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3 クラスメート達
友里菜は最初の登校日から、常にキョトキョトと落ち着かなかった。
遅刻せずに無事に着いたものの、自分の部屋に行き着くのにまず一度は迷って失敗してしまった。
音楽学部の一年生は、同じ部屋だ。そこは大部屋と呼ばれていて、部屋の中に楽器を置く場所と椅子と大きなテーブル、各自のロッカーがある。廊下にロッカーがあった高校とはえらい違いで、それからして友里菜はどうして良いか分からないのだ。
「柿沢さん」と背後から呼ばれて、友里菜は振り向いた。そこには見知らぬ生徒が居た。色白で背が高い。
「柿沢さんよね」
「ええ、はい」
「わたしは、長渕響子。響くと書いて、響子と呼ぶの」
「ん。なんか、音楽的な名前ですね」
「まぁね」と響子は言う。「あなた、関西から?」
「ええ」
「わたしは、福島。会津よ」
「会津? なんか、遠い所ですね」
「でもないわよ。福島だけど、中通りや浜通りじゃないから、会津だからね会津」
「中通り? 浜通り?」
友里菜には何が何だか分からない。響子は訝しげな友里菜にイライラしたようだが、フーッと吐息を漏らした。
「ま、いいわ。わたし達、どちらも声楽で他所から来たってことは一緒ね」
「ええ」
そう言いつつ、響子の言葉にどこか微かな訛りがあるのに気付いた。けれども、友里菜にも関西訛りがあるのかも知れないのだ。友里菜はそれについては黙っていた。ふと気がつくと、隣には例の有紀が居て、ニンマリと微笑んでいた。
「あ、伊藤さん、お早う」
「お早う。早速友達出来た? ああ、あなた達、関東の人間じゃないんだ。どちらも」
そう言うと、有紀は離れていった。
「なんか、やな感じね、あの人」
「でも、同じ声楽なんでしょ?」
「みたい。あの人、結構キンキンした高い声してたわ。わたしはあなたと同じリリックな声なの。覚えてない? 試験の時」
「ああ……いいえ……ごめんなさい。覚えてない。わたし、必死だったから……」
「わたしは覚えているわよ、あなたのこと」
「あら? ありがとう」
友里菜はどこか嬉しくなった。
それから二人は、配られた資料を基に、何の科目を選択すべきかあれこれ思案していた。その内にクラス中の生徒達が集まってきて、あれこれ喋くり始めた。
その響きはざわざわした柔らかいトーンで、どこにも低いだみ声は無く、ここが女子大である事を思い出させてしまう。
時々、重そうなコントラバスを運んで来る生徒や、如何にも高そうなバイオリンケースを持って、にぎにぎしくやって来る生徒も居たが、全てが女子ばかりであることが、友里菜には不思議に感じる。
暫くすると、自然にグループが出来ていた。不思議な事だが、それがごくごく自然になのだ。友里菜と会津から来たと言う響子は、ふと気付くともう二人の声楽の女子達と一緒になって、ぺちゃくちゃとお喋りしていたのだ。
「もう直ぐ礼拝の時間だって! それからは自由時間で、明日までに選択して登録しなくちゃ」
と小柄な女子が甲高い声で言った。
「それにしても、広いキャンパス! ここね〜、英文と社会学部の教養は無いんだって。別の場所らしいよぉ」と福岡から来たと言う女子が囁いた。
「もう一つのキャンパスは、ちょっと遠いよね〜」
と響子も相槌を打つ。「わたしは、ここのキャンパス内の寮に居るんだ」
「東寮? それとも、西寮?」
「東」と響子は短く答える。「門限は10時だって」
「はー、今時10時なんて、コンサートはどうするよ」
「その時は、寮長に予め外出許可を提出するのよ」
「わー、なんか修道院じゃん、まるで」
「だって……修道院でしょ? この雰囲気って」
「わははははは。言えてる言えてる」
女子達のお喋りは、果てしなく続くように友里菜には思われた。そしていつの間にか、自分もそのお喋りに加わっているのだ。不思議な感覚だった。今までに味わった事の無いような、奇妙な感じ……。
これが女子大なのか……。男の陰が無く、屈託が無い、そんな雰囲気。友里菜はそう思うと、ふっと微笑んだ。そうか、これが女子大なんだと。
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