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〜9〜 あと一週間で、クリスマス礼拝。……そしてイブの晩には、キャンドル・サービスと外でのキャロリングが待っている。去年、そのキャロリングで牧人に出会ったのだ……。 CSでのクリスマス会の余韻がまだまだ残っている三日後、梨沙はウィンドウ・ショッピングに出かけた。 けれどもそんなことはどうでも良かった。母とアパートに一緒に居るのが嫌だったのだ。 梨沙の母、香里は今日火曜日が休みだった。 けれども、母香里は今年の夏に恋人を亡くしてからは、その余りの嘆きの故に、家での状態はおかしくなっていた。 ー 何よ! 悲劇の主人公気取ってるトシかよ。 梨沙はそんな母親を見るのが、そして一緒に住むのが嫌になっていた。だからと言って、行くあてなどどこにも無い。10年以上前に離婚した父親は、他の女性と再婚していて、実の娘の梨沙に会うことも、現在はほとんど無かった。 けれども全くの音信不通ではない。梨沙は時々、父の働いている世界的に有名な電機メーカーの近くに寄ると、父の携帯電話にかけて、夕食を共に食べることが年に一、二度あったのだ。 今の梨沙はそういう父も、そして飲んだくれている母も大嫌いだった。 梨沙はぼんやりと華やぐショーウィンドウを見つめた。ストレート・ヘアに、黒いダウン。そこから伸びる、自慢の細い足には、スキニージーンズ。けれども冴えない表情は、どこか疲れている女の顔だ。 元カレの多田穣(みのる)は、梨沙のストレートな黒髪が好きだった。 それが梨沙にとっては、至福の時だった。その愛が永遠に続くと思っていたのは、それは真っ赤な嘘。自分は子供だったんだ。 もう二度と、誰かを愛することなど無い、と誓ったのに、けれども今、梨沙の頭の中には牧人の姿が棲みついてしまっている。牧人との愛は、ホンモノになるのだろうか? そして永遠に続く愛なんて……この世にあるのだろうか? 永遠に続く愛は、やはり神の愛だけなの? その愛を説く牧師である牧人は、一体どんな髪が好きなんだろう……? ーーー◇・◆・◇ーーー ふと気付くと、美容院の前だった。今まで入ったことも無い高級な感じの店だ。 「なによ、これ! これがわたしへのプレゼントのつもり!?」と毒づいたものの、梨沙はそれをカバンに入れていたのだ。くしゃくしゃになった万札が三枚……。 「いらっしゃいませぇぇ〜」と甘い声で、若い女性の美容師が迎える。「始めてでいらっしゃいますかぁ?」 「クリスマス前だから、カレシとお出かけですかぁ?」 「なんか今までのイメージを変えたい」 梨沙はハタと考えた。牧人なら、どんな女を好むだろう? 多分清純そうな感じなのかな? でも、わたしは……わたしは、真逆になりたい! 牧人に嫌われてもいい。でも、あっと言わせたい。ただそれだけ……。 ー 自分に目を向けて欲しいの! 先生……こっちを向いて欲しいの。そして、穣が好きだった髪型なんて、もう嫌っ! 変わりたい……。そう! チェンジ、したいの。 「今流行の色で」 「任せておいて下さいね!」と美容師はハキハキと答えた。 ― 失恋したりすると、女は髪型をかえると言うけれど、ほんとね。わたしがそうなっちゃうなんて。でも、先生はきっとこういう髪型、嫌いだろうなぁ〜。 二時間半後、梨沙はその店を出た。 鏡の向こうの自分は、確かに今までの自分ではなかった。薄茶色の派手なガーリーなロングヘアが肩で揺れている。 ― きっと、先生、わたしのこと、もっと嫌いになるわ。でもいいんだ。これはわたしへの、ご褒美ギフトなんだから。 梨沙は暗くなった夜道に出た。向こうから来る若い男が、梨沙の方を振り返った。そして他の幾人かの感嘆の視線を浴びた梨沙は、少なくとも幾らか満足していた。そう。数秒間だけは……。 突如、この髪型で牧人を永遠に失うのではないだろうか……という恐怖で、梨沙はその場に立ちつくしてしまっていた。空には星が瞬いているだけの、孤独な夜に。
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2009/2/17 |
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