペインティングの収集が一段落したため、これから先の収集について考えを巡らしているところである。しかし、基本的な方針は変えずにやっていくつもりである。
作品購入について
コレクションの収集というのは、30年周期で一つの流れができるように行っていく。思う作品がすぐ市場になかい、また、あっても手が届かいことが多々あるため、ある程度の流れを念頭において、その流れに沿うよう点的な買い方をしていく。例えば、起承転結の「起」は無理でも、「転」なら買えるのでそこから購入するというように。そして、30年たったころには一つの線を描けるようにする。
しかし、それがわからない役所の人達は、その買い方を見て一貫性がないと言う。いえ、後で見たら一本になっているんですと説得するのがややこしい。そこで苦労することもあるのだが、しかしこれも、最終的に説得するのは作品の力である。また、いくらコンセプトに沿った作品であったとしても、作品の質がよくなければ本末転倒になってしまう。
美術館の力は、最終的にはどんな作品を持っているかで決まる。他の美術館が借りたい作品をどれだけ持っているか。展覧会などに作品を貸し出すということは、そこの美術館に貸しを一つ作ることになる。そして、その積み重ねが結局、美術館同士のコミュニケーションになっていくのである。
行政と美術館:作品購入に関して
購入に関しては美術館がプランをもち、委員会なり何なりのお墨付をいただいて晴れて購入となるわけだが、他県の例をみると、作品購入の権限が実は美術館にないところが結構ある。これは、市町村など小さい組織になるほど多い。企業と同じで、小さくなればなるほどトップの権限が強くなり、組織は民主的でなくなる。そういうところでは、首長の一存で購入作品が決定してしまう事態が発生しやすい。高知県立美術館でも、収集の一つに掲げているシャガールは知事の好みが反映されたものである。しかし、高知の橋本知事は芸術に対して大変理解があり、上記のような事態には至らずに現在に至っている。
行政と美術館:学芸員に関して
学芸員というのは、知識はさることながら人脈が物を言う職業である。例えば、他の美術館に資料を借りようとするとき、そこに知り合いがいるといないでは手続きの繁雑さが全く違ってくる。Give and Take の世界であり、これは、作家とのつきあいでも同じ。そういうものは、仕事を続けながら、時間と共に備えていかなくてはならない。
しかし、場所によっては、学芸員が3年で移動になってしまう。愛媛県などがそうなのだが、学校の先生などがどんどんかわってくる。絵を描ける人は絵を見る目もあると思われがちで、そのためにそういった事態が発生してしまうのだが、学校の先生や作家などのような、物をつくる側の人と美術館の学芸員とでは、性格が全く違う。作家は主観的な生き物であるが、学芸員は客観性が必要になる。また前述したように、学芸員が一人前になるには長い時間が必要で、3年たったら人が変わってしまうようなところでは人は育たない。そんなに短いスパンでできる仕事ではないのである。
また、研修制度などもあるのだが、研修に行ってほしいばりばりの学芸員に限って、忙しくて行く暇がない。一つの県に2〜3の美術館があれば、そのなかで入れ替わって成長していくこともできるのだが、地方ではなかなかそうもいかない。
博物館学芸員資格と学芸員
こういう専門的な仕事というのは、人を育てる環境が必要である。大学で博物館学芸員過程はあるが、それが実際の仕事で役に立つかというとまた別である。欧米では、大学が美術館や博物館を持っていて、現場で生きた教育ができる。しかし、日本の1〜2週間という実習期間では、できてもせいぜい現場の空気に触れることぐらいである。また、資格をとる人が本当に学芸員になりたいと思っているかというと、必ずしもそうではない。教職科目と取得単位が重なっていることもあって、法学部や経済、商学部の学生からも申し込みがくる。そして、毎年6000人の有資格者が出るのだが、実際学芸員になれるのはその中の1%にすぎないのである。
今後の見通し
しかし、そういった教育、システムに関しても、これからは少しずつ整っていくのではないかと思う。美術館事態クローズアップされてきているし、女性誌にも、以前はなかった展覧会情報が掲載されるようになった。国としても本腰を入れなくてはならない状況になり、文部省などでも、改革が必要だという雰囲気だけは出てきていている。
これは皆が言うことだが、日本は今やっとスタート地点に立ったところなのである。あと50年もしたら、やっと欧米なみになるのだろう。しかし、そのころには、欧米はもっと先を行っているのも事実である。
美術館というのは、確かに研究機関ではあるけれど、それだけではない。実際に状況を作り出す「場」なのである。だから、学者とは違う、「実現する力」が学芸員には求められる。行動力、交渉力もその一つで、作品購入にしても企画展しても、役人はわかってないからではすまされない。やりたいことをやっていこうと思ったら、相手を説得するだけの知識とパワーを備え、一つ一つ、きちんと交渉してなければならないのである。
所感
高知県立美術館は、地方にあって、ワークショップや公演など、いつも意欲的な活動を行っている。それは、ホールなどの担当者に的確な人選がなされていることにもよる。
また、高知県という土地自体も、地元の人材を発掘、活用し、地方色を生かす柔軟な街づくりの取り組みが活発になりはじめている。その一つの例として、県の文化環境部(美術館はここの管轄)文化推進課では、県民からなる県民ネットワークが結成され、その分科会で出た意見は県政に反映されている。
そのようななかで、文化発信という役割を担う美術館が今後どういう展開を見せるのか、地域全体を通した動きのなかでこれからもみていきたいと思う。
■高知県DATA■
人口 81万2933人(平成9年4月1日現在)
主産業 第一次産業(紙など)
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