今回は運命に翻弄された悲しい女達の物語がいくつも盛り込まれていたのが良かったです。加古川本蔵の妻・戸無瀬と娘・小浪、一力茶屋の遊女・浮橋太夫、内蔵助の妻・りく、そして大工の娘・お艶。やはり一女性視聴者としては、『忠臣蔵』という骨太な男達の物語の中に、こういう悲しい男女の愛を織り交ぜて描いて下さるのは嬉しい限りです。 特に浮橋太夫の命をかけて浮きさま(内蔵助)を守ろうとする姿には「遊女はお客になど惚れぬもの」といいつつ、惚れてしまった悲しい女の性が全身から感じられてウルウルきてしまいました。浮橋太夫役の池上季実子さん、はんなりとした京の言葉遣いが太夫の雰囲気にぴったりでしたが、お声を聞いていると年末時代劇『奇兵隊』での芸者・幾松役が思い出され大変懐かしかったです。前回のレビューで「内蔵助と太夫の心のふれ合いが描かれなかったのが不満」と書いてしまいましたが、またしても前言撤回です(^_^;)。今回の太夫の命がけの行動や、内蔵助が「眠りはいつかは覚めるもの。明日無きものと思えばこそ、今日飲む酒がうまいのよ」と、 "ほんの少しの笑顔"を浮かべながら本音を太夫に吐露したシーンを見て、十分満足する事ができました。まさしく大人の恋愛ここに極めり!という感じでした。松平内蔵助さまが太夫の膝枕で扇を顔に当てながら寝ているお姿もそれはそれは上品な色気が醸し出されて絶品でしたし、眠りから覚めた後のお顔と来たら・・・(*^_^*)。 りくとの永遠の別れについてはもう何も申し上げることはありません。多くを語らずともすべてを分かり合える夫婦愛。もう二度と会うことがないであろう夫に対し武士の妻として気丈に「ご武運を・・ご武運をお祈り申し上げます」と別れの(手向け)言葉を述べるりく。田中好子さんは、本当に素晴らしい女優さんだと思いました。戸無瀬に対する毅然とした態度、主税の祝言が決まったときの母親としての喜びの顔(この時の父親である松平内蔵助さまの笑顔も良かった!)、そして内蔵助との永遠の別れの時に見せた妻としての顔、顔の表情とセリフ回しの微妙な変化だけで感情の違いを演じ分けて見せられるなんて凄いことだと思います。このあたりは正直言って(ホントゴメンナサイ!)松平さんはまだまだ経験不足かな?と思ってしまうほどでした(あくまで内蔵助役としてです。『利家とまつ』での権六勝家さまの情感こもった演技は最高でしたもの)。ただねぇ〜何回も書いてしまいますが(-_-)、松平さんも番宣に出演された時「りくとの別れ」が描かれています!と強調していらした事から、このシーンはクライマックスの一つだったと思うのですが、その映像を番宣で事前に全部公開してしまったのはいかがなものでしょうか? 松平版『忠臣蔵』の重要なキーワードは「内匠頭お肉通しのお刀」と「加古川本蔵一家との関わりを通じての家族愛」だと思います。その後者のエピソードについて今回時間を割いて描いたわけですが、せっかく役者さん達は素晴らしい演技をなさっていたのに、肝心の結末が中途半端かつ強引な展開だったため、残念ながらこのエピソードに限っては感動の結末とはなりませんでした。 加古川本蔵のエピソードはご存じのように歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』九段目「山科閑居の段」から設定を借りてきたもので、映像化作品ではあまりお目にかかれません。松平版『忠臣蔵』と歌舞伎「山科閑居の段」との共通点は、@小浪と主税が刃傷前に結納をかわしていた事、A本蔵が松の廊下で内匠頭を抱きとめた事、B小浪と戸無瀬が内蔵助の山科閑居を訪問し、小浪と主税の縁談を再び乞うものの、りくは「忠義に厚い大石家の嫡男とは心の釣り合いがとれませぬ」と頑なにこれを拒否する事、などなど、これらはほぼ歌舞伎の話をなぞっています。ところがこの後の展開が歌舞伎とはまるで違った事から「加古川本蔵の命をかけた願い」が薄っぺらい印象に終わってしまいました。 歌舞伎では、りくが小浪・戸無瀬を前に「ふたりの祝言を望むなら本蔵殿の首をいただきましょう、それならば亡き内匠頭の無念も少しは晴れようものを」と毅然した態度で縁談を断るところで、虚無僧姿の本蔵が登場。本蔵は内蔵助の仇討ちの本心を知りつつも、わざと内蔵助の腰抜けぶりをなじり、激怒した主税に討ち果たされてしまいます。