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2 一難去って又一難
組長代行になった蘭に迫り来る危機の数々。果たして翔吾は蘭を守ることが出来るのか?
その1
蘭は狭いマツダのミニバンの後部座席に座り、翔吾の運転に任せていた。暗い夜道、翔吾のジャンパーの背中の下品な竜がぼんやり見えるだけで、翔吾は猛スピードで運転していた。しばらく沈黙が続く。
蘭は最初に自宅の住所を告げたが、翔吾は振り向きもせず、「はい」と答えただけだった。腕組みして座りながらも、蘭は昨晩からほとんど寝ていないせいかウトウトし始めた。油断大敵なのに、若い蘭にはまだ代行は無理かも……?
「代行っ」と翔吾の囁き声で、蘭はハッと目覚めた。気づけば、自分も涎を垂らしているのを、おえっと小声で叫びつつ袖で慌てて拭き取る。
「代行さん、寝ていやしたんで?」
「寝てなんかいねぇよ」
この言葉に、翔吾は無言で嗤っているようだ。シャクだが、背中が微かに上下しているのでそれが分かる。
「あれ? ここどこ? 見知らぬ場所じゃねぇか」
「さすがは代行さんですね〜」と知らん振りで翔吾は言う。
「あたしのうちは、等々力(とどろき)だと言っただろ? なのに、ここ……」
「さあ、もう直ぐ関越道でさ」
「関越道!?」と蘭は座席から飛び上がった。「等々力とは逆じゃんかぁぁ! このぉおおおお〜〜!!」
蘭の心臓はドキドキ打ち始める。しまった、という苦い思いが蘭を締め付けた。
「おめぇ、よくもあたしを騙したな! 拉致る気だろ!?」
「まっさか」と翔吾は涼しい声で言う。「代行、後ろから誰かが付けて来ているんでさ。代行が寝ている間に」
「えっ?」
蘭はさっと後ろを振り返った。
「黒いポルシェ! あっ、もしかして」
蘭は急いでケータイのメモを見た。今朝付けて来たポルシェのスリーナンバーの控えが記してある。多分それと同じだろう。
「あんまり後ろは見ないほうがいいですぜ」
と翔吾はかなりスピードを上げながら言った。とは言え、マツダのミニバンでは、130kmが限界だ。
「相手は……もしかして、おたくの組の者じゃないですかね」
「んだとぉ!?」
「だって、代行が組事務所出ていったのを知っているのは、俺達と組の者だけでしょ」
「でも……待ち伏せしていのかもしれないじゃん」
「ハハハ。代行って可愛いな〜」と翔吾は、バカにしているのか、それとも真から可愛いと思って誉めているのか分からない口調で嗤った。
「なんでだよ」
「やっぱり、組の者達は信用したいんですね、分かります分かります。よそ者の俺は信用出来ないが、舎弟たちは信じたいっての、本当にオヤジさんそっくりですよ」
「んなことより……あいつらの目的って何だろ?」
「そりゃあ……代行を殺(や)るか、誘拐したいんでは?」
「殺す気なのか!? あたしを?」
「ちっちゃくても、代行は代行。オヤジさんが失踪した今、目障りなのは誰でしょうね」
「あ、あたしか……」
「てこと」と翔吾は言うと、ぐぐーっとアクセルを踏んだ。
「代行っ、これから突っ走りますから、座席から飛び出さないようにして下さいよ」
「どこ行くんだ?」
「だから〜、関越道にって言ったでしょ」
そう答えたきり、翔吾は本気モードになって、けちなミニバンをぶっ飛ばし始めたのだった。
マツダのミニバンは、ギシギシと音を立て始め、今にも分解しそうだった。
「ちっ。何でヤクザがこんなのに乗っているんで〜?」
と罵倒する翔吾に、蘭も叫び返した。
「うちにはちゃんとしたベンツあんだよ。でも、今朝はこっちにしたのさ。亮が下手糞かなと思って」
「これ、シャコタンか? いや、古いから単に車高が下がってるだけか、ちぇっ。まあどーでもいいけど、あいつらを巻かなくちゃ。それじゃ」
マツダは今度はジグザグ走行を初め、蘭は後部座席で右へ左へと大揺れしていた。
「き、きゃぁぁぁぁあああああ〜〜〜!! 前っ、赤信号っ!!!!」
けれども喚く蘭を尻目に、マツダは猛烈な勢いで信号無視した。右からの車が、ギギッとスリップしながら止るのがチラリと見えたが、翔吾は知らん振りだ。
「てめぇ! 堅気さんを事故ってどうするよ」
「大丈夫ですって、代行。ところで、ポルシェは?」
蘭はチラッと後ろを振り返ったが、暗黒の使者のようなポルシェは、尚もしつこく追走してくる。
「だめ〜」と蘭はガッカリして言った。
「そうか〜、じゃあ奥の手を使うしかないな」
「奥の手って?」
その時蘭のケータイが鳴った。大揺れしながらも、欄はケータイを開け耳に当てる。
「代行でやんすか? 今、もうお宅に着きやしたか?」
くぐもった田島の声がする。
「とんでも!」と蘭はケータイに喚き散らす。
「え? まだ? 一体どちらに?」
「関越道、だって」
「関・越・道!?」とがなる田島の声がする。
「あいつぅ、代行を拉致って……」
「違うっつーの。誰かが追っ駆けて来たんだ」
谷原(やはら)の辺りで突如左に曲がったので、蘭はケータイを持ったままぶっ倒れた。
「うぐっ!」
「代行っ! 代行〜〜〜!」と叫ぶ田島の声がする。
「心配いらねぇって。すぐ家に帰るから」
― って、ほんとかよぉぉ。
蘭はパチンとケータイを閉じた。
「あたし……新潟なんかに行きたく無いから」
蘭はもう半泣き状態だ。
「新潟?」
あははは、と翔吾は大笑い。
「そこまで行くはずが無いでしょ。まあ見て居て下さいよ、代行」
「いいよ、もうあんたに任せたよぉ。やっぱ暴走族でも、こんな時だけ役に立つってことかな。どうせシャコタン、箱乗りしてたんだろうけど」
「ん? まぁね」と翔吾は曖昧に答えた。
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