牧の近くの里人は、逞しい馬をお伴にした、幼い姫の姿に目を見張った。
 やがて、姫は月毛の背に跨がるようになり、月毛と共に佐久の野や山を風の様にかけて遊んだ。
 そして姫は13歳になった。
 長い黒髪をなびかせて、逞しい月毛と野を駆ける美しい姫の噂は諸国に響き渡り、「ぜひ、姫を我が妻に…」と言う申し出も数多くあったが、姫は笑って取り合わない。
「私は、お嫁になどいきません。
 月毛と共に、いつまでもこの牧にいとうございます。」
 姫の言葉に、殿様もただ笑うだけだった。
「生駒姫様と月毛は殿様の大切な宝。どちらも手放したくはなかろうよ。」
 里人達はそう噂していた。


姫と月毛

 春も終わろうとする5月のある日、都からの使者が望月の牧へやってきた。
 使者のもたらしたもの、それは『生駒姫を入内させよ』との詔だった。
 生駒姫の美しさは都まで伝わり、天子様が「ぜひ生駒姫を宮中に…」と望まれたのだ。
 たちまち館中が大騒ぎになった。
「天子様の元に上がるとは、これ程の名誉があろうか?なんともめでたいことじゃ。」
 入内の日取りは9月の吉日と決まり、館では大慌てで準備がすすめられた。
 都で『田舎者』と侮られてはならぬ…と、鮮やかな衣装や、調度品が整えられていく。その騒ぎの中、生駒姫はあれ程好んだ月毛との遠駆けもせず、ひっそりと部屋にこもり、ときおり館の櫓に上がってはぼんやりと牧を眺めていた。
 そして、姫が都へと旅立つ日が迫ってきた時、月毛が病に倒れた。


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