A’61 ナノマシン


 千尋と綾はFES社に潜入した。

 歳樹が亜人間型警備ロボットを壊滅させた為、潜入は簡単だった。

 二人がデータ管理室に入ると、部屋の中には無数の焦げ跡が残っていた。

 歳樹の魔力の暴走で焦げたのであろうが、機能的には無事だ。

 そしてメインコンソールの横には、一枚の紙切れが置かれていた。

 そこにはファイル名と思われる文字列一行と、一見無意味と取れる文字の羅列が3行並び、そして最後に改行してA’と書かれていた。

「これは・・・」

 綾が紙切れを手に取る。

「歳樹のメッセージらしいわね」

 千尋の言葉を聞いて、綾は、

「だとすると・・・」

 と言いながら、紙切れに書かれたファイルを探し、それを実行した。

 そこでパスワードを聞いてきたので、紙切れの無意味な文字列の1行目を入力する。

 すると何かアプリケーションが起動したらしく、そこで文字列の2行目の通りにコンソールを叩き、もう一度パスワードを聞いてきたので3行目の文字列を入力する。

 画面に設計図が3枚表示された。

「これって、試作33号?」

 千尋は一瞬そう思って言ったが、試作33号は約500種類のナノマシンの総称なので

「・・・じゃないわね」

 と付け加えた。

 設計図の記入欄の品名を読む。

 3枚の図面は、MCS、アスヒリド、ZER/0と名付けられていた。

 ZER/0の図面には3種類のナノマシンと思われる図がある。

 MCSとアスヒリドの作者は東郷城一郎。

 ZER/0の作者は牧村昌歳。

 そしてそれら三枚の図面の社名にはテラ・インダストリー社生体デヴァイス研究所と有る。

「MCS・・・確か歳樹さんが東郷に向かって『MCSを投与して協力とほざくか?』って言ってましたよね?」

 綾に同意を求められ千尋は頷き、

「アスヒリド・・・って確か、ここで作った新薬の名前よ」

 以前FES社を調査したとき、データの片隅にあったはずだ。

 千尋は肩に装備している小型端末で鈴音を呼んだ。

 しかし鈴音は出ず、代わりにロウが出た。

 ロウの話によれば今鈴音はテラ社のメインサーバにハッキングをしているので手が放せないらしい。

 鈴音でなくても事は足りるので、千尋はロウにアスヒリドと呼ばれる薬剤を検索させた。

 ロウの検索結果ではアスヒリドはFES社の販売している薬剤28種類に含まれており、製造する為の機械はテラ社が製造している事が判った。

 3枚の図面をイネス本部に転送する。

 転送された図面をロウが見ると、

《どっちが本当なんだ・・・?》

 と、呟いた。

「どうしたのよ?」

 千尋が訊ねると、

《ZER/0だよ。俺は2年前に香港でマフィアからこいつを貰って強化人間に成ったんだ。
 そのときは製作者はバベイジって話だった。
 バベイジを倒すためにバベイジのナノマシンを投与したつもりだったんだが、この図面じゃ製作者が歳樹の親父に成ってる》

 ロウはそう答えた。