むかしむかし、信濃の国、佐久の望月の殿様の牧は、名馬の産地として名高かった。
ある年の春、殿様の館で姫君がうまれた。
同じ日に、牧でも一頭の月毛の子馬がうまれた。
母馬と一緒に、うまれてすぐに子馬は牧を駆け巡る。
おりからの夕陽を受けて、子馬の毛並みは金色に輝き、まるで炎のよう…
それを見た殿様は大喜び。
「姫がうまれた日に、このようなみごとな馬がうまれるとは、なんとめでたいことじゃ!あの馬にちなんで、姫の名は生駒姫じゃ!」
姫と月毛はすくすく育ち、4年目の春を迎え月毛の本格的な調教が始まった。
ところが、月毛は人の手を拒んで大暴れ。屈強な男達を跳ね飛ばし、馬場から走り出て、館の裏庭に駆け込んだ。
裏庭では、ちょうど幼い姫が乳母や下女達と遊んでいた。そこへ、荒々しい蹄の音と共に月毛が飛び込んだのだ。
たちまち大騒ぎとなり、乳母や下女達は悲鳴をあげて逃げまどう…そんな中、生駒姫は静かに月毛に向かって手を差し伸べた。
するとどうだろう、あれほど猛り狂っていた月毛が立ち止まり、不思議そうに姫を見つめるうちに、その瞳から怒りが消え、やがて鼻面を姫の小さな手に押し付けた。
姫もまた、愛おしそうに馬の鬣をなでる…その有り様を、館の者達は呆然と見ていた。
その話を聞いた殿様は、姫を呼びたずねた。
「姫よ、あの暴れ馬が恐くなかったのか?」
「はい。あのように美しく優しい瞳をした馬を、なぜ皆は怖がるのでしょうか?」
「なるほど…そなたとあの馬は同じ日のうまれゆえ、何か縁があるのじゃろう。
あれ程の馬、本来ならば都へ献上するところじゃが…姫よ、そなたの馬にするがよい。」
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