厩番の知らせに殿様は驚いた。
月毛は生駒姫と並ぶ、殿様の大切な宝なのだ。
急いで馬医者が呼ばれたが、月毛は力なく寝藁の上に横たわったまま…とうとう、名高い修験者が呼ばれた。
修験者は館の庭で祈祷していたが、突然顔色を変えた。
「殿!とんでもないことが判りましたぞ。
月毛は畜生の身でありながら、生駒姫に恋慕しております。それゆえに、姫の入内を悲しんで、病に倒れたのでございます。」
殿様の後ろで、心配そうに修験者の祈祷を眺めていた生駒姫は、その言葉に殿様のとめるのも聞かず厩へと走った。
「月毛…」
姫の声に月毛の瞳が輝いた。
ゆっくりと身を起こすと、姫の差し出す青草をうまそうに食べる…その様子に涙ぐみながら、生駒姫は殿様に言った。
「父上、都からのお話、何とか断って下さいませ。
私が都へ行けば月毛は死んでしまいます。同じ日にうまれ、一緒に育ち、これ程までに私を思ってくれている月毛を、死なせるわけにいきませぬ。
それに父上…天子様の命ゆえ拒めぬと諦めておりましたが、私はどんな殿方より月毛が愛おしいのです。月毛と共に、この佐久の野で暮らしとうございます。」
「ば、ばかなことを…そんなことが許されると思っているのか!?」
殿様は怒鳴りつけたが、生駒姫は『もう気持ちは決まりました』と月毛の側から離れようとしない。
殿様は困り果てた。なんとか姫を月毛から引き離す手立てはないものか…と、考えて考えて…そして月毛に告げた。
「月毛よ、おまえは我が牧で一番の名馬じゃ。だが、いかに名馬じゃといえども、馬に大切な姫を簡単にはやれぬ。
月毛よ、どのような名馬でも我が領地をすべて廻るには1日はかかろう。もしも、お前が明日の朝、六つの鐘とともに館をでて、東西南北すべての牧、佐久の山々の頂きまで、五つの鐘が鳴り響くまでに駆け抜けることができたなら、姫を与えてもよい。じゃが、できぬ時は潔く姫を諦めよ。」
月毛は殿様の言葉に、承知したとばかり嘶いた。
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