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〜4〜
梨沙は明日香よりも少し前に、待ち合わせの喫茶店に着いた。今年は景気が悪いせいか、街のイルミネーションも控えめだし、このサテンですら申し訳程度のミニのクリスマス・ツリーが入口に置いてあるだけで、電飾などは無かった。
どこも不景気なんだな〜と梨沙は思う。
若者達が夢を持てなくなった現代。特に今年はそれがひどい。ひど過ぎる。
梨沙は少なくとも、来年からの就職先はあるが、それすら持つことができない若者達が多い。そしてそれは、若者だけではなく、中年や老人達もそうだ。
明日香を待ちながら、梨沙は虚ろな眼差しを眼下の夕刻迫る街の景色の上に彷徨わせていた。
目の前の席に、明らかに愛し合っていると思われるカップルが座って、何事か話し始めた。若い女性のほうは、絶えず笑い転げている。そしてじっと頬杖を付いたまま、愛しい相手を見つめている。決してイケメンではないそのカレシもまた、幸福そうだ。
一体何を喋っているのだろう? こんなご時勢でも、幸福なカップルは掃いて捨てるほどいるのだ……。
◆・◇・◆・◇・◆
「梨・沙〜、お待たせ〜!」
ぼんやりしていた梨沙の背後から、明日香の明るい声がした。梨沙は振り返った。親友の明日香が、少し小首を傾げてこちらにやって来た。
「あ、明日香」
「何だよ、しけた顔して」
「ああ、ごめん。今色々考えてたとこ」
明日香は梨沙の真正面に座ると、やって来たウエイトレスに「ソーダ」とだけ言った。
「なんか食べる?」
「いや、いいの。おなかすいてないから」と梨沙は答えた。ふいに悲しみが襲う。
「どしたの、梨沙。あ〜あ、よっぽどの恋の病なのかな〜?」
「かもしれない」
「妙に正直だね、今日の梨沙」
明日香は大きなトートバッグを、脇に置いた。
「で?」
「まじ、やばいの。片思いみたい」
「それで、誰さ?」
「相手は……教会の牧師」
「牧師!?」
明日香は思わずすっ頓狂な声を上げ、慌てて掌で口に蓋をした。
「うん。正確には、副牧師かな〜」
「どーでもいいじゃん。つまりは、聖職者、てことね」
「その聖職者、っていう言葉、嫌だな〜」
「だって、そうじゃん」
「そうかも……」
梨沙をうつむいた。
「おかしい?」
「ううん」と明日香は生真面目に否定した。「愛は何でも超えちゃうんだ」
「なによぉ、その言い方は」
「別に変じゃないってこと。だって、聖職者だって、恋するし、エッチするし……結婚だってするわけだし」
「そっかー、そうよね。変じゃないよね」
梨沙は明日香の肯定的な意見で、ほっとしたように微笑んだ。
「でも、相手は?」
「気付いてない……って言うか、わたし、反抗してばかりだから」
「ステキな人?」
「うん」と端的に梨沙はうなずく。「わたしにとっては。でも、他人から見ても、ステキな人かも。ああ、いっそ彼がデブとか不細工なら良かったのに!」
「イケメンかぁ〜。イケメンの聖職者……そそるよねぇ」
「ふざけないでよ」
「ふざけてなんかいない。実はさ、わたし、梨沙と同じような立場のそういう友達が居るの」
「へぇ〜」と梨沙は思いがけない言葉に、身を乗り出した。
「相手は牧師ではなくて、僧侶だけどさ、仏教の」
「ひぇぇ!?」
「うっふふふ。変な話なんだ、これが」
「聞かせてよ、明日香」
「それじゃ」
明日香は、少しずつ話し始めた。
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