しかしそれは娘の幸せを願う親心から出た本蔵の一世一代の大芝居。若い小浪・主税夫婦の"死出への門出"を祝いつつ、「吉良邸絵図面」を差し出して絶命する−こんな筋になっています。ところがドラマでは命を奪われる相手が主税から浅野本家の刺客に変わり、絵図面の話は岡野金右衛門の"恋の絵図面取り"に持っていかれてしまいました。打たれる相手が婿の主税と浅野本家の刺客とでは命を捨てる重みが10倍は違ってくると思うのですが、従来の映像物の『忠臣蔵』とつじつま合わせをするために本蔵の最大の見せ場が犠牲になってしまった感があります。しかも絶命寸前の本蔵に対し、内蔵助の口からは突然「竹馬の友の命を賭けた願い・・」が飛び出します。えっ、あなた達いつから竹馬の友だったの?と我が耳を疑ってしまいましたよ。それならそうと二人の深い関わりをキチンと描いて下さい。これでは全く感情移入できません。さらに本編では本蔵の死などなかったかのように、吉田忠左衛門からもたらされた「お家再興願い却下」の報をもって再度討ち入りの意志を固める場面が展開されます。松平さんはこの一連の場面をどういう気持ちで演じられたのか気になって仕方ありません。 女性達にまつわるエピソードは感情移入しやすく、特にりくが幼子達を引き連れて但馬の実家へ戻るシーン。母親の去りゆく後ろ姿を切なげに見送る主税の姿には、元服し一人前の男子とはなったものの、まだ母恋しの幼い少年の心が見え隠れしていてウルウルきてしまいました。山崎くん!今回の演技も◎です。恋の揺れ動く岡野金右衛門役の要潤さんの表情もまた良かった!今回の『忠臣蔵』の大きな収穫のひとつはこれら若手俳優の皆さんたちが時代劇の役作りに真剣に取り組んでいる姿が見れたことだと思います。 肝心の松平内蔵助さまですが、相変わらず感情を表に出すことなく、所持万端の判断を冷静に下すあたりは内蔵助という人物の懐の深さを感じさせて凄いものがあるとは思いました。ただ松平さんの内蔵助はどちらかと言うと、人間の温かみというよりはクールビューティーな印象が強く、四十七士を取りまとめるリーダー像としてはどうなのかな?と、ここ6回までの話を見るに至って少し考えさせられるようになりました。これらの松平さんの演技を見ていると大河『元禄繚乱』での色部又四郎の演技に共通するものが感じられます。内蔵助の人物像として相応しいのか相応しくないのか私には判断しかねますが、それが松平流の内蔵助なのかもしれません。普段の内蔵助がクールビューティーだからこそ、浮橋太夫やりくなど女性達の前でふと垣間見せた人間味溢れる笑顔がより印象に残ったのでしょう。 |
いよいよ吉良上野介への仇討ちの意志を固めた内蔵助達。浪士達にとって仇討ち決行とはすなわち死への覚悟を固めることです。家族とのつらい別れを経験しなければなりません。四十七士の最年少矢頭右衛門七もその一人。萬田久子さん演ずる右衛門七の母・なみの、向後の憂い無く息子を仇討ちに邁進させるためには自分が生きていては足手まといと、自害して果てた姿には、およそ現代では理解しがたいであろう究極の母性愛を見たような気がします。東海道・吉原宿にて内蔵助らと合流した右衛門七は、内蔵助からその事実を告げられ、気丈にも悲しみに耐えようとしています。ウルウル(T_T)。冨田翔くん今回もまた素晴らしいです!どういうわけか内蔵助さまは右衛門七に対しては、父親のような優しいまなざしを投げかけますね(*^_^*)。一方、米問屋になりすました前原伊助は吉良邸内を探ろうとして清水一角に見つかり、激しい拷問を受けてしまいます。その姿に心を痛めた浪士達は、吉良邸増築を請け負っている大工の娘お艶に接近した岡野金右衛門のふがいなさを攻め立てます。「絵図面を入手するのに何をためらっているのだ」と。ここで登場した片岡源五右衛門のひとこと「あの娘に惚れたな」(この時の羽場さんのニコニコ笑顔が忘れられません(^_^))。そうです。恋と任務の板挟みにあって、金右衛門は絵図面奪取という行動に踏み切れずに悩み続けていたんですね。このエピソード、恋愛物好きの私としては本当にお気に入りの話です。若い要潤さんにはぴったりの役ですね。討ち入りに向かって邁進する浪士とは対照的に、他家への養子縁組・仕官と討ち入りとの板挟みにあう浪士(高田郡兵衛)の様子も描かれていました。