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1 厄介者、転がり込む

 

その1

 

 ちょうど3月3日の雛祭りの日に生まれた女の子だったので、滝川組の親分高志は最初の子供に付けようとした名前は雛子だった。けれども、ふと思い返し、蘭という名前に変えたのだ。けれどもそれがその女の子、蘭の人生を決定付けたのかも知れない。
 案の定、蘭は乱とも呼べる通り、全然女らしく育たなかった。むしろ二つ下の弟浩次のほうが幼い時から女々しい性格で、代々続く任侠“滝川組”の跡継ぎとしてはとてもじゃないが無理、と舎弟達からも不満がられていたのだ。
 

 けれども親分の高志は、どうあっても蘭を女らしく育てたいと、中高一貫女子校にむりやり通わせた。案の定、蘭はその内にレディースに入り、退学スレスレのところを大金で逃れたものの、結局はレディースのトップにまで登りつめ、卒業後は極道の娘の道をまっしぐらに突き進んでいったのだ。  

 高志の嘆きをよそに、弟の浩次は成績抜群、なよなよした草食系男子になり、挙句の果てに国立大学に入学してしまった。浩次はかくして両親の希望の星、自慢の息子になった。
 さあいよいよ大変と舎弟達が頭を悩ましているところに、思わぬ出来事が起ったのだった。

 親分の滝川組組長、滝川高志とその妻やよいが、プーケットを旅行中に行くえ不明になってしまったのだ!  

 とりあえず、若頭(わかがしら)の田島が組長代行を申し出たそのまさにその時、突如乱入してきたのが蘭だった!
「お前達! この滝川組組長の娘のあたしを差し置いて、この田島を代行にすんのか!」
 そう叫び、どんと組のソファに座り込んだのは、どう見ても21歳と言う歳より若く見え、色気の無いジャージ姿だが、ひょっとすると美人かも?と見えなくも無い小柄な娘。
 

「あ、あ、あ、お嬢さん。ここのところは、順番から見ても、あっしでしょう……この仕事は女には無理かと……」
と、“極道”以外の何者でもない屈強な強面の田島だった。
「るせえ!!」と蘭は柄に似合わず、怒鳴り散らす。
「あたしが居る限り、ここの組長代行はあたし、滝川蘭なのさ! みんな、お分かり!」


「でも、お嬢さん。レディースはどうするんで?」
と番頭格の乙部がやんわりと言う。この乙部は50がらみの一見ちんけなオッサンだが、どうしてどうして前科7犯の札付きなのだった。
「あ? レディースはしばらく休むから。てか、もうやめた」と蘭は事も無げに言ってのける。
「なんか、文句あるのかい、乙部?」

「い、いえ。ですんが……お嬢さんが代行になると、他の組から馬鹿にされないかなと」
「んだってぇ、乙部っ! この世の中は、半分は女だ! てめえだって、女から生まれたんだろ?”原始 女は 太陽だった” て、学校でも習ったけどな」
「なんですか、それ?」と若い舎弟の高橋が聞いた。

「ええと……なんでも、平塚雷鳥とかいう女が、昔居たそうだ。そいつが、そう言ったのよ」
「なんですか、その平塚って?」
「うるっせえ! それ以上知ってたら、あたしだって浩次みたいに大学に行ってるよ」
 

 蘭は粋がって、龍の柄の真っ赤なTシャッの肩を少しだけはだけて見せる。そこには、胡蝶蘭の刺青が毒々しく、けれども妖しく彫られていた……。薄紅(うすくれない)にまるで一対の蝶々のような胡蝶蘭は、蘭の仁侠人生の覚悟をしめしているかのように。
 けれども一方では、どこか可憐に咲いている、胡蝶蘭が。
 

「みんな、そんなにジロジロ見るんじゃないっ。こう見えてもあたし……一応若い女なんだから」  

 

2009/11/2 start〜 next