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その13

 

 朝8時きっかりに、ドアが開き、首領と子分たち、そしてミスター楊が立ってこちらを見下ろしていた。蘭と翔吾はどちらもいぎたなく眠りこけ、
「れれれ?」と目を覚ましてパチパチしてしまう。
「ひょっとして……8時?」と恐る恐る蘭が聞くと、ミスター楊は、悲しげな顔で答えた。
 

「日本のヤクザの方々、どうやらお金は送金されてません。残念ですが、この海賊の方々は、これ以上は待てないそうです」
「あ、そう」と翔吾は腕組みを解き、あっけらかんと言う。まあ、わざとなのかも知れないが……。それとも強がり?
 

「それは仕方ないなぁ〜。俺たち、見放されちったかな?」
「そ、そんなお気楽なこと言っていいんですかぁ? あなたたち二人を、海辺の洞窟に連れて行って、ズドンと一発だそうですよぉぉぉ。ああ、わたし、日本人好きです。日本人、まあ今でも金持ち。それでガイドして、結構色々儲けましたから、わたしはそういう場面は見たくありませんね」
「どうしますかね、蘭ちゃん?」と翔吾は蘭に振り向く。
「舎弟たち、日本に戻ったらぶっ殺す!」と蘭は不吉に呟いた。実際は、藤堂刑事を呪っていたのだが……。
 

 けれども翔吾はニタッと嗤うと、例の計画を実行することにした。目でそれとなく蘭に合図する。
「なあ、おっさん……じゃない、楊さんよぉ」
と翔吾は不敵な面構えで、言いかけた。
「な、何でしょう?」
「俺たちを殺すよりも、いい話があるって、そう伝えろよ、もっと金になるハナシだって」
「?」
「まあな、実はな〜、俺たち、運び屋でさ。今まで黙ってたけどな」
「運び屋って……麻薬の?」
「実は、俺たち二人、プーケットのムーと言う男に、ヤクを渡す手はずだったんだよ。それを、あの黄(ホアン)と言う、インチキな中国人に騙されてさ、船に押し込まれたってわけ」
「けど、ヤクなんかどこにもなかったそうですよ、この方々に寄ると」
とミスター楊は、半信半疑だ。
 

「その“方々”て言い方だけは、やめろ」と蘭は罵った。「むかつく」
「それがあんのさ、このクソッタレ!」と口汚く翔吾は言うと、ペッと唾を吐いた。
「日本のヤクザを馬鹿にすんなよ、てめえら!」
 ミスター楊はオドオドしつつ、側に小首を傾げて立っている首領に早口で何事かをしゃべくっていた。けれども、首領の手はいまだに小銃を手にして離さない。
 

「あいつら、本当に信用すっかな〜?」
と蘭は翔吾に、心細そうに素早く囁いた。「あんたの芝居も相当だけどさ。てか……それって芝居じゃなく、地なの?」
「俺には、切れ痔もイボ痔もありません」
 そう言うと、翔吾はニヤッと嗤った。又もやコケにされた蘭は、ここがどんな所であれ、殴りつけたい衝動に駆られるのを、ぐっと押さえる。
 

「ちょい、ヤクザさんたち。証拠を見せろって言ってますよ、この方々」
「証拠だって? ああ、いいよ。じゃ、あのオモチャ、マーライオンの像を持って来いって言えよ」
と翔吾はぞんざいに言う。
 首領とミスター楊のこちらの二人はまたまた喋り出した。そしてややあって、ミスター楊が早口で言いかけた。
 

「大変ですよ! あれは、村の子供たちにオモチャとして与えてしまったそうです」
「うへっ」とさすがの翔吾も絶句。「オモチャに!?」
「直ぐにかき集めてくるんだよ」と蘭が命じた。「子供が、謝ってシャブを飲み込まない前に。早くっ!!
 蘭は本気で心配し、すっくと立ち上がっていた。翔吾は再び腕を組むと、投げやりな態度で座ったままだった。
「ま……今更、どうでもいいけどさ」
 不貞腐れた翔吾が天を仰ぐと、南国の太陽がギラギラと光っていた。

 

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2011/7/25