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第23章 悲報(2)
「ジェーン! どうしたの? 何があったのです!?」
素早く近寄ったシャノン叔母さんの胸に、ジェーンは倒れ掛かるように顔を埋めた。
「彼が……彼が……」
皆の顔色がさっと変わる。
「婚約者のオブライエン様が……亡くなられたの。戦死なさったのよ!」
全員が立ち上がった。立ち上がれないのはラファエルただ一人だったが、その顔は誰よりも蒼白だった。ラファエルは何とかして立ち上がろうと、椅子の横木を強く握っていた。
「ソマリア戦線で……殺された!」
そう搾り出すように言うと、ジェーンはワッと泣き崩れた。マクブライト夫人も慌てて愛娘の方にやって来た。ジェーンは今度は母親のほうに身を投げると、大声をあげ、そして身も世もあらず泣き続けた。
この部屋に居る全員が、ただ凍ったようになっていた。ラファエルの16才の誕生パーティは、この上なく悲惨なものに急展開してしまったのだ。
その時突然、ラファエルの横に立っていたはずのノエルが、床の上に崩れ折れた。彼は今ここに居る誰よりも、まるでシーツのように青白く、身体を微かに痙攣させていたので、今度は皆がノエルの方を振り返った。
倒れたノエルは何とかして立ち上がろうともがいたので、驚愕して身を震わせていたラファエルは、ノエルの方に手を差し伸べた。
「ノエル!」
「ラフィ……ラファエル……僕はやっぱり……」
「しっかりするんだ、ノエル!」
「ラファエル……僕はやっぱり罪深いんだ。神は僕を三度も罰せられた。僕はもうダメだよ、ラファエル」
ノエルはやっと立ち上がると、ラファエルの耳元に途切れ途切れに囁いた。
「僕は罰せられたんだ。僕は……」
「違う! これは仕方ないんだ。偶然だよ! 今、ソマリア戦線は大変な戦場なんだから」
「そうじゃない! 慰めるのはやめてくれ! これも又僕の犯した罪のせいなんだ!」
そう叫ぶと、ノエルは立ち尽くしたまま泣き出した。向こうではジェーンが、こちらではノエルが泣き出し、同席している人たちは慌てふためいていた。
「ノエルさん! あなた、お加減が悪いのでは?」
シャノン叔母さんの手がすっと伸び、ノエルの額を触った。
「熱いわ! 熱があるのね。きっと雨に当たったせいよ! 今晩は修道院の方に戻らず、ここで一晩ゆっくりお休みなさいな。こんなことになって、きっとシッョクを受けられたでしょうね。修道院のほうへは、誰かを使いに寄越しますから」
「いいえ! 僕は戻ります! 戻らなくちゃ!」
ノエルは興奮して叫んだ。身体がふらふらするが、けれども今戻らなければ、自分がラファエルの別荘に行ったという事が、施療院にばれてしまうからだ。ばれると、今度は学校に連絡が行ってしまうだろう。なぜなら今日ノエルは、オニール院長には近くの古城に行くといって出かけたのだから。
「もどらなくちゃ……」
「ラフィー、あなたからもノエルさんにここに泊まるように言ってあげて!」
「いいえ……」
とラファエルは無感動に答えた。
「ノエルは戻らなくちゃなりません」
この言葉は他の人には無慈悲に聞こえた。けれどもノエルだけはありがたいと思った。泣き崩れるジェーンは、母親に別室に連れて行かれていくところだった。けれども悲痛な彼女の叫び声は、遠くからずっと聞こえている。ジェーンは二度までも、愛する婚約者を失ったのだ。このような悲報を今日聞こうとは、だれが想像しただろうか?
「僕が玄関まで送る」
そう言いながら、ラファエルはノエルの側に近寄った。
「僕達はもう何も出来ないんだよ、ラフィー」
ノエルはラファエルに囁くと、すすり泣いた。
「僕達が愛し合う事は……主がお許しにならない。これ以上他人を不幸には出来ないよ!」
「ああ! ノエル……」
ラファエルは「違うよ」と言おうとしたが、友の顔に浮かぶ絶望感に衝撃を受けていた。
「でもこのシャツはもらっていいよ、ノエル。これを着ていて欲しいんだ。僕だと思って」
「分かった……ありがとう。だけど、もう帰らなきゃ……」
彼ら二人は、それから黙ったまま別れた。ノエルの後姿を、ラファエルは悄然として見送る事しか出来なかった。
(主よ! 僕達になぜ罰をお与えになるのです! なぜ……)
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