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星に祈りを 〜1〜 梨沙が、S教会に通い出してから、もうすぐ一年になる。 けれども、それは嘘、と梨沙は叫ぶ。 ― それは嘘よ! 本当はあの時誘ってくれた若い副牧師、橋爪牧人(まきと)先生のせいなのだわ……。彼が居るから、わたしはあの教会に通っている。それは、罪深い事なのかも知れない。偽りの信仰なのかも知れない。 梨沙は大学四年で、来年中学の英語教師の就職が決まっている。何倍もの難関を突破して、ある私学の女子中高一貫の教師に合格したのだ。母は喜んでくれた。 去年、クリスマスの25日に手術をした母の恋人、豊岡は、結局帰らぬ人となったのだ。それは暑い夏の嵐の日だった。気丈な母は、恐らく最期の恋を全うし尽くして、呆然と病院の廊下で佇んでいた。 そして今、梨沙は再び恋をしている。偶然通り掛かった教会の、その副牧師、橋爪牧人を。多田という元カレとは、すっかり縁を切っていて、今梨沙は一人なのだった。 「あと一年ぐらいで、僕はどこか別の地域に赴任致しますよ」 梨沙は魅入られたように、その青年会に入っていた。けれども、洗礼を受けたわけではないし、実際の所、本当に信仰を持っているかどうかも分からなかった。いや、持っていない、と言った方が正しいかも知れない。 そして梨沙は、少なくともCS(=Church School=教会学校)では、数人の小中の子供達にあれこれ世話を焼いたり、指導したりしていた。それは自らの仕事にも通じる。例えそれが一文にもならなくても。 けれども梨沙は知っていた。牧人の微笑みは、誰にでも向けられていたのだ。その爽やかで穏やかな言い方やソフトな物腰も、誰に対しても平等だった。 もちろん、梨沙にも彼の眼差しは向けられていたが、けれどもそれは梨沙一人のモノではなかった。そして永遠に手に届かないもののような気がしていた。牧人は梨沙の憧れであり、けれどもいつまでも誰の者でもない……そう信じていたのだ。今までは……。
ーーー◇◇◇ーーー 「ねっ、宮本さんっ」と、4人居る「ユースの会」の女性メンバーの内、最も梨沙と仲の良い荒川さやかと言うOLの仲間が、ある日曜日の礼拝の帰りに、梨沙に耳打ちした。 もしも心に爆弾が落ちたとしたら、きっとこんな感じかもしれない、と梨沙はその時感じた。足が止る。 さやかの噂話に、梨沙の目の前が暗くなった。 ふふふっ、とさやかは屈託なく笑った。梨沙もつられて笑おうとしたが、上手く行かなかった。引きつった奇妙な、不自然な笑いになってしまうのだ。 「でもさぁ〜、牧師の奥さんって大変そうじゃない? この仕事、休みらしい休みも無いし、そのくせ、給料は低そうだし。それに相手は洗礼受けたクリスチャンでなきゃならないし。今時、若い子で洗礼まで受けてるのって、少ないからぁ。だから、好きだったとしても、みんな二の足踏むんだよね、きっと」とさやかは一人頷きながら呟いた。 さやかの言う事は当たっていた。結局、梨沙も二の足を踏んでいたのだ。あらゆる面で、ただ愛だけでは乗り越えられそうも無い塀を、牧人は持っていたからかもしれない。自分とは縁の無い人間、職業、未知なる不安……そういったものが、梨沙の心に蓋をしていた。 梨沙の心は揺れていた。
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2008/12/22start〜 |
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