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47 欲しがりません、受かるまでは

 

 友里菜から「5月の連休には戻らない」というメールを受け取った芳人は、「やっぱり、そうかぁ」と納得しながらも、ガッカリと気落ちした。
 元はと言えば、自分から「今度の入試に受かるまでは、友里菜とは会わへん」と言ったはずなのに、やはり友里菜とは会えないのは格別辛い。美し過ぎる従姉美里との束の間の逢瀬も終わったし、今の芳人にはもう勉強しか無くなったのだ。
 

「昔の戦争では、『欲しがりません、勝つまでは』な〜んて言わされて、でも結局日本は負けてしもうたやんか。だからといって、そんなん、言いわけにはならんわな。
 あ〜あ、今のこのトンネルは暗いわ。先には光があるんやろうか? それとも、又ズッドーンと奈落に落ちてしまうんやろうか!?」
 芳人はあーでもない、こうでもないと、つまらないことばかりを思案し懊悩し、そして結局勉強には身が入らない。
 

 そんな頃、淳平から誘いのメールが来た。
『芳人、どうしてる? たまには僕と付きあわへんか?』
 芳人はそこに飛びついた。
 けれども……。
 

 連休中一日だけ休みの日に淳平と駅で待ち合わせて会ったが、向こうから歩んで来る淳平が、なぜかキラキラしているように感じ、一瞬嫉妬心に狂った。  

― やっぱ、あいつ……僕とはちゃうな〜。なんや、楽しそうや。青春を謳歌しとるんやな〜。  

 嫉妬心は瞬時に消え、そんな自分に対する自己嫌悪だけが残る。
「よお、芳人ぉ、元気?」
 小柄な淳平が、今日は大きく見える。何から何まで卑屈で自信の無い自分に、つくづく嫌気が差す芳人だった。
 とは言え、芳人は作り笑いを浮かべるだけの“大人”になっていた。
 

「いやあ、久しぶりやな。もうすっかり、医大生やんか」
「んなことないよ〜。まあ私立とは言え、中身は結構難しいし、まだまだ先は長いわ。親には大変なお金をつぎ込んでもろうたし、それなりの結果はださんとな。身が引き締まる、っちゅーのはこういう気持なんかな……な〜んてね」
 一瞬たりとも嫉妬心を覚えた芳人は、親友の変わらぬ態度に、大いに恥じた。
 

「どう? せっかくの連休に、僕なんかとおデートしていいの?」
と言う淳平に、
「ええねん、ええねん。友里菜、帰ってきいへんから。この一年、会うのやめようと僕、言ってしもうて」
「ふ〜ん? そんな負け惜しみしていいんか? カノジョ、誰かにさらわれるかも知れんぞ」
「いや、ええねん」
 そう答える芳人の頬が、ピクリと痙攣した。

 

 その頃友里菜は、森閑とした寮で、一人小さな備え付けのクローゼットを開け、明日着ている服を思案していた。ルームメートの福田亜理紗は、昨日から実家に戻っていた。実家と言っても、所詮都内だ。いつでも帰れる距離なのに、「母のため」と称して寮に住む亜理紗が友里菜には理解出来ない。
 それでも久し振りに一人寝を謳歌しようとしたものの、何だか淋しい。例えロボットのような亜理紗であっても、やはり血の通った人間が居る居ないではこんなにも違うものなのか。
 そして右隣の二人の生徒達も帰省し、居るのは左隣の四年生だけ。それでもシーンとしているのは、多分どこかに遊びに行ったのか、それともカレシとデートでもしているのだろうか。
 

 友里菜は邪念を追い払うかのように、頭を振った。
「わたしって何考えてんの? ユッキも東郷君とデートだと言うし、わたしだって、まあまあもててんのに。……って言っても、本命じゃないんだけど」
 友里菜は贅沢な溜息をつく。当然のように“下町のプリンス”、仲本寛之と絵の展覧会に行く予定なのだ。あのストーカーっぽい大滝洋平は、どうやら姫路に戻ったらしいのが幸いだ。

 寛之はイケメンで一緒に歩くのは何となく自慢なのだが、どうにも萌えないし、全然ときめかないのはなぜだろう? 寛之も又、友里菜に触ろうともしないし、手も繋ごうともしない。
 それでも二人は充分な感じだ。二人の間には、エロい感覚が欠如している……そんな関係ってあるのだろうか。
「ま、友達と言えば友達かぁ」と友里菜は、紺色にドット柄のブラウスを胸に当てながら、溜息を付いた。

 

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2012/2/1