ここでは何と石立鉄男さんと伊東貴明(伊東四朗さんの息子さん)さんが登場!単発的に挿入されたエピソードだったにも関わらず、緊張感あふれる芝居に仕上がったのは、やはり石立さんの熱演によるところが大きいでしょう。伊東貴明さんも時代劇のセリフが完璧で流石!と思ってしまいました。 そして今回の最大の見せ場は何と言っても松平内蔵助さまと垣見五郎兵衛役の江守徹さんとの演技合戦です。江守さんと言えば、大河『元禄太平記』で30代の若さで内蔵助を演じた文学座の大看板俳優、今は舞台の演出もなさるマルチな才能を発揮される方です。大河ドラマにも重要な役所で次々を出演されました(付記:大河『武蔵』での忍者役はいただけませんでしたが(^_^;)、尤もあれは江守さんの責任ではなく100%脚本の問題だと思います)。松平さんとは今回が初共演です。江守さんが「松平さんとは初共演だったがきちんとした方でした」とエールを送れば、松平さんも「江守徹さんの迫力ある演技に刺激を受けました。私にとって印象深いシーンのひとつです」とまさにがっぷり四つの姿勢で臨んだお二人。松平さんの役者としての緊張感と、江守さん演ずる垣見五郎兵衛に対して「武士の本懐を遂げさせて欲しい」と物言わずに必死に"目"で懇願する内蔵助の姿が完全にシンクロして、本筋の内容に感動する以上に、お二人の演技姿勢に感動して、もう涙が止めどなく溢れてしまいました。お二人ともテレビよりもむしろ舞台で活躍される事が多いので、今回の共演もまさしく舞台調・歌舞伎調でしたが、不思議な事に全然違和感なく見ることができました。双方の俳優の演技力のバランスが取れていれば、どんな演技スタイルでも視聴者を感動させる事ができるのだ、という見本のようなお芝居だったと思います。江守さんのセリフの間合いの取り方、顔の表情、所作のひとつひとつがこれぞ名優!と呼ぶに相応しいものでしたし、(非常に細かい事ですが)内蔵助さまの「(道中手形を)お見せ致そう」とすっくと立ち上がり、襖をすっと開ける所作や、白紙の手形を包んでいた紫の布を開く所作などはその美しさにおいて完璧だったと思います。 白紙の道中手形・・・といえば時代劇好きの方にはピン!ときますよね。そう、『勧進帳』です。内蔵助は当然弁慶役に相当するわけですが、これを見て来年の大河『義経』での最大の見せ場のひとつ「安宅関」に思いを馳せた方も少なくないと思います。少し話がずれて申し訳ありませんが、松平さんは『奇兵隊』、『斎藤道三』そして今回の『忠臣蔵』と、大型時代劇で、過去の大河で同役を演じた方の前で主役を演じることが多いようです。『奇兵隊』は中村雅俊さん(『花神』で高杉晋作役)と、『斎藤道三』は平幹二郎さん(『国盗り物語』で道三役)、そして今回の江守徹さん。こういう時松平さんはどんなお気持ちで演じられるのでしょうか?私が拝見した限りでは過去の名作へのオマージュとして敬意を表しながらも、松平さんなりの新しい人物像を造形するのだという意気込みが感じられて、とても感動した事を思い出します。この流れで是非来年の大河『義経』では、緒形拳さんか中村吉右衛門さん(大河、水曜時代劇で弁慶役)、あるいは「マツ"ゲ"ンサンバ」つながりで尾上菊五郎さん(大河で義経役)に富樫を演じていただければ嬉しいのですが。 |
今回も松平内蔵助さまの出番はあまり多くはなかったけれど、先週に引き続き赤穂浪士達それぞれの心の葛藤がきっちり描かれていて良かったです。 特に岡野金右衛門の"恋の絵図面取り"のエピソードは何度見てもいいです。要潤さんはテレ朝系のドラマ「動物のお医者さん」でのはじけたキャラしか拝見した事がなかったのですが(^^;)、今回の大役は本当に見事にこなされていたと思います。時代劇初挑戦とは思えぬ堂々とした立ち居振る舞い、セリフ回しはお見事でした!滑舌がもっと良くなればこれから時代劇での活躍の場も増えてくるのでは?という期待感を抱かせてくれました。相手役・お艶の前田愛さんもおきゃんな江戸娘っぷりがとても可愛く、お二人はとてもお似合いのカップルでした。時代劇で「好きだ・・」というセリフを聞くのは本当に久しぶり。もしかして大河『峠の群像』での、当時27才の松平さんが演じた石野七郎次の告白以来かも(*^_^*)!