帰ってみると、羊も馬も元気よく飛び跳ね、母親と子ども達もニコニコ笑いながら父親を迎えました。
「お父さん、お父さん、羊も馬も元気になったよ!」
「そうか…良かったな。わしは草原を八日も走って歩いて疲れたよ…」
 そういって、父親はゲル(テント)に入って寝てしまい、次の朝になっても、起きてきません。
 子ども達に羊の世話をまかせて、母親は心配になってゲルに戻って父親に聞きました。
「どうしたの?あんた」
 父親はため息を一つついて、魔物との約束を話しました。
「ああ、あんた、なんてことを!!
 可愛い末っ子を、たった一人の男の子を、魔物にくれてやる気かい?」
「わしだってあの子を、魔物になんかやりたくないさ。だが、そうしないと、家族全員が殺されてしまうんだ。ああ、だがあの子をむざむざ魔物にくれてやるのもごめんだ。 
 いいか母さん、明日になったら、あの子をお前の兄貴のゲルに連れていって、隠してもらうんだ。
 そして満月の夜には、わしが魔物の所に行き、何とかごまかすさ…」
 ところが、この話をゲルの外で男の子が聞いてしまったのです。
 男の子はその夜、こっそりゲルを抜け出して馬群の所に行き、馬達に大きな声で呼び掛けたました。
「聞いておくれ!
 お前達が病に倒れ苦しんだのは、草原の魔物のせいなんだ。」
 そして魔物と父親の約束を話ました。
「父さんは僕を隠そうとしている。
 でも魔物にはきっとばれてしまうよ。そうなったら、みんなまたひどい目に遭う。だから、だれか僕を魔物の所まで、乗せていっておくれ。」

金色の馬


 すると、馬群から、巨大な金色の毛なみの牡馬が現れました。
「私は牡馬(アズラガ)注1ゆえ、人は乗せないのだが、家族のため馬群のために魔物の元へ行くという、お前の頼みならば乗せていこう。」
 こうして、男の子は、金色の牡馬に乗って、草原の魔物の住処に向かいました。

注1
モンゴルでは、一般的には去勢していない牡馬(アズラガ)や牝馬(グウ)には乗りません。ちなみに去勢した牡馬=乗用馬はモリ。


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