富山の薬売りがわたしの家にやってきたのは、多く寒い季節だったように思う。大きな風呂敷で包んだ行李を自転車の荷台に載せてやってきたものだ。すると母は薬箱を持ち出していき、熊胆とか風邪薬とかを新たに足してもらい、何がしかの薬代を払っていた。
その帰り際、薬売りがいつもくれたのが何個かの紙風船で、わたしはそれを妹のために膨らませてやった。それを上に向けて突くと、パカとかポコとかいう紙の音がしたが、膨らまし方が足りないと、紙風船はよく上がらなかった。そして、その紙風船を突くときの音は、何十年か経ったいまでもわたしの内に生きていて、何か生の原点の音のような気がするから不思議である。
妹は、その何個かの紙風船を枕元に置いて寝ていたが、何日かすると1個もなくなっていた。そうして私たちは紙風船のことをけろりと忘れてしまったが、また寒い季節がくると富山の薬売りがやってきたのである。