(お店を捨てて七郎次の元へ駆け込んできた素良(演じるは多岐川裕美さん)をひしと抱きしめて「好きだ・・・」と一言告白するんですよね・・・我ながら凄い記憶力(^_^)。にしても松平さんは若い頃から本当にラブシーンが苦手な方であった)新聞のインタビューで「もう少し若かったら(もう少しって、20年は若くないとアカンでしょ(>_<))、岡野役を演じたかった」とお答えになった松平さん。今も昔も変わらぬとてもロマンチストな方なんですね(*^_^*)。その割にはいわゆる恋愛物の時代劇にはあまりお目にかかれず私は大変寂しい思いをしていたのですが(笑)。 話が脱線してスミマセン。結局は金右衛門はお艶の恋心を利用して絵図面を入手するものの、罪悪感に苛まれ続けます。そんな金右衛門を見て「男子として恥ずべき仕事、心中は察するぞ。だがそれを望んだのは内蔵助。一挙のためなりふり構わぬのは内蔵助。恥はそなたものではなく、この内蔵助のものだ。」と穏やかに諭す内蔵助ではありますが、恥ずべき行為の後ろめたさは癒されても、金右衛門の恋心はもう報われることはありません。ああ誇り高き武士道の非情さよ(T_T)! 他のエピソードも単発で挿入されていた割には、(橋本平左衛門の遊女との心中話の時とは違って)、脚本がしっかり描き込まれていたためでしょうか?浪士達それぞれの置かれている立場にすんなり感情移入できましたし、これはやはり監督の腕の違いよるものかもしれません。中山忍さんや浜田万葉さん、美保純さんは久しぶりにお目にかかりましたが、特に中山さんや浜田さんはすっかり大人の女性になりましたね。堀部安兵衛の「昔の女の事を知っていて今日まで言わずにいてくれたな。だが案ずることはない。この七年、俺にはおまえしかなかった」は今生の別れ際なんかに言って貰いたくないセリフですよね(T_T)。お袖さんが可哀想すぎです。安兵衛は結局、「大酒飲みの暴れん坊」というエピソードが描かれる事なく討ち入りの日を迎える事になりました、たまにはこういう静かな安兵衛の描き方もいいかもしれませんが、もっと派手に暴れまくる華のある安兵衛も見てみたかったです。その分討ち入りで活躍していただく事にしましょう。 いよいよ討ち入りの日程を決める段になり、当初の12月5日から14日へと変更が生じます。本来ならこのあたりで内蔵助と千坂兵部による諜報戦が繰り広げられ、緊張感ある場面が展開されたはずなのですが、一切描かれることなく淡々と討ち入りの日が確定してしまいました(-_-)。内蔵助さまの長せりふ「5日と聞いた時、何やら意味もなく漠然とした不安を覚えて気乗りがしなかったのだ。(14日につきましては?)いや、これが不思議なもの。今先、忠左衛門殿が申された天からの声か。ぴたりと胸を打って心の中が洗われた思い。何故このような気分になるのかと思いを巡らしたところ、内蔵助・・はたと或る事に思い当たった。12月14日。月こそ違え、亡き殿のご命日。・・・・我らにとってもこの日が命日」、朗々としていて非常に聞きやすかったのですが、上述の諜報戦がまったく描かれていないため、あまり説得力がなかったような気がします(もちろん松平さんの演技力の事を言っているのではありません)。考えてみれば、今回の『忠臣蔵』では、赤穂浪士達の仇敵・吉良上野介の印象も非常に薄いような気がします。初回こそ吉良の憎々しさが余すところなく描かれ、内匠頭の憤怒の情を視聴者側も納得して受け入れることができたのですが、その後の吉良の出番は散発的で、出たとしても「何故自分が狙われなければいけないのだ?」のセリフの繰り返し。もっと吉良側の言い分を例えば幕閣に申し述べるシーンとか盛り込んでも良かったと思うのですが。ただ上杉サイドの3人、千坂兵部・小林平八郎・清水一角らの忠義を尽くして頑なまでに「お家を守る」姿勢はニヒルな演技と相まって非常に良かったと思います。 最後の最後に「天野屋利兵衛は男でござる」の有名な場面が登場しましたが、エンドロールをかぶせながら言わせてしまうなんて・・・かなりもったいなかったような気がします。せっかく松平さんと藤田まことさんの演技合戦が見れると思って期待していたのに、肩すかしをくらったようで残念でした。第七回の垣見五郎兵衛とのお芝居が非常に良かっただけに余計のその思いが残ります。 |